裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
華耶は集会を開き、住民全員を集めた。
そして、この湖の都全員でフェゼーリスト大陸に移住する案を伝えた。
華耶の話を聞いて住民はざわつき始めた。皆に落ち着くように言ってから、華耶はまずエギルと契約したこと、移住先のフェゼーリスト大陸での生活はエギルが保証してくれるということ、そして冒険者たちが自分たちを守ってくれること、新しい大陸で争いのない平穏な生活を営むことができることを順を追って説明した。
華耶とエギルが一人一人の目を見ながら伝えると、若者たちの表情は次第に明るくなった。が、年配の、この地に思い入れのある年長者たちは不満を漏らした。
「……華耶様。儂らは、華耶様の一族が受け継いできた悪神九尾の力で守られてる立場です。あなたがいなくなれば、儂らはここでは生きていけません。ここで、その者の言う王国とやらに行くのが正しいのかもしれません……ですが、ここは我々の生まれた地。そう簡単に捨てるなんて無理です」
「そうです。先の短い老いぼれは、この地で最後を迎えたいのです……どうか、この地に留まってはいけないでしょうか?」
「それは……」
予想していたとはいえ、実際に面と向かって言われると辛いものがある。
華耶は住民の表情を見て申し訳なさそうに俯くが、強制することはできなかった。
「……先祖がいて……みんながこの地で長い年月を過ごしてきたのはわかってる。この大陸が故郷なのも……だけど、私はこの地を離れることを決めたわ」
「それはどうして……」
「この地で生まれた。この地が私にとっても大切な場所。だけどそれ以上に、私はここで暮らすみんなが大切なのよ。私は、もう誰にも命を落としてもらってほしくないの」
地よりも人。大切なのはそこだろう。決して間違っていないのだが、それでも、思い入れのある者にとってこの場所は、人の命と同等の価値があるのだ。
「俺から、一ついいか……?」
沈黙の中にエギルの声が響く。かつて、これまで多くの者たちから注目されたことはない。緊張が全身を微かに震えさせ、一人一人の視線が鋭く突き刺さる。
華耶は今までこんな状況の中、一人で立っていたのかと思うと、エギルは、素直に華耶のことを尊敬し、自分も人の上に立ち先導する者ならば、こうあらねばと思う。
「みんなに移住してほしい地は、争いが決して無いとは言えない。もしかしたら、争う敵が人から魔物に変わるだけかもしれない。そんな地へ、ましてや、華耶を連れて行こうとする俺を、憎む者もいるかもしれない」
周囲から向けられる視線には憎しみのこもった視線もある。けれど、エギルは止まらない。それは華耶と結ばれた昨晩、心に決めていたのだから。
「俺は華耶を幸せにする。何があっても、絶対にだ。そして、華耶が大切に想うみんなも、俺は幸せにする。──みんなの命は俺が守る。何があっても、それだけは約束する」
自分が言えるのは、守る、という不確かな約束だけだ。
けれど、それだけは誓わなければならない。彼らが全てを託してくれるためにも。
「だから信じてついて来てほしい。俺に、なにより華耶に! 絶対に苦しまない生活を、みんなが幸せになれる道を、俺と共に歩いてほしい!」
エギルの願いを、住民たちは静かに聞き入っていた。
「私からも一言みんなに言わせて。エギルさんを信じてほしい。私は、全てを彼に託してもいいと思った。彼なら、私が背負っていた苦しみも、ここで暮らす一人一人の命も背負ってくれる。だけどそれは彼だけじゃなく、私にも背負わせてほしいの。どうか、エギルさんを、わたしを信じて!」
華耶の願いを受けても尚、沈黙が続く。彼らに届いたのだろうか。緊張と不安から、エギルはここにいる全員を直視できずにいた。
──だが、
「ボ、ボクは、信じます!」
一人の少年が口を開いた。彼は一気に周囲の視線を集め、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、力強く発言した。
「お、お母さんは……お母さんは、お父さんが殺されてから、あまり笑わなくなって……終の国が攻めてきたら、いつも辛そうにするんです……だ、だから、ボクは信じます! お母さんが、辛そうにしないなら!」
少年の訴えに母親だろう、隣にいる女性が涙を浮かべた。
「お、おれもついて行くぞ! 華耶様はこの湖の都を、何度も救ってくれた恩人だ。そんな華耶様の願いに背くことはできねえ!」
少年の言葉に呼応するように、一人、また一人と手を上げ賛同してくれる。
その賛同の輪は広がり、いつしか否定してた者も賛同の輪に加わった。
「良かったね、エギル」
静かにエギルと華耶の演説を見ていたフィーに言われるが、エギルはまだ喜べなかった。華耶たちがこの地を離れることとなっても、それでもこの地に留まりたいと願う者たちがいたからだ。だから、みんなにエギルは伝える。
「この地に留まりたい者が、このまま安全に暮らせるようにしようと思う。だから俺は、終の国へ決着をつけに行こうと思う」
終の国の目的が華耶の持つ悪神九尾の力だとすれば、華耶がいなくなれば、残された湖の都の住人と争う必要はないはずだ。
であれば、華耶がいなくなれば、この地に終の国が攻めてくることはなくなる。
「終の国にはフェゼーリスト大陸の冒険者が加勢してる。それも、闇ギルドに所属する連中だ。こいつらは、どこまでも追ってくるだろう」
「ここを離れても意味ないってこと?」
フィーの問いかけに、エギルは頷いて答える。
レヴィアならまだしも、闇ギルドの者が対話ですんなり華耶のことを諦めてくれるとも思わないし、離れたからといって奴らが危害を加えてこないとも限らない。であれば、安心して移住する為にも、再び終の国と衝突するのは避けられないだろう。
「争うの……?」
不安そうに見つめる華耶に、エギルは笑顔を返す。
「そうなる可能性はある。だけど大丈夫だ。必ず戻ってくるから」
「そう……だったら、私もついて行くわ」
「だが」
「これは、湖の都の問題でもあるの。争いが終わるなら、私がいかなくては意味がないわ」
「華耶様! 自分たちも行かせてください!」
住民たちが一気にが華耶に駆け寄ってきた。
「奴らに殺されていった同胞のためにも、それに……操られてる仲間を、楽にさせたいですから」
「──それは!」
「操られてる仲間を……?」
住民の言葉を慌てて止める華耶だったが、はっきりとエギルの耳にも──フィーの耳にも届いた。そして、フィーは華耶に問いかける。
「華耶。もしかして、死人の正体って」
いつになく力強いフィーの声色に、華耶はバツの悪い表情を浮かべる。
「……黙っていて、ごめんなさい。死人は、元はここの、湖の都の住人なの。終の国にいる傀儡師が、死人を操ってるの」
その言葉を聞いて、フィーの表情が悲しみに飲み込まれた。