裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
無名の王国を出て、シュピュリール大陸に面した海沿いまでは馬車に乗って二時間ほど。
辺りはすっかり暗くなっており、周囲に海を渡る者などいない。
「……エギルさん、向こうです」
海岸へ到着するなり、運転手は馬車を止め、人気の少ない岩陰へとエギルたちを案内する。
そこには一隻のおんぼろな小舟があった。
「ゲッセンドルフが用意したのか?」
「ええ、そうです。といっても、あいつは指示だけで、用意したのは別の者ですけどね」
「あいつ、いつの間にかあちこちに顔を売っていたんだな」
「抜け目のない奴ですから。ささっ、急いだ方がいいですよ。警邏隊が食事中の今がチャンスですからね。操縦については──」
小舟とはいえ、しっかりとした魔力を込められた動力源が付いている。これなら別大陸までの移動は問題ないだろう。
エギルは運転手から手短に小舟の操縦について学ぶと、フィーと共に乗り込んだ。
「フィー、準備はいいか?」
白ウサギのエリザベスと黒猫のフェンリルを抱いたフィーは、コクリと頷く。
ハムスターのゴルファスと小鳥のフェニックスは無名の王国との連絡係として留守番となった。
「それじゃあ、行ってくる」
「お気をつけて。ゲッセンドルフからは帰りの準備はしないでいいと聞いていますが、本当によろしいのですか?」
「ああ、大丈夫だ。だろ?」
フィーに問いかけると、また頷いた。
二人は運転手に見送られながら、小舟を岸から海へ移動させて水平線の見えない真っ暗な海を進んでいく。
「こうも周りが暗くて何も見えないと、あれだな。怖くないか?」
窮屈な小舟。互いに向き合う形で座りながら、フィーは遠くをジッと眺めていた。
「別に平気。……ねえ、なんで行く気になったの?」
「なんで、とは? 理由なら昨日、話しただろ?」
「うん。だけど、わたしの話だし……怪しいとか、そう思ったことはないの?」
エギルは少し考える。それは怪しんだかどうかではなく、なぜその質問をしたかだ。
「別に、そうは思わなかったが。何かあるのか?」
「ううん、別に。エギルって人を信じやすいよね。すぐ騙されそう」
「痛いところをつくな……まあ、そうかもしれないな。だが、こういう生き方の方が楽なんだよ。疑うより、信じる方がな」
「ふーん、そうなんだ」
相変わらずの無表情だったが、少しだけ寂しそうな顔が水面に映った。
◆
──フェゼーリスト大陸を出発して数時間。
フィーが示した方角へ進んでいくと、大陸の明かりが見えた。
「このまま進むか?」
「うん。入り口はないから。もし住民がいても、わたしから話すから大丈夫」
そうは言われても、岸へ近付けば近付くほど、向こう岸に見える明かりの数が増えてるように感じる。
そして目を凝らすと、海岸は人で埋め尽くされていた。
人々が手に持った灯篭の明かり一つ一つがはっきりと確認できるほどの距離まで近づくと、ゆったりとした柔らかい印象の声が響いた。
「──あらあら、人様の領土に海域から侵入してくるとは……終の国の人間は無礼だこと」
一人の女性がこちらを睨み付けながら姿を現した。
フェリスティナ大陸にはない不思議な格好。
肩から足首、そして手首までピシッと薄い朱色の生地を羽織っていて、腹部は黄色の帯で締められている。襟の継ぎ目からはたゆんとした胸元が見えた。
その一方で周囲の男たちは暗い色合いの軽装。目の前の女がこの男たちの長なのだろう。
「領土侵入は死を意味する──それをわかっていて、きたのでしょ?」
「いや、俺たちは──」
言葉途中で、彼女は閉じた扇子を掲げ、
「さようなら」
振り下ろした。
すると、微かに熱を持った光の玉がこちらへ一斉に飛んでくる。
それがはっきりとした形として視認できたのは、爆音を生んでからすぐだった。
「大砲か──無限剣舞!」
数え切れないほどの丸い砲弾が真っ直ぐ飛んでくるのを、エギルは無数に生み出した剣で迎え撃つ。
砲弾が半分に斬られた瞬間、爆発を起こし、真夜中なのに昼間のような明るさを生む。その一瞬、エギルは微かに女の驚いたような表情を見た。
「……こんな兵器、まだ使ってるとこがあったとはな」
「……うん。この大陸ではまだ使われてる」
大砲はかつて職業の力がなかった時に普及していた代物。けれど職業の力が生まれてからは、ただ金のかかる代物となり果て、フェーゼリスト大陸からは消えた。今ではもうどこを捜してもないはずだ。
だがこの大陸の者たちは今でも武器として使っている。
エギルは次の砲弾が発射される前に、女に訴える。
「待て、俺たちはお前たちの敵じゃない!」
「そう言われて誰が信じると思うのかしら? どうせ陸から攻めるのは無理だと思って、海から来たのでしょ!?」
「何を言っているのか分からないが、いきなり現れたのはすまないと思う。だが、俺たちは──」
「往生際の悪い奴ね。その異能の力を使う奴は終の国の連中しかいないわ。生かしておくわけにはいかないの」
こちらが反撃したことによって、向こうの警戒心は上がり、何を言っても聞いてはくれない状況となった。
初対面から印象を悪くしたくないのだが、応戦しなければこちらの耐久力の低い小舟が沈没してしまう。そんな時だった──。
「……相変わらず、華耶《かや》は人の話を聞かないね」
今までエギルの後ろに隠れていたフィーが前に出て、岸に立つ彼女を見上げる。
「……もしかしてフィーちゃん?」
「……そう。久しぶりだね、華耶」
「無事に、あそこから生きて……良かった、本当に良かった……」
岸に立つ華耶と呼ばれた彼女は嬉しそうに瞳を潤ませてるのが見てわかった。
──それと同時に、彼女の頭上に見える三角形の耳と、それと同色の、お尻の上辺りから出る蝋燭の火のような形をした尻尾が風に吹かれ、一本一本の毛までもがはっきりと見え──彼女がエギルたちのような人間と異なる者だとわかった。