裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
第1話
冒険者になって、最終的にどうにかなろうなんて誰も考えない。
ある者は不自由なく暮らせるだけの金があればいいと考え。
またある者は誰にも成し得なかった偉業を達成し、名を馳せたいと考える。
冒険者になる目的はバラバラだが、冒険者となったときに必ずしも皆が目標にする称号がある。
――それは、絶対的な強者の称号である、Sランク冒険者だ。
Sランク冒険者となれば、金も名声も、何だって手に入る。だがSランク冒険者になんて簡単になれるものでもないし、ましてや、努力してなれるものでもない。
だから誰も、なったときのことなんて考えないし、目標は目標であって、掴んでしまえばその先には何もない。
そしてSランク冒険者となった者は必ずと言っていいほど世界中に大きな影響を与え、いつも物語の先頭に立っていた。
ある者は誰にも成し得なかったクエストに先陣を切って挑み、次々に達成して功績を上げた。
またある者は冒険者だけが暮らす王国を作り、新たなる冒険者たちの居場所を作って世界の歴史に名を残した。
他にも様々な道を切り開くSランク冒険者がいるが、共通して言えるのは、人々を先導しているということ。
だがエギル・ヴォルツは、最強の称号であるSランク冒険者となっても、今までの生活を変えることは何一つなかった。
彼には目的も目標もない。
それなりの金を得て、それなりの生活をして、仲間たちとその日その日を楽しむ。ただそれだけで満足していた。
けれど大切な何かを手にして、それを守らねばならないとき、彼は今まで通りではいられない。
世界は彼を、大きな混沌とした渦へと巻き込むのだから。
それはエギルが——選ばれた〝先導者の器″であるからだ。
♦
「セリナ、今だ!」
「はい!」
クリシュナの街付近の森林。
そこでセリナが持つ細身の刀が、薄い緑色の肌に革鎧を付けたゴブリンへと勢いよく振り下ろされる。
桃色の髪が風に舞う。ドレスとは違い肩と肘を出した上着に、下は膝を出したスパッツ。刀を握りやすい茶生地の手袋と走りやすいブーツを身に着けた彼女からは、以前までの泣きじゃくっていた奴隷の姿はなく、今では立派な戦う乙女の姿に変わっていた。
「おつかれ、セリナ」
一撃でゴブリンを葬ったセリナはエギルの呼びかけで、クルッと振り向き笑顔で返事をする。
「はい、なんとか勝てました」
ゴブリン討伐クエストの難易度は低い。だがEランクであるセリナ一人で倒せるほど、ゴブリンは決して弱くはない。
「冒険者になって二週間でゴブリンを圧倒か……。元々の素質が良かったんだろうな」
「いえ、エギルさんの指導のお陰ですよ」
セリナが冒険者となった二週間前のあの日。
エギルはセリナに、好きな職業を選ぶよう言った。
職業というのは誰かに勧められて決めるものではなく、向き不向きがあるので、自分に合った職業がいいとエギルは思ったからだ。
だが内心では後衛の職業を選んでほしかった。
理由は、前衛職業であるエギルが守れるからだ。けれど彼女は迷うことなく、「エギルさんと同じ職業がいいです」と答えた。
エギルの剣舞士は上級職業の剣士の更に上、Sランク冒険者だけがなれる固有職業なので、エギルと同じ職業を選択したセリナは前衛職業となる。
そのことをエギルとエレノアは心配に思った。だが『エギルさんに教えてもらいたいので』と言われてしまえば、エギルが断る理由はない。
「羨ましいですね」
エギルに褒められて嬉しそうにするセリナを見て、エレノアは頬に手を当てにっこりとした笑みを浮かべる。
「わたくしも剣士の職業であれば、エギル様に手取り足取り指導を受けられたのに、残念です」
「べ、別に……私はそんな理由で選んだんじゃないから……そんなんじゃないから!」
「んー? 本当ですか?」
「ほ、本当よ!」
セリナが顔を真っ赤にして反論するが、疑いの眼差しを向けるエレノアは納得していないようだ。
エレノアの服装は戦う者の服装とは程遠い、大人の色気を感じさせる黒のドレスで、後衛職業である聖獣師だからこそできる格好だ。エギルでは絶対に走れないが、エレノアにとっては容易なことらしく、戦闘中は足首まで隠れる長いドレスで駆け抜ける。
