裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
馬車に揺られて三〇分。
「エギルさん、見えてきましたね。あれがゴレイアス砦です」
「ああ」
前方に見えてきたのは大きな砦。
城とは違った、日に焼けた石材が詰まれた砦で、広さはエギルの知る王国と大差ない。
入り口である門は東西南北に四カ所あり、どこからでも入ることができる。そして砦の中心部には城のような高さのある建物があり、そこまで辿り着くには三カ所の門を通らなくてはならない。そして、そびえ立つ最初の壁は、侵入者を見張るのに適していて優位に立てる作りとなっている。
「エギルさん、まずはキャンプ地帯に荷物を置いてから、既に到着してるギルドの連中に挨拶しましょうか」
馬車は砦から少し離れた野営地へと向かう。
合同クエストの際には、すぐ近くの場所で野営をする。
それは普段のクエストでも利用するテントが幾つも張られた野営地に似ているが、ゴレイアス砦の近くにあるこの野営地で寝泊まりするのは、同じクエストを受けた者しかいない。なので比較的、広々としており静かに利用できる。
エギルたちは野営地に到着するなり、ここを管理している冒険者から使える範囲の指示を受け、そのままテントを張る。
「えっと……自分は一人でキャンプを使わせてもらうので、三人は自由に使って下さい」
テントを張りながら、ハルトは遠慮がちに言った。
「いや、それは危ないだろ。もし一人で寝てて狙われたらどうすんだよ?」
「いえ、それは大丈夫ですよ。この野営地の見張りをしてる冒険者もいますから。それに、裏切り者に狙われるのはなぜか、いつも砦の中ですから」
「だが」
「それに、その……」
何か言いたそうにしているハルト。
そしてエレノアがコホンとわざとらしく咳払いをすると、エギルに小さな声で伝える。
「エギル様、ここはハルト様のご好意に甘えませんか?」
「ご好意?」
「……要するに、ハルト様は自分がいたら邪魔になると思ったのでしょう。色々と、夜にすることがあるんじゃないかと思われたのではないでしょうか?」
エレノアの声が聞こえてたのか、ハルトは顔を真っ赤にさせながら、
「自分はエギルさんが漢らしいのを知ってますから、その、夜の方も漢らしくなるのも知ってますから気にしないでください! あ、自分は声が聞こえないよう、もう少し離れたとこにテント張ってきますね!」と言って逃げるように別の場所へ消えた。
「そういうことか……だが」
ため息をつき、エギルはセリナを見る。
視線に気付いたセリナは、こちらも顔を真っ赤にさせながら勢いよく顔を背ける。
「わ、私は大丈夫です。えっと……我慢、しますから」
「いや、我慢って」
「ち、ちがっ! 我慢っていうのは、二人がしてるのを我慢するとかじゃなくて、私自身がオ――い、いえ、やっぱり、なんでもないです! 大丈夫です、大丈夫ですから!」
何かを言いかけて止めたセリナは、挙動不審にピンク色の髪をねじねじとする。
「……お二人のご好意に、甘えましょうか」
にっこりと、エレノアから圧のような何かを感じた。
だが三人で同じテント。そこでエレノアが声を我慢してくれるとは思えない。むしろ、セリナの耳元で喘ぎそうだとエギルは思う、なにせエレノアの変態っぷりは、少しずつ理解してきたからだ。
「この話はまあ、また今度でだな」
「ええ、大丈夫ですよ」
エレノアの圧に負けるように話を誤魔化す
テントを張り終えると、そのまま持ってきた荷物を中へ運ぶ。
テントの広さは前回のクエストで使用したテントより広い。三人が足を広げて横になることができる。が、それぐらいの余裕しかないのが、折り畳み式のテントだ。
「それじゃあ、荷物を置いたとこで他のギルド連中が待つ場所に案内しますね。集合時間が近いですから」
エギルたちはキャンプ地帯にある、一際大きなテントに向かった。
そこは全員が集合し作戦や交流を深めるために張られた専用のテントだろう。エギルも合同クエストに何度か参加したことがあるため、作戦会議などで使われてるのを目にしたことがあった。
「おっ、誰か来たな」
テントの中には四角く机が固められ、その机を囲むように椅子に座った者が数人いた。その内の一人、茶色の髪を後ろに流した若そうな男が、こちらを見ている。
その男を目にしたハルトは、最初にエギルたちに向けたような表情をする。
「……ファビオラ。仲間が魔物に殺されたのに、まだ参加するつもりなんだな」
「はっ、お前に言われたくねぇよ。てか、お前んとこは裏切り者に仲間を殺されたと思ってたんだが……違ったか?」
「……殺されたとは言っていない。ただ、傷を負っただけだ」
「へぇ、そうかい」
ファビオラという男は椅子にふんぞり返って鼻で笑う。
おそらくギルドリーダーだろう。質の良さそうな全身の鎧から察するに前衛職業、そして金持ちなのだとわかる。その後ろに立つ四人の女は、そのギルドのメンバーだろう。上は三〇代後半で、下は一〇代後半だと思える。ただ彼女らは共に信頼し合う仲間というよりも、ファビオラに気を使っている雰囲気があった。それに、
「お前の周りにいる奴らは前までいなかった連中だな。新しく加入したメンバーか?」
「二週間ぐらいの休息タイムがあったからな、仲間はちゃんと、補充してきたんだよ」
「補充、じゃなくて、買った、だろ?」
