裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
元々、砦というのは戦争のために人工的に作った施設であり、それぞれ異なる目的のエリアに分けられている。
敵の侵入を防ぐために上下左右を壁で囲み、複雑な迷路状のエリア。
砦内部で兵士たちが寝泊まりするために家屋が多く建てられている、まるで王国の城下町のような形状のエリア。
そして、砦全体を見下ろして指揮する者がいる、中心部に高々とした建物があるエリア。
先程ハルトに見せてもらった地図にも、このように三つのエリアで分けられていた。
魔物に乗っ取られたとはいえ、知能の乏しい魔物が砦の施設を上手く利用してるとは思えないが、それでも厄介なエリアではある。
「それじゃあ、開けます」
一の門を手動で開けると、侵入者を迷わせる複雑な迷路のエリアが出迎えてくれた。ハルトは辺りを見渡す。
「道順を示す印を付けているので迷うことはないと思いますので。……あっ、これですね」
高さのある壁に塗られた、赤色の矢印を指差す。
一度来ているエリアだからこそ、この道順通りに進めば迷うことなく二の門へと向かえるということだろう。
だが勿論、先へと進めば、それを阻止しようとする魔物の襲撃があるはずだ。
「来たか……」
狭い道の前方から、緑色の肌をしたゴブリンが出現する。それを見てセリナは、
「あれ、なんかピンク色の肌のもいる。エギルさん、あれもゴブリンなんですか?」
前方にいるゴブリンの群れの一体を指差して、エギルを見る。
「ああ、あれもゴブリンだ。とはいっても牝のゴブリンだがな」
「そうなんですね。初めて見ました、牝ゴブ」
「牝ゴブ……。まあ、牝のゴブリンは巣に隠れる習性があって人前には現れないからな。だけど死地では、牝のゴブリンなんて珍しくない。こうやって人前にも姿を現すんだよ」
繁殖行為にはどうしても牝が必要で、死地には牝の魔物が多く生息している。
魔物にとっては繁殖の為に必要な存在になるが、人間側からしてみれば、魔物を永遠に増やす元凶なので牡の魔物よりも邪魔なだけだ。
「よし、いくぞっ!」
と、四体のゴブリンに目を付け勢いよく走り出したハルト。
それに続くように《宝剣》のメンバーが走り出す。
「わたくしたちも行きますか?」
「いや、まだいい。狭い場所での大人数の戦闘は、どうしても仲間の存在が邪魔になってしまう」
「なるほど。じゃあ私たちは見てるだけってことですか?」
エレノアもセリナも成り行きを見守っている。ゴブリン相手なら余裕だろうし、ここで無理に全員が戦闘に参加する必要はない。だが、
「――ハルト! 今のうちに合同クエストでの連携戦闘の練習をしたい! 頃合いを見て交代するぞ!」
《宝剣》が裏切り者ではなく仲間であることを想定して、今日はお互いの連携をしっかりと組み立てたい。だから現在、ゴブリンと戦闘中のハルトに声をかけた。
ハルトも、宝剣のメンバーも、エギルの意図を理解してくれたようだ。
「了解です! ゴブリン相手だと自分らだけでも大丈夫ですが――《宝剣》の皆さんも準備はいいですか!?」
「うちらはそこまで合同クエストの経験はないので、綺麗に決まるかわかりませんが……まあ、大丈夫でしょう! 合図はハルトさんのお仲間さんに任せますが、ちょっと準備の時間を貰いますよ」
《宝剣》のリーダーであるミカエラは頷くと、周りの仲間に指示を出す。
「エギルさん、交代って、ハルトさんと私たちが交代するってことですか?」
エギルは、大きな五角形の盾で攻撃を防いでるハルトと、棍棒を振り下ろしているゴブリンを指差す。
「今、あのゴブリンの視界に入ってるのは誰かわかるか?」
「えっ、それはハルトさんですよね?」
「そうだ。だからゴブリンには俺たちのことなんて眼中にないんだ。だからいきなり、目の前の者が代わったらどうなる?」
「……ビックリしますね」
エギルはセリナの返答に「まあ、そうだな」と苦笑いを浮かべる。
