裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エレノアの反応に、ルディアナはにっこりと微笑む。
「素敵な香りでしょ?」
ふわっとした香りは、ルディアナが手を払うと一瞬にして消えた。
ルディアナの余裕ありげな言葉にエレノアは顔を歪める。
「……その香りでエギル様を魅了させた、ということですか?」
エレノアの質問に、ルディアナはクスッと笑う。
「ええ、エギルはこの匂いをずーっとわたくしの側で堪能していました。それはもう、麻薬のように……この意味がおわかり?」
「どんなに憎んでいたとしても、エギル様があなたのもとへ戻る……あなたの自信は、その手品があるからなのですね」
「手品……どうでしょう。魅力、と言ってほしいですね」
まるで自分の生まれ持った才能だと言わんばかりのルディアナから目を逸らすように、エレノアは俯いた。
──ふざけるな。
エレノアは拳をギュッと握り、再びルディアナに視線を向けると、彼女を強く睨みつけながら怒鳴る。
「ふざけないでっ! エギル様があなたへ向ける感情は、本物の愛情じゃない。職業の力で生み出された、偽りの愛情ですっ! そんな偽物にエギル様がもう騙されるわけがありません」
「──だったら、試してみたらどうです?」
彼女の表情は自信に満ち溢れているようだった。
「エギルにお伝えください。わたくしはあなたとの思い出のお城で待ってます、とね」
「……」
「もし、わたくしへの愛情が偽物で、あなたたちへの愛情が真実だという自信があるのなら、わたくしのもとへ彼を連れて来てくださりますよね?」
エレノアに視線を向けたルディアナは、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら最後に伝える。
「できますよね? たった数カ月の愛情で勝てるのなら、ねぇ?」
ルディアナは踵を返して歩き出し、ゆっくりと遠ざかっていく。
たった数カ月かもしれないが、エギルとエレノアたちの本気の愛を馬鹿にされ、エレノアは殺してやりたいほどの屈辱を覚えた。だが手は出さなかった。それはエレノア自身が、エギルを信じているからだった。
エギルが自分たちよりもあの女を選ぶわけがない。
あんな手品で、エギルが自分たちのもとを離れていくわけがない。
大丈夫。大丈夫だから、怯まず、あの女の前にエギルと共に行こう。そしてそこで、エギルの過去を清算しよう──いつかの自分のように。
苦しんだとしても、自分たちが側で支えれば大丈夫。大丈夫。大丈夫、だから。
そう、エレノアは思った。
だけど時間が経てば経つほど、エレノアは疑心暗鬼になった。
職業の力は絶対だ。他者を魅了できる彼女の職業の力。エギルは長い年月、彼女の側でその誘惑の香りを嗅いでしまっていたのだ。もしかしたら、彼の意思とは関係なく、離れてしまうのではないか。
もしそうなれば、自分も、他のみんなも、どうなってしまうかわからない。
愛する人を信じたい──だけど怖い。
エレノアも、セリナも、他のみんなだって苦しんで苦しんで、やっと幸せや安らぎをエギルと共に手に入れた。だけどその幸せは、エギルが消えてしまったら全てなくなってしまう。
信じてる。絶対に大丈夫。そう思ってるのに、不安が残る。
「──エレノア!?」
そんな時だった、背中からセリナの声がしたのは。
振り返るとセリナだけでなく、フィーやレヴィアもこちらへ走ってくる。そして側にセリナが来ると、彼女は驚いていた。
「ど、どうしたの? なんでエレノア、泣いてるの?」
「え?」
最初はセリナの言葉の意味が理解できなかった。しかし、頬に手を触れると、自分が涙を流しているのがわかった。
「どう、して……」
訳もわからず涙が溢れる。だけど泣いている理由が怒りではなく不安だと気づくと、エレノアはその姿をみんなに見られないように両手で顔を隠す。
「ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさい」
エレノアはひたすら謝った。
セリナに、フィーに、ここにはいない華耶とサナとルナとクロエとシロエ──そして疑ってしまったエギルに。
もう大切な人を失いたくない。
奴隷となったあの日、家族も、友人も、何もかもエレノアは失った。それはエレノアだけでなく他のみんなも同じだ。
心の支柱であるエギル。信じていても、少しでも彼を失う可能性を考えたら、心が押し潰されそうなほど不安になって泣いてしまった。
そんなエレノアを、セリナは優しく抱きしめる。
「……大丈夫。理由はわからないけど、大丈夫だから。私たちが側にいるから」
エレノアは、涙をこらえてセリナたちに伝える。
「実は……」
ルディアナと会って何を話したのか、それを三人に伝えた。