裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
クリーム色の長い髪の女性。
サナとルナが年を重ねれば、いずれはこんな綺麗な大人の女性になるのだろうなと感じた。
「自分はエギル・ヴォルツと申します。二人と一緒に冒険者をしていました。今はここヴォルツ王国の主です」
「王様……これは失礼いたしました。わたくし、サナとルナの母、ルサリア・フェレ―リルと申します。もしかして、エギル様がわたくしを助けるために夫と娘たちに手を貸してくださったのですか?」
「……」
「本当にありがとうございます」
エギルが答えられないのを見て、それを肯定と受け止めたルサリアは、ベッドの上で深々と頭を垂れる。
サナとルナは、真実が喉元まででかかって隣で迷っていた。
父親は逃げ、エギルが助けてくれた。それが真実だ。だけどルサリアに真実を告げれば、きっと彼女は悲しむ。だから、サナもルナも言えなかった。
「あ、あの、エギルさん。夫に、会いたいのですが……。今はどこにいるのでしょうか?」
顔を赤く染めたルサリアに見つめられた。恋する乙女のような、そんな表情だった。
エギルは唾を飲み、彼女へ告げた。
「ゲイルさんは、ここにはいません。自分たちにも、居場所はわかりません」
「……えっ?」
ルサリアから笑顔が消えた。
「あなたの病気を治す前に、姿を消しました」
「姿を……? そ、それは、どういう」
「苦しかったんだと思います。自分たちにも、それ以上のことは知りません。ただ……あなたを救ったのは、ここにいるサナとルナです」
ルサリアに感謝されたい、という気持ちはエギルには微塵もない。けれど、母親を助けるために必死に頑張ってきたサナとルナのことだけは、包み隠さず伝えたかった。
それが母親を悲しませることになっても、その場しのぎの嘘をつきたくはなかった。
サナとルナは黙ったまま、ルサリアへと視線を向けた。
「サナ、ルナ……本当、なの?」
母親の言葉に、二人は小さく頷いた。
「そう、なのね……エギルさん、どうしてそれをわたくしに? 隠そうとは思わなかったのですか?」
ルサリアに問いかけられ、エギルは二人に視線を向ける。
「確かに最初はこのことを隠すのが、ルサリアさんのためだと思いました。病気が治ってすぐに聞かされるのは辛いと思いますので」
「では──」
「──ですが、それを隠したら、サナとルナの、本当にしてきた努力も隠すことになると思いました」
そして、エギルは二人の頭を撫でた。
「お母さんのために二人は頑張ってくれました。なので、褒めてあげてください。二人はずっと、あなたに褒めてもらいたいと願ってましたから」
笑顔で告げると、ルサリアはサナとルナの体を抱き寄せた。
「……ごめん、なさい」
「お母さん……」
「おかあさん……」
「苦しかったわよね。ごめんね……サナ、ルナ……ありがとう。……ありがとうね」
母親の温もりに抱かれながら、サナとルナは、ずっと我慢していた想いを曝け出すように大声で泣いた。
エギルが告げた真実によってルサリアを苦しめる結果となっても、母親は娘たちに涙を流しながら、それでも笑顔で感謝を告げた。何度も、何度も。そんな三人を見ながら、エギルの中には微かに罪悪感が残っていた。
──あなたの旦那さんは、他に女がいます。
彼女のことを思うと、それだけは伝えられなかった。きっと苦しい思いをするだけだ。
「エギルさん……」
ルサリアはエギルを見る。
「本当のことを話してくださり、ありがとうございます。お陰で、娘たちの成長を知ることができました。本当に、ありがとうございます」
心からの感謝が、今のエギルにとっては苦しく感じた。
「サナ、ルナ、食事ができたら迎えに来る。二人はお母さんのとこにいてやってくれ」
だから、エギルはルサリアの感謝の言葉に答えず立ち上がる。
感謝される立場ではない。自分は、まだ隠してることがあるのだから。そう伝えるように、無言のまま部屋を出て伝えた。
「ねえ」
セリナと共に後ろから付いて来るソフィアは、部屋から遠ざかるごとに声を大きくする。
「まだ隠してることあるわよね? 全部、本当のこと言わないと、後になって困るんじゃないの?」
「そうかもしれない。だけど、あんな嬉しそうに夫について話していたルサリアさんに、本当のことは言えない。サナとルナにだって言わせたくない」
「だからって……もし、また旦那が現れたらどうすんの!? あんたにも二人の娘にも、嘘をつかれてたって悲しむんじゃないの!?」
