裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「ああ、本当にな」
そこで、ソフィアはわざとらしく咳払いする。
「コホン……のろけは全てが終わってからにしてちょうだい」
「すまないな。それで話を戻すが」
「まあ、答えは知らない、だけどね」
ソフィアは少し考えてから、
「もし同じように能力を発動する瞬間――術式を見れば、防ぐことはできるかもしれないわ。それが魔術の類と一緒ならね」
「なるほど。それは屋敷にあった大量の書物で蓄えた知識の力というわけかの? 優れた才能と知識を持っておるのじゃな」
レヴィアの言葉に、ソフィアは一瞬だけ大きく目を見開き、
「あら、褒めてくれるの? 愛でてあげる」
後ろから抱き寄せようとするが、それをレヴィアは華麗に避け、クスクスと笑う。
「少し考えればわかることなのじゃ」
「まあ、それもそうよね。私の職業は、呪術師 よ。相手に様々な効果をかける。ただそれだけのありふれた職業」
「呪術師か。だが、それは対象に呪いをかけるだけであって、対象の呪いを打ち消すことはできないんじゃないのか?」
呪いを消す職業であれば、未知と呼べるルディアナの能力を打ち消すことが可能かもしれない。しかし、ソフィアの職業は〝消す〟ではなく〝与える〟だ。それでもできるのか、とエギルが疑問に思っていると、ソフィアは馬鹿にするように深々とため息をつく。
「はあ……これだから大人は嫌いよ。なんでもかんでも理屈で考える。もっと簡単に考えなさいよ」
「と言われてもな」
困り果てたエギルがレヴィアを見ると、子供っぽい笑みを浮かべる。
「要するに、似た能力だからこそわかることがある、ということであろう? 例えば新しく呪いを付け加えるわけではなく、新たな呪いを上書きする、ということじゃな。ほれ、奴隷具だってそうであろう?」
「なるほど、つまりソフィアの職業の力を、別の使い方で利用するということか?」
「まっ、そんなとこね」
「凡人とは違った発想ができるからじゃな。頭が良い者にこそ為せる技じゃ」
「ありがと。やっぱりあなた、好きよ」
「ふむ、それは困るのじゃ」
レヴィアは身の危険を感じてソフィアから離れる。
「確かに奴隷具も、新しい主が所有権を上書きすれば変更できるからな……。俺たちにはわからないが、ソフィアにはできるってことか」
「まあ、そんな感じね。職業の力なんて、全てが解明されているわけじゃないんだもの。それに力を身につけたのだって、誰かに『こうして、こう使いなさい』なんて教わったわけじゃないでしょ? それぞれが頭脳を駆使して与えられた職業の力を強くしていってるのよ」
ソフィアの説明にエギルは頷く。
エギルも同じで、剣舞士という職業の力を身につけたからといって、一から十まで誰かから指導を受けられるわけじゃない。それにエギルの場合は、同じ職業の力を持つ人間の数が極端に少なすぎて指導者を探すほうが大変なのだ。
だから、職業の力を得た後は、戦って、戦って──戦う。そうして自分で技を磨くしかない。なのでソフィアも、研究しながら与えられた力を伸ばしていったのだろう。
「ただ」
ソフィアは顎に手を当て難しい表情をする。
「そのルディアナって子の職業のランクが高すぎたら、さすがに難しいかもしれないわね」
「ランクか……レヴィアは、香りで人を操る能力を聞いたことあるか?」
「残念だが聞いたことないのじゃ。ただ、世界中には多くの職業があり、まだ我らが知らぬ職業もある。それだけで高ランク職業かを決めるのは早計じゃな」
職業にも系統があり、それぞれの強さを意味する階級がある。
初級、中級、上級。そしてエギルと魔導者 という職業であるレヴィアのようなSランク冒険者のみに与えられる固有職業。
