裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
──類は友を呼ぶ。
気の合う者や似通った者同士は、自然に寄り集まって仲間を作るものであるということ。
そんなことわざもある通り、この二人は出会う運命だったのかもしれない。
出会った場所や時は最悪だった。だがそれでも、クリシュナの街を歩く二人にとっては、そんな出会い方はどうでも良かったのかもしれない。
「……ねぇ、本当にいいの?」
「何がですか?」
前を堂々と歩くのは金髪美女のエレノア。
周りをキョロキョロと警戒して、その後ろを歩く桜色の髪の美女がセリナ。
「エギルさんに内緒なんでしょ……? 今から行くとこ」
これから行く場所についてエギルには内緒だ。
ただ「買い物に行ってきますね」と伝えただけ。勿論、心配性のエギルは「二人で大丈夫か?」や「俺も付いて行くか?」などと言った。いかつい男らしい顔付きからは想像もできないほどの、優しい言葉だ。
「エギル様に言えますか? これから行くとこの事」
「……言えない」
だがエギルの優しさは、エレノアの一存にて一蹴された。
これから向かうのは買い物のついで──というよりは──買い物がついでなのだ。
「ほら、到着しましたよ!」
エレノアのブルーの瞳を輝かせたのは、ボロく薄暗いお店だった。
広さは一般的な一軒家よりもあるが、その年期の入った建物は、あまり人を惹きつける魅力は感じない。
そもそも、小さな入口の上に『娯楽商品店』と記されているだけで、その内装は分からない。だから中を知らない者から見れば、ここは廃屋なのか、それとも悪魔が住む家なのか、そのイメージは、どうしてもマイナスの方向へと進んでしまう。
「ほんと、どこの街の娯楽商品店も潰れかけよね」
「まあ、そうですね。それよりほら、早く入りますよ」
「う、うん……」
引っ張られていくセリナは「エギルさんに悪い」と、まるで呪文のように呟いていたが、結局は、セリナ自身もこの場所に入りたかったのだろう。
目尻の上がったピンク色の瞳はエレノア同様に輝きを帯び、そのお店の中を確認し、少しワクワクしてるのがわかる。
そして店内に入った二人を歓迎したのは、愛想のない四〇代ぐらいの男だった。
「いらっしゃい」
その言葉を受け、二人はすぐさま店内を左に曲がった。
「またあの人ですか──運が悪い」
「えっ、知ってるの?」
エレノアは苦い顔をしながら早足に歩き始める。
「あの人に汚されましたからね」
「えっ、それって……」
「気を付けてください。あの渋めのおじさまは以前、わたくしを目で犯してきた人ですから」
これに関しては勘違いなのだが、エレノアの表情が真剣なため、セリナはその言葉を真に受け、ゴクリと唾を飲んだ。
そして進む。進んで進んで。辿り着いた先は、変わった性癖を持った二人の夢の世界──リオネという作者が書いた書物コーナーだった。
二人は今日一番の笑みを浮かべ、その本棚の前に立った。
「また、来れました……また、リオネさんの作品を手に取れました」
「もう読めないと思ってた。良かった、ほんと良かった」
エレノアに関してはつい二週間ほど前に訪れていたのだが、今日は同類を連れての来店で、似た趣味(性癖)を持ったセリナと来た。彼女にとって、喜びを共有できるのは嬉しいことだった。
二人はお目当ての商品を手に取り、それを眺めた。
「えっと、『屈強な騎士に抱かれた令嬢は何度もイかされる』シリーズの新刊はまだ出てませんか……あっ、でも『ご主人様の命令は甘美な果実』シリーズの7巻が出てます!」
「あ、ああっ! まだ3巻までしか読んでなかったのに『暑苦しい布団の中には夢一杯』シリーズが5巻まで出てる! えっ、どうなったの、あれからどうなったの!? あらすじ、あらすじはっ!?」
二人は周囲を気にせず騒いでいた。
その内容は、決して美女二人が発する言葉ではない。だから二人の周りには、人が一人も寄り付かない。
そして、あらすじを読んだセリナは、唾を飲んでエレノアを見る。
「か、かかか、買っても、いい?」
その問いかけに、エレノアは悪い笑みを浮かべた。
「勿論です。だけどこれで、セリナも共犯者ですからね」
「……わかった」
二人はゆっくりと頷き、そのまま難関であるあの店員の元へと向かう。
「いらっしゃい」
「「……」」
口角を上げて二人の出した本と、そして二人の表情を見る店員の男。
二人は無言のまま待った。待って、待って、ひたすらこの店員が行う仕事を待った。
──だが、いつになっても店員は会計へと持っていかない。
少し不穏な空気が流れ、エレノアの脳内には『早く会計して!』という怒鳴る声が永遠と繰り返す。
「は、早くしてよ……」
だがセリナは、男嫌いな自分の心を奮い立たせた。
それはこの本が欲しいから。そしてエレノアを守る強いお姉さんでありつづけるため。
