裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……これは我らが最初に渡された聖力石でも、そこから経験値を上げて強くなった聖力石でもない。そもそも聖力石の輝きが失われることはないのじゃ。これがこの女の異常な力の源であろうな」
「異常な力の源か」
「うむ、そうなのじゃ。……お主、これは誰から貰ったのじゃ?」
そう言ってレヴィアが偽物のルディアナに近づこうとすると、彼女は聖力石を守るように覆い被さり、
「近づくなっ! これが……これがあれば……」
何かを言おうとした。
だが聖力石を目にして、ルディアナの表情は更に青白くなっていく。
「どう、して……どうして輝きが……? ……足りないの? 使い過ぎたの!?」
「足りない……? 使い過ぎた……? お主、何を言っておるのじゃ?」
「早く回復しないと、早くあの場所に入れないと……じゃないと、じゃないと──」
その瞬間、聖力石は更に輝きを失い、まるで蝋燭の炎のようにゆらゆらと消えかけていた。
「いや、いやいやいやっ! これがあれば、これがあればわたくしはやり直せるのよッ!」
「おい、力を使い過ぎたとしても聖力石の輝きが消えるはずないだろ! お前、それは──」
「──あはッ」
涙を流し、唇を震えさせながら笑う偽物のルディアナ。そして彼女はエギルをジッと見つめた。
「──力に溺れた代償……。そう、あの者たちはわたくしを使ってこの力を試したのね」
「何を言ってるんだ……? あの者たちって誰のことだ……?」
「──神々に最も近い存在、あなたたちも、いつか会うことになるわよ。気をつけなさい……ふふっ」
そう笑って、聖力石の輝きが完全に消え真っ黒な石に変わったと同時に──彼女の体は、粒子のように変化して消えた。
「なによ、これ……」
セリナは脅えるように後ろへ下がる。着ていた服、それに真っ黒になった聖力石を残して、先程まで目の前にいた偽物のルディアナは消えた。
ここにいる全員が現象を前にして言葉を失う。
「レヴィア、これはいったい……」
「さてな……」
それ以上、レヴィアが口を開くことはなかった。
♦
ヴォルツ王国の王城の一室で、エギルは窓の外を眺めながらため息をつく。
レヴィアとはここへ戻ってくる前に別れた。理由はわからないが、今回の一件で彼女は何かに気づき、すぐさま行動に移そうと考えたのだろう。それを詮索することも、止めることもエギルにはできない。彼女は仲間ではないのだから。
「それに、レヴィアとはまた会うことになるしな」
敵ではなく味方として、であればいいが。
そんなことを考えていると、
コンコン。
「……エギルさん、入っていいですか?」
ノックの後にセリナの声が聞こえた。
「ああ」
返事をすると扉が開かれる。
そして顔を見せたセリナの表情は暗かった。
「……無事に、ソフィアさんの解呪が終わったそうです」
「そうか」
戻ってきてからすぐに、サナとルナの母親であるルサリアのルージュ伝病、それをソフィアに治してもらっていた。
「ルサリアさんの病気は、治らなかったのか?」
セリナの暗い表情を見て、エギルはそう思った。
けれど、セリナは俯いたまま、
「……いえ、治りました。ですが……会ってみると、いいかもしれません。説明するのが難しいので」
と、悲しそうに言った。
それだけを聞いてエギルは、ルサリアが眠る部屋へ向かう。
──説明が難しい。
セリナはそう言った。暗い表情、この言葉。それだけでも、ルサリアが目を覚まして良かったというわけではないのがわかる。
「エレノアたちもいるのか?」
長い廊下を歩きながらエギルが問いかけると、セリナは首を横に振った。
「いえ、他のみんなは別の部屋にいます」
「そうか」
そんな短いやり取りをして、サナとルナが待つ部屋に近づく。
「ソフィア?」
部屋の前に腕を組んで立っていた彼女はこちらに気づく。
「……来たわね。入るの?」
いつもの素っ気ない口調だが、部屋にいる三人に聞こえないよう気を遣ったのか、小さな声でそう聞く。
「……入らないほうがいいか?」
