裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エギル・ヴォルツが、クロネリア・ユースの王城を半壊させたことがフェゼーリスト大陸中に知れ渡る中、水面下で大きな動きがあった。
「質問はたった一つなのじゃ。早く答えたほうが良いぞ、人間?」
「ウアアアアアッッ!」
雲を突き破る山の頂に鎮座する龍神殿に男の悲痛な叫びが響く。
大きくてゴツゴツとした岩が転がるこの地で、魔物たちに囲まれた白いローブを着た男は、涙や汗や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら震えていた。レヴィアに脅えるように、腰を抜かして後ろへと下がろうとする。
だが、
「逃げるな、人間」
その行く手を、灰色の鱗を身に纏うドラゴンが、足を出して止める。
ドシン、という大きな揺れと音を響かせると、男はレヴィアへと懇願する。
「た、頼む……助けてくれ……知らない、本当に、何も知らないんだ!」
「知らない? この状況で嘘をつくのか?」
レヴィアが周囲の魔物に視線を向ける。それが合図だったかのように、巨体のオークが男の両足を掴み──軽く股を広げるように引っ張った。
「うあああっ! や、やめ、やめてくれっ、頼む、頼むから引っ張らないでくれ!」
「答えればやめる。……最後の質問じゃ。あの女が持っていた聖力石、あれはどこで入手したものなのじゃ? あやつは誰に渡された?」
男の手足から微かに血管が引き千切れるような音が聞こえても、レヴィアは顔色一つ変えず、男を睨みつけていた。
「あの女が持っていた聖力石、あれがお主ら神教団とは無関係だとは言わせぬ。そして、いつも地下深くにこもっているお主らが表に出てきてまで、あの輝きを失った聖力石を回収しようとしていた。であれば、お主らは何かしら知っておるのであろう?」
「痛い、痛い痛い痛い、やめてくれっ!」
淡々と告げるレヴィア。
だが男は叫ぶだけで、何一つとして答えようとはしなかった。だからレヴィアは手を上げ、
「話さないのであれば」
下ろそうとした瞬間──
「エズリア大陸!」
下ろしかけた手が止まる。そして男は言葉を続けた。
「はあ、はあ……エズリア大陸にいる、神教団の幹部の奴が……あの王城に出入りしてるって……聞いたことが、ある」
「……名は?」
レヴィアが睨みつけると、神教団の男は答えた。
「──イスリファ・オルス・アーネストリー。ヘファイス伝綬神様に最も近い存在と自称する女だ」
その名前を聞いて、レヴィアは立ち上がる。
「みなのもの、そのイスリファという女を捜せ。そして、生きたままここへ」
少女の言葉を聞いて、ドラゴンが南東へ向け一斉に羽ばたいていった。
「やっと……やっと、手掛かりが掴めたのじゃ」
そして、レヴィアは止めていた手を下げ、龍神殿にある祠へ目を向ける。
「もうすぐで取り返すぞ……エンドレッタ」
血飛沫を背に、レヴィアは笑みを浮かべた。
◆
フェゼーリスト大陸の各地に点在する冒険者が暮らす王国や街。その代表と呼んで相応しいほど発展したケイズドット王国のとある屋敷にて。
その地下にある暗くじめっとした地下室の扉を開けたリノは、鼻から入ってくる血生臭い匂いに顔を歪めた。
「また随分と派手にやったみてぇだな、リオネ」
元は純白だった白衣は見事に赤黒く染まっていて、その服を着ていたリオネは、大きな肉塊を捌く際に使われる包丁を地面に落とすと、リオネは虚無感に包まれながら大きなため息をついた。
「……また、満たされませんでしたわ」
そう呟いた彼女は、そのまま隣の部屋へと向かう。
カーテンで仕切られた部屋の奥からから水音が響く。身体に付いた血を洗い流しているのだろう。
リノは近くの壁に背を預ける。
「テメェの大好きな拷問で満たされなかったときたら、そりゃあもう、この世でお前が楽しめることはないんじゃないのか?」
