裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
桃のような瑞々しいピンク色の髪を卵形の輪郭に沿わせ、いつも笑顔が絶えない明るい性格。
年齢は一九とエレノアのひとつ下だが、落ち着いた雰囲気に周りをよく見れる性格で、かなり大人の印象を与える。
「エレノア……助けて」
だが今の泣きながら助けを求めるセリナは、どこか弱々しかった。
共に奴隷商人のとこにいたころから、『大丈夫だから』と言って同じ奴隷を勇気付けてくれた彼女の姿は、そこにはなかった。
エレノアは奴隷商人に近づく。
「彼女と話をさせてもらってもよろしいですか?」
「お前はたしか……この前までいた奴隷か? はっ、奴隷が奴隷商人に何を言いだすんだよ」
「もうあなたの奴隷ではありません」
「だからどうした? じゃあなおさら、お前には関係ねぇな。とっとと失せろ」
奴隷だから下に見られるのは当然だ。
このままでは話すらできない。言うか言わないか、エレノアは迷ったが。
「わたくしのご主人様のエギル様に言いますよ?」
「エギル……? あの金持ちの野郎か、だからどう──」
「Sランク冒険者を敵に回すのですね?」
「え、Sランク!? だが……」
「エギル様はわたくしを愛してくれてます。わたくしがあの方に言えば、あなたなどすぐに消してさしあげますよ?」
「っ! そんなの……本当かどうか」
「試してみましょうか?」
奴隷具で縛られていない今なら、ずっと殺さないで我慢してきたこの者を殺すことはできる。冒険者であるエレノアなら楽勝だ。だが争えばエギルに迷惑をかけてしまう。だからあまりしたくはなかったが、エギルの名前を使った。
そして、奴隷商人は何も言わず、セリナから離れた。
「セリナ、大丈夫ですか?」
その場に座るセリナのもとへ駆け寄るエレノア。そしてセリナは震えた手を伸ばした。
「エレノア……私、怖くて」
「何があったのです?」
「あの人に引き取られたんだけど、何回も暴力を振るわれたの」
指を差した相手は、先程まで奴隷商人と言い争っていた貴族だと思われる身形の者。
優しそうな顔付きで、「彼女は僕の奴隷だ! なのにどうして君は彼女を奪うんだ!?」と、セリナの事を大切に思っている雰囲気はあるが、「僕のモノを奪うな!」と叫ぶ姿を見て、エレノアはモノ扱いしてることに気付いた。
エギルはモノではなく一人の女性として接した。それが普通かどうかなんてわからない。だがそれが、人間的扱いなのは当然のことである。
そして、エレノアの手を掴むセリナの手は震えていた。
「あの人は悪魔よ。優しい顔をして、何度も、何度も、私を殴ってきたの」
「それって……」
「だから逃げたの。隙を付いて監禁部屋から逃げたの。これなら死んだほうがマシだと思って。だけどあの人──セブレスチャフ伯爵は殺さないで私を追ってきたの」
「逃げてる途中で、あの奴隷商人に会って奴隷具の上書きしたのですね?」
セリナはコクリと頷いた。
セブレスチャフ伯爵ということは、どこかの王家に連なる者か名高い家柄の出ということだろう。
「彼がここまで追ってきたのですね?」
「……う、うん。エ、エレノア……私、私……」
「大丈夫です。大丈夫ですから……」
「おい、そろそろこいつがうるせぇから帰りたいんだが?」
セリナを抱きしめていると、奴隷商人はセリナの元主を指差しながら言う。
「セリナ、元主にされたのは、殴られただけですか?」
「う、うん。脱がされそうになったけど、その前に逃げたから」
「そう。わかりました」
エレノアは立ち上がると、奴隷商人に近付く。
「彼女はまた、奴隷オークションに賭けられるのですよね、それはいつですか?」
「……色々な手続きがあるから、早くても今月の三週目だな」
「三週目、ですか……」
奴隷オークションは月に四回、週に一度、開催される。
三週目の開催日は、今日から数えて七日後だった。
「……それまでは、セリナに手出しはしませんよね?」
「さあな、もしかしたら手懐ける為に──」
「しませんよね?」
睨みつけると、奴隷商人は一歩後退した。
「わ、わかってる。俺は売り物には手を出さねぇよ。お前だって知ってんだろ」
「はい。知っております」
エレノア以外には手を出していたことを。
そしてもう一度、エレノアはセリナの耳元に顔を寄せる。
「セリナは処女ですか?」
「えっ……うん。そうだけど」
「それは奴隷商人も知ってますか?」
「……うん、怖くて、教えたの」
処女は値段が高い。それが奴隷売買では当たり前だ。
「もし、購入した後に彼女が処女ではなかったら……それは規約違反ですからね?」
