裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
エギルとフィーへの食事の準備を侍従に任せ、華耶は部屋から離れた一室で、難しい表情を浮かべながら肘掛のある椅子に座っていた。
「──華耶さま。なぜあの男を都へ入れたのですか?」
華耶の前に置かれた長テーブルを囲うように座る男たち――湖の都の重役は、別の部屋にいる二人に聞かれないよう小さな声で発言した。
華耶も、ここにいる者たちに聞こえる程度の声の大きさで言葉を返す。
「みんなもフィーちゃんのことは知ってるでしょ。彼女の知り合いだからよ」
「ですが、あの男は、フェゼーリスト大陸の人間です。あの力だって、終の国に加勢してるあの二人組と同じではないですか」
「……みんなの気持ちはわかるわ。だけど、フィーちゃんはそんな子じゃないって知ってるでしょ? それに、現状では戦力が足りないのも知ってるわよね?」
「……もしかして、あの男に手を貸してもらうおつもりですか?」
その問いに、華耶は黙って頷く。
周囲の者たちは驚き、小さな声が響く。
「まだ手を貸してもらうほど信頼できる相手かどうかは判断できないわ。だけど、もし手を貸してもらえるのなら、今の窮状を覆せるかもしれない」
「ですが」
「今日のところは、あの男は私が引き取るわ。ただ、あの男への警戒は緩めないで。それは他のみんなにも伝えておいてちょうだい」
「……わかりました。伝えます」
華耶の言葉に、男たちは部屋を出て行く。
一人、部屋に残った華耶は、ため息を漏らす。
「吉と出るか、凶と出るか。……もし凶だったら許さないわよ、フィーちゃん」
「……それは大丈夫」
華耶しかいないはずの部屋にフィーの声が響く。振り返ると、フィーが扉の前に立っていた。
「今の話、聞いてたの?」
「ううん、聞いてない」
「そう……。えっと、食事は他の者に届けさせるから、フィーちゃんは待ってていいのよ?」
「華耶と、話がしたかったから」
そう、と返した華耶だったが、フィーが一人だったことで、彼が今一人になってることに気付く。
「……あの男を一人に? もし変なことしたら他の連中が──」
「エギルはそんなことしないから大丈夫。それに、強いから心配ない」
「……随分と信頼してるのね、彼のこと」
「まあね」
フィーは、近くにあった椅子に座る。
先程のような仲睦まじさは潜め、二人の間には少しだけ不穏な空気が流れる。
「フィーちゃんは、今までフェゼーリスト大陸で暮らしてたの?」
「……うん、そうだよ」
「そうだったのね。ずっと、気がかりだったわ」
「わたしも、会いたいって……だけど」
フィーが俯き昔のような寂しそうな表情を浮かべたのを見て、華耶は慌てて声をかける。
「だけどこうしてまた会えて良かった。向こうでは、幸せにやれてた?」
「……どう、かな。だけど、今は楽しい。エギルとか、他のみんなも良くしてくれるから」
「他のみんな……?」
「そう、エギルが作った王国にいる、みんな」
「彼が作った……彼は王様なの?」
「どうだろ。エギルはあんまりかしこまった感じが嫌いだって、そういう風に見てほしくないみたいだけど。……あのね、華耶にお願いがあるの」
「……なに?」
少し身構えてしまったのは、最近、厄介ごとが多かったからだろうか。
「エギルの王国に、みんなで移住してほしい」
「……」
唐突な物言いに華耶は固まる。
だがすぐに言葉を理解して、笑いだした。
「ははっ、フィーちゃん、それ本気で言ってるの?」
「うん、本気」
「そう……」
久しぶりの再会でもフィーの目を見れば本気か冗談かの区別はつく。今の言葉が本気だとわかり華耶も真剣な表情で言葉を返す。
「無理よ。彼の人となりや、どういった場所かを知っても答えは変わらないわ」
その返事に驚くわけでも、悲しむわけもなく、フィーは頷くだけだった。
「……うん、わかった。だけど、この大陸の現状も、わたしがいた頃と変わらないんじゃない?」
「ええ、そうよ。未だに終の国は他から奪うことをやめない。湖の都の人間がいくら抵抗してもフィーちゃんがいた頃と何も変わらない。……だけど大丈夫。終の国との争いは、今度こそ終わらせる。もう争いたくないもの」
「それ、わたしがいた頃から言ってたよ」
「……」
図星。華耶はその言葉に何も言い返せなかった。
「……どっちにしても、フィーちゃんの願いは聞けないわ」
「そっか。うん、わかったよ。あとはエギルに任せる。わたしがここに来たのは、エギルを助けてあげたいのと……」
フィーは俯く。その表情は少しだけ愁色を濃くする。
「ユリシスと華耶に救ってもらった恩返しがしたかったから。華耶の重荷が少しでも楽になったらいいなって」
「フィーちゃん……別に、私たちは家族みたいな関係なんだから、気にしなくて良かったのに」
「ううん、二人と出会えたから、変われた。感謝してる。……だから、わたしは華耶に恩返しがしたい」
「……彼の王国に移住するのが恩返し、ね……それは私一人で決めていいことではないわ。私はみんなの長。この湖の都を守ってきた先代たちから託されたのだから」
「──契約、まだできてないんでしょ?」
「──ッ!」
フィーの言葉に、華耶は動揺していた。だがすぐに息を整え、笑って答える。
「ええ、そうよ。だけど全てが終われば、この力も不要になるわ。こんな──宿主を殺す力」
そう言った瞬間、胸を抉るような痛みが生まれる。
まるで心に飼った何かが内で怒っているような、そんな痛みだ。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。昨日、力を使ったからまだ苦しいのよ」
「そう。わたし、そろそろ戻るね」
「あっ、フィーちゃん!」
部屋を出ようとしたフィーを華耶が止める。
けれど止めたはいいが、なんて言えばいいのか悩む。
「……ユリシスがあの後、どうなったかは知ってるのよね?」
「うん……見てたから」
「そう。ねえ、ユリシスに会いに行くの?」
結果、そのまま聞いた。すると、フィーは苦しそうな笑顔を浮かべた。
「うん。もう一度──今度はちゃんと、別れの挨拶と、お礼を伝えたくて来たから。それじゃあ、おやすみ」
フィーは部屋を出て行く。
部屋に一人残された華耶は、彼女が出て行った扉に目を向け、
「……おや、すみ……別れと、お礼……だったら尚更、フィーちゃんはここに居たら駄目よ」
華耶は彼女に伝えられない想いを、哀感を帯びた声に乗せた。