裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
朝食を済ませた三人。
そして先程までボーっとしていたセリナは、前を歩く二人をジッと観察していた。
「エギル様、お昼は何にしましょうか?」
「ん、そうだな。肉料理がいいな」
「お肉料理ですか。でも昨日も一昨日もお肉料理でしたよ?」
「……まあ、肉料理が好きだからな」
「エギル様はいつもお肉ばかり食べてますから、今日はお魚にしましょうか」
「……肉がいいんだが」
「駄目です。今日はお魚に決定しました」
どちらが主なのかわからない二人の会話を聞きながらセリナは、本当に仲良しだな、と思った。
「セリナもお魚料理でいいですか?」
「あっ、うん。私は何でも大丈夫」
気まずい雰囲気を出してると、セリナを気遣ったエレノアが声をかけてくれた。
だがエギルとは、まだしっかり喋れていない。おそらく、セリナ自身が無意識に避けてしまってるのだろう。気まずい雰囲気。だが、セリナが距離を空けてる理由はそれだけではない。
「……あの二人が昨日」
腕を組んで歩く二人を見て、昨日の夜の事を思い出すセリナ。
ムワッとした匂いを発しながら激しく求め合う二人の姿に、目隠しや手を縛るなどといった、普通ではない性行為までしていた。
その一部始終を見ていたセリナは、少しムラムラした気持ちになっているのを自覚していた。だから二人の中に入れないのだ。
「最悪……ほんと、最悪だよ」
二人の性行為を見ながら、エレノアに匂いを嗅いでオナニーしてるのを見られた。セリナはその失態に悔やんでいた。
「ちょっと、ここ寄っていいか?」
セリナが顔を真っ赤にしながら悶えていると、前を歩くエギルが足を止めた。
ここは冒険者の資格を取る施設。名前は、
「総合受付所ですか?」
エレノアが先に質問する。
「そうだ。冒険者の資格を受け取るのもここ、ギルドを設立するのもここ。だが、今日の目的は少し違うな」
「と言いますと?」
「エレノアのランクが後どれぐらいで上がるか確認しようかと思ってな」
「あっ、そうでしたね。前回のクエストが終わってから、色々と忙しかったから確認してませんでした」
二人はお互いの話を理解しあってるが、セリナは冒険者じゃないのでよくわからないでいた。
すると、キョトンとしてるセリナにエギルが気付いた。
「ランクを上げるには、クエストで獲得した報酬額で上げられるんだ。後どれぐらいかとかを、ここで確認できるんだよ」
「そ、そうなんですね。ありがとうございます……」
「ああ……」
またやってしまった。
エギルが優しく教えてくれたのに、すぐ目線を外に向けて、素っ気なく返事してしまった。
だからエギルも気まずそうな相槌を打つ。
エギルはセリナの命の恩人。
これではいつ捨てられてもおかしくない。
心では理解しているのに、セリナはエギルを拒んでしまう。エギルが悪いわけではない、ただ、男というだけで拒否反応が出てしまうのだ。
これは病気。不幸な病気だとセリナは思った。
「それじゃあ、入りましょうか。ねっ」
「ああ、そうだな」
気を使って、エレノアがエギルの腕を引っ張る。
「ほら、セリナも入りましょう?」
「うん……」
セリナも、二人の後を付いて建物に入ろうとした。
だけど、
「なに?」
何か視線を感じた。だけど振り返っても、誰もいない。
「気のせい、かな」
周りの視線を気にしながら生活していた期間が長かったから、少しの視線でも敏感になってしまっているのだろう。エギルに買ってもらった水色のドレスから奴隷具が見えるため、おそらく奴隷を馬鹿にするような嫌な視線のはず。
少し気になるが、セリナは慣れてるのでそこまで不安には思わなかった。
「二人と一緒だから、大丈夫よね」
そして、セリナも二人の後を追って中へと入っていく。
「彼女が次のランクに上がるまで、後どれぐらいの報酬で昇格できるか確認しに来たんだが」
「かしこまりました。では冒険者カードをお預かりしますね」
広い建物内で、エギルと受付の女性が話してる。周りには大勢の人。それも装具を付けた冒険者らしき風貌の人ばかり。
セリナは自分とエレノアの服装が場違いなのを理解して身を小さくしていた。
「それも、男ばっか」
男性の視線を恐怖に思っているセリナには耐えられなかった。だが二人から離れるのは危険だと思い、この場から離れられなかった。