「ああ、わかってんよ。てか、もしかして購入する予定なのか?」
「……」
奴隷具を外せるのは所有権のある者だけ。
この場で奴隷商人を殺せば、奴隷具に組み込まれた魔術がセリナの命を奪ってしまう。
そして助ける方法は所有権を誰かに移行する──つまり競り落とすのみ。だけど、エレノアにはそんなお金はない。彼女も奴隷なのだから。
──エレノアは泣き虫ね。私が守ってあげるから安心して。
──大丈夫。私の命を賭けてでも、エレノアのことは守るからね。
そう言ってセリナが勇気付けてくれたからこそ、エレノアはこうして生きている。
セリナに助けられて、エギルに助けられた。
だから今度は自分がセリナを助けたい、そう思った。
そして助けるには、どうしてもエギルの助けが必要だった。
「まだわかりませんが、必ずセリナは取り返します」
「ほぉ、じゃあ参加するかもってことだな。まっ、俺は競り合ってくれた方が貰える額が増えていいがな」
「競り合う?」
「君は僕の邪魔をするのだな」
セブレスチャフは先程までの優しい表情から一変、ゴミを見るような冷たい目でエレノアを睨む。
「絶対に僕が競り落とす。僕は彼女が気に入ってるんだからな!」
そう言い残して、セブレスチャフはこの場を去っていった。
「セリナ、もう少しだけ……もう少しだけ待っててください。必ず助けますから」
「エレノア……うん、待ってる。だからお願い、助けて」
「ほら、行くぞ!」
「乱暴なことはしないでくださいね!?」
「チッ、わかってんだよ。……主に媚びを売って気に入ってもらった分際で偉そうに」
そう言い残して、奴隷商人と、助けを求めてくれたセリナは何処かへと向かう。
──主に媚びを売って気に入ってもらった。
他人から見たらその通りだ。今のエレノアはエギルの名前を勝手に出して優位に話せたが、ただの奴隷だ。
主であるエギルがいなければ、エレノアは何もできない。
そう思い、空を見上げた。
「強くなりたい、ですね……」
他にも苦しんでる奴隷は沢山いる。そんな奴隷を助けられるような力が欲しい。
「ですが力が無いのは理解しています。だからまず、セリナを助けられるように頑張りましょう」
エレノアはどうすれば助けられるかを考えながら、エギルと暮らす家へと戻っていく
「ただいま」
「おかえりなさいませ。エギル様に、お願いがあります」
家中に香る美味しそうな匂いを感じたエギルは足を止めた。
その表情は驚いているようであったが、その驚きは裸エプロンで土下座をする自分の姿を見てだとすぐにわかった。
「どうしたんだ?」
「実はですね……」
エレノアは口ごもる。
この選択が正しいのかなんて、エレノアにはわからない。だがセリナを助けるには多額の金が必要になる。だがエレノアは無一文だ。助けてとお願いする代償を何も払えないと思った。
「どうしても、エギル様に競り落としていただきたい奴隷がいるのです」
エレノアはセリナの事を全て説明した。
そして、どうかセリナを競り落として彼女を救ってくださいと。
すると、優しかったエギルは冷たい表情に変わってソファーにドカッと座った。
「つまり、俺に金を出させて、その奴隷を競り落とせということか?」
「は、はい……どうか、お願いします」
「そして、お願いを聞いてくれたら何でもします。そういう理由で、その格好なのか?」
「わたくしには、エギル様の役に立てるものがありませんから……」
なるほどな、とエギルは言って、ズボンとパンツを脱ぐと、冷たい視線をエレノアに向けた。
「そういう女は嫌いだ。大切な体を使って媚びを売る女はな。だが、お前がそうしたいならそうしろ」
「エ、エギル様、わたくしは……その」
「ほら、どうした? 媚びを売りたいんだろ?」
エギルの怒った表情を初めて見たエレノアはあわてふためきながら、エギルへと近づく。
そして彼が怒ってることはすぐにわかった。
「お、怒ってらっしゃいますか? わたくし、何か悪いことをしてしまいましたか!?」
「所詮は奴隷か。普通の恋人の関係を望んでいたのは俺だけか?」
「それはわたくしもです! わたくしもエギル様を心の底から愛しています、ですが、わたくしにはお願いを聞いてもらって払える対価がありません……」
「対価? 愛した女の頼みを聞くのに対価が必要なのか?」
その言葉に、エレノアは何も言葉を返せなかった。
「愛した女の頼みなら何でも聞いてやる。周りから甘いだとか馬鹿だとか言われてもな。だが、そんな交換条件を出されて聞いてやるつもりはない。だが抱いてもらって金が欲しいなら、お前をそういう女だと思って接してやる――そんなお前を、これから先も愛することはないだろうがな」
