裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「うむ。前と比べて随分と綺麗になったのう。──もう、アロヘインは生えてないのかのう?」
レヴィアは冗談まじりに来賓用の部屋を見渡しながら言った。
「アロヘインは全て処分したからな。エレノア」
「はい。レヴィアさん、コーヒーと紅茶、どちらがよろしいですか?」
その問いかけに、レヴィアは即答した。
「我はコーヒーなのじゃ! ミルクと砂糖たっぷりの甘めで頼むのじゃ!」
「かしこまりました」
見た目通りの子供だな。
そう思ってエギルが笑いかけると、レヴィアはまた周囲に視線を向ける。
「何か気になるか?」
「うむ、この辺りの空気が変わったと思ってのう」
「空気? 前と変わらないと思うんだが」
「お主にはわからないだろうが、魔物に育てられた我にはわかるのじゃよ。前までは、魔物が好む
エギルはそこまで気にしていなかったが、レヴィアは大きく頷く。
「お二人とも、お待たせしました」
コーヒーが注がれたカップを三つお盆に載せて、エレノアが戻ってきた。
一つだけおかしいほどの数の角砂糖がソーサーに添えられたカップがある。レヴィアはすぐさまそれを受け取り、一つ、また一つと砂糖を入れる。
そしてエレノアがエギルの隣に座ると、テーブルを挟んで二人の正面に座るレヴィアはカップを口につけ、こちらをじっと見つめる。
「ふむふむ、良き妻を持ってお主も幸せ者じゃな」
「まあな」
レヴィアが美味しそうにコーヒーを飲んでるので、おそらくは本心なのだろう。
「まず、昨日は助かった。ありがとう」
エギルが頭を下げると、レヴィアはにっこりと笑顔を浮かべる。
「なになに気にするでない。我にとっては、お主に恩を売れて良かったからのう」
「それで、ここへは世間話をするために来たわけじゃないだろ?」
カップをテーブルに置いて、レヴィアは本題に移る。
「お主らはここが襲われた理由と、襲ってきた者たちが何者かわかっておるか?」
そう尋ねられ、エギルは軽く頷く。
「半分、といったところだな」
「ほう、それで?」
レヴィアは続きを求めた。エレノアは不安そうにエギルを見つめる。
目の間に座る彼女は仲間ではない。昨夜は助けてもらったが、《ゴレイアス砦侵攻戦》での一件では、最後に敵であることがわかった。
神の湖について教えて問題ないか、エギルは確信が持てなかった。しかし、レヴィアに隠し事は無意味だと思い、隠さず伝えることにした。
「この国の住民区に、神の湖へと続く地下通路がある。それを狙っているのが騎士団と神教団だと……。だが、その騎士たちがどこの王国に所属している者かはわからない」
「ほお、なるほど」
あたかも知っていたかのような反応に、エギルは聞いてしまった。
「……レヴィアは知っていたのか? この国の地下に神の湖があることを」
すると、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。
「予想はしておった。だが、正確な位置は掴めておらんかった」
「もしかして、お前が《ゴレイアス砦侵攻戦》のクエストに参加していたのは、神の湖を探すためだったのか……?」
その言葉に、レヴィアは「どうかのう」と曖昧な返事をする。
「ただ、多くの聖力石を求めていたことも事実なのじゃ」
「その二つ、ってことか?」
「うむ。その前に、エギルよ、我はお主が正直に話してくれたことが嬉しいのじゃ」
「どういう意味だ?」
「言葉通りじゃよ。だから我からもいくつか情報を教えようと思う」
レヴィアはカップに口をつけると、喉を潤し、そしてエギルに伝えた。
「まずはここがどんな場所なのか──世界中に沢山あった死地《デッドスポット》の成り立ちを説明しようかのう」
「成り立ち……? 死地はただ魔物が住み着いただけの場所だろ?」
「うむ、世間的にはそうなのじゃ。ただ、死地と魔物の住処は同じではないのじゃよ」
レヴィアはソーサーに添えられた角砂糖を全てコーヒーに入れてしまったので、エレノアが一緒に持ってきてくれていた角砂糖の入った瓶を引き寄せ、蓋を開ける。
そして再び一個、また一個とコーヒーの中へと入れた。
「人間が住む場所は、例えばどんなとこかのう?」