「さあ、私にはわからないわ。ただそうね、今は入らないことをオススメするわ」
「そうか」
「あんた、説明してないの……?」
ソフィアの視線がセリナに向く。
「だって、何て言えばいいのかわからないんだもん」
「まあ、それもそうよね。ま、ここからでも話が聞こえるわよ。どうぞ」
ソフィアは部屋の扉に近づくよう促す。
言われた通りエギルが扉の前へ立つと、中から二人の声が聞こえてきた。
『……目を覚まして良かったよ、お母さん』サナの小さな声。
『良かった、良かった……よ、お母さん……』ルナのすすり泣く声。
『二人とも、心配かけてごめんなさい。お母さんはもう大丈夫。だからもう泣かないで、ねっ?』
おそらくルサリアの声だろう。
少しおっとりとした、優しそうな母親の声だ。
中から聞こえるのは、目を覚まして喜んでるサナとルナと、二人に声をかけるルサリアの声。
これがどうして入らないほうがいいのか、エギルは疑問に思った。目覚めたなら自己紹介ぐらい、
『ねえ、お父さんはどこ?』
この言葉を聞くまではしようと思っていた。
サナとルナの父親は、二人を捨てて逃げ出した。
エギルは、以前サナから母親が意識を失ってから父親が変わってしまったことを聞いていた。
──あの男は、お母さんが病気になってから、他の女に入れ込んでたの。
──母親が病気になって俺も辛いんだって、あたしとルナが冒険者で働いて稼いだお金を、酒と女に使ってたの。
そう、サナから説明された。
当時は知らなかったルナにもサナは説明した。真実を包み隠さずに。
それを聞いて、ルナは身を震わせていたが、すぐにサナへ抱き着いた。
──ずっと、心配してくれてありがとう。
サナの優しさを思って出た言葉だろう。しかし、父親の醜さを知って、それから少しの間、ルナから笑顔が減った。
その説明を今度は母親に伝えなければいけない。
『えっと……その……』
『あの、ね……』
サナとルナは、はっきり答えられずにいた。
『お父さんにも感謝しないとね。だってお父さん、頑張り屋さんだもんね』
『……ち……』
──違う。
そう言いかけて、サナは止めた。
それを知らないルサリアは父親の話を続けた。
それは楽しそうに。
恋人を愛しく想うように語る。
その間、二人は何も喋らずにいた。
二人は部屋の中で、どんな思いで母親の話を聞いてるのだろうか。
「母親はずっとあんな感じよ。私も、セリナから父親のことを聞いたわ」
ソフィアはそう言って、ため息をついた。
「……病気で倒れた日から今まで、母親は真っ白い部屋でずっと夢が覚めるのを待っていたと言ってたわ」
「じゃあ、ここまで頑張ってきたサナとルナのことも、父親のことも……」
「ええ、何も知らないわ。だから父親は今も優しくて頼りがいのある男のままみたいよ。母親は、父親も自分のことを救おうと必死になってくれたと思ってるみたいよ」
だけど違う、とソフィアは苛立ちの表情を浮かべる。
「真実は二人の娘に全て投げ出して、父親は現実を放棄した。それを、あの子たちは母親に伝えなくちゃいけない。……最悪よ、ほんと。だから私たちは入れなかったの。あんたもあの輪に入れないでしょ? もしあの二人の父親のことを聞かれたら、何にも答えられないでしょ?」
そう聞かれ、エギルは「そうだな」と答える。
実際、ルサリアにとってエギルたちは赤の他人。そしてそんな初対面の相手にいきなり「あなたの夫は逃げました」とか「他に女がいます」とか「居場所はわかりません」なんて言えない。
部屋の中から聞こえるのは、夫を愛する妻の声だ。
会いたい、感謝を伝えたい、そんな彼女の言葉が聞こえる。
「だったら、サナとルナの今までの頑張りも隠すのか……?」
「え?」
このまま全てを隠せば、ルサリアは、サナとルナの本当の頑張りを知らないまま、二人に感謝することになる。
真実を告げるべきか。
全てを隠すべきか。
天秤に乗せた二つの選択肢が、どちらかに傾いたのを感じて、エギルは息を吐き、部屋の扉を開けた。
「え……どなた、ですか?」
ベッドに座ったままのルサリアは、エギルを見て目を丸くする。