その言葉を聞いて、エレノアの目から涙が溢れ出した。
エギルは、エレノアの考えた馬鹿な方法に呆れているのだろう。交換条件なんて、エギルに――愛し合った者同士には不要だ。冷静に考えればエレノアだってわかることだ。
だがいつからか、世界は残酷なのだと、自分はそうしなければならないのだと、物事を交換条件ありきで考えるようになっていたのかもしれない。
エレノアはエギルの隣に座って頭を下げた。
「奴隷として苦しんでいるわたくしの友人を助けてください。何もお返しできませんが、一生あなたを愛すると誓ったわたくしの、心からのお願いを聞いてください」
「最初からそう言え……エレノア。俺はお前の頼みは何でも聞いてやるつもりだ。愛した女なんだからな」
「はい。わたくしも、愛しております」
「それと、自分自身を安くみるな。お前は俺が、一目惚れした相手なんだからな」
エギルの大きくて温かい手が、エレノアの濡れた頬を撫でる。
「申し訳ありません……エギル、さま」
そう言って唇を寄せると、エギルは応えてくれた。
熱く、激しい。それでいて優しいキス。舌を出すと、エギルの舌が絡んでくる。お互いが何度も舌を合わせると、涎がポタポタと落ちる。だけど気にすることなく求め続けた。
そして、エレノアは本気でエギルを愛している……それがわかると、昨日のような熱いモノが欲しくなった。
だからお互いに触れさせていた舌先を離すと、トロットロになった瞳で求めた。
「エギル様、わたくし……」
だがエギルは立ち上がる。
「ほら、わかったら服を着ろ。折角エレノアが作ってくれたご飯が冷めるだろ」
「えっ、でも……いえ、わかりました。服を着てきますね」
――このまま欲しい。
そんなことは言えないエレノアは、自室として用意された部屋へと向かいながらボソッと、
「……わたくしの方が、エッチですね」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、なんでもないですよ」
疼いて仕方ない下腹部を撫でながら、服を着に部屋へと向かう。
「必ずわたくしが調教してみせます。わたくしのことを一日中でも犯してくれるような、ドSなエギル様に……」
エレノアの小声の宣戦布告は、エギルには届かなかった。
「それで、そのセリナって子のオークションは七日後なんだな?」
目の前に座る黒ドレスを着るエレノアはスープを飲んでから頷く。
「はい。ただ……処女だということなので、少し値が張るかもしれません。それに、競ってくる相手が確実にいますので」
「元主の奴か」
1300万ゴールドを支払って競り落としたエレノアを超えることはないだろうが、それでも、『必ずモノにする!』とはっきり宣告してる奴と張り合うなら、かなりの金額は覚悟するべきだ。
「やっぱり難しいでしょうか?」
エレノアは不安そうにしながらエギルを見つめる。
はっきり言って難しい。エギルの全財産は400万、エレノアを落札した際に必要最低限の金は使ってしまったのだから。だが、
「いや、問題ない」
ここで難しい顔をしていても、エレノアを困らせるだけだ。それにカッコつけたなら最後までカッコつけたいと、エギルは思い間を空けずに答えた。
「足りない分は稼ぐしかない……エレノア、ご飯を食べたらクエスト受注所に向かうぞ」
「かしこまりました。受けるクエストのランクを聞いてもよろしいでしょうか?」
「ランクか……」
エレノアの冒険者ランクがC。だとすれば、エレノアの安全を考慮するならCランクか、無理してもBランクだろう。
ただ、幾ら使うかわからない奴隷オークションのことを考えるなら、平均で千万ゴールドほどの報酬が貰えるSランクのクエストが理想だ。
がしかし、Sランククエストは一週間以上から一ヶ月くらいの長期クエストしかない。
おそらく、今日から向かっても奴隷オークション当日に帰ってくるのは不可能だろう。
Cランククエストなら半日か、長くても一日で終わる。Cランククエストをクリアしても1万ゴールドから5万ゴールドくらいしか報酬として出ないが、それがいいだろう。
エギルは少し考えてから選択する。
「ランクは不問で、エリア受注をするか」
「エリア受注ですか? たしか比較的近い場所のクエストを一度に沢山受けることでしたよね?」
「ああ、それなら一々クエスト受注所のある村や街に戻ることなく、クエストを受け続けられる。そうすれば、別々のクエストを同時に進行できる」。
「ですが、エリア受注をするのは危険が多いので、クエスト管理者の承諾が必要だと前に聞いたことがあるのですが?」
