裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「──本当に、すいませんでしたああっ!」
エギルの家に男の声が響く。
それはエギルに『ゴレイアス砦侵攻戦の裏切り者』のクエストを依頼し、元仲間の職業に襲われ逃げてしまったハルトの声。
彼はエギルに会いに来て数時間、頭を上げることなく土下座を続けていた。
「ハルト、別に俺は気にするなって言ってるだろ? それに、お前の心境を考えなかった俺も悪いんだしな」
「そっすよ。旦那はそんなこと、いちいち気にするような人じゃないっすよ」
ハルトに付いて来たハボリックも困り顔でそう言うが、
「いや、駄目なんだ! エギルさんたちに大変な役目を任せておきながら、自分だけ怖くて逃げて、簡単に許されちゃいけないんだ! エギルさん、自分を好きなだけ殴ってください!」
「いや、だからな……」
エギルとハボリックが困り顔をするが、ハルトは「殴ってください!」の一点張りだった。おそらく彼自身が、このまま許されてはいけないと思ってるのだろう。元仲間への罪悪感は薄れたが、代わりにエギルたちへの罪悪感が生まれてしまった。
収拾の付かない状況。かといってエギルがハルトを殴っても意味はない。
「ハルト……」
だからエギルはおでこを何度も床にぶつけるハルトの肩に手を置き、
「俺はお前を殴らない。お前は何も悪いことしてないんだからな。もし俺も同じ立場だったら、逃げてたかもしれない。だから顔を上げてくれ」
「エギルさん……」
そしてエギルは、涙と鼻水を垂らす彼に笑顔を向ける。
「どうしても償いをしたいって言うんなら、そうだな、美味い酒でも奢ってくれよ。それで俺は十分だから。なっ?」
「エギル、さん……は、はい! ありがとうございます! 自分の知ってる美味しいお酒をいくらでもご馳走します!」
「──堕ちましたね」
エギルとハルトの熱い展開──ハルトがエギルに心から心酔した瞬間を見つめながら、エレノアはボソッと呟く。それに対してその光景を共に眺めていたセリナも、
「うん、あれは絶対に堕ちたわね。瞬殺よ」
と、ハルトの心を覗いたかのように断言した。
リビングで見てる女性陣たちは、エギルたちとは少し離れた場所におり、この光景を終始観察していた。そして結果、ハルトがエギルに恋をして終わった。
「俺はハルトたちと出るが、五人はどうする?」
エギルにそう聞かれるが、五人は首を横に振った。
おそらくだが、これからエギルたちは酒場へ向かいお酒を呑むのだろう。そしてその人数は三人だけではなく増えていく。ゲッセンドルフや他の冒険者。男ばかり。そんな輪に入ることは五人にはできないし控えたい。
五人が遠慮すると、「エギルさん、エギルさん!」と、まるで恋した女性のようにエギルの名前を口にするハルトと、苦笑いを浮かべるエギルとハボリックは家を出て行く。
「なんだか、台風のようでしたね」
エギルたちがいなくなりため息をつくエレノア。それにセリナも同意する。すると、ソファーに座ってコップに入った飲み物をストローで飲んでいたサナが不思議そうに首を傾げる。
「エギルさんってさ、よく男の人に囲まれてるよね。モテモテ? そんな感じ」
「まあ、そうですね。エギル様も言ってましたが、同性にはモテるそうですよ。少ないとは言ってましたが、ファンのような存在もいるそうです。同性ですが」
「そうなんだ。たしかに、ここにいるあたしたち五人以外の女の人から声かけられてるとこ見たことないよね?」
サナの言葉に、エレノアとセリナは目線を上げ考える。ない。異性から声をかけられることは。それは外でエレノアとセリナがエギルの両側に密着して歩いてるというのも理由の一つとしてあるが、エギル一人のときでも声をかけられてることはない。
おそらく理由は、
「顔が怖いから、でしょうかね……」
「それしかないのかな。私も最初は怖い人かと思っちゃったし」
エレノアとフィーはそこまでエギルについて怖いと思わなかったが、セリナやサナとルナは、第一印象では怖いと思ってしまった。目つきが特に。すると、
「……理由は、それだけじゃない」
黒猫や白ウサギを膝に乗せ遊ばせていたフィーが言う。
「フィーさんは何か知ってるのですか?」
そうエレノアが聞くと、彼女は小さく頷く。
「……情報収集は得意分野」
そう、ドヤ顔で答える。膝に乗せたペットと家中を飛び回るペットに頼んだのだろう。四人は、そのフィーの情報に興味を示す。
「エギルが女にモテない理由は、二つある」
「二つですか。そうですね……二つということであれば、あの鋭い目で見つめられただけで女性なら軽くイってしまうような最高なドSご主人様感と、屈服させてからお尻を叩いて快感を得そうな肉体美でしょうか。あっ、どちらも素敵な部分でした。それ以外となると難しいですね」
「……エレノア、それ褒めてるの?」
「え? 褒めてますよ、何を言ってるのです、セリナ」
