裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
クロネリア・ユースはヴォルツ王国と似ている。国全体を囲う高い壁、住民が暮らすエリアがあり、中心部に王城がそびえ立つ。
ヴォルツ王国と違うのは、多くの商店があり、街が賑わいを見せていることだ。国内においては人の出入りが自由で、住民の表情は幸せそう。笑い声が絶えず聞こえてきた。
──冒険者だけの王国の完成形、といったところだろうか。
「右を見ても左を見ても冒険者ばかりですね」
商業エリアと称されている場所をエギルたちが歩いていると、セリナが驚いたように声を漏らす。彼女の言う通り、辺りには防具を装備した冒険者たちが大勢いる。そして男性の方が圧倒的に多い。
その男女比に気づいて、セリナは悪い笑みを浮かべる。
「もしかして、ここを取り仕切ってる人って、エレノアみたいな変態だったり……?」
「わたくしに男性を囲う趣味はありません。まったく、ふざけてると、変な男性に声をかけられますよ?」
エレノアに言われ、セリナは慌ててエギルの腕を摑む。
奴隷具をスカーフで隠しているとはいえ、ドレスを着たエレノアの色気や、セリナやフィーの容姿に目を奪われる者は多い。
そんな視線を感じながら石畳の道を歩く。
「昔と変わったな……」
賑やかな商業エリアから見える王城。そこは昔、エギルがルディアナに突き落とされたところで、その時は廃城だった。
過去の悲しい記憶が蘇るかと思ったが、エギルの知っている死地《デッドスポット》とは大きく変わっているため、気持ちが重たくなることはなかった。今では純白の石壁で固められていている王城の姿を綺麗だと感じさえする。
どんな冒険者がここを統治しているのか。
同じ冒険者の王として少し気になっていた。すると、レヴィアがボソッと呟く。
「つまらん」
「何がだ?」
レヴィアに聞くと、彼女はため息混じりに答える。
「……先程の門兵。奴も冒険者であろうに、あそこに突っ立ってるだけとは……冒険者の名が廃るというものじゃ」
その言葉に、エレノアがクスクスと笑う。
「たしかにそうですね。普通なら王国や街を守るのは騎士の役目ですが、ここではそれを行うのも冒険者ですからね。少し違和感はありますね」
「うむうむ、冒険者としての自覚を失ってるのかもしれぬな。お主もそう思わんか?」
レヴィアに視線を向けられ、エギルは周囲を見ながら答える。
「たしかにそうだな。冒険者は一カ所に根を張らず色々な地を転々としているものだが、ここの連中は、そんな感じはしないな。まあ、格好や雰囲気でしか判断できないが」
このクロネリア・ユースを統治している冒険者がならともかく、周囲にいる誰を見てもクエストに向かおうとしてる様子がない。
そう思ったのは、昼間だというのに酒を飲んで騒ぐ冒険者らしき連中が数多くいたからだ。
冒険者は早朝からクエストへ向かうのが一般的だ。なにせクエストへ行かなければ報酬が貰えず、稼ぎがなくなる。それなのに昼間から酒に溺れている冒険者が多いのはどういうことなのか。休業日を設けているのならおかしくはないが、冒険者が揃って休みを取るとは考えられない。
「……まるで、クエストを受ける必要がないみたいじゃな」
レヴィアが呆れたように言う。
「冒険者だけの王国が、一般的な王国となったということじゃな」
「ああ、そうだな」
そんな話をしているうち、商業エリアから外れた、居住エリアに入った。
そしてフィーは、とある屋敷の前で足を止めた。
「やっぱり変わってない。ここだよ」
「ここって……」
明るい色合いの屋根が並ぶ中、フィーが指差したのは、所々ヒビが入り塗装のはがれた外壁の今にも崩れそうな薄暗いたたずまいの大きな屋敷。ずっと手入れをしていないようで、庭だった場所には雑草がぼうぼうに生えていた。ご近所付き合いを拒絶します、と言わんばかりのこの幽霊屋敷に、到底人が住んでいるとは思えなかった。
「本当に、ここに住んでるのか?」
エギルがフィーに聞くと、彼女は頷いた。
「……たぶん。昔からこんな風だから」
「ふむ、これでは家主は人間ではなく魔物みたいだのう。我らの大好きな匂いがするのじゃ」
レヴィアは高笑いをする。
こんなところに住んでいるということは相当な変わり者なのだろう。
フィーは何の躊躇いもなく中へと入っていく。
「入ってみるしか、ないか」
エギルたちもフィーの後を追う。
「これは……」
屋敷の中に足を踏み入れた途端、エギルたちは絶句した。
一言で表すなら『巨大図書館』。
屋敷中を書物が占めており、昼間だというのにカーテンは閉めきられ、建物内は壁に掛けられた蝋燭の灯りだけなので薄暗い。
四方の壁一面に設置された書架は満杯でそこに収めきれなかった書物は無造作に床に積み上げられており、足の踏み場もないほどだ。
「うわ、これ絶対に難しいやつだよ」
セリナが落ちていた本を手にして拒否反応を見せる。題名を見ただけでも難しい内容だと推測できた。
それにしても、ここには人の気配が全くしない。
「……留守か?」
そうフィーに問いかけると、彼女は首を左右に振った。
「ううん、【アレ】が外出するはずない。いる、どこかに」
「どこかと言われても、いませんよね……?」
エレノアは辺りを見回しながら苦笑いを浮かべる。
レヴィアは難しそうな書物を興味深そうに見ており、フィーの言葉が信じられないようだ。
「いると言われても、物音すらしないしな」
人が住んでいるとは思えないほど書物が溢れているので、捜そうにも捜せない。
「たぶん、あそこ」
フィーが指差したのは、二階。一階同様、そこも本の山。
エギルたちは本に遮られてフィーが指差した場所がわからず、角度を変えて視線を動かす。
その時、
──バサッ!
二階から、本が数冊落ちてきた。
「……ソフィア、そこにいるの?」
フィーは二階に声をかけた。
ソフィア。エギルたちは初めて、フィーが【アレ】と呼び続けていた人物の名前を聞いた。そして、パタンと書物が閉じられる音が微かに聞こえた。
「……はあ。誰よ、私の家に勝手に入ってきたバカは」
面倒くさそうな少女の声。のそのそと、落下防止の手すりへと誰かが近づいてくる。