裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……どうも」
ゴレイアス砦へ向かうエギルたち四人に、新しい仲間が加わった。
「えっと、エギルさん……なんでファビオラのとこの奴がいるんですか?」
「ああ、実はな――」
フィーの加入に面食らっているハルトに、エギルは簡単に説明した。
彼女が仲間になったこと。彼女の職業が戦闘よりも支援に向いてること。動物を操って他の場所の行動を見ることができること。――そして、裏切り者を捜すのに適した人材だということ。
全て説明すると、ハルトは何度か頷き、加入に対して納得してくれたようだ。
「わかりました。裏切り者を見つけられる可能性が増えるなら歓迎です。ただ……」
だが、納得しても言いたいことはある。
そう言いたげなハルトはエギルから視線を外す。その表情からエギルは何となくだが気持ちを察することができた。
「フィーが裏切り者じゃないか、だろ?」
「……すみません。裏切り者を見つけられる可能性が上がるのは理解してるつもりなんですが、あまり他人を信用してなくて……」
「別に謝ることじゃないさ。むしろ、勝手に入れてすまないな」
「いえ、エギルさんの考えなら自分はなにも。ただ警戒だけさせていただきますね」
「ああ、それで構わない」
そう伝えると、エギルたちは門へと歩き出す。
他のギルドのメンバーであったフィーを、ハルトが簡単に信じるなんて無理な話だろう。それに彼女は、前回もこのクエストに参加していた。疑うのは当然だし、疑われる理由はある。ただエギルにも、彼女を同行させる理由があった。
それを説明するのが、ハルトの誤解を解く最も良い選択なのだろう。だがそれを説明したら最悪なことになる、エギルはそう思っていた。そして少し歩くと、
「……よし、着いたな」
五人は門の前に到着した。
おそらくは、他のギルドも別の門に到着した頃だろう。
北門にエギルたち《ウェルタニアの希望》。
東門から《万能薬箱》。
南門から《フェレスティナ騎士団》と《フェレーリル》。
西門から《夕焼けの絆》。
お互いに組むことを拒まなかった《フェレスティナ騎士団》と、サナとルナのいる《フェレーリル》以外はばらけることになった。そして歩きながらハルトに伝える。
「ハルト。今日中に二の門に到着するぞ」
「えっ、わかりました。でも今日中にですか?」
「二の門まで到着しておいた方が、俺たちの目的を果たしやすい」
「エギル様、それはどういうことでしょうか?」
一の門を通過し、進む道を示す赤印をたどりながら隣を歩くエレノアに聞かれた。
「一の門はこんな風に迷路のような形状で狭い通路になってるが、二の門からは全門が通じる広い場所に出るんだよ」
「二の門からはたしか、昔この砦内で暮らしてた住民地がある場所ですよね?」
「ああ、そうだ。狭い場所なら反撃するのが難しくなる。だから、何があってもすぐにでも対処できるように、俺たちは広い場所にいた方がいい」
そう伝えると、ハルトは、
「そういうことですか。たしかにすぐにでもここを抜けた方がいいですよね。少し急ぎますか」
と言って歩く速度を上げて前を歩く。その背中を見ながら、エギルは小さな声でエレノアに伝える。
「それに幼なじみが裏切り者に殺される前に、会って話ぐらい、したいだろ?」
すると、隣を歩くエレノアは二コリと微笑んだ。
「ええ、最後に聞いておきたいことがありますから」
聖女のような優しい微笑み。だけどエギルはそれが悲しい微笑みに感じた。
エレノアを縛ってる過去の鎖が、彼女を解放してくれない。全て断ち切るまで、エレノアはずっとこのままだろう。だから『幼なじみは裏切り者に殺されました』で終わらせるわけにはいかない。ちゃんと話して、もしかしたら――エレノア自身の手で終わらせることになるかもしれない。
だけどそれでもいい。前に進めるのなら、それでも。
過去の思い出に決着を。怨みの想いに終幕を。
エギルはどんな結末だったとしても、エレノアに明日への一歩を踏み出させたかった。それが愛する者としての――。
「とにかく、早いうちに二の門に向かうぞ」
「了解です。……っと、ゴブリンですね。どうしますか? 連携とかは?」
ハルトは足を止め、エギルを見る。
前方からは三体のゴブリン。連携を強化するというのはもう、必要ないだろう。
キシャーと甲高い声で威嚇してくるが、怖いと思うことはない。石材の床を素足でペタペタと鳴らしながらこちらへと走ってくるゴブリンに、エギルは右手を前に出す。二〇、いや一〇で十分だ。
「雑魚に構ってる時間が惜しい。一撃で葬る――無限剣舞」
瞬時に適切な本数を決め、罠を張るようにゴブリンが向かってくる足下に剣を出す。
知能のないゴブリンは、地面から出現する逆さの剣が視界に入っていたが、走り出した足を止めることなく突進してくる。
足の裏から脳天へ。剣が突き刺さって数秒はピクピクと反応してたが、その動きはすぐに止まりゴブリンの体は力なく前のめりに倒れる。
「うわ、一撃ですか……」
「ゴブリンにはな。雑魚に構って体力を使うのは勿体ない」
エギルの生み出す剣は、壊されないかぎり無限に出せる剣。雑魚相手には有効で、無駄な体力を消費することもない。
「なんか、エギルさんが強いから、ここでの私たちの出番って無さそうですね」
セリナが退屈そうに苦笑いすると、エレノアはクスクスと笑い言葉を返す。
「あら、出番が無いのはいいことではないですか? わたくしは力を使い過ぎたら、魔力切れで酔ってしまいますから嬉しいです。あれ、でも待ってください。……魔力切れで倒れたら、エギル様におんぶしてもらえますね。大変ですが、まあ、わたくしはそれでもいいですよ」
「……なんで、おんぶしてもらう必要があるのよ。魔力切れで倒れたらどっかに捨てるわよ」
また始まった。二人の謎の言い争いが。
「あら、エギル様はわたくしに優しいですから、そんなことしないと思いますよ?」
「エギルさんはね。だけど私は躊躇なく捨てるわ。それの方が色々と、これからの生活も幸せになるでしょうし」
「残念でした。『ラブラブ新婚生活』は既にわたくしがしてます。だからセリナに待ってるのは『可哀想な愛人生活』だけです」
「はあ!? なんで私が愛人になってんのよ!? 先とか後とか、そんな簡単じゃないのよ、愛ってのはね!」
「少し前まで処女だったセリナに愛を語ってほしくはありませんね。愛については――」
「――エギル」
いつも通りの二人の言い争いは、フィーの小さな声が遮った。
「……別のところに裏切り者が現れた」
フィーの平坦な声が、何故かすんなり耳に入ってきた。
だからエギルは、すぐさま走り出す。
「急いで二の門を抜けるぞ!」
エギルの後をそれぞれが走る。三人は何が起きたのかをまだ理解できていなかった。そして意外なのは、フィーがエギルの隣にぴったりくっ付いてきてることだ。
「走れるんだな」
「……逃げるのは、慣れてる」
「なるほど。それで――何処に現れた?」
フィーは動物の視界に視点を移すように目を閉じてから答えた。
「東門」
「……東か。レリックって奴らがいるとこか」
「だけど、他のギルドも変」
「変?」
フィーは普段通りだ。
怖いとか、楽しいとか、そんな感情は声色からは一切伝わってこない。ただいつもより、彼女の表情は少しだけ焦りを感じているようだった。
「それで、俺たちの近くにはいるか?」
「……たぶんいない。あ、南門のギルドにも接触した」
南門。そこはサナと、ルナがいる場所だ。