裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……そっか。うん、たぶん、できると思う」
その答えを聞いて、サナとルナの表情がぱっと明るくなった。
「フィーさん、ほんと!? お、お母さんの病気、治るの!?」
「治りますか!?」
「……うん。物に取り憑く呪いも、体に取り憑く呪いも同じだって、【アレ】が前に言ってたから」
フィーは相変わらず抑揚のない声だが、二人に微笑みながら答えた。
それを聞いた二人は椅子の背もたれに寄りかかり、嬉しそうにしている。
「そっか……良かった。ねっ、ルナ」
「う、うん、これでお母さんとまた、お話しできるね」
二人の喜ぶ姿を、ここにいる全員が微笑ましく見つめる。エギルは言葉を続ける。
「それで、その人は神の湖に続く入り口に施された封印も解呪できそうか?」
「それは、聞いてみないとわからない」
「そうか」
それに関してはその者に実際に見てもらわないとわからないのだろう。だからエギルは短く返事をした。すると、フィーは少しだけ慌てた様子で前のめりになりながら口を開く。
「で、でも、なんとかできないか聞いてみるから。できないにしても、理由とか、ちゃんと……」
エギルが落ち込んでると勘違いしたのか、元気出してと言わんばかりのフィーの反応に、エギルは笑顔で伝える。
「ありがとうな、フィー」
その言葉を受けて、フィーは顔を赤くさせながら、
「うん、いいの」
と小さく頷いた。
その様子を見ていたエレノアやセリナや華耶、それにサナとルナまでもが、
──デレた。
と驚いていた。すると、フィーは不機嫌そうな顔で、
「……うるさい」
と発する。
フィーはその可愛らしい反応を、皆にからかわれていた。
場の空気が和らぐ。そんな中、エギルは全員に伝える。
「俺はまず、サナとルナの母親の病気を治し、地下にある神の湖を調べたい。神教団も、ここを襲ってきた騎士たちも、また攻めてくるはずだ。だから俺は、一刻も早く呪いを解呪できる奴に会いに行きたいと思う」
その言葉に納得するように、全員が頷いた。
これから何が起こってもおかしくない状況だというのに、みんなの表情は明るい。
「それでフィー、その人はどこにいるんだ?」
まだ微かに頬を赤く染めてはいたが、たフィーは口元に笑みを浮かべて教えてくれた。
「【アレ】はクロネリア・ユースにいるよ」
その言葉に、エギルの表情から一瞬で笑顔が消えた。
「……クロネリア・ユース、か」
その名前を、エギルは久しぶりに聞いた。
「エギル……?」
不安そうに彼の名を呟くフィー。そして、この大陸に詳しくない華耶が口を開く。
「フィーちゃん、そのクロネリア・ユースって?」
「もともとクロネリア・ユースは、魔物の巣窟で死地だったんだけど、今は冒険者による冒険者のための王国になったの」
「冒険者だけの王国……なんだかここみたいね、エギルさん」
華耶に言われ、エギルは「そうだな」と小さな声で答えた。
エギルの額に少しだけ汗が流れる。具合が悪いわけでも、風邪を引いたわけでもない。ただその名前を聞いただけで、消そうとしていた過去の嫌な記憶が蘇ってくる。
エギルはテーブルに手をつき立ち上がると、
「……わかった。いつここを発つかは後でみんなに伝える。それぞれのやるべきことに取りかかってくれ」
そう伝えると、一人、また一人と皆、何も口にせず部屋を後にしていった。
ハボリックとゲッセンドルフが心配そうにこちらを見つめるが、二人は何も言ってこなかった。
「エギル様、クロネリア・ユースで何かあったのですか……?」
誰もいなくなったと思っていたが、エレノアが隣にそっと立っていた。
「……なぜだ?」
「いえ、顔色が……」
エレノアは心配してくれているのだろう、エギルの手をギュッと握る。
だけどその行為が、エギルの脳裏に嫌な記憶を蘇らせた。
──お願い、エギルにしかできないの。
あの日、あの時、あの場所で。
エギルの手を握って、綺麗な顔で──まんまと罠に嵌めた。その記憶が掘り起こされる。だからエギルは、エレノアの手を勢いよく振り解いてしまった。
初めて拒否されたエレノアは後ろに下がり勢いよく頭を下げる。
「も、申し訳ありません……ただ、心配で……」
「い、いや、すまない……」
エギルは慌ててエレノアを抱き寄せた。金色の髪を撫でながら、何度も何度も、「すまない」と謝り続けた。
「クロネリア・ユースで……いえ」
エレノアはいったん聞くのを止め、別の言葉を投げかける。
「わたくしはエギル様が大好きなのです。エギル様がそんなに慌てたり、脅えるような表情をしているのを初めて見ました。なのでよければ教えてください」
エレノアと彼女は違う。
だからエギルは、彼女を抱きしめたまま苦しげに笑った。
「……クロネリア・ユースは、俺があいつに裏切られた場所だ」
エギルは自分でも情けないほど小さな声で伝えた。
「……ルディアナ・モリシュエ、ですか?」
「……シルバさんから、聞いたのか?」
「……申し訳ありません」
「いや、いいさ」
そう返すと、エレノアの拳に力が込もったように感じた。そして聞こえるか聞こえないかほどの小さな声で、
「……ルディアナ」
と、恨みを込めた声色でエレノアはその名前を呟いた。
そして、エレノアはエギルを椅子へと押し戻すと、そのまま上へ跨がる。
「裏切られたのはとても辛い記憶だと思います。わたくしにもあります。他のみなさんだって、同じような苦しんだり、辛かった過去を持っています。ですが、サナさんやルナさんの笑顔を見たいなら、そしてエギル様自身が過去を清算するためにもそこへ行くべきではないでしょうか」
「エレノア……」
クロネリア・ユースはエギルにとってはもはや過去の場所だ。サナとルナのためになるのであれば、当然そこへ向かうべきだろう。
エレノアはエギルのおでこに自分のおでこをコツンと当てて、優しく微笑んだ。
「もう、過去は忘れてください。あなたがいるべき場所はこれから先、わたくしたちと一緒に歩く未来なのですから」
「……そう、だな」
忌々しい過去に捕らわれていてどうする。彼女たちだって過去に辛いことがあっても、必死に前を向いてる。
幼なじみと二人の姉に裏切られた、エレノア。
故郷の村を奴隷商人に焼かれた、セリナ。
母親が不治の病に冒され苦しんだ、サナとルナ。
人としての生き方を示し救ってくれた親友を亡くした、フィー。
何百年も受け継がれた呪われた血族の、華耶。
奴隷商人にさらわれた姉を救うために闇ギルドに身を落とした、クロエとシロエ。
みんながそれぞれ、辛くても必死に前を向いて歩いてる。
クロネリア・ユースに彼女はいない、あるのは過去の思い出だけ。それなのにここで迷ってどうするのか。
エギルは──いまだに苦しんでいる彼女たちを助けたい、そう思っているのだから。
「エレノア……すまないな」
「いいえ、初めて苦しそうにしているご主人様を見れて、少し嬉しく思います」
「奴隷オークションで、セリナを競り落とせなかった時も、こんな表情をしただろ?」
「そうでしたね。ふふっ……ですが、こうして苦しでいる時に側にいられるわたくしは、やっぱり正妻みたいですね」
おどけてみせるエレノアにエギルは笑いかけた。