裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
シュピュリール大陸には、大きく分けて四つの領土が存在する。
北には、広大な湖の上に街が浮かぶ『湖の都』。
東には、大草原をテントで移動する遊牧民の国『平原地国 』。
南には、要塞のような守りの堅い王城が聳える『終の国』。
西には、外的から身を守る石壁の巨大砦となった『玄政砦 』。
エギルたちの舟が着岸したのは、シュピュリール大陸の北にある湖の都だった。
◆
「フィーちゃん久しぶりね。それにエリザベスやフェンリルも、少し大きく……太ったかしら?」
フィーと知り合いだったことで警戒が解かれ、歓迎されたエギルたちは、湖の都を取り仕切る長──紗霧華耶《さぎりかや》によって、彼女たちの住む都へと案内された。
湖の都は名前の通り、月明かりの下に広がる湖に街が浮かんでいる。
コテージのような小さな小屋がいくつも連なっており、それぞれが橋で繋がっていた。
コテージは藁や木材で建てられ、内部は草などで編んだ絨毯が敷かれ、靴を脱いで上がるという、フェゼーリスト大陸とは異なった様式だった。
エギルたちはその中でも、ひと際大きな『御殿』と呼ばれる平屋のお屋敷へと案内された。
建物の中では、常に湖の水音が優しく耳をうち、どこか落ち着いた雰囲気があった。
「それで、フィーちゃん、彼は?」
「ん。エギルはわたしの主」
「主……そう、主」
華耶のフィーを見る目は友人のそれだが、エギルへの視線は警戒してますと言わんばかりの鋭さだった。
そして、フィーの〝主〟という発言によって、更に華耶の表情が厳しくなる。
「俺はエギル・ヴォルツ。フィーとは、まあ、そんな感じだ」
「ふーん、そう。フィーちゃんは平気?」
「うん、エギルは良い主。この子たちにもちゃんとご飯あげてくれるから」
「それならいいわ。さて、二人が今日ここに泊まることをみんなに伝えてくるわね」
そう言って華耶は立ち上がると、
「そうそう、船での長旅で疲れてるでしょ? 後から誰かに食事を持ってこさせるわ」
と、この場を後にした。
「食事……か。警戒は解いてくれた、というわけではないよな?」
「たぶんね。この大陸で争いが無くならない理由は、人を簡単に信じないとこだから」
「そうだよな。それよりさっき、もう少し早く彼女に声をかけて止めてくれても良かったんじゃないのか?」
エギルが言っているのは、二人が大砲で狙われ、職業の力を使って応戦していた時のことだ。
フィーが華耶と知り合いで、すぐにその存在に気付いていたのなら、最初の印象も良くなっていたはずだったと思う。だが。
「……ここから先、交渉するならエギルの力を見せた方が良いでしょ?」
「……力を見せて、移住してくれる材料にしたってことか?」
「そう。まあ、これで良かったかはわからないけど」
確かに出合い頭で力を使って、この湖の都の住民を守れる力があると思ってもらった方が、この後の交渉には良いかもしれない。
「まあ、印象は悪くなったかもだがな」
「それはそれ。で、華耶の見た目の感想は?」
「見た目?」
「そう、これ」
フィーは頭の上に両手を持っていき、ペコペコと下げたり曲げたりする。
「ああ、耳か。それに尻尾も。どうかと聞かれても……そうだな、確かに初めて見たから驚いた。この大陸では普通なのか?」
「ううん、華耶だけ。でも、フェゼーリスト大陸で魔物が溢れたように、ここシュピュリール大陸でも、不思議な力を持った人はいるよ」
「不思議な力……?」
華耶の頭上にあった銀色の三角形の耳と、中心部が丸みを帯び先端にいくにつれ細くなっていく尻尾は、魔物と関係があるのだろうか。そして、フィーは何かを知っているのか。
「フィーは、あれが何なのかわかるのか?」
率直な疑問をぶつけると、フィーはエギルをジッと見つめる。
「それは、華耶に直接、聞いた方がいいよ。華耶の知られたくないことでもあるから。……それに、エギルに打ち明けられないと、きっと、移住のことも考えてくれないと思うから」
知られたくないこと、というのがあるのだろう。
それをフィーからではなく本人から聞ければ、認めてもらえたと思ってもいいかもしれない。
エギルは頷き、華耶が戻ってくるのを待った。