裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「ルナ、そっちに逃げたよ!」
「うん、わかってる」
遠くから二人の少女の声が聞こえた。
「他の冒険者か?」
「ですね、魔物を追っている、いえ……」
追っているというよりは、走りながら戦闘中だった。
その魔物は、このフレイシュの森で一番強いと言われているグレイセント。
グレイセントを一言で表すなら巨人だ。人の姿をしながらも、大きさは人間の五倍はある
筋肉質な体格に一つ目、武器は何も持っていないが、手を軽く振っただけで簡単に人を殺せる力を持っている。
そんなグレイセントは「オフッオフッ」と低い声を発しながら、少し後ろを走る二人に大きな手を振り回していた。
そして戦っている二人の少女は、進行方向に立つエギルとエレノアの存在に気付いた。
「げっ、他の冒険者かよっ。あんたら、こいつはあたしたちの獲物だから手を出すなよ!」
「わたしたちが、見つけた獲物なんです。だから横取りは、だめ、です」
どうやら獲物を横取りされるのではないかと思っているようだが、クエストに関係のないグレイセントにエギルは興味がなかった。
「俺達はそいつに興味はない。だがこのままそいつが止まらないと俺達にぶつかる。エレノアは魔力を消費して動けないんだ。だから危険が及ぶなら、手を出すぞ」
「くそっ。おいっ、止まれよ巨人野郎──エンジェル・ノヴァ!」
光の球体を生み出し、それを対象にぶつけて爆発させる聖魔法の一つ。
おそらく二人の少女は双子で、クリーム色のポニーテールの少女の職業は聖術師だろう。
聖術師は後衛で仲間の傷を癒やすのが得意な職業で、決して戦闘向きではない。だが彼女は率先して攻撃魔法を使って攻撃してる。
そして、光の聖魔法はグレイセントの顔の横を通って外れた。
「わたしが、やるよ! 当たって──天雨!」
一本の矢に微量な魔力を加え空へと矢を放ち、地上へ戻ってきた時には無数の矢となる広範囲攻撃のスキル。
目まで隠したクリーム色の前髪と、肩まで伸ばした後ろ髪が印象的な彼女の職業は魔弓士だろう。
だが一体の魔物相手に広範囲のスキルを使うのは、使い方を間違えてると言わざるを得ない。
そして当然、威力が低いスキルはダメージがない。
「どうやら実力のない双子の冒険者みたいだな。エレノア、一人で立てるか?」
「はい、わたくしは大丈夫です」
エレノアがエギルから離れると、一歩前に出る。
「百……いや、二百ってとこか」
「おい、こいつはあたしたちの獲物だって──」
「──自分の獲物なら逃がすな。俺はエレノアを守る為に動きを止めるだけだ」
エギルのSランク冒険者の特権である剣舞士には、接近する必要も魔術を使う為の詠唱も必要ない。
出したい場所を決めて──予め異次元に保管してある剣を出すだけ。
「動きを止めろ──無限剣舞」
ドスン、ドスンとこちらへと走ってくる巨人のグレイセントの足下から一本、また一本と剣を出現させる。
「グゥアアアァァァッッ!」
ズサッ、ズサッと地面から、そして何も無い空間から突き刺す剣。本数が増えると、グレイセントは苦しみの雄叫びを発しながら左足を止め、右足を止める。
「動きを止めたから、あとはお前たちの好きにしろ。エレノア、もう動けるか?」
「は、はい」
少し回復した様子のエレノアを支えながら歩いていく。
「これがエギル様の力なんですね」
「ああ、初めて見せるな」
「驚いてしまいました。こんなに強い職業があるのですね……」
「お、おい、あんた!」
二人がこの場を立ち去ろうとすると、双子はグレイセントを無視して後ろにいた。
「こいつの動きを止めたのはあたしたちじゃない! だから、あんたが仕留めろよ!」
「いや、俺達のクエストの標的じゃないからな。元々お前達が追ってた魔物だろ? だったらお前達がトドメを刺せばいいだろ」
「ぐっ……あ、あたしたちだって、こいつを討伐するクエストなんて受けてない! あたしたちはただ、こいつを倒したかっただけだ」
「じゃあ倒せよ?」
「それは……」
二人は威圧感のあるエギルの視線を受けて、脅えるように視線を下げた。
だがエギルは怒っているわけではない、興味がないだけだ。
「どっちにしろ、俺達には関係のない話だ。お前達が倒すのか放置するのかは好きにしろ」
「なっ!」
背中を向けたが、エレノアは「ちょっと待ってください」とエギルの腕を掴んで二人に優しい表情で問いかける。
「お二人はどうしてそんなに、その魔物にトドメを刺すのが嫌なのですか? クエストに関係ないとしても、魔物を討伐すればクエスト受注所から多少なりともゴールドが貰えますし、冒険者ランクを上げる為に必要なポイントだって貰えるんですよ?」
だが、二人は少し困った表情で答えた。