この世界には無数の職業があって、それを全て把握している者は、おそらくいない。
「系統として似ているとすれば、ソフィアが言っておった呪術師が近しいかのう?」
「そうだな。俺の知る限りでも他にない」
「まあ、そうなるわよね。だけど匂いで人を操る──というより、洗脳のように時間をかけて、思考や行動を制御するなんて気味悪い能力、呪術師の系統にはないわよ?」
「ふむ。であれば、固有職業の可能性が強まってくるかのう……」
Sランク冒険者の可能性、ということだろう。
ルディアナがエギルと同じSランク冒険者。それは有り得ないと思ったが、ここでは何とも言えなかった。憶測だけが一人歩きする現状に、エギルは首を左右に振る。
「こればっかりは、会ってみないとわからないな」
「ええ。だけどどうするの? 正面から会いに行くなんて、無謀すぎるんじゃない?」
「まあ、そうなんだがな」
ルディアナはクロネリア・ユースの中心部にある王城で待っていると言った。であれば、ルディアナはこの国でそれなりの地位を築いたのだろう。だとしたら、仲間であったり、配下が待ち構えている可能性がある。
すると、
「それに関しては、我が手を貸すのじゃ」
レヴィアはニヤリと笑い「向こうを見るのじゃ」と指を差す。その瞬間、北門付近から爆発音が響く。
そして煙が立ち上り、一気に街中の人々が慌ただしくなった。
「ここは冒険者が暮らす王国。そして、冒険者の敵は魔物じゃ」
「……魔物の襲撃。能力を使ったのか?」
「魔物が襲ってくれば、街中の冒険者が魔物へと向かうであろう。となれば、あの場所の守りは手薄になるはずじゃ」
「いいのか……?」
レヴィアにとって魔物は家族のようなものだ。それらを囮に使えば、必ず命を落とす魔物もいるだろう。そう思って聞くと、レヴィアは頷いた。
「危険になれば逃げるよう伝えてある。それに……」
そこで彼女は口を閉ざして、
「いや、なんでもないのじゃ。それに、みんなもわかってくれたのじゃ」
そして、エギルを見つめる。
「今は手を貸すが、我はお主の仲間ではない。家族を殺した冒険者であるお主らを許してはいないからのう。明日は敵に戻るかもしれん。ただ今回は、我も目的があってここへ来たのじゃ。だからお主に手を貸す。その意味、理解しておるな?」
普段のレヴィアはにこにこと、決して感情を表には出さない。そんな彼女がエギルに真剣な眼差しを向けてくる。目を逸らせないほどの力強く。
魔物を家族だと呼び、大切に思う彼女が、その家族を囮にしてまでエギルたちに手を貸してくれるのだから、なんとしてもあの場所へ──神の湖へ連れて行けというのだろう。
それがレヴィアの目的。
「ああ、わかった。力を借りるぞ」
「うむ、頼むのじゃ」
人間と魔物。そして魔物たちの女王レヴィア。いつか敵になるかもしれないが、今は手を貸してくれると言ってくれた。だったらここはその手を取ろう。エギルにも、彼女にも、あの場所へ向かう目的があるのだから。
「──話はまとまりましたか?」
レヴィアが再びにっこりと微笑んだのと同時に、部屋から出てきたエレノアたちに声をかけられた。
「ああ、終わったよ。それにレヴィアが手を貸してくれたから、あの場所へ向かいやすくなった。準備はいいのか?」
そう聞くと、それぞれが笑顔で頷く。
「それじゃあ、行こうか」
エギルは歩き出す。その後ろをエレノアたちが歩く。
これから向かう場所で起きるであろう出来事を思うと気持ちが重く、皆が口を閉じ、苦い表情を浮かべる。けれど足だけは力強く前へと進んでいく。
魔物の襲撃により慌ただしくなった周囲に目もくれず、ただ真っ直ぐ、明るい未来に変わると信じて王城に向かって歩いていく。