「ハルトさん、うちらのギルドの準備はできました」
「了解です! お三方、こっちの準備も完了です! あとはお三方の準備ができたら自分らは避けますよ!」
戦闘を繰り広げている者たちの準備が整ったようだ。
説明するよりも実戦させた方が、セリナは覚えられると知っているエギルは、
「とりあえず走るぞ?」
そう言って、剣を握りゆっくり走り出す。
「えっ、詳しい説明とかないんですか!?」
困惑しているセリナだったが、エギルの後を追って走る。
「タイミング良く交代して、ハルトたちに狙いを定めてるゴブリンを剣で倒す。それだけだな」
「……適当ですね。まあ、わかりましたよ」
「あのー、エギル様。わたくしはどうしたらよろしいのでしょうか?」
「エレノアは、そこで待っててくれ」
「……はい」
シュンとするエレノア。そして、ハルトが大声を発する。
「それじゃあ――お願いしますよ!」
ハルトたちがゴブリンの注意を引きつけている間に、エギルはセリナに、「行くぞ」と声をかけ、セリナもそれに呼応する。
エギルたちがハルトのすぐ真後ろで構えていると、ハルトは重心を前に置き、屈み込むと、勢いよくゴブリンに圧力をかけて仰け反らせた。
そしてハルトが横へ退けると同時に、エギルはゴブリンの心臓部分に狙いを定め一突きする。
ムキュッ、と反発のある肉を貫通させる感触が手に伝わる。
ゴブリンは口から紫色の血を吐き、黄色の瞳からは生気が薄れていく。
右手に持っていた棍棒が地面に落ち、エギルは奥まで突き刺した剣を抜くと、すぐさま別のゴブリンへと狙いを定めた。
あまり説明をされなかったセリナも、《宝剣》のメンバーに「交代します!」と声をかけ、隙を衝いて刀を一気に振り上げる。
「グギュ?」
と何が起きたのかわかっていないゴブリンを置いて、セリナは別のゴブリンに狙いを定め走る。正確で無駄のない動きを見て、エギルはやはり説明はいらなかったと思う。そして一体、また一体と流れるようにセリナはゴブリンを地に伏していき、四体はいたであろうゴブリン戦は一瞬で決着を迎えた。
「うひゃー、あっという間でしたね。自分たちは初めての連携ですが、こんなに簡単だとは……」
「ミカエラさんは初めてだったんですね。ゴブリンは弱い敵なので上手くいきましたが、これからはそうそう上手くいかないので、もう少し連携の精度を上げた方がいいかもしれませんね」
ミカエラとハルトは楽しそうだ。そんな様子を見てからセリナに「やっぱり詳しく説明しなくても問題なかったな」と伝えると、
「少しは説明してくれても良かったんじゃないんですか、エギルさん?」
と頬を膨らませた。
「悪かったって」
「エギルさんはいっつも、少し教えて実践ですもんね。そんなすぐ対応できませんよ、私」
「できてたじゃないか。それに——」
「何かあったら俺が守る、ですよね?」
フードの中を覗いてジッと見つめてくるセリナは「まあ、エギルさんが絶対に守ってくれるから、私は怖がらずに戦えるんですけどね」とクスッと笑う。そんな会話をしていると、
「ふふっ、お二人は楽しそうですね」
と冷ややかな声を発したエレノア。おそらく、何の出番もなかったのが不満なのだろう。
「この戦い方はエレノアの職業には不向きだからな、悪かったな」
「いえいえ、いいんですよ? 別に……」
「そ、そうか……」
理由を伝えても、こちらも膨れっ面なエレノアはボソッと「わたくしも前衛職業であれば、エギル様に背中を預けられたのに」と悲しそうな声を漏らすが、エギルには聞こえなかった。エギルはハルトに、
「ハルト、このまま隊形を維持しながら先を進むか」と伝える。
「そうですね、ここから魔物も強くなってきますから、今のうちに連携は強化しておきましょう」
初めて組むパーティーと十分な連携を得るには十分な時間と実戦が必要だ。すぐに完璧になるとは思えないが、それでも連携の練度を上げておいた方が良いだろう。なのでエギルたちは、このまま一の門から二の門までの魔物を倒していく。