「その承諾をしてくれる知り合いがいるから問題はないだろう。後は、エレノアが付いて来れるかどうかと、野営に否定的ではないかどうかだな」
冒険者なのだからクエストに否定的ではないはず。だがエリア受注は長い期間、家には帰れない。なのでテントを張って外で寝泊まりする必要がある。
お姫様が嫌がらないか――そう思ったが、エレノアはにっこりと微笑み答えた。
「足手まといにならないように頑張ります。それに野営は大歓迎です。野外プレイも、わたくしの憧れの一つですから」
「野外プレイ? クエストのことか?」
「いえ、何でもございませんよ。では、準備しますね」
ニッコリ微笑むエレノアは、そのまま食器を片付けにキッチンまで向かう。
◆
「そういえば、エギル様は武器などはお持ちではないのですか?」
「ん、まあな」
クエスト受注所へ向かいながら、隣をぴったりとくっ付いて歩くエレノアは、身軽なエギルを見て首を傾げた。
服装は防御に特化した服装とはいえないし、決して鎧のような金属類の重みはない。強いて言うなら、厚着だが普段から着用する服と変わりない格好だ。
「俺の職業は剣舞士だからな」
「剣舞士ですか? あまり聞いたことないですね……」
職業には初級、中級、上級の三段階あり、それは冒険者ランクが変われば級が上がる。そして冒険者の力も底上げしてくれる。
「わたくしの聖獣師は召喚士の中級ですから、剣舞士は剣士の上級職業ですか?」
「いや、剣舞士は剣士の上級職業のさらに上だ。要するにSランク冒険者のみに与えられる職業みたいな感じだな」
「えっ、初めて聞きました」
「あまり知られてないからな。エレノアもこれ持ってるだろ?」
エギルは懐から赤色に光る宝石を取り出すと、エレノアは青色の宝石を取り出した。
「職業の力を発揮するのに必要な聖力石ですね」
「ああ、これを冒険者カードのランクがSになった時に《神の湖》に沈めると、新しい力を授けてくれるんだよ。さて、到着したな」
エギルが足を止めたのは、大きな木製の造りであるクエスト受注所の建物。
二人は中へ入っていく。そしてエギルはいつも担当してくれる男を捜す。
「おい、ハボリック」
「ん? ああっ、旦那、お久しぶりです!」
爽やかな顔立ちのハボリックは、エギルを見るなり屈託のない笑顔で両手をぶんぶんと振っていた。
ハボリック・メッフェスはこのクエスト受注所の職員だ。
端正な顔付きに、サラサラした金色の髪にスラッとした体型の一七〇ほどの身長。いつもニコニコと笑顔で接していて、明るい雰囲気があって男女問わず人気のある職員だ。
「もう、旦那! どうしてずっと来てくれなかったんですか?」
「いや、五日前に来ただろ。それに前回のSランククエストで疲れたから、少し休みたかったんだよ」
「まぁ、そっすよね」
そして何に対しても軽く能天気な性格な男だ。
ハボリックは、隣にいるエレノアがエギルの腕を組んでいるのに気付くと、目を大きく見開いた。
「だ、旦那!? こ、この綺麗な女性は誰ですか!?」
「ああ、彼女はエレノアで──」
「エギル様の妻です」
エギルの言葉を遮るように、ニッコリとした笑みを浮かべたエレノア。彼女を見て、ハボリックは口をパクパクと開閉しだした。
奴隷というのを伏せてくれるのは有り難いが、こうもはっきり言われると困ってしまう。それに、昔からエギルのことを知っているハボリックには、エギルが結婚するなんて信じられないのだろう、エギルが困っていると、
「自分がここで働きはじめた頃からの付き合いですが、まさか旦那に奥さんができるとは……いやぁ、おめでとうっす」
「……ありがとう」
ハボリックとは二つしか年齢が変わらないが、それでもいかつい見た目から、エギルの方がかなり年齢が上に見られる。
二人は冒険者になってから四年後、つまり二十二才の時に出会ったのだが、その日からハボリックはエギルのことを『旦那』と呼ぶ。
「それより、今日はハボリックに頼みがあってきたんだ」
「頼みとは仕事の事っすか? でも、誰も受注していないSランククエストはあったかなぁ……」
「いや、今回はエレノアと一緒で、一度に多くのクエストに受注したいんだ。だからエリア受注を頼めるか?」
「なるほど、そういうことでしたか。じゃあ、エレノアさんの冒険者ランクはどれほどで?」
「Cランクですね」
「なるほどなるほど。旦那、場所はなるべくこのクリシュナの街付近がいいですか?」
「七日後にこっちで用事があるからな。できればこの付近か、それか七日後にちゃんと帰ってこれるクエストで頼む」
「ふむふむ、了解っすよ。では少し待つっす!」
ぴゅーんと職員しか入れない部屋へと入っていくハボリック。