裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
華耶に案内され、山道を駆け抜けると一気に視界が開けた。
眼下には緑の敷き詰められた大草原が広がっていた。既に終の国の兵士たちが間近に迫ってきていることも、はっきりと確認できる。
そこには魔物の姿はなかった。人間対人間の戦争。だが、目の前で繰り広げられるこの光景に、エギルは微かな違和感を覚えた。
「……覇気がないな」
魔物との戦闘であっても、人は死ぬかもしれないと感じたら何らかの感情をむき出しにし、威嚇をし、決死の形相で雄叫びを上げる。
それは死への恐怖から、自分を奮い立たせるためだ。
しかし、終の国の者たちは一切表情を変えることなく、声も発さず静かに、まるで人形のような様子で戦っていた。それに、どこか顔色が悪く見える。
「彼らは人間ではないのよ」
「人間じゃない……?」
「そうよ。正確に言えば、姿は人間だけど、そこに魂はないのよ」
華耶は戦況を悲しげに見つめる。
「あの終の国の兵士たちには魂はない。そこにいるけど、そこにいない。私たちは彼らを死人《しびと》と呼んでるわ」
「死人……? もしかして、あの動いてるのは死んだ人間ってことか?」
「……ええ」
短く返事をする華耶。
死人だと説明を受けたエギルだったが、あの人間たちが──異質な雰囲気を纏っている姿とはいえ――人であることには違いない。
じゃあ、彼らはなぜ動けるのか。エギルは、死体を操っている人間がいるという答えに至り、そうさせているのが、終の国の連中ではないことも理解できた。
「職業の力……ここの住人が異能の力と呼ぶ力か」
「そうよ。傀儡師と名乗る者が終の国に加勢して、その異能の力で死人を操っているらしいわ」
なるほど、とエギルは一歩前へ出る。
「……何をするの?」
「職業の力に対抗するなら同じ力がいいだろ。劣勢なら手を貸す。ここへ来た目的のためにも」
終の国が悪者かどうかなんてわからない、ここで手を貸すのが正義かなんてことも。けれどここへ来たのは、エレノアたちや冒険者の仲間たちに、少しでも自分に懸けて良かったと安心してもらうためだ。だからここで悩んでいても仕方ない。自分が今、やれることをするだけ。それに、
「今戦っている人たちの中には、俺たちがここに来てから食事を持ってきてくれたり、挨拶をしてくれた人の姿もある。自分たちと関わってきた人たちが目の前で困っているのに、ただ見ているのは俺の性に合わないんだよ」
「だけど……」
「エギルはそういう人だから」
フィーは隣に立つ。
「エギル、わたしがここにいたときには、職業の力を持った者は終の国にはいなかった。想像以上に、湖の都は劣勢だと思う」
「……そうか。手伝ってくれるか?」
「うん。エレノアたちに、エギルの力になってって、頼まれてるから」
「そうか。それじゃあ──」
「──待って。これはわたしたちの問題よ。二人に手を貸してもらう必要はないわ」
「だが──」
「──華耶様、力をお使いになるつもりですか?」
エギルの言葉に被せるように、いつも華耶の側にいる従者たちが言葉を発する。その声色には、彼女を心配する気持ちがこもっていた。
「……ええ、大丈夫よ」
華耶は従者たちに微笑みかけると、胸に手を当て、言葉を紡ぐ。
「──おいでおいで悪魔の魂。かしてかして悪魔の──ッ!」
華耶の背中から影が伸びたように感じたが、彼女はそのまま膝をつき咳き込むと、その異様な何かがふわっと消えた。
「今のは……」
「華耶様!」
従者たちが慌てた様子で華耶の元に集まる。その者たちの表情を見れば、何かがあったのは理解できた。そして、エギルたちに聞かれないよう、小さな声で従者は訴える。
「……昨日お力を使われたばかりではないですか。やはり今日は無理です」
「……大丈夫。大丈夫よ。それにここで力を使わないと」
「ですが!」
従者の一人はエギルをちらりと見る。
「聞かれたくないことか……フィー、俺は先に行く」
エギルは歩き出す。その後ろ姿を華耶は手を伸ばし止める。
「……エギルさん、これは……私たちのことで」
「別に借りを作ってどうこうしてもらうつもりはない。泊めてくれたお礼だと思ってくれればいい」
「ですが……」
華耶は口ごもる。
これは自分たちの問題。だから巻き込みたくない。
しかし、動けない自分の身体と心配そうにする従者たち、劣勢な状況にある湖の都の者たちを見て、華耶は意地を捨て、エギルに小さな声で「お願いします」と頭を下げた。
「ああ、気にするな」
「……だけど、フィーちゃんは行かないで」
なぜか、フィーだけを止めた。それに対して、フィーは首を傾げる。
「……どうして?」
「それは……」
何かあるのだろうが、華耶は黙ったまま俯いた。
フィーは指示を待ってるようにエギルを見る。
「それじゃあ、フィーはここで待っててくれるか?」
「……わかった。エギル、気を付けて」
「ああ、わかってる」
そう伝えると、エギルは戦場へと走りだした。
「エリザベス、フェンリル、エギルに手を貸して」
フィーは、エギルの元へ白ウサギと黒猫を送った。
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