裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「見て、白ウサギ!」
テントに戻り邪魔なローブを脱ぐとすぐ、三人の元には珍客が現れた。
真っ白な毛並みに赤色の瞳をした白ウサギが、律儀に入り口から侵入してきたのだ。
それを見たセリナは目を輝かせてはしゃいでいた。
「こんなとこに珍しいな。野生だよな?」
「えっと、白ウサギは人に懐かないって聞いたことありますから、誰かのペットではないと思いますよ?」
「そうなのか。それにしても、セリナは動物が好きなのか?」
妙に人懐っこい白ウサギを撫でるセリナは、昔のことを思い出しながら話す。
「私の実家が畜産農家だったんで、動物とかはよく飼ってたんですよね。まあ、主に牛や豚でしたけど、それでも動物は可愛いです。何か餌でもあげてみます」
セリナはあげられそうな食べ物を探す。
この白ウサギは人間に警戒心を抱いていないようだった。撫でても、持ち上げても、何をしても逃げていかない。
まるでここにいたいと、そう言っているようだった。
「エレノアは、動物は好きじゃないのか?」
一人無反応なエレノアに声をかけると、眉を寄せて難しい表情をした。
「幼い頃に屋敷で飼っていた犬に噛まれてから、動物は苦手なんです」
「トラウマってやつか」
「エレノアはびびりね。こんなに可愛いのに」
食べられそうな食材を持ってきたセリナ。
両手の上には米だったりトウモロコシの粒だったり、人間が好んで食べるさまざまな食材が乗っていた。
「セリナ、そんなの食べるのか?」
「ウチにいた子たちは食べてましたよ?」
それは牛とかであって、白ウサギはまた違う食べ物がいいだろう。だが、
「あっ、食べましたね! この子の好物はトウモロコシだったみたいです!」
なぜトウモロコシを選択したのか。
そして白ウサギは、セリナの手の平に乗せられていたトウモロコシの粒ではなく、小さな手を器用に扱いトウモロコシ本体を抱きかかえると、
「あっ、待って!」
そのまま走り去ってしまった。
「盗まれましたね」
「……だな。だけど好物はトウモロコシだったみたいだな」
「でしたね。可愛いかったので、もっと遊びたかったんですけど残念です」
「まあ、この辺に住んでるなら、また来るかもしれないな」
がっかりと、白ウサギが出て行った入り口を見つめるセリナ。普段と少し違ったセリナの姿を見れて満足しながら、エギルたちはハルトの帰りを待つ。
「お待たせしました」
エギルたちがテントを出てからハルトが帰ってきたのは一時間後だった。
「おつかれ、随分と長かったな?」
「ええ、このクエストの連中が集まると、どうしても時間がかかってしまうんです。ちゃんとした作戦なんて決めないのに、グダグダと拘束時間だけは長いんですよ」
「なるほどな。それで、出発はいつ頃だ?」
今日はこれで終わり、ということはないだろう。まだ昼頃だ。
ハルトをテント内に案内すると、床に古びた地図を広げた。
「今日は肩慣らし感覚で進むそうです。それと、これからは二ギルドずつペアになって四つある扉を別々に進む、という作戦をとるそうです」
「一つの扉を集中して攻めるわけじゃないのか?」
「ええ、ファビオラの意見ですが、『大勢が一緒にいたら、後ろから誰に狙われるかわからない』ということで、一緒に行動するギルドは最小限にしたいそうです」
「まあ、考えてることは理解できるが」
「ですがエギル様」
ふと、エレノアが口を開く。
「どこかのギルドが狙われたら、ペアを組んでるギルドが怪しくなりますよね?」
「まあ、そうだな。裏切り者も、ペアのギルドを狙えば自分らが疑われるのは理解しているだろうし、離れた場所にいるギルドを狙うとは思えない。連中も、安易な考えで行動してこないだろう。それでハルト、俺たちが組むギルドは決まってるのか?」
「はい、今回が初参加だという《宝剣》というギルドです」
「今回が初参加か。なら安全なギルドだな」
「ええ、他のギルドの組み合わせと、攻める門ですが──」
ハルトは地図を指差しながら教えてくれた。
北門から、エギルたちと《宝剣》という初参加のギルド。
東門から、ファビオラ率いる《断頭の一閃》と、レリック率いる《万能薬箱》。
南門から、レヴィア率いる《夕焼けの絆》と、サナとルナがいる《フェレーリル》。
西門から、このクエストのリーダーであるエグヴェイン率いるフェリスティナ王国直属のギルド《フェリスティナ騎士団》と、初参加ギルドの《海竜の夢》。
そしてハルトは準備のためにテントを出て行く。
「サナとルナは南か……」
二人とは反対側。お互いが中心エリアに到達しないと合流できない。
「気になりますか?」
エレノアに聞かれ、
「まあ、心配だな」
「えっ、他のギルドにエギルさんの知り合いがいるんですか?」
「ちょっとした知り合いがな」