「……周りを見てみなさい。それを褒めてるとは誰も思ってないわよ」
そう言われエレノアは他の三人の表情を見る。その表情は少し引きつっていた。
「おかしいですね。女性ならエギル様を見ただけで絶頂してしまうと思うのですが」
「……それは、エレノアだけよ。それでフィー、この変態は放っておいて理由は?」
エレノアがセリナに頬を膨らませて抗議してるが、フィーはそれを無視して話を進める。
「……一つは顔。見た目が怖いから、みんな脅えて声をかけない」
「まあ、優しい中身を知らなかったらそうよね。それで、もう一つは?」
「……もう一つは、エギルの周りの人が悪い」
フィーの言葉に各々が疑問符を浮かべる。
「え、周りって私たち? 別に何もしてないんだけど?」
「そうですね。特に威嚇してるつもりはないのですが」
「……ううん、ここにいる五人じゃなくて、エギルを慕う男冒険者たちが悪い」
「それは、ハボリックさんやゲッセンドルフさんたちですか?」
「エギルは別に普通にしてるけど、周りの男冒険者はエギルが女嫌いだと思っていたらしい。だから寄り付かないように、近くにいる女を威嚇して、次第と女が近付かなくなったって」
「エギルさん、可哀想です。被害者、ですよね? そのことを、エギルさんは知ってるんですか?」
ルナの言葉に、フィーは首を横に振る。
「知らない。知ってても周りが良かれと思ってやってるから、何も言わないと思う。陰で〝漢の王様″って呼ばれてるのも、知らないはず」
「うわ、変な呼び名。じゃあ、今も男たちを連れて呑みに行ってるから……」
「完全に──」
セリナの考えに、エレノアは腕を組み、にっこりとした笑みで答える。
「屈強な男冒険者たちを美味しく喰らってると思われてるでしょうね」
セリナは立ち上がり「知らせないと」と言うが、それをエレノアは止める。
「教えても意味はありませんよ。エギル様は周りからそう言われてると知っても他の方々と交友関係を断つことはありませんから」
エギルが周りから何と言われていたとしても、それを止めることはない。彼にとって他の男冒険者たちとの交友は、生活の一部であり人生の楽しみなのだから。
「それに」エレノアは膝に手を置き、
「他の女性が寄り付かないことは、わたくしたちにとって良いことではないですか」
そう言った。そしてそれに各々が納得して、この話題は終わった。
すると突然、サナが「あっ!」と大声を出した。
「今日の夜ご飯の当番、あたしとルナだった。食材まだ買ってなかったよね」
「あ、そうだった。エギルさんに何が食べたいか聞いてないね」
サナとルナとフィーが来てから、日々の食事当番は交代制になった。そして今日の担当はサナとルナ。
「昨日のセリナさんも一昨日のフィーさんも、その前のエレノアさんもお肉料理だったから……エレノアさん、今日は健康面を気にしてお魚料理か野菜料理がいいよね?」
「順番的にはそうですが……」
エレノアは頬に手を当て、クスッと笑う。
「エギル様、お肉以外だと少しだけ不機嫌になりますからね。ふふっ」
「なっ!?」
サナとルナは、ソファーに座るセリナとフィーを見る。
「……もしかして、それ三人とも知ってた? 知らないの、あたしたちだけ?」
その問いかけに二人は、
「交代制になったおかげで、無理に魚料理と野菜料理を出さなくなって助かったわ」
「……情報収集は得意分野」
そう、勝ち誇った表情をしていた。その三人の表情を見てサナは眉間に皺を寄せ、
「あ、あたしたちにだけ損な役割を押し付けたのっ!? ズルい! あたしたちだって喜んでほしいのに!」と、そしてルナは悲しそうな表情で訴える。
「ひどい、です……。教えてほしかった、です」
その表情を見て、セリナは笑いながら二人に謝る。
「ごめんごめん。私たちも隠してたわけじゃないのよ。ただ聞かれなかったから、二人が初めての当番の日に言おうとしてたのよ」
「……じゃあ、どうしたらいいの?」
「お二人には、エギル様の好みの料理について良いことを教えてあげます」
エレノアがにっこりと伝えると「「良いこと……?」」と、二人は首を傾げる。
「ええ、エギル様はお肉の中に野菜を入れたり、見えないようにすれば食べても気付きません。そうしたら健康面は問題ないですよ」
「え、なにその裏技。それで誤魔化せるの?」
「大丈夫です。言ってしまえば昨日も一昨日も、その前の日もそうしてましたから」
エレノアの言葉を受けて、サナとルナは驚くように口をポカンとする。
「そうだったんだ。全然、あたしたち気付かなかった」
「ただ──」
「──あ、急がないと調理が間に合わない! エレノアさん、それやってみるね。行くよ、ルナ!」
「あ、待ってよ、サナ。お財布、忘れてるから!」
「サナさん、まだ話は途中で……あら、行ってしまいましたね」
この方法を取るにあたっての大切な注意事項を聞かず、二人は急いで家を出て行ってしまった。エレノアは困り顔で頬に手を当て、