だが突然、
「あれ……なに、これ?」
立ち眩みのような感覚に襲われた。大勢の人と視線に変な酔いが生まれたのか。
どこかに座りたい、そう思った。
「エレノア……私、ちょっとあそこで座っててもいいかな?」
「ええ、わかりました。ですが、そこまで時間はかからないので離れないでくださいね?」
「うん、わかったよ」
少し離れた場所に座るスペースがあったので、そこへと向かう。
ここなら受付所で立ってるよりかは、嫌な視線を感じないし、変な立ち眩みに襲われる心配もない。
気分が悪いと二人に言ったら余計な心配をかけてしまうだろうから、セリナは黙っていた。
窓が開いてるから風が涼しく、近くに誰も座らないので誰からの視線を受けることもない。セリナはゆっくりと息を吐いた。
「はあ、私って邪魔じゃないのかな」
二人はセリナから見てもお似合いだ。なので自分がいなければ、もっと幸せなのではないかと思ってしまった。
そんな事を考えてると、セリナの目の前で人が立ち止まった。
「お嬢さん、ちょっといいかな?」
ビクッと体が震えた。
恐る恐る、声がした方を見る。
そこにはセリナよりも小さな背丈で猫背、七〇歳ほどの白髪の老人がセリナににっこりとした優しい笑顔を向けていた。
「ここ、空いてるかな?」
「えっ、あっ……ここ、ですね。はい、どうぞ」
隣に座りたかっただけ、そう思い安心した。
だがなぜ他にも椅子が空いてるのに、わざわざセリナの隣に座ったのか、それだけは不思議だった。
「お久しぶりですね、セリナさん」
「──ッ!」
突然、自分の名前を呼ばれて驚いた。
「声を出したら小刀が刺さりますよ。静かに、いいですね?」
逃げようと思った時には既に遅かった。ギラリと光る小刀が横脇に当てられていた。
だからセリナはゆっくりと頷く。
「それでは、我が主が待っているので。こちらへ来てもらいましょうか。もちろん、お二人には内緒にして結構です。もう……会うことはありませんからね」
「い、いや……」
「あなたに拒否権はありません。では、隣の建物へどうぞ」
背後にぴったりとくっ付いて歩く老人。
セリナは誘導されるように、隣の建物へと繋がった通路を歩かされた。エギルとエレノアは受付の女性と話してる。
逃げることも助けを求めることもできない。すれ違う人達は、真っ青な顔をしたセリナを見ても何の反応も見せない。
──助けて。
そう声を発せないでいると、
「やあ、会いたかったよ!」
目の前から、セリナの大嫌いな男が現れた。
優しそうな物腰、爽やかな顔──そして一目でわかるほどの、高貴な服装。
「……セブレスチャフ様。馬車でお待ちしていてくださいと申し上げたではないですか」
「悪いね。どうしても、すぐに会いたかったんだよ」
「……そうですか。一緒にいた者たちに見つかる前に、セリナさんを馬車まで誘導しますよ」
「わかったよ、それじゃ、帰ろうか」
セブレスチャフはセリナに近寄り手を前に出す。
初めて出会った時もこう、優しく手をさしのべられた。そしてあの日の、何も知らないセリナはその手を掴んでしまった。
──だけどその手は、セリナを何度も殴った手だ。
だから引きつった表情で、セリナはその手から逃れようとした。だけど、
「──おい、奴隷」
一瞬で表情が変わった。
この顔は、セリナが逃げようとする時に見せる怒った時の顔。その顔が怖くて、セリナは何をするわけでもなく、下を向いて黙った。
「ほら、行くぞ」
手を掴まれ、引っ張られた。
だが絶望しかなかったあの地獄の日々が脳裏に浮かび、咄嗟に手を振りほどいた。
「おい奴隷! 僕に逆らうのか!?」
「や、やめてっ、痛いのは、イヤっ」
「やめてじゃなくて、やめてくださいだろ!? 僕が優しくしていればいい気に乗りやがって……! よくも僕から逃げやがったな!?」
手をギュッと掴まれ、逃げられないセリナを睨むセブレスチャフ。
「落札できると思ったのに、あんな奴に邪魔された! 僕は……僕は君が大切なんだ。僕が欲しいのは、君だけなんだよ……」
「私、だけ……?」
セブレスチャフは、ニヤリと笑った。
「殴っても屈しない。蹴っても屈しない。僕の──」
──最高のオモチャだ。
その瞬間、セリナの頭の中が真っ白になった。
どうしてこうなったのか。
この建物に来たから? 二人から離れたから?
いや、奴隷になったことが、セリナの人生の最大の失敗だったのだ。