裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エレノアはエギルに何があったのかを理解できなかった。だがうっすらと鼻をかすめる香りを感じて、エギルに何が起こってるのかをすぐに理解した。
「ソフィアさん!」
だから彼女の名前を呼んだ。
エギルの身に何かあった場合、ソフィアは術式を読み取り、エギルにかけられた呪いを解除する。
──もしそれが不可能だった場合、新たなる呪いにて上書きする。
それが予め用意していた対処法だった。だからそれにすぐさま反応したソフィアは両手を前に出して、術式を唱える。
「術式を唱えないで発動するなんて桁違いよ、ほんと!」
術式を読み取るのであれば、本来、術を発動させている
咄嗟の判断で、ソフィアはエギルへ新たなる呪術を付与しようとする。
だが、
「危ないッ!」
フィーは何かを察して地面を蹴り宙を舞う。そして蹴り飛ばしたのは一本の矢だった。
どこから?
そう思ったエレノアは辺りを警戒する。
「ふむ、囲まれてるようじゃな」
レヴィアが言うように、この王城のロビーに、エレノアたち以外の人の気配が生まれた。
十、二十、三十……。数え切れないほどの人数が突如集まってきた。さっきまで誰もいなかったはず。いつからそこにいたのか。
すると、レヴィアは「やはりか」と口を開き、ルディアナを見る。
「これも、お主の力かのう?」
「あら、どうしてでしょう?」
「お主の能力は香りで相手を操る、ではなく──匂いで対象に幻を与える──なのじゃな? ここにいるやつらも、幻に騙されているのじゃな」
ピクッと眉を反応させるルディアナ。
エレノアを含めて誰もが理解できなかった。
「レヴィアさん、それは……?」
「おそらくエギルは香りで魅了させられていたわけではない、ということじゃな。そして、幻に囚われておったのはエギルだけではなく、ここにいる我々全員もじゃよ」
「わたくしも、ですか……?」
「うむ、お主の場合はあの女と会話して、脳内に幻を埋め込まれたのじゃ。『匂いで相手を魅了する』という。それを信じ込んだお主が我々にその情報を伝え、我々はまんまとその嘘を信じ込まされたのじゃ」
「じゃあ」
セリナは驚きを隠せずにいた。
「あの女の能力がSランク職業の固有能力だって、私たちは勝手に思い込んでたってこと!?」
「うむ、エレノアから聞いた話をエギルは信じる。だから、お主はエレノアに接触したのじゃな?」
「ふうん、そう……勘の鋭い子ね」
ルディアナは素直に感心していた。
エレノアはそれらを聞いて思う。
もしレヴィアの仮説が正しければ、自分がエギルに伝え、全員に伝えた。エギルもみんなも、エレノアの話を疑わない。それを知っていたとするなら、たった一人に幻の記憶を与え、それを全員に浸透させることは容易い。
それに、
──その香りでエギル様を魅了させた、ということですか?
先にそう言ったのはエレノアだ。決してルディアナから言ったことではない。
どうしてそのように察したかなんて……。
言えるのは、甘い香りを感じた瞬間、なぜだかその考えに至ったということ。
「それが、わたくしに与えられた幻……」
金色の髪を撫で、甘い香りを発する。それが能力の発動条件だったのであれば納得はできる。あの時も同じ行動をしていたから。エレノアは自分の警戒心のなさを恨む。
「ですが、わかったところでもう遅いというのは、わかっていますでしょ?」
ルディアナの声に応えるように、エレノアたちを取り囲む覇気のない冒険者たち。一瞬にして囲まれた。それにエギルは固まったまま動かない。
「レヴィアさん、では彼女の能力は」
「……幻術師《ミラージスト》、であろう」
「はあ!? そんなわけないでしょ!」
ソフィアは慌てた様子で、エギルへ呪術を付与し続けたままレヴィアに伝える。
「幻術師はBランク職業。幻を見せられる相手は一人程度だし、人の思考を操る能力なんてないわよ!? ここまで大人数に幻を見せるのは──」
「Sランク職業に匹敵する能力……薄々、怪しいと思っておったのじゃ。エギルを幼い頃から魅了していた、操っていた、幻を魅せていた。それなら、あやつはいつからSランク職業になっておったのか、とな。──お主」
レヴィアはルディアナを睨みつける。
「その力、どこで手に入れた? 普通に手に入る力ではなかろう」
「……」
「──神の湖で、いったい何を得た?」
レヴィアの視線を受けたるルディアナは、先程までの笑顔から一変、苛立ちを浮かべ小さく舌打ちをした。
「……どうしてよ」
レヴィアの問いかけが核心をついたようだった。
「お主の職業である幻術師はBランク。その効力は対象全員の自由を奪うほどのものではない。──とすれば、お主の職業はBランクではなく、Sランク職業であり、我やエギルが知らない未知の職業と考えるのが正当であろう」
「だったら──」
「じゃが、エギルに見た先導者の器と同等の輝きを、お主からは感じられぬ。であれば、お主のその力は紛い物であろうと、そう思ったのじゃ」
レヴィアの言葉に、みるみるうちに表情を歪めていくルディアナ。
「……紛い、物……このわたくしを──お前も、私を蔑むのか!?」
そして、キッとレヴィアを強く睨みつける。
「やり直す……Sランク冒険者のエギルを手に入れ、あの男から開放され、私が築き上げてきたこの楽園で再びやり直す──この日のために、私はあの男の奴隷としてずっと堪えてきたのよ」
ルディアナは壊れたようにぶつぶつと呟く。
人が変わったように言葉を続けるルディアナに、レヴィアは問いかける。
「あいつとは、お主に力を与えた者かのう?」
「あいつは……。私を蔑んで、私を利用しようと……」
そこで言葉を止めたルディアナは、不意に込み上げてきた笑いを隠せずにいた。
「ふふっ……利用されたフリとも知らず、あいつは……。だけどこれでお終い。