裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「はぁ……なんでだろ」
一人でお風呂に入りながら、セリナは力無くため息をついた。
その理由は帰り道のことだった。正面からエギルの懐に潜って抱きついたのに、帰り道では隣を歩くことすらできなかった。
エレノアが右側を歩き、空いている左側をセリナが歩けばいいのに──やはり恐怖心があったのだ。
「ああ、もう! 私の馬鹿、バカバカバカ!」
折角、エギルとの距離を縮められると思ったのに。
今まで異性に優しくされた事のないセリナは単純だ。たった一度だけ優しく助けてくれたエギルを、一瞬で好きになってしまったのだから。
顔が怖いのに優しい性格のギャップにやられたとか、否定されてきた自分を肯定してくれたからとか、探せば理由は山ほどある。
エレノアのように自分も幸せにしてもらいたい、そう思っている。なのに近寄ることが怖い。
好きになりたい、心の底から。だけどセリナの負った傷が邪魔をする。信じたいのに、信じて裏切られるのが怖く感じる。
──疑って生きるよりも、信じて裏切られた方が男らしくないか?
エギルの昔話に出てきた言葉。
だけどセリナはきっと、エギルに裏切られたら、もう人として生きていける自信がない。
「だけど、ちゃんと話さないと」
まだ泣きながらお礼をしただけ、それでは、エギルに失礼だ。
セリナはもふもふした毛の付いたピンク色のパジャマを着て戻る。
そして、二人の会話が聞こえた。
「──どうしましょうか?」
「そうだな。二週間後にはクエストに出るから、冒険者じゃないセリナは連れて行けない」
「残念ですが、誰か信頼できる方に預かってもらうしかないですよね」
二人の会話が、セリナの心臓の鼓動を早めた。
こうなる事はわかってた。わかってたが、二人は何処にも行かないと心のどこかで安心してる部分があった。
「二人と、離れる……」
二人の為にも、それが一番いいのはわかってる。だけど。
そして眠りにつこうとしていた時間。
「エレノア……」
「セリナ、どうしたのですか?」
エギルは自室で寝て、その部屋に入ろうとしてたエレノアを、セリナは引き止めた。
「……その、えっとね」
言わないと。ここで言わないと、自分はまた一人になる。言え、言うんだ。自分の気持ちを。
「あのね、今日だけ、エギルさんと一緒に寝ないでほしいの……」
「はい、いいですよ」
「えっ、いいの?」
理由も聞かないで即答されるとは、セリナも思っておらず驚いた。
そしてエレノアは、部屋の扉から離れて小さな声を発しながら首を傾げた。
「エギル様に、お話があるのでしょ?」
「なんで、それを?」
「それは、わかりますよ。セリナはわたくしの唯一の友人ですからね」
「そっ、か……」
真っ正面から恥ずかしい言葉を言われると、顔が真っ赤になってしまう。
そしてエレノアは、セリナをギュッと抱きしめた。
「男性が怖いなら、エギル様だけは特別な存在だと思えばいいのです。わたくしと同じように、エギル様だけ特別に……。だけどまだ無理なら、焦ることないですから。ゆっくり、ねっ?」
「……ははっ、エレノアに言われるとは思わなかったな。エレノアは、エギルさんと一生一緒にいるの?」
答えは知ってるが、セリナはそう問いかけた。そしてエレノアは満面の笑みで、
「もう、わたくしたちが出会った時に約束したこと忘れてしまったのですか? 初めてを捧げた人と結婚する、だからわたくしはエギル様だけです」
「……覚えてて、くれたんだ」
それが嬉しくて、涙が出そうだった。
「セリナは、どうするんですか?」
「まだ男の人は怖いよ。だけどエギルさんになら、捧げてもいいって──いつかそう思える時が来るかもしれない。今すぐには無理だけど……いつか、ねっ。だから私は、その第一歩を踏み出したいの」
「ええ、ではエギル様を一日だけお貸ししますよ」
セリナから離れたエレノアは、少し残念そうにした。
「今日のエッチは我慢ですか。はぁ……欲求不満で、セリナに貸したベッドをびしょびしょにしてしまいそうです」
「変な事したら、承知しないからね」
「わかってます、冗談ですよ。では」
おやすみなさい。
エレノアはそう言って、セリナが寝ていた部屋へと入っていった。
「ありがとう、エレノア」
セリナは部屋の扉をノックした。
「ん、エレノアか?」
「入りますね」
扉を開けると、ベッドに横になったエギルと目が合った。
その瞬間、また恐怖心からセリナの体が震える。
だけど歩くんだ。エギルとの距離を縮める為にも、自分の未来の為にも。
「……少し、お話をしてもよろしいでしょうか?」
エギルが横になっていたベッドまで歩くと、セリナはベッドの足下に座った。
「どうしたんだ?」
エギルは上半身を起こし、セリナを見て不思議そうにしていた。
「私……その、えっと──私も、冒険者になりたいです……二人と一緒に、いたいんです」
一人になるのは嫌だ。邪魔だと言われても一緒にいたい。
セリナは恐る恐る、エギルを見た。
「本当に、いいのか?」
「はい。私も二人と一緒に居たいんです」
少しの沈黙が生まれ、一回、エギルは首を縦に振った。
「わかった。じゃあ明日、今日行った総合受付所で職業を学ぶか」
「えっ、いいんですか……? 邪魔じゃないんですか?」
「邪魔じゃない。むしろ一緒にいてくれたら、俺は勿論のこと、エレノアもきっと喜ぶと思う」
「そ、そうなんですね。良かった……」
「戦い方は俺が教える。クエスト中も守るから、だから怖がらないでいいぞ」
やっぱり優しかった。セリナは腰を持ち上げて、少しだけエギルへと近寄った。
「ありがとうございます。それと……もう一つ、お話があるんです」
「ん、なんだ?」
「私、エギルさんの事を好きになったみたいなんです」
「えっ……俺を?」
「はい」
「だけど、セリナは男性恐怖症じゃ……」
「……はい、まだ男性は怖いです。今も、少しだけ手が震えてます。だけどこれは、エギルさんが怖いんじゃないんです。これは私の心の傷が、そうさせてるんです……。心の中ではエギルさんともっと話がしたい。もっと触れ合いたい。そう思ってるんです」
「……ああ」
「もし、私が本当に愛せる人が見つかったのなら、きっとそれは、エギルさんしかいないと思うんです。だから私は、これからもエギルさんの側にいたいんです。そしていつか──」
セリナはそこで言葉を止めた。
そして、恥ずかしさから顔を真っ赤にさせ、唇を震えさせ、言葉を続けた。
「エギルさんと、愛し合いたいんです。心も──体も」
「それって……」
いきなり変な発言して引かれただろうか、だけど他の言葉が浮かばなかった、それにこの言葉を誤魔化す言葉も浮かばない。
だからセリナは待った。エギルの答えを。