裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
冒険者だけが暮らす王国、クロネリア・ユースでは冒険者たちに定期的に給金が支給されるだけあって、昼間から商業エリアは賑やかだったが、華やかな庭に囲まれた王城の周辺はうってかわって静かだった。
「入ってこい、ということか……」
普通であれば衛兵がいて当然なのだろうが、その姿もなく、城内に入っても静けさがあった。
「冒険者が暮らす王国のお城だから、統治する者の城ももう少し簡素だと思ったんだが、ここだけは雰囲気が全く違うな」
「随分きらびやかですね」
隣を歩くエレノアは、周囲を見渡しながら答える。
エギルが今まで見てきた冒険者の暮らす王国の城のイメージは、開放的な雰囲気のところが多い。なにせ冒険者になろうとする者の大体は、堅苦しい事柄が苦手で、好き勝手に生きたいと思う者が多いから、城も出入り自由で、格式張った様子がない。だがここは違う。
すると突然、ソフィアが腕を組みながら、
「憧れ、かしらね?」
「憧れ?」
「ええ、そう考えるのが普通だと思うわ。だってそうでしょ? 規則だとか、しきたりだとか、そんな堅苦しいのに縛られたくないから冒険者になったのに、こんな場所に住もうなんて、普通の冒険者は思わないんじゃない?」
「たしかにそうだな。お城で暮らす偉い奴らは、城で他国の貴賓をもてなしたりするのが仕事だが、冒険者はここにいるのが仕事じゃないからな」
エギル自身も、みんなで暮らす居場所を見つけるまでは、そこまで住む場所にこだわりはなかった。できることなら、ずっと旅をしていたいと思っていたし、冒険者なら誰しも同じだろう。
大理石が敷き詰められた廊下、朱色の絨毯、額縁の広い絵画。この王城の内装を設計した者は、こういった雰囲気のお城に憧れがあったのかもしれない。
ロビーには左右から階段が伸びており、その二つの階段が交差する中央には、広い踊り場があった。
どこへ向かうか。そんなことを考えている時だった。
「──良かった、エギル。来てくれて」
声を聞いた瞬間、なぜか全身に鳥肌が立った。震えている。目の前の階段を上がった先の踊り場には手すりに体を寄せた少女が、エギルを見て嬉しそうにしていた。
「……ルディアナ」
何年ぶりかの再会なのに、昔と何も変わっていなかった。
彼女だとすぐにわかった。
昔と変わらない彼女の自慢である肩まで伸ばした真っ黒の髪 。白と黒のオールドスタイルのメイド服に身を包み──首もとには奴隷具を付けている。
「久しぶりね、エギル。何年ぶりかしら?」
「そうだな。もう、十年以上になるんじゃないか?」
「……時が経つのは早いわね」
ルディアナから敵意は感じられない。ただ昔のことを懐かしむように話しかけてくるだけ。それでも周りに立つエレノアたちは、ルディアナへと敵意をむき出しにする。
ルディアナは、髪を撫でながら、笑みを浮かべて言葉を続ける。
「久しぶりの再会なのに、邪魔をしないでいただきたいですね……」
その言葉に誰も返事はしない。セリナは剣を抜き、フィーは拳を握り、サナやルナや、クロエとシロエまで武器を手にして、それぞれ何があってもいいように準備をしていた。
それに対して、華耶やレヴィアやソフィアは静かに彼女に視線を向けていた。
そしてエギルは一歩前へ出ると、ルディアナを見上げる。
「ルディアナ、俺は過去のことを水に流すつもりはないが、もう、お前と関わるつもりはない」
ルディアナの嘘臭い笑顔が、エギルの言葉を受けて少しだけ変わる。
「そう。そうですか……。ですがそんなのは、あなたの本心ではないですよね? ねっ、エギル?」
じっとエギルを見つめるルディアナ。
エギルは彼女へ、はっきりと伝える。
「これは俺の本心だ。俺には守るべき妻たちがいる。もうお前と関わることはない」
その瞬間、ルディアナの表情が敵意に満ちる。それはエギルにではなく、エレノアやセリナたちに向けられていた。
「なるほど。この者たちに上手く言いくるめられたということなのね」
「なに?」
「だってそうでしょ? わたくしとあなたはずっと一緒にいたのに。それをたった数カ月一緒にいただけの女に心を開いてしまったんだもの。ああ、悲しい。わたくしは悲しいですよ、エギル?」
「ルディアナ、残念だが時間の問題じゃない。俺は彼女たちが自分を支えてくれることが嬉しいんだ。それに一緒にいれて幸せだ。だから俺はこの先もずっと彼女たちと一緒に生きていく。だから──」
「──もういい!」
ルディアナは力一杯に手すりを叩く。
そしてこちらを睨みつけるルディアナは、エギルがずっと恋していた優しくて大人しい少女とは大きくかけ離れた、憎悪に満ち溢れた表情だった。
「なんだ……?」
その瞬間、エギルの全身に違和感が生まれ、視界がぐにゃりと歪む。
ルディアナの顔の輪郭が一瞬だけ波打つように揺れた。
首を大きく左右に振ると、視界の歪みが消える。
「……やり直し」
そしてボソッと、何か言葉を発したルディアナ。
そのまま彼女は乱心したように、何度も何度も、手すりを力一杯に叩きつけ、自慢だった黒髪が乱れていく。
「やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し、やり直し──すべてやり直しだわ」
壊れたように同じ言葉を続けるルディアナは、エギルを見て胡散臭い笑みを浮かべる。
「こんなとこで終われない。やっと、わたくしは変われるんだから──」
ルディアナはふわりと手のひらで、自分の黒髪を撫でると、エギルへ手を伸ばす。
「すべてやり直しましょう。この邪魔な女たちを消して──わたくしの目的をやり直す」
「──ッ!?」
その瞬間、後頭部を力一杯に殴られたような感覚に襲われた。前へ倒れるのをこらえ、エギルは職業の力をルディアナへと使おうと手を前に出す。
──だが、その力を発動することができなかった。頭の中でどうして力を使いたいのかと問われているようだった。ぐらぐらと頭が揺れ、その疑問にエギルは答えられなかった。
誰に?
なんで?
どうして?
好きな相手を殺すの?
違うでしょ?
そんな疑問が頭の中を埋め尽くす。力を使おうにも、その言葉が脳内を駆け巡り、思考を奪われる。
「エギル様!?」
「エギルさん!?」
周囲にいるエレノアたちに名前を呼ばれた。
「──さあ、わたくしたちの人生をやり直すために、また手を貸してもらうわね、エギル」
ルディアナの声が妙に心地良い。エギルはその声に頷く。その瞬間、意識がプツンと切れ、視界が真っ黒になった。