裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
魔物の巣窟だった住民区は、冒険者らの協力によって建て直され、日を追うごとに住めるようになってきた。だが、まだ家の中まで手は行き届かず、家具が破損していたり、埃が溜まっていた。
そんな家屋を一軒一軒、いつ住民が住んでも問題ないように、エレノアたちは日々、掃除に精を出していた。
「うおりゃあああ!」
エレノアが今日の掃除区域を訪れると、サナがドタドタと音を鳴らしながら雑巾掛けを行っていた。
そんな彼女の姿を見ていたセリナは、窓を拭きながら笑顔を向ける。
「サナは元気ね。だけど、散らばってる金属類には触れないようにしてよ」
「はーい! あっ、エレノアさん、おかえり!」
「ただいまもどりました」
雑巾掛けをしていたサナはエレノアを見て、子供っぽい笑顔を見せる。
窓拭きをしていたセリナも、床に散らばった木片や金属類といった、ごみを拾っていたルナもこちらを向く。
そして、セリナは雑巾を置くと、その表情は先程までの笑顔から心配そうな表情に変わる。
「エギルさんのとこ?」
「ええ」
「……どうだったの、今日の会談は」
セリナに聞かれ、エレノアの顔は悲しげに曇る。
その表情からセリナたちは察したのか、手に持っていた雑巾を置く。
「そっ、か……今日もダメだったんだ」
「残念ですが……。でも、エギル様は諦めていません。落ち込んでは、いましたが」
「そう、ですよね。エギルさん、寝る時間を削ってまで、頑張ってますもんね」
ルナがしょんぼりすると、サナは空元気ともとれる笑顔を振りまく。
「大丈夫だって! エギルさんなら!」
理由らしい理由はないが、サナの言葉と笑顔にそれぞれの沈んだ気持ちは明るくなる。
「そうですね。わたくしたちが落ち込んでいても仕方ないですよね」
「だね。今の私たちにできることは、この家に住みたくなるくらい、ピッカピカにすることだもんね。ほら、掃除の続き続き! エレノアも手伝って!」
落ち込んでいても仕方ない。今は自分らのやるべきことをするだけ。
──それはわかってる。
だが、そう理解していても、気持ちはすぐに沈んでしまう。
「……わたくしたちが力になれることは、掃除だけなのでしょうか……」
エレノアの小さく漏らした本音に触れる者は誰もいない。
聞こえていたか、聞こえていなかったのか、それはわからない。ただおそらく、誰一人として答えられなかったのだろう。その答え──どうしたいかという気持ち――が心の中にあっても、主の邪魔をしたくないという思いが彼女たちを縛りつけて行動できない。
そんな思いが生んだ沈黙を破るように、ふと扉が開く。
「……ご飯、できた」
そこにいたのは、小鳥、白ウサギ、黒猫、ハムスターを従えたフィーだった。
彼女はエレノアたちを見ると、不思議そうに首を傾げる。
「どうかした?」
「いえ、なんでもないですよ」
エレノアが代表して答えると、フィーは軽く頷くと踵を返し、
「……ご飯できた。他の家を担当してる冒険者たちも待ってるよ」
料理当番だったフィーの言葉で各々が家を後にする。皆が伸びをしたり、無理に笑って家を出て行く中、最後に家を出たエレノアに、玄関で待ってたフィーは静かな声音で聞く。
「……エギル、ダメだった?」
「……ええ、今回も。やはり住民が少ないのが問題らしいです」
「そう。そっか。わかった」
「フィーさん?」
「エギルのご飯は、わたしが持ってくから」
フィーはそう言い残して、エギルと自分の分の昼ご飯を持って廃城へと向かった。
♦
静かな部屋にノックする音が響く。
「どう──」
「ご飯」
エギルの声よりも早く扉は開かれ、抑揚のないフィーの声がする。
「もう、そんな時間か。すまないな」
「いいよ。それより、重いから持って」
両の手の平に乗せたおぼん。彼女は器用に足で扉を開けると、そのまま部屋の中へ入ってくる。エギルは二人分のおぼんを受け取ると、それをテーブルに置いた。
「ここで食べてくのか?」
「うん。ダメ?」
「ダメじゃない。向こうはいいのか?」
「大丈夫。というより、ずっと鍋をかき混ぜてたから疲れたの。座りたい」
「今日はフィーの当番だったか」
「そう。それで……ダメだった?」
ソファーに座るなり、彼女は顔色を変えずに聞いてくる。
少し厳しい感じだが、彼女に悪意はなく、素直な質問なのでエギルは苦笑いを浮かべた。
「まあな。顔にでも書いてたか?」
「そんな顔してる」
「そうか」
「……ウソ。エレノアから聞いた」
なぜ嘘をついたのか。無表情なため元気付けようとしてくれたのかわからないが、少しだけ笑えてきた。
「それで、何か話があったのか?」
「なんで?」
「顔に書いてるぞ」
「……ウソ。なんも書いてない」
「ああ、嘘だ。だけど何かあるんだろ?」
でなければ、わざわざ離れたこの場所へ、二人分のおぼんを持ってくるわけがない。ましてや一人で。なので聞いた。
すると、フィーはスープをフーフーと冷まして、小動物である家族たちにスープをあげながら、
「ずっと考えてたことを提案しようと思って来た」
「ずっと……?」
「そう。いま問題なのは、この場所で暮らしてくれる人が集まらないことでしょ?」
「まあ、他にもあるが、一番の理由はそこだな。現に商人にもそこを突かれた」
何かを始めるならまずは国を支えてくれる民を。それも多くのだ。けれど、その部分だけがどうしても解決できないでいた。
昼ご飯を早々に食べ終えたフィーは白ウサギのエリザベスの両腕を持って、プランプランと横揺れさせて遊ぶ。
エリザベスが気持ちよさそうな表情をしてるのは、気のせいではないだろう。そして、フィーは無表情のまま、
「人が溢れて住めなくなってる場所から、移住してもらうのがいいと思う」
「人が溢れてる場所? そんなとこあるのか?」
フィーはコクリと頷いた。
「わたしの暮らしてた大陸──シュピュリール大陸には大勢の人がいる。あそこは領土争いが激しくて、人同士の争いが絶えない。中には普通の生活自体が困難な人もいる」