ファビオラは口角を吊り上げ「同じ意味だろ?」と笑ってみせた。
先程ハルトが言っていた『口だけの冒険者』というのはファビオラのことだろう。後ろで並び立つ四人は全員が奴隷だ。そして、端から見ても、主に忠誠を尽くしているようには見えない。金で買われ仕方なく連れて来られたといった感じだ。
「お前、前に死んだ仲間の供養はしたのか? 奴隷だからって──」
「はあ? 供養? こいつらも前の奴らも仲間なんかじゃねえぞ? つか、金で買った物を供養するわけねえだろ、馬鹿かお前?」
「物って、彼女らは同じ人で——」
「お、お二人とも、それぐらいにしませんか?」
今にも掴みかかろうとするハルトと、挑発し相手を馬鹿にするような表情を浮かべるファビオラとの間に立った男は、苦笑いを浮かべる知的な顔付きに、銀縁の眼鏡を付けていた。
紫色のローブを身に着けた軽装。おそらく魔法などを扱う後衛職業だろう。身長はエギルと同じぐらいなのに猫背のせいで、どこかひ弱に見える。
「ハ、ハルトさんたちは、その……やっと到着したとこなんですよね? でしたら、さ、さあ、座ってください」
「すみません、レリックさん。ありがとうございます」
エギルたち四人が空いている椅子に座ると、レリックという男はこちらに近寄り、少し挙動不審に左手首をギュッと握る。
「ちょ、長時間の移動で、疲れましたよね。あっ、何か、お茶でも飲みますか?」
「いえ、自分でやりますから、レリックさんは座っていてください」
「い、いえいえ。あっ、お菓子とかも、その……どうですか?」
少し気を使いすぎな様子のレリック。年齢はレリックの方が上だろう。おそらく三〇代ぐらい。そんな彼に気を使われて、ハルトも落ち着かない様子だ。
すると、ファビオラが目の前の机に足を乗せ、テントの外まで響く大声を発した。
「おいおい、やらしてやれって。その臆病者は、お前が裏切り者じゃないかと心配で心配で、自分だけは殺さないでくださいって意味で気を使ってんだからよ」
「なっ、ぼ、僕はそんなんじゃ……」
「みえみえな嘘は止めとけって。裏切り者がいるってわかってからのお前、おかしいじゃねぇか、あん?」
おそらく、ハルトを警戒してるのも、臆病者なのも正解なのだろう。
レリックは小さな声で「僕は僕は僕は」とぶつぶつと言い始め、レリックと同じローブを羽織った彼のギルドメンバーは、ファビオラを睨みつけ、今にも愛用している武器で襲いかかりそうな勢いだ。
だから、ファビオラに買われたギルドメンバーである奴隷たちも反撃姿勢をする。が、それは一人を除いてだ。
透き通った綺麗な水色のロングヘアーに左耳の上に銀色の髪留を付けた少女だけは、どうでもいいみたいな、冷めた視線で成り行きを見守っていた。
そんな一触即発な雰囲気を見て「最悪な合同クエストだな」とエギルはぼやく。
そんな時だった。
「お主らよ、久しぶりの再会で嬉しいのはわかるが、そろそろ静かにしたらどうじゃ?」
テントの入口から入って来た少女は笑みを浮かべながら、そのまま中へと歩いてくる。
薄紫色の髪を胸元まで伸ばした彼女の年齢は、見た目だけでは一〇歳に達してるかどうかといった幼女体型だ。ただ、話し方や落ち着きようから察するに、かなりの年数を冒険者として過ごしているように感じさせる。
そんな少女は椅子に座るなり、ファビオラへと笑顔を向ける。
「先程から声を張り上げて……我から見れば、お主が一番、怖がっているように見えるのう。裏切り者とやらが怖いのであれば、このクエストから降りたらどうじゃ? クエストなど別に幾らでもあるじゃろ?」
「……うっせぇな、ガキは黙ってろよ」
すかさず、ファビオラがその少女に食ってかかる。
だが彼女は表情を変えず、それを一蹴した。
「ガキとは失礼だのう。我はこう見えても一五、もうガキではないぞ?」
「一五は十分――」
「お主よりも我は強い。試してみるかの?」
少女の威圧的な眼光は、見た目の幼さからは想像できないほど強く、自分の強さに自信を持っているようだった。
そして少しの間を空けて、ファビオラは舌打ちをして腕を組む。
「……チッ、やるわけねぇだろ。めんどくせぇ」
「ふむふむ、残念じゃのう。少しは楽しめると思ったのだが。まあよい」
「レヴィア、その辺にしたらどう? あまり周りに攻撃的だと、私たちまで危険になっちゃうからさ」
「そうだぜ、あまり揉め事は起こしたくないぜ」
「うむ、お主らがそう言うなら」
レヴィアと呼ばれた少女の隣に並ぶ者たちは、少し困った表情をしている。
男二人に女一人。パッと見ても、そこまで強くは見えない。だからエギルは、なぜレヴィアという少女がその三人と組んでるのかを疑問に思った。
「……変わらないですね」
隣に座るエレノアはボソッと呟く。
そしてエギルは、いつも穏やかな表情をするエレノアが、憎しみに溢れた表情で三人を睨みつけてるのに気付いた。
「……どうした?」
そう問いかけると、エレノアは、
「……あの三人です」
と、いつになく低い声が返ってきた。
それだけで、何を言いたいのかは察することができた。
「……幼なじみか?」
「はい。あの幼い少女は知りませんが、隣の三人がそうです」
太股に乗せた拳がギュッと力を含み、顔をすっぽりと隠したフードから見える瞳は、エギルに向くことなく力強く三人を睨み続けていた。
そんな視線にすら気付かない三人は、笑いながら楽しそうに会話をしていた。
エギルはエレノアの手を握る。