何も知らないセリナは首を傾げる。そして入り口の布が開かれた。
「──それじゃあ、行きましょうか」
ハルトに呼ばれて、初めてのゴレイアス砦侵攻戦へと出発する。
エギルたちが侵攻する北門までは少し距離があり、その近くにある森林まで移動して、馬を木に繋いで徒歩で移動する。そして、北門の近くまで移動すると、
「先程のリーダー会議では挨拶できませんでしたが、僕は《宝剣》というギルドのリーダーを勤めているミカエラです。よろしくお願いしますね」
四人組の《宝剣》というギルドのリーダー、黒髪で中性的な顔付きのミカエラという男は、鎧で身を固めたハルトに手を差し出す。
ハルトは剣を左腰の鞘に戻すと、その手を握り返す。
「こちらこそ、よろしくお願いします。自分は《ウェルタニアの希望》というギルドのリーダーを勤めてるハルトです」
ミカエラという男と、その後ろにいる三人の男は友好的な者たちだと思える。
全員が20代で構成されていて、装備から察するに後衛職業はおらず、全員が前衛職業だろう。ハルトは門へと近付きながら、これからの作戦のことを話す。
「《宝剣》の皆さんは全員が前衛職ということでいいんですね?」
「ええ、後衛職業はいないです。そちらは……えっと、ハルトさんは前衛職業なのは装具から想像つくのですが、後ろのお三方の職業はなんでしょうか?」
ミカエラのクリッとした瞳が後ろを付いていくローブ姿の三人を見つめる。
服装も、装備も、何から何まで怪しい三人のローブ姿からは、その職業が何なのか予測できない。ハルトはエギルを見て、無言で返答は委ねると言っているようだ。
仲良くなれる連中だとは思う。だが、
「ハルト、お互いの職業は公表しないんじゃないのか?」
エギルたちも彼らも、このクエストには初めて来るから知らないが、このクエストにはそんな変なルールがある。それを利用させてもらいたい。完全に裏切り者じゃないと確信が持てるまで。
「ま、まあ、そうですよね……」
と、ハルトは困った表情を浮かべる。
「そんなルールがあるんですね。わかりました。ここで聞くのは止めておきます」
ミカエラも疑問に思っているようだったが、了承してくれた。
そして再び歩き出すと、隣を歩くエレノアが小さな声で話しかけてきた。
「……教えなくて良かったのですか?」
「ああ、まだな。彼らが初参加だと言っても、裏切り者がどんな連中かわからない状況だ。なら、自分のギルド以外の連中は信用しない方がいい。それに――俺の職業を教えたら厄介なことになる」
「厄介なことってなんですか?」
隣を並び歩くセリナは首を傾げた。
「俺の剣舞士は俺だけの職業、つまり、Sランクになったからこそ貰えた固有職業だ。だから職業を名乗ったら、俺は周りとは違う者だと気付かれる」
「そういえば、そうでしたね」
「それに、Aランクで上級職業のハルトがリーダーで、Sランクで固有職業のある俺がただのメンバーなのは変に思うだろ?」
「なるほど。強い者がギルドリーダーになればいいですし、数少ないSランク冒険者ですもんね。変に思っちゃいますし、目立っちゃいそうですもんね」
「ああ、そういうことだ。だから俺は――」
エギルはローブの中に手を入れ、異空間に保管している剣を一本だけ取り出す。
「当分の間は一本の剣で戦う。久しぶりだから体がなまってなければいいんだが」
「なまってないですよ。だって、私に剣の扱い方を教えてくれた時だって、実際に剣を握って教えてくれたじゃないですか」
「まあ、そうなんだがな」
教えるのと実戦とでは違うが、大丈夫だと言われたら、そうだと思うしかない。
「─―さて、到着しましたね」
前を歩くハルトたちの足が止まる。
ここは北門の前。八メートル以上はある大きな門の前に立つと、この砦全体が大きいのを実感する。
そしてハルトは振り返り、全員に伝えるように話す。
「おさらいですが。このゴレイアス砦には主に三種類の魔物が生息しています。ゴブリン種とジャイロフス種、それからドラゴン種です。ただ――奥へと進むと、おそらく魔物の種族が変わっていくと思います」
「ハルト、それは他の種族もいるかもしれないってことだな?」
「ええ、そうだと思います。このゴレイアス砦は、目の前のこの一の門の他に、二の門と三の門があるんですが、最後の三の門に到達できたことがないんです。だからその奥にはまだ、別の種族がいるかもしれないです」
最奥部である砦の中心エリアに到達し周りの魔物を討伐すれば、このクエストはクリアとなる。
だが、こういう場所に住みつく魔物は奥へ行けば行くほど手強くなる。
魔物にも上下関係があるのかは、魔物は言葉を喋らないから不明だが、強者が中心部であったり高い場所を占領するのが一般的だし、当然、魔物の種族も桁違いに強くなっている可能性がある。
「今日のとこは肩慣らしとお互いの連携の向上を目的とするので、無理はしないように進みましょう」
ハルトの言葉を受けて各々は進む。