裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
商業エリアのお店で華耶とサナとルナ、クロエとシロエを見つけたエレノアたちは、三人を伴ってソフィアの屋敷に戻ってきた。華耶たちが宿屋にいなかったのは、サナとルナの気分転換にと、外に出かけていたからに過ぎなかった。
「いやー、すっごく美味しかった。ねえ、華耶さん」
「ええ、本当ね」
「今度は、みんなで食べたい、です」
サナやルナ、それに華耶とクロエとシロエは、どこかで食事をしてきたのであろう、屋敷に入るなり料理の話に花を咲かせていた。普段より明るく振る舞っているのは、エレノアたちの異変に気づき、少しでも場を明るくしようと思ってだった。
エレノアやセリナ、それにフィーは、華耶立ちの話に愛想笑いを浮かべて相槌を打つような素振りを見せてはいたものの、時おりどこか遠くを眺めていた。そしてレヴィアも黙ったまま。
この妙な空気に気づたのは、エギルだけだった。
「どうかしたのか?」
エレノアに問いかけると、彼女はぎこちない笑顔をエギルに向ける。
「いえ、なんでもありません」
その様子から何かあったのだろうとわかる。だけどエレノアはそれ以上何も言おうとしない。なのでエギルは「そうか」と答えるしかなかった。
「んで、あんたらどうすんの? もう戻るわけ?」
書物をパタンと閉じたソフィアにそう聞かれ、エギルは少し悩む。
厄介事に巻き込まれる可能性が高いのであれば、すぐにでも戻ったほうがいい。ここへ来た目的は果たせたのだから、これ以上邪魔をするつもりはない。
だが、
「それを今、みなさんで決めたいです」
いつもならみんなの反応を見て、それぞれの意思を尊重しながら物事を決めようとするエレノアが、誰よりも早く自分の意見を口にした。
「できれば、明日がいいのです」
「明日……?」
エレノアはエギルから視線を背け、答える。
「……明日がいいのです」
その様子に違和感があった。それにセリナやフィーも、俯いたまま顔を上げようとしない。
華耶たちを呼びに行ったときに何かあった。言葉にしないがおそらくそうなのだろう。だけどここでは聞けそうにない。それはエレノアのことをよく知るエギルだからこそわかった。
「みんなは、どうだろうか?」
華耶たちは全てを察し、真剣な表情で頷いた。
そしてセリナやフィーも大きく頷き、賛同していた。
なのでエギルは、エレノアに笑顔を向け、頷いた。
「ああ、わかったよ。それじゃあ明日、みんなで出発しよう」
その言葉に、エレノアは無言で頷いた。抱きしめたくなるほど弱々しい表情の理由は、きっとこの後、教えてくれるだろう。
ソフィアは壁に背を預けながらエギルを見る。
「んじゃ、今日はどうするわけ? 宿屋に泊まる? ここは無理よ。本を置く場所はあっても、あんたら全員を置くスペースはないもの」
「宿屋に戻るかな。また明日、ここへ来させてもらう」
「そっ、わかったわ。んじゃ、フィーとのじゃロリちゃんと──あとそこの四人以外は帰っていいわよ」
「ん、あたしら?」
首を傾げたのはサナとルナ、それにシロエとクロエ。いかにもソフィアが好みそうな子供たちだ。
愛でたいのだろう。それに対してセリナは、
「……そうね。じゃあお願いしようかな」
と、珍しく妹の心配をする様子もなく答える。
「まあ、それがよかろう。エギルよ、我らはここで明日、お主らを待つことにするのじゃ」
「そ、そうか……」
随分と素直だ。
「お姉ちゃんも一緒じゃないの?」
「もちろん、お姉ちゃんも一緒でしょう?」
シロエとクロエが一緒がいいとせがむが、セリナは二人の頭を撫でながら、
「ごめんね、今日だけはお姉ちゃん、一緒じゃないの」
「え、なんで?」
「ごめんね。今日だけは、二人と離れてやらないといけないことがあるから」
その口ぶりは、どうしてもここに二人を置いておきたいようだった。
ソフィアがロリコンだと知っているセリナ。妹思いの彼女が、この決断するのは少し変な気がした。
それもきっと、エレノアの様子がおかしいのと関係しているのだろう。
いつもの優しい姉と違った雰囲気を感じたのか、クロエとシロエは頷いた。
その光景を見ていた華耶も、先程までの笑顔は消え、どこか難しい表情をしていた。
表には出さないが、微かに感じる重い空気。だが、
「ほら、二人ともここに座りなさい?」
いつの間にか近くに座っていたソフィアが、サナとルナに視線を向けながら膝を叩く。
「え、そこって、ソフィアさんの膝の上だけど……?」
「そうよ」
「そうよって……」
「えっと……」
二人の視線がフィーに向く。それを受け、彼女は無表情のまま頷いた。
「問題ない。行って」
「「え……」」
まるで背中を押すようなフィーの言葉を受け、サナとルナはゆっくりとソフィアのもとまで近寄る。
「──捕まえた」
ソフィアに背中から抱きつかれる二人。
「ちょ、な、なに!? なんなの!? フィーさん! これどういうこと!?」
「く、くすぐったいです、頬擦りダメです!」
二人に視線を向けられたフィーは腕を組み、何度か頷く。
「……止むを得ない犠牲だから」
そう、自分の身を守るために二人を身代わりにしたフィー。
「フィーさん、騙したな!? ちょ、お腹を撫でないで!」
「や、やめて、ください!」
「ああ、いいわ、このサイズ。ずっと愛でていたい……ほら、暴れないの」
熱い抱擁をするソフィアと、逃げようと暴れるサナとルナ。
その様子を見て、少しだけ場が明るくなると、ふとレヴィアが小さな声でエギルを呼ぶ。
「エギルよ」
「……どうした」
いつもとは違う彼女の真剣な表情に、思わずエギルも釣られて小さな声で返事をする。
「お主は、彼女らのことが好きなのか?」
「……唐突だな。そうだが、どうした?」
「いいや。ただ、問うておきたかったのじゃ。……その気持ち、忘れるでないぞ」
それだけを伝えると、彼女はエギルに背を向けてすたすたと歩き、自らソフィアに捕まった。
──ああ、やっぱりおかしい。
嫌な予感しかしない現状に、エギルの気持ちが沈み込む。
外観が変わり活気があっても、ここはやはりエギルの嫌いな場所だった。ここへ来るまではエレノアもセリナも、フィーやレヴィアも明るかった。なのに、みんなまた暗い気持ちに蝕まれてしまった。
早く帰りたい。こんな街、すぐにでも離れたい。
エギルは明日、何事もなく出発できることを願いながら、エレノアやセリナ、華耶と共に宿屋へと向かった。