「お肉の中に野菜を忍ばせてるのがばれたら、エギル様、余計ムスッとすることを伝えたかったのですけどね……」
「んー、隠した野菜が大きすぎたらバレちゃうから細かく刻むとか、他にも伝えておかないといけないことあったんだけど。まあ、帰ってきたら教えよっか」
「そうですね。後でフォローしておきましょうか」
「……なんだかエギルって、子供みたい」
「まあ、そうね。エギルさん好き嫌い激しいから。いつも優しいのに料理に対してはうるさいのよね。さてと」
笑いながらセリナは立ち上がり、
「私はそろそろ、おやつのケーキでも食べようかな」
その言葉を聞いて、フィーの肩が一瞬だけ浮く。そしてエレノアが、
「そういえば、昨日のエギル様が買ってきてくれたケーキ、セリナだけまだ食べてなかったでしたね。取っておいたのですか?」
「うん昨日の夜はお腹一杯だったからね。今日コーヒーでも飲みながらゆっくり食べようかなって思ったのよ」
「いいですね。エギル様も出かけて、こんなにゆっくりできるのであれば、わたくしも残しておけば良かったです」
「じゃあ、小さいけど三人で食べる?」
セリナはゆっくり冷蔵庫へ向かう。そして近付けば近付くほど、フィーの表情は暗くなっていく。そして彼女はソファーの背もたれから顔の上半分だけを覗かせ、セリナを見つめる。
「……セリナは、ご飯のことでふてくされたり、怒ったりしない?」
フィーの問いかけに、振り向いたセリナは不思議そうに首を傾げる。
「ん、別にそんなことでふてくされも怒ったりもしないわよ。なんで?」
「……ううん。じゃあ──大事に取っておいたケーキがなくなってても、怒らない……?」
「……え?」
少しの沈黙が生まれてから、セリナは急ぎ足で冷蔵庫へ向かう。そして扉を開けると、
「ない……ない、ないっ! 私が大事に取っておいたエギルさんが買ってくれたケーキが──無い!」
フィーはセリナを直視するのを止めた。
「……フィー」
ズンズンと重く鈍い足音が響き、セリナは背もたれに両手を掴んで視線を左へ逃がす彼女を、腕を組んで見下ろす。
「フィー、食べたでしょ?」
「……怒らないって言った。約束と違う」
「それとこれとは違うでしょ!? なんで食べたの!?」
「……この子が、食べたいって」
フィーは黒猫の両手を持ち上げる。ニャーと、黒猫は可愛らしくごめんなさいと言っているように鳴いたが、セリナは黒猫を奪い赤ん坊のように抱くと、
「黒猫がチョコケーキを食べるわけないでしょ! ねえ、そうだよね? ほら、この子も私じゃないって言ってる!」
「……フェンリルはメスじゃない。オス」
「知らないわよ! というより主の責任を大切な家族に擦り付けるのは止めなさい!」
「じゃ、じゃあ、エリザベスが……」と、フィーは。今度は白ウサギを持ち上げようとするが、
「トウモロコシを食べても白ウサギがチョコケーキを食べるわけないでしょ!? 正直に言いなさい!」
「……正直に言ったら、怒らない?」
「怒らないわよ」
「……食べた。お腹が空いて。ごめんなさい」
シュンとするフィーを見て、セリナはため息をついて彼女の隣に座る。
「もう、謝るぐらいなら最初から正直に言いなさいよ。別に食べたことは怒ってないんだから。ただ隠すのは駄目。わかった?」
「……はい」
セリナの五人での立ち位置は、サナやルナ、それにフィーの良き姉だ。ただ彼女自身も、まだ少しだけ子供っぽさはある。セリナの大好きなチョコケーキ、それもエギルが彼女の好みを考えて買ったものを、本音を言えば楽しみにしていたのだろう。けれど、フィーに怒らないと言い、彼女が謝った。そんな反応をされれば、セリナは悲しんだり落ち込んだりした姿をフィーには見せられない。
「それでは」
エレノアは立ち上がると手を叩き、二人に笑顔を向ける。
「わたくしも甘いケーキが食べたい気分になってしまいましたし、サナさんとルナさんが帰ってくる前に、三人で全員分のケーキを作りましょうか?」
普段のエレノアは変態だが、エギルがいなければ普通の、大人な存在である。そしてその言葉に、セリナとフィーは何度も頷く。
「そうね。うん! 作ろうっか! エレノア、何のケーキにするの?」
「そうですね、チョコと──」
「……イチゴのも、食べたい」
「はいはい、わかりました、フィーさんはイチゴが入ったのですね。エギル様とサナさんとルナさんは……」
三人はキッチンへ向かい、仲良くケーキを作りを始めた。
──そして夜。
「……今日も美味しかったよ。当番はサナとルナだったな。ごちそうさま。……ん? どうした五人とも、俺の顔に何か付いてるか?」
サナとルナの手料理を、何の疑うことなく美味しくたいらげたエギルは、不思議そうに口元を触ったり頬を触ったりする。それを見てサナは小声で、
「……本当に気付かなかった。ありがとね、三人とも」
「いえいえ。家族ですから」
クスクスと笑う五人。そしてエギルは彼女らが笑っている理由がわからず困り顔を浮かべた。