「かもしれませんわ。これではまだ、オナニーをしていたほうがよっぽど気持ちいいですわ」
「そうかい……それで、拷問の成果は?」
「残念ながらお望みの回答は出せそうにありません」
「チッ、外れかよ……」
「ですが、気になる情報は得られましたの」
「情報?」
「ええ、そうですの。それでどうやら、あのヴォルツ王国を襲った神教団の中に、エズリア大陸から来てた者がいたそうですよ」
「エズリア大陸? なんで別大陸の奴がこっちの大陸に来てんだよ?」
「さあ、そこまでは。オモチャは理由までは知らなかったようなので。ただ、そのエズリア大陸から来た神教団の者が誰かの名前を口にしてたそうですの」
「ふーん、それでそいつの名前は?」
リノが聞くと、隣の部屋で水浴びをしていたリオネがカーテンで閉ざされた部屋から顔だけを出し、ニコニコした笑顔を浮かべながら答えた。
「イスリファ・オルス・アーネストリー。褐色姫と呼ばれてる女性ですの」
「なんだ、その褐色姫って」
「さあ、私にもわかりませんわ。それでどうするのです? その褐色姫ちゃんを探すんですの?」
どこか子供っぽい期待に満ちた笑顔を浮かべたリオネを見て、リノは部屋を出る。
「テメェはオモチャにしたいだけだろ」
「そうですわそうですわ! 名前を聞いただけでもう、私は楽しみで楽しみで、あぁ、濡れてきましたわぁ」
「はいはい、そうかい。とりあえずシルバに伝えてくるからな」
リノは一人、主にリオネのお楽しみ施設である地下から地上へと戻る。
「全て決めるのはシルバだっての。あいつが首を縦に振れば向かうし、横に振れば行かない」
そう呟いて、リノはシルバや多くの冒険者が待つ酒場へと向かった。
◆
「ギルドを脱退するということは、目的を果たしたということでいいのだな?」
フェゼーリスト大陸の東にあるギルド《鮮血の鎖》が本拠地を構える屋敷にて、アルマはギルドリーダーの軍服姿の女性に問われる。
「ええ、もう目的は果たせましたので」
「そうか」
屋敷内の一室。
椅子に座り頬杖を付く女性は、アルマに視線を向ける。
その眼差しは冷たく、刃物のように鋭い。
けれど、アルマは一切表情を変えず彼女を見つめる。
「了承した。というよりも、キミが我々のギルドに加入してくれる条件は『互いに干渉しない。目的を果たしたら脱退する。それまでは協力する』だったからな。こちらとしては、十分に働いてくれたキミを止めることはできない」
「申し訳ありません」
アルマは頭を下げると、その場を、というよりもこの屋敷を立ち去ろうとする。だが、
「──そういえば、ゴレイアス砦という死地にて、新たな王国と、新たな王が誕生したようだな」
女性の声を聞いて、アルマは足を止める。
「果たして、そこにある神の湖はその王様に、どれだけの幸福と絶望をもたらし、この世界にどんな影響を与えるのか……キミも楽しみではないかい?」
「……わかりませんね」
「そうだったね、キミはこの世界に興味はなかったね。あるのは過去への執着心だけ。──いや、過去の自分と、過去に愛した少年への想いだけ、かな……?」
アルマはそれだけを聞いて部屋を後にした。
──目的は果たせた。ずっと願っていた目的を、彼の手で。
それなのにどうして、こんなにも達成感はないのだろうか。その理由はきっと、彼がこの先、もっと遠くへ行ってしまうとわかっているからだろう。
だけど会いに行っていいのかわからない。
「リーダーに言われた通り、ということかしらね……」
過去から未来へ歩けない。アルマは過去と未来の狭間で捕らわれていた。
「……エギル、無事でいてね」
そして、アルマ・レニッサという名前の女性も、ルディアナ・モリシュエという名前の女性も、この世から姿を消した。
いつか彼が手を掴んで、引き寄せてくれる、その日まで──。
四章 完