裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「そう、なのか」
「だからもし、エギルがそこの人たちを救おうとするなら、移住してくれる人はいると思うよ」
「シュピュリール大陸か……」
いつから定められたのか。
世界の常識として、大陸間の移動は禁止されている。
その理由は、大陸の文化と価値観が全く異なるからだ。
かつて四大陸では、それぞれの大陸内で領土争いなどが頻発していたが、エギルらのいるフェゼーリスト大陸には、突如として魔物が溢れるようになった。それによって敵は人から魔物に変わり、長く続いていた人同士の争いは終わった。
だが、シュピュリール大陸はそうはならなかった。
あの大陸では今でも、人間同士の争いは絶えることなく続いている。
魔物も少なからずいるのだが、被害は大きくても、決して協力して魔物を討伐することはない。さらには魔物を利用して争いを大きくしている者もいる。
そういったことから、フェゼーリスト大陸の人間からは『野蛮人で溢れる大陸』なんて呼ばれている。なので次第に、シュピュリール大陸へ行く人間もいなくなり、事実上、渡航禁止の状態になっている。
これらの噂についてエギルはさほど信じてはいなかった。
それでも火のない所に煙は立たないともいうから、あながち全ての情報が嘘というわけでもないと思っていた。
エギルは椅子の背もたれによりかかっていた姿勢から、前のめりに座り直した。
「シュピュリール大陸は海を渡って南に行ったとこだったか?」
「そう」
「大陸間の移動は海岸の警備連中が監視してる。それには考えがあるのか?」
「ある。現にわたしが向こうからこっちに来てる」
「そうか」
フィーがシュピュリール大陸の出身だったことは聞いたが、どうしてこちらに移住したのか、それに、過去に向こうで何があったかは知らない。
話したくない事情が、おそらくはあるのだろう。
エギルはゆっくり息を吐き、ソファーへ背を付ける。
「失礼な質問だが、一つ聞いていいか?」
「うん」
「シュピュリール大陸の住人には、危険人物が多いか?」
「……野蛮人で溢れた大陸って呼ばれてるから?」
「ああ、そうだ。正直なとこ俺は焦ってる。みんなに成果や未来への希望を見せてやれてないからな。だが、その俺が結論を焦ったいせいで、この状況が悪化するのは避けたいんだ。だからフィーの意見を聞かせてくれ」
「そう……」
フィーはぷらんぷらんさせた白ウサギを膝の上に寝かせて、少し間を空けて答えた。
「……もちろん、殺しは日常茶飯事だったよ、わたしがいた頃から」
一切の偽りない言葉。けれど、フィーは「だけど」と言葉を続けた。
「向こうも、この大陸のことを『魔物を喰らうケダモノたちが住む大陸』って呼んでた」
「魔物を喰らう、か……」
「だけど、いざわたしが来てみたら違った。要するに、お互いに見ないで決めつけてるんだよ」
確かに魔物を喰らう冒険者もいる。けれどそれは食用で流通してる魔物であったり、長期に渡って続いたクエストなんかで食べるモノがなくて仕方なくであったりで、一般の者は食用ではない魔物を食べたりしない。
なので結局のところ、噂は噂であって実際の内容と全てが合ってるというわけではなく、実際に見てみないとそれが確かな情報かどうかはわからないということだろう。
「そうかもな……よし」
エギルは立ち上がり窓の外を見つめる。
「ここで悩んでいても、何も解決しないよな」
八方塞がりの状況。
過去の資料を眺め、ただ歴史上の先導者たちが作った道を真似ても何の解決にもならない。
新しい選択。それが今、エギルには必要なのかもしれない。
「考える時間が必要だ。俺だけじゃなくて、他のみんなにもな」
「うん。行く時になったら言って。ついて行くから」
「……ついてくるのか?」
「当たり前。道案内は必要でしょ?」
「まあ、有り難いんだが……」
大陸を移動するのは容易なことじゃない。だから元々暮らしていたフィーがついてきてくれるのは有り難い──が、どうなるか……。
それに、作り始めてすぐの『無名の王国』を放置するわけにはいかない。すぐに帰ってこられればいいが、行ったことのない大陸、ましてや野蛮な者たちが暮らすと呼ばれる大陸……どうなるかわからない。
「とりあえず、みんなにも話してみる。エレノアたちには残ってもらうことになるだろう」
「うん、そうして。だけどここを放置して奪われないように。領土を奪おうとする人間なんて、沢山いるから」
「ああ、ありがとうな。色々と考えてくれて」
「別にいいよ。自分が生活する場所だし、エギルが頑張ってるのも知ってるから。……ねぇ、エリザベス」
フィーはそう言って、再びエリザベスの両手を持って、ぷらんぷらんと揺らす。
普段から無表情だけど、色々と考え、心配してくれてるのだろう。
感情を表に出さない性格なのは、彼女の元々の性格か──それとも、何かがあってそうなったのか。それは本人には聞けない。まだ少しだけ、壁があると思うから。