裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……いない」
エレノアたち四人は宿屋へ戻っていた。
エギルたちが泊まる予定だった部屋には、本来いるはずのサナとルナ、それに華耶やシロエとクロエの姿はなかった。
「出かけたんだよね?」
セリナは部屋の中を見ながら困惑する。
「……何も知らせずに?」
「宿屋で待ってるって言っておったはずじゃがな」
別にここでずっと待っていなければいけないわけではない。ちょっと街中を見て回っているだけということもあり得る。だが、エレノアたち心配せずにはいられなかった。
「ねえ、もしかしてだけど、エギルさんとみんなが一緒にいるところを見られていて……この場所を特定されたってことはないよね?」
「セリナ、それはないと思います。ですが誰もいないというのは少し……」
部屋に置き手紙らしきモノはない。
──みんなで少し街を見てくる。
といった言伝てがあれば問題なかったのだが。エレノアはそう思い、
「街の中を捜しましょう」
と三人に伝える。
ここに止まっていても仕方ない。エレノアたちは宿屋を出る。
どこかのんびりした雰囲気の街中を、四人は駆けて行く。
あちこち走り回り、次第に額や背中に汗が流れる。その汗は走ったからなのか、それとも、華耶たちが見つからない不安からなのか、それはわからない。
エレノアは、大通りを走りながら三人に伝える。
「ここからは手分けして捜しましょう。その方が早いですので」
エレノアの案に、みなが頷き、それぞれ違う道を行く。
そして一人になったエレノアは辺りを見渡す。
「一体どこへ……」
捜しても捜しても、どこにもいない。
額の汗を拭い、走りにくいドレスの裾を掴んで、ただひたすらにみんなを捜す。
──そんな時だった。
「どなたかお捜しで?」
ちょうど商業エリアの中央にある噴水の前で、ふいに声をかけられた。
エレノアが振り返ると、その声の主はにっこりと笑顔をこちらへ向けていた。
存在感のある金色の巻き髪を胸元まで垂らし、質の良さそうな色鮮やかなドレスを身に纏って、お洒落なチョーカーを首に付けている。 華やかで高貴な身分の女性。
そんな印象の彼女の笑顔に、どこか違和感を覚えたエレノアは、
「いえ、なんでもないんです」
と、足早に立ち去ろうとした。だが、
「──エレノア・カーフォン・ルンデ・コーネリア第三王女様。……ああ、元 第三王女で、今は奴隷でしたね」
「あなたは……」
「彼に飼われてるのでしょ? 元気? エギル・ヴォルツは」
誰かなんて、聞かなくてもわかった。
──メイド服は着ていない。だが首元にちらりと覗くチョーカーは奴隷具だとわかった。
奴隷具を付け、エギルを知っていて、この場所にいる。そんな女性を、エレノアは一人しか思いつかなかった。
「ルディアナ・モリシュエさん、ですか……どうしてあなたがここに」
「まあ、わたくしごときの名前を元王女様がご存知とは、光栄ですこと」
「ええ、エギル様が教えてくださりましたから」
そう告げた瞬間、彼女から笑みが消えた。
「彼が……そう。エギルが教えたのですか? あなたに」
「……」
「彼はわたくしのことを話さないと思ったのですけど……そうですか。あなたが、わたくしの計画の邪魔し、彼を悪い方向に行かせてしまったのですね」
「……計画、ですか?」
「ええ、計画。彼を理想の男にするね」
エギルによると、ルディアナ・モリシュエという女性は、大人しい雰囲気で、優しくて笑顔が可愛くて、守ってあげたくなるような、男女共に好かれる女性だという。
だけど目の前の金色の髪の女性の印象は、エギルから聞いていたのとは大きく違った。
派手な服や立ち振る舞いを好み、どこか裏がありそうな笑顔を浮かべ──男が惹かれる容姿だが、同性としては好感をもてない。
彼女は頬に手を当て、クスクスと笑いだす。
──本当に同一人物なのか?