「それは、衣食住がしっかりと確保できる安全なとこだろ」
「であろうな。じゃが、魔物は違うのじゃ。人間以上に、住みやすい気温というものが存在するのじゃ」
「気温? ……つまり、ここは魔物が住むのに適した温度だったってことか?」
──前までは魔物が好む暖かさがあった。
エギルは先程レヴィアが部屋に入るな口にした言葉を思い出した。
エギルの推測は正解だったようで、レヴィアはまた角砂糖を摘まみ、頷きながらコーヒーの中へ入れる。
「人間が勝手に死地と呼んでいるのは、最初からなるべくしてなった魔物の巣窟なのじゃよ」
「つまり、魔物が住みやすい気温だから、そこに魔物が集まって死地になったってことか?」
「そうじゃ。そして、その気温が高くなる原因が──」
「──地下にある神の湖の水の温度、ですね?」
ずっと黙っていたエレノアが口を開くと、レヴィアは表情を変え、驚いたのか角砂糖をテーブルに落とした。
「やはりお主は、良い妻を持ったのう」
レヴィアは角砂糖を拾ってコーヒーに入れると、何度か頷く。エギルはエレノアに視線を向けた。
「どういうことだ、エレノア……?」
「報告が後になってすみません。実は書庫で、王国近辺の過去の気温を一日単位で記録した書物がありました。それを読み解くと、この近辺では年に数回だけ、異様なほど気温が上がる時期があったのです。わたくしもレヴィアさんの話を聞く前までは自然現象の一種かと思っていました。……ですが、どうやら繋がっているのですね」
「そのようなものを記した書物が、死地であったこの地に残っておるとはのう」
「書庫に保管されていたので無事でした」
「ふむ、この地についての記録を後世に残そうと思った者がおった、ということじゃな」
「ええ、おそらく。それにアロヘインは、気候が温暖で湿度が高いところに生育しやすいという記録も読みました。であれば、神の湖がある土地ではアロヘインが十分に育つと考えられます。騎士たちはアロヘインの生育条件に気づいたため、神の湖を探す道標にした……というのが、わたくしが考えた仮説です。当たってますか?」
レヴィアは小さく頷いた。
「……そう関連付けるのが自然じゃな。おそらくこの王国の地下深くに眠る神の湖が熱源となっているのじゃ」
そしてレヴィアは真剣な表情で一度だけ言った。
「我も未だこの眼で確認したことがないから断定はできないが、神の湖は、冷たい水ではなく、熱を持った湖の可能性があるのじゃ」
湖は多くの場合、冷たく、透き通った水が広がるところである。だが神の湖はそうではなく、熱を持った水。それはまるで温泉のような場所だろう。
「それにじゃ」
レヴィアは言葉を続けた。
「その神の湖が熱を発してるとして、その時期はたぶん変動するのじゃ。どの季節に地面から熱を感じるか、それは書物にも書いてなかったであろう?」
「ええ、ある時は寒い時期に、またある時は暖かい時期とバラバラでした。記録に規則性は見られなかったです」
「うむ。その記録した者も、どの季節に熱を発するのかを特定できなかったのであろう。……なぜか、わかるか?」
そう言ってレヴィアはエギルをジッと見つめる。
エギルは少し考えてから、二人から聞いた内容をもとに推測を述べた。
「地下にある神の湖をその目で確認できなかった。あるいは、あの扉を見つけられなかった、か?」
「であろうな。要するにずっと昔からそこにあったのに、そこに到達できた者がいない。もしくは──」
到達はしたが、それを記録できなかった。
レヴィアはそう言った。
その物言いは、神の湖を見た者が記録として残そうとしたのに、それを何者かによって阻まれてしまったと言いたげだった。
そんな憶測だらけの会話なのに、この話にはどこか信憑性があり、世界の真実に近づいてるような恐ろしさがあった。
そして、レヴィアは、
「そこで我からお主らに頼みたいことは一つ。神の湖へと続く地下通路、その扉を開ける時、我も一緒に中を見せてもらいたいのじゃ」
そう告げた。
「それだけか?」
「うむ、それだけなのじゃ。どうだ、問題なかろう?」
「本当に、それだけでしょうか?」
エギルが返事するよりも先に、同じ疑問を持っていたエレノアが口を開く。
すると、レヴィアは子供のように頬を膨らませた。拗ねているようだった。