前にエギルはエレノアに『戦いやすい服装に変えるか?』と聞いたことがあったが、彼女は『エギル様に初めて買って頂いたドレスですから、このままがいいです』と答えた。
走るのに邪魔でないなら問題はないが、胸元が大きく開かれているため、エギルとしては目のやり場に困る時がある。
「それじゃあ、そろそろ約束の時間だから戻るか」
エレノアとセリナのやり取りに終わりが見えず、エギルは二人の間に割って入る。
ハボリックの友人が依頼した《ゴレイアス砦侵攻戦の裏切り者》というクエストが開始される今日まで、セリナが通常の魔物と戦えるよう、弱い魔物相手に戦闘を繰り返してきた。だがいってしまえば弱い魔物しか相手にしておらず、いきなりAランクのクエストに参加させるのは危険が多い。
三人は元来た道を戻る。
その途中、セリナはエギルと同じ──だが少し光度の低い赤色に光る聖力石 を手にとり、それを太陽にかざした。
「ほんと、こんな小さな宝石が力を与えてくれるなんて信じられないですね」
「まあ、そうだな。だけど実際に手にしてみてどうだ?」
「そうですね……なんだか今までの自分が身に着けた知識とは違う、戦うのに必要な知識を手に入れたみたいです」
セリナは聖力石をポケットに戻す。
聖力石を手にした瞬間から、冒険者は戦う力を身に付け、戦い方を学ぶことになる。だが学ぶといっても、それは剣の振り方などという基礎的な体の動かし方ではなく、その職業によって使える様々な技術やスキルを体に覚えさせるということだ。
その為、同じ剣士であっても、セリナはエギルと同じ力は使えないし、力を使う方法をセリナに教えたとしても使うことができない。それどころか、不確かな感覚で身に付けたため、エギルも説明することはできない。
ただ言えることは、
「魔物に対抗する力を、神様が与えてくれたってことだな」
ということしか言えない。セリナは空を見上げる。
「神様ですか……いるんですかね、そんな存在」
「どうだろうな。神様なんて、人間が想像の中で創り上げた空想の存在のようなものだからな。いるかいないか考えてるだけ無駄かもしれないぞ?」
「それもそうですね。まあ、戦う力をくれるなら有り難く貰っておこうと思います」
「ふふっ、なんだかセリナらしいですね」
エレノアがクスッと笑うと、セリナは目を細める。
「……ちょっと、それどういう意味よ?」
「いいえ、別に何でもないですよ」
二人のやり取りを見ながら、エギルは苦笑いを浮かべる。
聖力石は力を与えてくれるが、その存在の全てが不明だ。魔物が永遠に現れるのと同じで、聖力石もどこからともなく現れる。魔物が増えれば、それを狩る冒険者が増え、力を与えてくれる聖力石は冒険者の手に渡る。
それが世界の理であり、疑問になるほどのことでもなかった。
「あっ、旦那! こっちっす」
街へ戻ってくるなり、三人はクエスト受注所へ向かった。
建物に入ると、爽やかな風貌のハボリックは、こちらへ手をぶんぶんと振る。エギルは手を上げ、「よう」と声をかけると、その隣に立つ見知らぬ男性がこちらを睨みつけていた。
「待ったか?」
「いえ、ハルトも今来たとこっすから。ほら、挨拶するっすよ」
「……はあ」
この目つきの悪い男が、これから向かうクエストに同行する四人目──そして仲間を《裏切り者》に殺され、生き残った男らしい。
愛想の悪いハルトは、雑に伸ばされた黒髪を触りながら、エギルを睨んで、そして後ろに立つエレノアとセリナを睨んだ。
「……ハボリック、こいつらが依頼を受ける三人か?」
低く棘のある声。
そして『こいつら』呼ばわりしたハルトに、ハボリックは慌てて反応する。
「おい、こいつら呼ばわりは止めるっすよ!」
「……ふん」
そっぽを向くハルト。
重装備の鎧から察するに、エギルやセリナと同じ前衛職業だろう。
顔付きは大人しい雰囲気の青年といったとこだが、あまり三人に好印象を抱いていないのが見てわかる。
そして、その中でもハルトが敵意剥き出しに横目で睨むのは、エギルだった。
「……女を連れてる奴なんて敬えねえよ。ハボリック、本当に大丈夫かよ?」
エギルがエレノアとセリナを連れているのが気に食わないのだろう。