裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エレノアは全身を隠していたローブを脱ぎ捨て素顔を晒す。すると三人は、まるで死者を見るかのように青ざめさせた。
「エ、エレノア、なのか? ……どうして、お前が」
「モルドレット、嬉しいですね。わたくしのことを覚えていてくれたんですか? 三人に奴隷商人へと売られましたが、帰ってきたんですよ? ほら、クルドも、ムスリナも、もう少し喜んでくださいよ」
その言葉にムスリナ、モルドレット、クルドは、
「えっ、その……そ、そうなんだ、エレノア。良かった、ねっ……えへへ」
「あ、ああ、よかった、よな……? なっ……? はは、ははは」
「そう、だね……ふふ、喜ぶべき、だよね。ふふ」
引きつった笑みを浮かべた。
だからエレノアも、エギルには見せられない憎悪しかない笑顔で、
「なにがおかしいの?」
冷めきった声を投げかけた。
この日、この場所で、エレノアの顔を見るまで、彼女との記憶は綺麗さっぱり消してたのだろう。それが許せなかった。エレノアは今日までの間、一度たりとも三人の顔も、三人の声も忘れたことがない。なにせ忘れようとしても、思い出してしまうのだから。泣いてるときも、悲しんでるときも、笑ってるときも——いつだって三人が自分に奴隷具を付けたあの表情が浮かぶ。
だから苛立つ。そしてなにより、エレノアの存在を無きものにしたのに、まだその『ギルド』の名前を使ってるのが許せなかった。
「《夕焼けの絆》。昔はAランク冒険者がいなくてもギルドを設立できましたから、弱かったわたくしたちでも自由にギルドを設立できましたよね。そこで──わたくしたち四人で見た綺麗な夕焼け空から、そのギルド名を取ろうと──わたくしが、そう言いましたよね?」
「エ、エレノア……あのね、それは」
「全て終わらせて頂きます。新しい幸せな未来の為にも」
ムスリナの言葉を遮るように、エレノアは詠唱を始める。攻撃に必要な詠唱。昔の親友を殺すための詠唱。
「エレノア、話を聞いてよ!」
風の聖獣エアリアルバードがムスリナを狙う。
縦に伸びた鋭い風の線を一本、二本と放つが、ムスリナはそれを軽々避ける。彼女の職業は盗賊。その職業の特徴とする歩力で移動速度を上げてるのだろう。外したエレノアは、手を止め三人を見つめる。
「何を話してくれるのでしょうか? 過去にわたくしにしたことについて、何か言いたいことがあるのですか?」
「そ、そうなの、あれは……私たちが計画したことじゃないのよ!」
「では、誰に命令されたのですか?」
「それは……」
「サリエラお姉様ですか? それともミーシアお姉様ですか?」
「……」
三人は俯く、図星のようだ。
「では、どちらが命令したのですか? それと、なんのためにですか?」
「それは……」
尋問のように淡々と、エレノアは三人に問いかけ続ける。するとモルドレットが、
「エレノア! 無事だったなら昔のことはもう水に流そうぜ!? なっ? 俺たちはそうしないと、父さんたちに迷惑をかけちまうとこだったんだよ」
そして一歩、また一歩と近付いてくる。
「確かにエレノアの言う通り、お前の二人の姉さんに命令されたよ。だがな、俺らだって苦しかったんだ。そうだろ? ずっと友達だったお前を奴隷商人に売るなんて辛いに決まってんだろ。なあっ、二人もそうだったよな?」
「そ、そうだよ。僕たちだって辛かったんだ。だけどそうしないと君のお姉さんは、王国の騎士として働いてる僕たちの両親をクビにするって言ったんだ。だから無理矢理、そう、両親を助けるために仕方なくしたことなんだ」
「そうなの。私たちだって悩んでたのよ。悩んで悩んで……だけど、仕方なかったの。だからお願い、もう仲直りしましょう」
「……仕方なく」
「えっ?」
仕方なく、友達の人生を潰すのか?
そう聞き返そうとしたが、エレノアは止めた。嘘に嘘を上塗りされるだけだ。
だからエレノアは、こちらへ歩み寄ってくるモルドレットと同じく前へ歩む。
「では、仲直りをしましょうか」
笑顔でそう言うと、引きつった笑みを浮かべていた三人は、わかりやすく安心しきった明るい笑顔に変わる。
「それでは、昔のように手を中心に置いて、エイエイオーって、やりましょうか?」
「あ、ああ、そうだな! やろうぜ、久しぶりによ!」
「——では、武器をそちらに捨てて下さい」
そう言うと、三人の表情は一瞬にして強張る。
だがエレノアは止まらない。足下の朽ちかけたレンガ道を歩けばコツコツと音が鳴り、一歩、また一歩と近付くと、三人は少しずつ後ろへと下がっていく。
「どうしたのですか? ……昔は、武器なんて持ってなかったじゃないですか」
「そ、そうなんだが」
「えっと、僕たちは……」
「武器を持ちながらでも、いいのかなってね。あはっ、あははっ」
モルドレットは黒い剣を持ち、クルドは魔術師として大切な杖を持ち、ムスリナは短剣を両手に持つ。誰もその武器を離そうとはしない。
「友達と仲直りするのに——武器が必要なのですか?」
その言葉が決め手となった。
三人は顔を見合わせ、一斉にエレノアへと走り出す。
「「「ウアアアァッ!」」」
モルドレットが剣を振り上げ、その後ろに短剣を逆手に持ったムスリナが、クルドはその場で魔術の詠唱を始める。
「ああ……嬉しいですね」
最後の最後まで──醜い三人でいてくれて。