裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
汗まみれの身体をお湯で流したエギルは二人と別れて、サナとルナのもとへ向かった。
「二人とも、おはよう」
ここは城の二階にあるエギルの愛する女性たちが過ごす私室が連なっている。その内の一室、サナとルナの部屋――というより二人の母親の部屋をエギルは訪ねた。
そこはカーテンが閉められ暗いまま。
「エギルさん、おはよう!」
「おはよう、ございます。エギルさん」
二人はベッドの前の椅子に座ったまま顔をこちらへ向ける。
ベッドには二人の母親が目を開けて閉じて 眠っていた。
──ルージュ伝病。
それが二人の母親──ルサリア・フェレーリルの病気だ。
「エギルさん、朝から楽しそうだったねー?」
「ん、サナ、なにが?」
「ふふん、なんでもなーい」
スープの入ったお皿を手に持った二人は楽しげに話しかけていた。その表情は普段と変わらず明るい。だけどエギルが部屋に入ったときに一瞬だけ悲しそうだった。
エギルに心配かけないように、今は無理して笑顔を作っているのだろう。
ルサリアのルージュ伝病は、魔術を使用する魔物によってかけられた呪いで、治療法がなく、不治の病だといわれている。
まったく身体を動かすことができず、開いた目さえ自分では閉じることができない。
呼吸をしているのに、ぴくりとも動いてくれない。
意識があるのに、応えてくれない。
生きているのに死んでいる、そう言う他ない矛盾した病気だ。
二人は以前、この病を治す薬を買うために冒険者となったと言っていたが、病名を聞いたエギルとエレノアは、この病は薬では治せないことを伝えた。
それからエギルたち、それにサナとルナの姉妹も治す方法を探していたが、今の今まで、手掛かりすら掴めていない。
だからこの部屋に入るのは、サナとルナはもとより、エギルたちも辛いものがあった。
「ルサリアさんの食事は終わったのか?」
「うん。あとは口元を拭ってあげれば終わりだよ」
サナはナプキンでルサリアの口元を拭うと「これでよし」と小さく頷いた。
生きるためには食事が必要、だが母親がその味を感じているのかどうかもわからない。
ごちそうさまか、ありがとうという言葉はおろか、身ぶり一つ返ってこない。それでもずっと二人は母親の食事の世話をしてきた。それがどれほど辛く苦しいものか、きっとエギルが想像する以上だろう。
口元から垂れたスープを拭うとサナは立ち上がり、笑顔で母親に話しかけた。
「あたしたちの作った料理……美味しかった? 少しは料理の腕、上がったと思うんだけどね」
「たぶん、美味しいって、思ってる。昔みたいに……頭は撫でてくれないけど」
二人が母親に向ける笑顔は少し寂しそうに見えた。
だからエギルは二人の側へ行き、頭を撫でる。
「きっと喜んでるはずだ。美味しかったって、思ってくれてるはずだ」
「そう、かな……えへへっ、そうだと良いな」
「は、はい」
二人は大きく頷いた。
──エギルは二人と身体の関係を結んでいない。
別に二人を女性として見てないからじゃない。エギルは二人のことを、エレノアたちと同様に愛している。だからエギルは決めている。ルサリアのルージュ伝病が治ったその時には、心から笑うことのできるようになった二人と求め合おうと。
それに二人も、今はそんな気持ちになれないのだろう、エギルを求めてきたりはしてこなかった。
「あっ、そういえばこのあと集まりがあるんだよね。すぐ準備するよ」
「ゆっくりでいいからな。今日はこれからの方針を決めようと思ってる」
「「これから?」」
王城内は静かだ。
湖の都で暮らしていた者たちは皆、住民区で暮らすことになった。なので廊下の窓から見える外の様子も、前に比べたら少しだけ賑やかになった。
まだまだ王国と呼ぶには貧弱だ。それでも、僅かながら進歩はあっただろう。
サナとルナはエギルと共に一階にある食事をとる部屋へやってきた。この王城内で最も広く、多くの者が集まって話をするのに適したところだった。
そこには、招集をかけた者たちの大部分が、既に長机を囲うように椅子に座って待っていた。
「エギル様、もうみなさん揃ってますよ」
エレノアに言われエギルたちも席に着く。
奥側に左から、エレノア、セリナ、クロエ、シロエ、フィー。
手前に、エギルと一緒に来たサナとルナ。そして華耶、ゲッセンドルフ、ハボリック、ハルト。
全員の顔が見える上座にエギルが座ると、セリナはエギルを見てにっこりと笑みを浮かべる。
「エギルさんたちが最後ですよ」
「意外とみんな早かったんだな」
「そうですよ。集合時刻が決まっていましたから」
ふふん、と誇らしげな表情をするセリナの顔を見ると、二人の妹は首を傾げた。