だが、これが間違いだったのだ。
「ほら、会計するからカネを出しな。俺の手の上にな」
セリナは目を合わせてしまった。
そして男は左腕を上げ、自分の脇の匂いを嗅ぎ始めた。
「──なっ!?」
「……今日は、一段と凄いぜ?」
匂いで誘惑され、目で汚され、言葉で犯されかけてしまった。
口を半開きにして、あわあわと狼狽えるセリナは、一歩、また一歩と後退した。
「お、おおお、お金です!」
エレノアは叫んだ。
そして少し多めの額を店員に投げつけ、二人は商品を手に走り去った。
去り際の「またおいで」という店員の声は、涙を流す二人には届かなかった。
「なんなの、あいつ……怖い、怖いよ」
「あれは変態です。……危なかったですね、もう少しで全てを犯されるとこでしたよ」
娯楽商品店から逃げ出した二人は、額から汗を流し、膝を抑えて息を整える。
そして、ふぅー、とエレノアは息を吐き、自分が購入した書物を持って満足そうに頷いた。
「辛いこともありましたが、全てはこの作品の為ですね。良かった、本当に良かったですね」
「うん、うんうん! あぁ、早く帰って読みたいな」
隣で至福のため息をつくセリナに、エレノアは人差し指を立て言った。
「だけどいいですか? この事はエギル様にばれては駄目ですよ? これは日々の節約で生まれたお金なのですからね」
「わかってるって。この為に節約してきたんだもん、言うわけないよ」
二人のこの書物の費用は、日々の節約が生んだ結晶だ。
食材を買う時は店員に値切り、シャンプーとボディーソープは少し水で薄めたりと、色々な節約術を駆使して貯めたお金だ。
決してエギルに迷惑をかけているわけではない、だが二人がこの事を伝えたくないのは、この性癖まみれの代物を隠したいという、彼女達の少なからずのプライドなのだろう。
「さて、帰りますか」
満足した二人はそのまま足早に帰っていく。
行きよりも帰りのほうが早足なのは、おそらく大事に抱きかかえる書物をいち早く帰って読みたいという気持ちがそうさせているのだろう。
だから曲がり角から現れた人に、気付くことができなかった。
「──きゃ!」
「──わわっ?」
エレノアと、曲がり角から来た女性はぶつかってしまった。
お互いに尻餅を付くと、エレノアはすぐさま謝った。
「す、すみません。お怪我はないですか?」
「えぇ、大丈夫よ。お嬢さんの方こそ、怪我はないかしら?」
おっとりとした声色。
そして大人の色気を纏った女性は、豊満な胸元を見せる谷間の開いたドレスに付いた砂埃を払い、そのままエレノアに手を差し伸べた。
「あ、ありがとう、ございます……」
エレノアもセリナも、その姿に見惚れていた。
すると目の前の彼女は、エレノアが落とした書物を手に取った。
「あら……」
「こ、これは、その……」
恥ずかしさからしどろもどろになるエレノアを見て、彼女はえくぼを作った笑顔で本を返した。
「この本、好きなの?」
「えっ、はい……そうです」
一瞬だけ隠そうと思ったが、エレノアは正直に答えた。
すると彼女は、ニコッと微笑んだ。
「そう。この本、私も好きなのよ」
「そ、そうなんですか!?」
二人には信じられなかったが、どうやら本当らしく、
「この作者の作品は全部読んだわ。だから二人とは似てるのかもしれないわね」
「そうかもしれないですね。でも、こんな綺麗な方と同じ性癖なんて、なんだか嬉しいです……」
「あら、お二人も凄く綺麗じゃない。それに私、もう三〇過ぎのおばさんよ?」
「「三〇!?」」
二人は目を丸くさせて驚いた。
「全く見えません……」
エレノアの感想を聞いて、嬉しそうに口元に手を当てた彼女は目蓋を閉じて微笑む。
「ありがとうね、お世辞でも嬉しいわ。それでね、こういう性癖は悪いことじゃないのよ。むしろ、女性ならこういう男性を好きにならないとおかしいくらいじゃないかしら?」
「そうですよね。やっぱりこういう男性がいいですよね」
「ええ、勿論よ」
ふふっ、と笑った彼女はそれを伝え、
「もっと色々な話をしたかったけど、これから忙しくてね。また今度会えたら、ゆっくりお話しましょう。それじゃあね」
二人は彼女を見送った。
歩き方からは、エレノアと同じく数多くの習い事を教えられた高貴な者だと伺える。
「とても大人っぽい雰囲気の人でしたね」
「うん、そうだね。やっぱり年上の人って纏ってる空気が違うよね。あの落ち着いた雰囲気は私達には無理だよ」
「ですね……あっ!」
と口を大きく開けたエレノア。
「名前を聞くのを忘れてしまいました」
「あっ、そういえば……。まあ、またいつか会えるんじゃない?」
「それもそうですね。では帰りましょうか」
「うん」
二人は帰っていく。
エギルにばれないように、食材を入れた買い物袋に書物を隠して。
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