「あたしたちは、こいつに正々堂々の勝負をして勝ちたかったんだ」
「正々堂々の勝負ですか?」
「そうだよ。だからあたしたちが動けないこいつを倒しても、あたしたちは自分が強くなったと思えない」
「だから、わたしたちは倒さないん、です」
「要するに、お二人はクエストや報酬など関係なく、魔物を討伐して自分の強さを確かめたいということですか?」
二人は勢いよく首を縦に振る。
クエストとは関係なく自分の強さを知りたいから魔物を討伐しようとするなんて、なんとも珍しい二人だとエギルは少し気になった。
「おい、二人の冒険者ランクは?」
「うっ……」
「どうした、言えないのか?」
何故か答えない。すると、エレノアが苦笑いを浮かべながら俺エギルを見る。
「エギル様、そんな高圧的な態度では、怖がって答えられませんよ?」
「そんなつもりはないんだが……」
「この方は少し顔は怖いですが、根は優しい方なので安心してください」
酷い言われよう。そしてポニーテールの少女は目を細め、少しだけ悩んでから答えた。
「あたしたちの冒険者ランクはEだよ」
「一番下のランクか。ランクが全てと言うつもりはないが、それでもランクは、その冒険者の実力をある程度は表してる。だからEランクでグレイセントに挑むのは無謀だな」
「それは、まあ……あたしたちだって無謀な挑戦だってことは理解してるよ。だけどここで一番強い魔物を討伐すれば、あたしたちに実力があるってことを証明できるって思ったんだ」
「だからわたしたちは、倒したいんです」
二人の言うとおり、グレイセントを討伐すればBランク相当の実力があると証明できる。だがそれをクエスト受注所に証明したとしても、いきなりBランクに飛び級するわけではない。
じゃあ、誰に実力を証明したいんだ?
それを聞いたとこで意味はない。それに初対面の相手に気を許して、この二人が話す可能性は低い。
「職業は違うが、良かったら俺が教えてやろうか?」
ただ、二人とこのまま別れたら、また自分の実力の範囲外の敵に挑戦して──おそらく死ぬだろう。
だから目を丸くさせて驚いている二人にエギルは伝えたのだが、すぐにポニーテールの彼女がブンブンと首を横に振った。
「い、いいっ! あたしたちは大丈夫だから!」
「戦い方を少し見ただけだが二人共、戦い方を誰かに教わったわけじゃないんだろ?」
「うっ、そうだけど……」
職業を身に付ける時にある程度の戦い方は教わるが、それは初歩的なことだけだ。
「自分達で経験して戦い方を覚えるのもありだが、最低限の知識や戦い方なんかは、ベテランに教わったほうがいいぞ」
「うっ……それは」
「そうですけど。ど、どうするの、サナ」
「ルナ!」
二人はエギルとエレノアに背中を向けて、ブツブツと作戦会議を始めた。
「いいか、ルナ。あの人は完全に怪しい。初対面の相手に戦い方を教えてやる、なんて言う人が、この世の中にいると思うか?」
「たしかに、いないかも」
「そう。だからきっと目的は金銭だ。適当なことを教えて、あたしたちから金を巻き上げるつもりなんだ」
「そっか、だから急に、優しくなったんだね。だけどわたしたち、巻き上げられるほどのお金、ないよ?」
「お金が無いなら体で払え。それが昔からの当たり前だ」
「なるほど、怖いね」
「そもそも、グレイセントの動きを一撃で止めたとはいえ、あの人が強い冒険者かもわからないんだ。だから信用するわけにはいかない。ねっ?」
「うん、わかった」
そして振り返ると、二人はにっこりと微笑んだ。
「あたしたち用事があるから。じゃ」
「失礼します」
「いや、金銭は要求しないぞ」
「……嘘だ」
「それに俺の冒険者ランクはSだから、二人よりもずっと強いぞ」
「嘘だ!」
「嘘です!」
この二人は人を信用しないタイプだ。特にポニーテールの少女。
「じゃ、じゃあ冒険者カードを見せてよ」
「ああ、ほらよ」
二人に渡して確認させると、ポカンと目と口を開けて固まった。
そしてエギルに返すと、憎たらしく鼻で笑った。
「なんだ、偽造カードか」
「おい、お前。少しは信用しろよ」
「信用できるか! 何の利益もないのに人を助ける奴がこの世の中にいるわけないだろ!」
「酷い言われようだな。エレノアからもなんとか言ってくれないか? このまま行かせると危険だ」
「なるほど、そうですね」
エレノアは二人に近寄って言う。
「エギル様は、二人から金銭を要求しなくてもお金を沢山持ってますから安心してください」
「うっ、そうなの?」
「ええ、そうです」
「それなら、まあ」
話はエギル抜きで勝手に進んでいるが、どうやら二人は納得したらしく、
「「……お願いします」」
と、さっきまでエギルを怪しい奴にしか見ていなかった二人は、エレノアが話したら素直に頭を下げた。