「……」
エギルは足を止める。
オドオドと慌てるセリナと目が合い、エギルは苦しい笑顔を浮かべる。
「たぶん、悲しむだろうな……」
「だったら──」
「──だけど、あの部屋に入ったら言えなかった。サナとルナの努力は隠したくないと思ったが、父親が他の女を好きだとまでは……。ルサリアさんは、あの男のことを本当に愛しているとわかったから、どうしても言えなかったんだ」
もしもエレノアやセリナが他の男と──なんて考えただけでも胸が苦しいのに、真実を話せるわけがない。
「だから、あんたの口から嘘をついたってこと……? そんなことしたら、あんたが真っ先に恨まれるわよ?」
「まあ、そうなるな。だけど、これが最も良い選択だと思ったんだよ」
その言葉に、ソフィアは、何か言いたげな顔をして、出そうとした言葉を呑み込んだ。
「……そんな生き方、きっと後悔するわ」
「そうかもな。だけど、知らなくていい真実もあると俺は思うんだよ」
そう伝えると、ソフィアは苦笑いを浮かべて綺麗な赤髪を耳にかける。
「……そうね。世の中には、知らなくていいことだってあるわよね」
彼女はそう言った。
エギルは頷いて、部屋へと戻った。
──それから少ししてから、部屋の扉が叩かれた。
扉が開かれると、そこにいたのはエレノアとセリナだった。
「エギル様、そろそろ食事の時間ですよ」
「みんな待ってますから、早く行きましょう」
「ああ」
二人に呼ばれて、エギルたちはみんなのもとへと向かう。
「エギル様、ルサリアさんのことですが……」
「あれしか選択肢はなかった。そう思いたい」
「そう、ですね……わたくしたちも、そう思います」
二人は悲しそうに目を伏せた。
そして食堂へ向かう中、エギルはエレノアに声をかける。
「エレノア、傷は……まだ痛むか?」
それは、エギルの剣で与えた手のひらの傷のことだった。
「いえ、大丈夫です。サナさんに治療してもらいましたので」
「そうか……」
申し訳なさそうに伝えると、セリナが笑ってみせた。
「もう、エギルさん心配しすぎですって」
「それはするだろ。エレノアやみんなに無理させたのが」
「まあ、そうですけど……それよりも、エギルさんは大丈夫ですか? その、あの人」
セリナが口ごもる。おそらくは、ルディアナが偽者だったことを気にしているのだろう。なのでエギルは笑顔で答える。
「ああ、大丈夫だ」
その言葉に二人は明るくみせる。
「良かった……」
「まあ、自分の馬鹿さには呆れるがな。ずっと本当のルディアナではない、違う女を追いかけてたなんてな」
「ですが、再会した時に入れ替わっていたということであれば、最初に好きになったルディアナさんはまだいるということでしょうか?」
「どうだろうな……」
少し悲しそうな表情をするエギル。
そんなエギルを見て、セリナは元気づけようと、
「で、でも、あの偽者のルディアナの金色の髪ってさ、なんかエレノアの髪に似てるな……なんて」
途中まで口にして、セリナはエレノアの嫌そうな視線に気づいて口を閉じる。
「一緒にしないでください。それではまるで、わたくしが似てたから好きになったみたいではないですか」
「も、もう、冗談だって……冗談だから気にしないで、ねっ?」
「わかってますよ」
二人のそんなやりとりを聞いて、エギルは笑顔を取り戻す。
「ははっ、そうだな。だけど偽物のルディアナは金色の髪だったが、昔の彼女の髪色は違うんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
エギルは頷いた。
「ああ、ルディアナは黒髪だったんだよ。だからエレノアに似てたとかじゃないさ」
「「黒髪?」」
きょとんとした二人に、エギルは笑いながら伝える。
「俺が幼いころ好きだった彼女は黒髪なんだよ。全然ちが……どうした、二人とも?」
二人は歩いていた足を止めた。その表情は、どこか驚いているようだった。
「エギル様、その……昔のルディアナさんは、黒髪なのですか?」
「ああ、そうだな。それがどうかしたか?」
そう聞くと、二人は首を左右に振って笑顔を浮かべた。
「い、いえ、なんでもないです!」
「そうです、そうです! ほら、みんな待ってますから急ぎますよ!」
「おいおい、背中を押すなって」
二人に背中を押されながら、エギルはみんなのもとへと向かう。
──二人が、本物のルディアナかもしれない女性に心当たりがあるとも知らずに。