そう思ったエレノアはそのまま質問する。
「あなたは本当にルディアナさんなのですか……?」
一瞬、笑顔がだが崩れたように見えたが、彼女は先程までと変わらぬ笑みを浮かべて言い返してくる。
「……何が言いたいのかしら。疑うのでしたら、お話ししましょうか? あなたが知らない昔の彼のことを」
「いいえ、結構です。あなたとエギル様が過ごした過去に興味はありません。それに、エギル様からあなたが何をしたのかは聞いております。エギル様を魔物の群れの中に突き落とした……それがなんの計画と言うのですか?」
「うふふふっ……。わたくしだって、好きで突き落としたわけではないですよ?」
「……では、なぜ突き落としたのですか?」
「彼ならあの状況でも生きられると思ったから、そうしたまでですよ?」
「……突き落としても、エギル様なら生きていられると、確信していたというのですか?」
「はい、その通りです」
一切悪びれる様子もなく、ルディアナは聖女が祈るように目の前で両手を組むと、言葉を続けた。
「あなたはまだ出会って間もないから知らないかもしれませんが、彼──エギルは、とても弱い男なのですよ」
あたかもエレノアの知らないエギルを自分はずっと見てきた――エレノアの知らないエギルを自分は知っている――そう言いたげな口ぶりだった。
「臆病で、力がなくて……だけど大切な者のためなら、彼はどこまでも強くなれる。あなただって、それぐらいは知ってるでしょ?」
「……ええ、知っておりますよ。だけどそれが──」
「だから試練を与えたのです。エギルを魔物の群れの中に突き落として、もっと強くなってからわたくしを追ってくれるように、ねえ?」
ニッコリと微笑むルディアナ。
エレノアは理解はしたくなかったが、わかってしまった。
「まさか、エギル様を突き放すことが、エギル様を成長させると本気で思っているのですか?」
「あはっ……あははっ」
その質問に、ルディアナは嬉しそうに笑った。
頬を赤く染めた彼女の表情は、悪魔のようだった。
こんな女のために、エギルはずっと苦しんできたのか。エレノアは思わず彼女を睨みつけていた。
「……腐ってますね」
そう吐き捨てたが、ルディアナには何も響かない。
「腐ってる? わたくしが? ふふっ……何を仰りますか。これはわたくしの愛情ですよ?」
「愛情……? そんな歪んだ愛情、あるわけないです」
「ありますよ。現にここにあるでしょう? わたくしと出会った頃の彼は弱々しいただの少年。二人の兄の後ろに隠れ、わたくしに会う時だけ強く見せようとする、何の魅力も感じられないような弱い子供。──だからわたくしは、強くなってほしいと願い、幼い彼を突き放したのです。それが最初したね」
彼女は自分に酔った役者のように身振り手振りを交えながら話を続ける。
「そしたらなんてことでしょう。一度突き放しただけで、次に会った時には、彼は見違えるほど素敵な男性になってました。だからその時に実感したのですよ……彼を再び突き落とせば、さらに成長できるのではないかと」
ルディアナが最初に突き放したというのは、エギルが少年だった頃──つまりは、初めて彼が恋をした頃のことを言っているのだろう。
その後まもなく、エギルの前から突然、ルディアナは姿を消した。
エギルが彼女と再会したのは、エギルが冒険者として頭角を現し始めた頃だった。
「……あなたの言う通り、あなたに突き放されたことでエギル様は強くなれたかもしれません──ですが、そんなのは本当の強さではありません。あなたへ想いを寄せていた頃よりも、わたくしたちと一緒にいて、わたくしたちを守りたいと思ってくださる今のエギル様の方が身も心も強くなってます」
「幼い頃のエギルを知らないあなたが知ったような口を……。残念ながら、あなたの考えは間違ってますよ? 彼は裏切られても、今でもわたくしを愛してますからね」
「そんなはずありません」
エレノアは即答した。それに、ルディアナは眉をピクッと動かす。同時に笑顔を消し、エレノアを睨む。
「では、わたくしの前にエギルを連れて来てください」
その自信満々な発言に、エレノアは唾を呑む。
「傷つけたあなたのもとに、エギル様が戻るとでも……?」
「ええ、戻ります。必ず。だって彼に植えつけたわたくしへの愛情は、あなたたちの数カ月の愛情とは比べものにならないほど年数を重ねてますから。突き放されても、裏切られても、彼は、わたくしの言葉を信じてくれますよ。だって──」
──わたくしにはそれができるのだもの。
金色の髪に手を触れながら話すルディアナの言葉に耳を傾けているのが辛い。どこからその自信が出てくるのかわからない。どんなに上手い言葉で言いくるめるにしても、それは不可能に違いない。
だったら何か他に理由があるのではないか。
そう思ったエレノアは、髪を指でとくルディアナを改めて見る。
そして、彼女との会話の中では感じなかった違和感に気づいて、咄嗟に後ろへ下がった。
「……何かの職業、ですか」
うっすらと嗅覚を刺激する甘い香り。香水とも果実とも違う芳香が、風に乗ってエレノアへと届いた。