「おねえちゃん、そういえば、朝はどこで寝てたの?」
「起きたらお姉ちゃんがいなくて、捜していたのですよ?」
「えっと……それは、その……」
二人を寝かせて、自分はエギルさんとエレノアと三人でベッドの上で激しい運動をしていたの。
そんなことは口が裂けても言えない、と赤面するセリナ。
「えっと、えーっと」
セリナはエギルに助けを求めると、華耶は蝋燭形の尻尾を振ってニヤリと笑い、クロエとシロエに伝える。
「いい、二人とも。二人のお姉ちゃんはね、数時間前までエギルさんと──」
「──わー、わわわっ! ちょ、ちょっと華耶! 二人に何を言うつもり!?」
「ナニって……それは……ねえ、フィーちゃん?」
華耶は、四匹の家族たちに必要以上の餌を与えるフィーに視線を向ける。すると、フィーはそっぽを向いた。
「……華耶、いきなり振らないで。それにまだ子供には言えない」
「駄目よ。いい? こういう知識は子供の頃から教えこまないと。将来的に困るでしょ?」
「……それは、まあ」
曖昧な返事をするフィー。
そこで、エレノアがこの話題に参加する。
「ええ、そうですね。いいですかお二人とも、セリナとわたくしは、エギル様の大きくて──」
「──エレノアは黙ってなさい! 華耶のは冗談なんだからね!?」
「華耶さん、そうなんですか?」
「さあ、どうかしら?」
ふふん、と華耶は意味深な笑みを浮かべる。
その様子を、ずっと不思議そうにしていたクロエとシロエが口を開く。
「おねえちゃん、子供扱いはしないでよ!」
「そうですそうです。私たちはもう子供ではありません」
「大人とか子供とかじゃなくて……エギルさん」
セリナはエギルに助けを求める。
そんな彼女たちの会話をどこか微笑ましそうに聞いていたエギル。
戦いを終えて解散する時、みんなに華耶とクロエとシロエを紹介した。エギルは、最初はどうなるかと心配していたのだが、みんながすぐ華耶たちを受け入れてくれたので素直に嬉しかった。
「まあ、仲良くなりすぎてる気もするが……」
エギルがここへ来る前に少しは言葉を交わしていただろうが、それでも、たった一日でここまで仲良くなるものかと驚く。
そんな時、この場の空気に圧倒されていたハルトが、恐る恐るといった感じで手を上げた。
「──エギルさん、アロヘインの処分と一緒に頼まれていた件についてですが、行ってきました」
「行ってきてくれたか、すまない」
「いえ。今朝早く他の冒険者たちと共に、南門周辺の家屋をすべて調べまわってたんです。その内の一軒で、それらしき地下への入り口を見つけました」
「……神の湖へと続く入り口は実在したのか」
アルマという女から聞いた、神教団たちが探していたであろう神の湖へと続く入り口。
ハルトの言葉を聞いた途端、騒がしかった部屋の空気が一瞬にして静まり返った。
そして、ハルトは言葉を継ぐ。
「その入り口らしき扉は見つけたんですが……実は、開かなかったんです」
「開かない? 鍵でもかかっていたのか?」
「いえ、その手のことに詳しい連中の話では、おそらく魔術の類で封印され、開けられないようになっていると」
「魔術か……」
魔術で閉ざされているなら、扉を物理的に破壊しようとしても、たぶん無理だろう。
だがその入り口を見つけられただけでも良かったといえる。
「そうか。ありがとうな、ハルト」
「いえ、見つけられたのに何もできなくてすみません」
「いや、見つけてくれただけでいいさ。それに、魔術で閉ざされてるとしても、開けられないわけではないからな」
「えっ、でも魔術で閉ざされたら普通、開けられないですよね? 開ける方法は、その封印を解くしかないですから」
「ああ、解くしかないな。要はその封印を解除すればいい」
「と、言いますと?」
不思議がるハルト。
そして、エギルはハルトに話していた言葉を全員に向ける。
「これからのことを決めたい。まず、華耶。湖の都の皆はこの場所に馴染めそうか?」
「それに関しては、みんなに聞いてきたけど大丈夫そうよ。少しだけ家が広すぎるっていうのと、畳じゃないからちょっと戸惑ってるけどね」
「そうか。そこはしばらく暮らせば慣れるだろうから問題ないだろう。次に、やりたいことがある」
「エギルさんのやりたいことって?」
サナは首を傾げた。エレノアとセリナはおそらく気づいているのだろう、黙ってエギルの言葉を待っている。
「フィー、最初に俺と会ったとき、元々付けていた奴隷具は誰かに外してもらったって言ってたな?」
「うん」
「それができる者を知ってる。前にそう言ってたな?」
「言った」
「そいつは、サナとルナの母親の病気──ルージュ伝病も解呪できそうか?」
「「え……」」
その言葉に、サナとルナは驚いたように口を開けて固まっていた。
フィーは少し考えてから、