裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
ルディアナの手のひらに乗せている石は紛れもなく聖力石だ。けれどその輝きは、エギルのとも、レヴィアのとも、エレノアたち他の冒険者とも違い、禍々しく血の通った心臓のような赤黒い輝きを放つ。
まるで聖力石がルディアナの心を映し、彼女の意志と同調するかのように輝きを増していく。
その輝きが増すとともに、エレノアたちを囲う冒険者たちの気配が変わった。
「ちょ、ちょっと、これどうなってんのよ!?」
先程まで遠くから牽制しているだけだった冒険者たちはエレノアたちに牙を剥く。しかし、唯一この状況を冷静に見ているレヴィアは口を震えさせ、
「……やっと、見つけたのじゃ」
今までに見せたことのないほどの溢れんばかりの笑みを浮かべていた。
その表情はまるで、探し物を目の前にした子供のように、感情を露わにした笑顔に変わっていた。
そして小さな手を上げ、レヴィアは指を鳴らす。
──パチン。
すると、ルディアナの頭上が崩れた。
「……ッ!?」
全身を銀色の鱗で覆った巨大なドラゴンがその大きな足で天井を踏み抜き現れる。それと同時に、この王城を囲うように次々と魔物の群れが出現した。
そして、レヴィアは魔物たちに呼びかける。
「──奴を捕縛しろ。殺さず、全てを吐かせる」
氷のように冷たい声。異様なほどの落ち着き。人が変わったようなレヴィアの声に、エレノアは恐怖を感じた。
まるで少女の姿をした強大な魔物のような威圧感だ。
それを受けたルディアナは恐怖を感じ、脅えるように後退する。
「な、なに、よ……」
だが彼女の背後にはドラゴンがいて逃げることはできない。
そして、ルディアナはエレノアたちを睨みつける。
「わたくしがやり直すための、お城を……よくも、よくもよくもよくもっ! 私はお前らを絶対に許さない!」
王城を無残にも壊され、ルディアナは拳を握り、怒りに顔を歪ませて、すぐさま両手をドラゴンに伸ばす。
幻影、それをドラゴンに見せようとしているのだろう。
そしてレヴィアは、大声でエレノアたちに伝える。
「あの者が手に持つ未知の聖力石、それがあやつの異常な力の源じゃ! あれを奪えば、あやつは力を使えなくなり、エギルも、周りの冒険者も、見せられている幻術は消え、元に戻るのじゃ!」
階段前からそう言い放ったレヴィア。そして、
「だったら──」
「──こいつを」
セリナは左階段を、フィーは右階段を、それぞれが両左右の階段に向かって駆け出す。
けれどその歩みを、幻術に支配された冒険者たちが立ちはだかる。
「邪魔をしないで!」
「……どいて」
早くルディアナのもとへ。けれど行く手を阻む冒険者たちの力は異常なほど強い。
「何よこいつら、馬鹿力じゃない!」
「……ありえない、人じゃないみたい」
彼らの職業ランクは低いが、筋力や脚力は、人の何倍も強く感じられた。決して非力な方ではないセリナやフィーが、並の冒険者に力で押され、前へ進めず苦戦していた。
そんな二人を見て、
「聖力石については詳しくはないわ。だけど、あの女が持つ石を奪えば、エギルさんは救えるのね。だったら全力で──封印解放──悪神九尾!」
華耶が白い毛並みに九本の尻尾を生やした九尾を召喚して指示を出す。
「おねえちゃんが戦うなら」
「私たちも戦いましょう」
クロエとシロエが壁を蹴って、階段を塞ぐ冒険者たちに武器を振るった。
「ルナ、みんなの援護をするよ!」
「うん、みなさん、援護します!」
サナは杖を掲げ、ルナは矢を放つ。
全員がルディアナのもとへ向かう中、一人、その場から離れないエレノアにレヴィアが伝える。
「お主はここにいて良いのか?」
「……はい」
エレノアはエギルを見つめる。
エギルは心ここにあらずといった様子で、剣を力強く握っていた。だがソフィアが使った呪術によって、その全身は半透明な七つの輪っかで抑えられている。
「ちょっとあんた、そいつを縛る呪術はそこまで強くないの。だから近づいたら危ないわよ!」
エギルの動きは止まっている。だが微かに手に持った剣が揺れ、両足がエレノアへと向いていた。
そんな彼を見て、エレノアは悲しそうな表情をする。
「動いているのであれば、自我が残っているということですよね」
「そんなの操られて動いてるだけかもしれないでしょ!? 声がするほうへ向かってるだけかもしれないわよ」
「わたくしの声が聞こえるなら、届くかもしれません……」
もしも自我が完全に消え去っていれば、目の前にいるエレノアを襲うだろう。だがエレノアは、エギルがまだ抗っていると思っている。
──いや、信じたかったのだ。
簡単に自分を見失うわけがないと、偽りの愛情に支配されずに、自分たちとの愛情を覚えていてくれると。
そんな不確かな望みを持ったエレノアに、レヴィアが忠告する。
「……お主がしようとすることを我は止めぬ。だがエレノアよ、気をつけるのじゃ。今お主の前にいるエギルには、お主らと共に育んできた記憶全てが、偽りの記憶で上塗りされた状態。──愛したお主のことですら、何も覚えておらぬはずじゃ」
無表情でエレノアを見つめるエギルは、今まで共に歩んできた優しいエギルではない。
空虚な人形、そう例えるのが正しい。
そして人形と化したエギルを操るルディアナにとって、目の前にいるエレノアは、ただの邪魔者でしかない。
話などできやしない。
本来の慎重なエレノアなら理解できること。ここにいても意味はないかもしれない。みんなと一緒に戦うべきかもしれない。
だがもしここで、全員でルディアナのもとへ向かってしまえば、エギルはそれを阻止しようとソフィアの呪術を振りほどき、エレノアたちに刃を向けるだろう。
エギルはこの場の誰よりも強い。一瞬で全員が殺されるかもしれない。
「もしも幻術から解放された時、みんなを傷つけたと知ったら一番悲しむのはエギル様ですから……。だからわたくしは、エギル様をみんなのもとへ行かせるわけにはいきません」
その言葉を受けたレヴィアは、それ以上は何も言わなかった。けれど代わりに、背中を向けたエレノアに伝える。
「お主ら冒険者は嫌いじゃ。魔物と呼ばれてきた家族を殺してきた。……けれどお主らは、あまり死なせたくはないのじゃ」
「……ありがとうございます。ルディアナを、お任せしてもよろしいでしょうか?」
「うむ、任せるのじゃ。エギルと約束したからのう。終わるまでは手を組む、だから無理はするでないぞ」
レヴィアは指を鳴らすと、魔物たちが王城の壁を破壊して押し寄せた。
「どうしてよ……もしかしたらそれ以上、あいつに近づいたら殺されるかもしれないのに……なんでそんな危険なことするのよ」
ソフィアが小さな声を漏らした。
それを受け、エレノアは考えることもなく笑顔で答えた。
「わたくしはエギル様の妻ですから。何があっても彼の側にいると約束しましたので」
どんなに強大な職業の力で支配されたとしても、側にいたいと、その気持ちしかエレノアにはない。