裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
そしてエギルたちは走りきり、大きくて重い二の門を開けた。
ボロボロに劣化した木材の家屋が、この砦の中心部まで立ち並び、大きな壁でグルッと囲われてる。
かなり離れた位置には、他の門を進んでいた連中と合流できそうな門が見える。そして、家屋と家屋の間の通れる道を抜けると、三の門が見える。
その先には、魔物の巣窟と化す前に築かれた大きな城のような建物が見える。その大きさは迫力があるが、あちこち石壁が剥がれ落ちて劣化してるため、あまり住み心地は良くないのが遠くから見てもすぐにわかる。
「周囲を警戒してくれ。魔物の足音も、人の足音もだ」
エギルたちは門から離れて周囲を警戒する。
「エギルさん、あの……今はどういう状況なんでしょうか?」
重鎧を着てここまで走ってきたハルトは膝に手を置き、はあはあと荒い呼吸を整えながらエギルを見る。
これ以上、ハルトに隠すのは危険だ。何が起きてるのかだけでも説明する必要がある。エギルはそう思い、
「実は」
と口を開いたが、それと同時に、
「――エギル様!」
エレノアの声が響く。
何も無いとこから出現する霧は辺りに広がる。
「チッ、ここも狙われたか。動かないで周りの物音に警戒しろ」
ファビオラが襲われた時と同じ黒い霧。そして、エギルは小さな声で聞く。
「……ハルト、この霧に見覚えはあるか?」
視界が真っ暗になる前に、エギルはハルトに聞いた。
―—あの日、全員が集まり黒い霧の話をしたとき、一番最初に反応したのはハルトだった。
この霧に見覚えがあったのはわかっている。だがハルトは、それからこの黒い霧について一切触れようとしなかった。
「こ、これは」
だが今のハルトの表情、震えた声から、この霧に見覚えがあるとすぐにわかった。
「レオナルドが……使ってた、濃霧……です」
濃い霧を発生させて敵の視界を欺く力。天候を操作して戦う職業──天候師。
やはりこれは職業の力。そして、
「レオナルドは、今もこのクエストに参加してるか?」
その質問に、辺り一面が真っ暗になってから返事が、エギルの耳に届いた。
「レオナルドは、二週間前に裏切り者に殺された――俺のギルドの仲間です」
あの日、フィーは教えてくれた。
「──フィー、裏切り者の正体は誰だ?」
「わたしの知ってる裏切り者は、人間の姿をしてなかった」
「人間の姿をしてなかった?」
「……そう」
「だが、ハルトは傷口が職業の力によるものだって言ってだぞ?」
「そう。職業の力を使ってる」
「だったら――」
「職業の力を使う魔物だった」
「じゃあ、裏切り者の正体は……」
「職業を身に付けた魔物が自我を持ってるか、何らかの方法で魔物を操る冒険者か」
「何らかの方法か……。それだったら俺の場合、初級職業である剣士から中級職業の剣術士、そっから上級職業の剣閃士で、Sランク職業の剣舞士。こんな感じで似てる職業が並ぶが、強さは全然違う。だったらそいつは、フィーの調教師からなる職業の可能性が高いか?」
「可能性としては一番高い。職業の級が上がれば操作できるモノも上がる。魔物を操作することもできるようになるって聞いたことある」
「なるほど」
「……だけど、上級職業になっても操れるのは下級か中級の魔物くらい。わたしの見た魔物はそれ以上」
「じゃあ、俺と同じSランクか……」
「うん。それに、魔物が職業を身に付けるなんて、変」
「魔物は人間を襲い、人間は魔物を襲う。言わば敵同士だ。そんな奴らに戦う術を与えようなんて思わないし、試そうともしない」
「……うん。じゃあ、魔物が何らかの方法で職業を身に付けたが正解?」
「いや、まだわからない。ただ言えるのは、魔物が自我を持っていたとしても、魔物を操って冒険者を襲う奴がいたとしても、その目的が何なのかは、そいつに確かめないとわからないってことだ。今までの歴史上、魔物が職業を身に付けたことなんて無かったはずだが――」
♦
「違う、違う違う……レオナルドは、レオナルドは死んだんだ。これは、違う……だけど、いや違う――じゃあ、誰がこれを?」
真っ暗な視界の何処かでハルトの錯乱した声が響く。
「天候師は、上級職業だから……別に、他の奴らの中にいてもおかしくない……他に、他にいても……い、いや、いなかった、あの中には、だけど、じゃあ……誰が」
天候師はマイナーな職業だ。誰もがなろうと思う職業ではない。どの下級職業からなる職業だったかすら、エギルにはうろ覚えだ。
「ハルト、落ち着け! お前の仲間はとっくに埋葬したんだろ!? だったら──」
「お、俺が……俺だけが生き残ったから、怨んでるのか!? だから俺を殺そうとしてるのか!?」
「ハルト、違う! これは──」
「許して、くれよっ! 助けられなかったんだ、俺が弱いから、だから、だから皆を死なせてしまった……だけど仇は打とうとして……俺は、俺はああああぁぁっ!」
「おい、ハルト!」
最悪な状況だ。最初に仲間の話題を出した以降はずっと落ち着いた様子だったから、多少なりとも気持ちの整理がついたものだとエギルは安心していた。
だが約二、三週間前、彼は三人の仲間を殺されたばかり。簡単には気持ちの整理はできていたわけじゃない。というよりも、この反応を予期していたから、エギルはハルトにフィーから聞いた情報を話せなかった。
——敵を前にして、恐怖と罪悪感で精神が壊れ離脱する可能性があったから。
だが今の状況はどうだ。これが予期していた最悪な展開じゃないのか?
「くそ……」
仲間三人が死んで、自分一人だけ生き残った。そして今、自分の目の前でかつての仲間の職業を使って、自分を襲ってきた。
どうして助けてやれなかったのか。
どうして自分だけ生きてしまったのか。
悔やめば悔やむほど、かつての仲間が自分を怨んでると錯覚してしまう。
それが今のハルトの心境。それに先程まで錯乱していた声がピタッと止む。
「ハルト! 聞こえたら返事しろ!」