裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
待っても、返事はなかった。
「エレノア、セリナ、フィー。無事か!?」
だから先に三人に声をかける。すると、バラバラの方向から返事が届いた。
「わたくしは大丈夫です」と右斜め後ろからエレノア。
「私も大丈夫です! 何も見えないですけど」と少し離れた前方からセリナ。
「なんとか」とエギルのすぐ横からフィー。
三人は無事だが、ハルトの声はまだしない。
迂闊に剣を振ることも、動くこともできない。
「エレノア、風の聖獣を召喚できるか?」
「大丈夫ですが、周りが見えないので皆さんに当てる可能性があります」
「極力威力は弱めてくれ。この黒い霧を風で流す程度でいい」
「わかりました」
濃霧は何処かに発生源があるわけではなく、一度発生させれば永遠に生まれる霧だ。この霧を消すには、吹き飛ばして視界を晴れさせる必要がある。そこでエレノアの聖獣の力が使える。
「風の聖鳥よ、暗雲立ち込めるこの世界を、大いなる風でなぎ払う力を与えよ──称呼──エアリアルバード!」
エレノアの声がする方向。ふわっと広がったエメラルドグリーンの光は、丸く一点に変わり、それは天高く飛行した。
「風の鳥さん、なるべく弱く、なるべく優しい風でお願いしますね」
というエレノアの頼みを聞いたエアリアルバードは、全体に温かくて心地よい風を発生させた。
普段は敵の肌を斬り刻む刃の風。その威力を弱め変えることに成功したようだ。そして黒い霧は頭上から徐々に晴れていき、次第に全体が見えるようになった。
ホッとしているエレノア。
剣を持って周囲を警戒するセリナ。
目蓋を閉じているフィー。
だが一人だけ、いなかった。
「ハルト、どこに行った!?」
ハルトの姿は近くになかった。返事もない、まさか、
「……逃げたよ」
と、フィーが小さく一言。
「……そうか。やられたわけじゃ、ないんだな?」
「そう。この子が教えてくれた」
フィーが抱きかかえてるのは、小さな黒猫。
まだ子供だろう。ただ落ち着いてる雰囲気から察するに、フィーが操作してる動物なのは間違いない。
「暗いとこでも見える猫か。それで、ハルトはどこに逃げたんだ?」
「あっち」
と来た門を指差す。
「ここを出ようとしてるのか……。まあそれでいい」
ここでハルトを責めることはできない。それに止めても彼は先に進めなかっただろう。そうすれば、エギルは彼を置いて先へは進めなかった。
「フィー、ハルトの側に置ける動物は残ってるか?」
「フェンリルくらい。他は別のギルドの監視をしてる」
黒猫はフェンリルという名前らしい。
「なら、その猫をハルトの監視に付けてくれ。それと、何か危険があったらすぐに報告してくれ」
「わかった。行って、フェンリル」
フィーは小さく頷くと、フェンリルを優しく地面に置き走らせる。
「ハルトには申し訳ないが、ここで引き返すわけにはいかない。ここで引き返せば、ハルトの望みも、エレノアの目的も、ここへ来た目的が果たせなくなる」
ハルトを心配して助けに行ったところで、彼の仲間への無念を晴らす目的は果たせない。であれば、裏切り者の正体を知り、代わりに仇を取るのが、ハルトのためにもなるはずだ。エギルはそう思い、フィーを見やる。
「フィー、濃霧を発生させた奴を見たか?」
「……見た。オーガ種だと思う」
「オーガ種か」
「エギルさん、オーガ種って朝、《宝剣》さんたちが言ってた魔物のことですか?」
「ああそうだ。だがなんで襲ってこなかったんだ……? 隙はあったと思うんだが」
視界を奪って隙はできた。ならばエギルたちを襲ってくるはず。なのに襲ってこなかった。というより、もうこの場には謎の職業の力を使った魔物はいない。すると、フィーはエギルをジッと見る。
「たぶん、顔を見に来たんだと思う」
「顔を? 俺たちのか?」
「ううん、わたしたちじゃなくて──エギルの」
「俺の? なんで俺単体なんだ?」
「……わからない。けど、エギルをずっと見てた。たぶんわたしと一緒。操作してるモノの目を借りて見ることができるんだと思う」
「俺を見てたか。理由がわからないな。だが、操作してる奴がいる、で正解か?」
「たぶん……。それと、他が危ない」
「他のギルドの連中のとこにも、謎のオーガ種がいるのか?」
「いる。急がないと、やられちゃうよ。エギルの心配してた双子も」
フィーはエレノアをジッと見つめる。
「あなたの目的の連中も」
「あら、わたくしの目的もご存知なんですね」
「ずっと見てたから」
二人はまだ全くと言っていいほど話してない。なので会話という会話も、これが初めてだろう。エレノアは目蓋を閉じて嘘くさい笑顔をフィーへ向ける。
「ずっと、ですか。ストーカーのセンスがありますね」
「……得意分野」
「素晴らしい得意分野です。その得意分野に今は感謝しております」
会話から何か推測できたわけではないが、おそらく二人の中で解決したらしい。
「フィー、怪しい行動をしてる奴はいるか?」
「……いない。東門は戦闘中。西門は劣勢。それと南門の二ギルドは先に進むことを決めたらしい」
東門にレリック。西門から進んでいるのは、エレノアの幼なじみのいるギルド。南門がサナとルナ、それに王国直々のギルドがいる。エギルは少し考え、
「よし、西門から進むぞ。……いいな、エレノア?」
助けるわけではない。
全てを終わらせるために向かうだけ。
そしてこの質問は、エレノアの覚悟を聞くためだ。
「心配してくれてありがとうございます。ですが大丈夫です。やっと……やっと、終われます」
「……ああ、そうだな」
エレノアは笑った。
いつもは笑顔から喜怒哀楽が読み取れるのだが、今だけは全くわからない。
嬉しいのか、悲しいのか。はたまた会うのが怖いのか、憎悪の気持ちで一杯なのか、エギルには何もわかれなかった。
「よし、行くぞ」
だからそれ以上は何も言わず、エギルは走り出す。
愛する彼女の、決着の場所へと——。