裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
巨大な壁に囲われた終の国。
その中央に聳える城の最上階、玉座の間で、生気を失った土気色の顔をした中年の男は、兵士たちに指示をだす。
「……次こそは、悪神九尾の力を宿した娘の身柄を拘束しろ。よいな?」
「──ハッ!」
現国王であるウェスト・ハリッド・オーウェルスの、抑揚のない命令を受け、騎士たちは気持ちの良い力強い返事をしてこの場を立ち去った。
しかしこの一室にはウェストの他に、爪の手入れをする金髪の若い男と、太陽と月のお面を付けた少女──それと、黒いドレスを着た少女の姿があり、王国内で最も地位のある者がいるはずの場所とは思えないほどだった。
「よしよし、あと少しってところかぁ?」
爪の手入れが終わったのか、軽装の金髪男は玉座の前に立ち、
「どけよ、死人」
そう命じた。その瞬間、ウェストの体は、まるで吊るしていた糸がぷつんと切れたかのように、前かがみになって床に倒れた。
「まったく、手間取らせやがってよぉ……お前たちがよぉ、しっかりやってくれれば、こんなことにはならなかったのになぁ!?」
男の視線が二人の少女に向けられる。
「……」
「すみません、ガイ様」
太陽の少女は無言だったが、すぐさま月の少女が頭を下げる。
その反応に、ガイと呼ばれた男は舌打ちをして、
「もし次に失敗したらよぉ、テメエらの目的、叶えてやんねぇからな」
「「──ッ!」」
まるで子供が拗ねるような言い方だが、二人の少女の肩が一瞬だけ震えた。
そして、太陽の少女がガイへと詰め寄り、
「それは約束と違うだろ! アタシたちはあんたが約束を叶えてくれるから──」
「おい、人形が勝手に意見してんじゃねぇぞ!?」
ガイが左手を伸ばし、何かを握りしめるように指に力を込めると、太陽の少女の全身が何かに縛られるように固まり、微かに苦し気な声が漏れた。
「ガイ様、わかりました! 次は必ず連れてきますから!」
「……最初っから、そうすりゃいいんだよぉ、ったく」
左手を広げると、太陽の少女はその場に倒れ咳き込む。
「わかったら、さっさと行けよ。俺様はとっととフェゼーリスト大陸に戻って、あの悪神九尾の力で暴れてぇんだからな。ほら、行けよっ!」
二人の少女は慌てて部屋を出て行く。
「一生の内に数個しか生成できない、力を増長させるお面を与えてやったってのによぉ……なぁ、お前も俺様に手を貸してくんねぇか、レヴィア?」
呼ばれた少女は玉座の間の大窓から城下街を見下ろし、ため息を漏らす。
「我は自らの為にここへ来ただけ。お主に手を貸すためではないのじゃ」
「つれねぇな。まっ、うちのギルドは互いのことには不干渉だからなぁ……ってか、お前の目的はここで見つかったのかぁ?」
レヴィアは首を左右に振る。
「いいや、無いのじゃ。まあ、期待はしてなかったのだがのう」
「へぇ、そうかい。それならとっととうせればいいじゃねぇか。それとも、ここが気にいったか?」
「なに、別の目的が見つかっただけじゃ」
そう言ってレヴィアは部屋を出た。
♦
「死人が、ここの住人だったとはな……」
華耶から説明を受けたエギルは驚きを隠せなかった。傀儡師の存在と死人。それらの情報から考えられるのは、傀儡師が死人を操っていることで間違いないだろう。けれど、操られているのが湖の都の住人だとは考えられなかった。
「だが、近くには墓があったよな。埋葬はしたんじゃないのか?」
「……できる者はしてる。だけど、亡くなった人たち全員を連れて帰ることができなかったの」
「つまり、終の国に残してきてしまった亡骸を、操ってるってことか?」
「ええ、そうよ」
「華耶。一つ、聞いていい?」
説明の間ずっと黙っていたフィーは口を開く。
「……死人は、湖の都の住人だけ?」
そう聞かれて、華耶は一瞬だけ肩を震わせ反応したが、フィーから視線を逸らす。
「わからないわ……」
「そう」
フィーからは華耶の表情を確認できなかっただろう。けれど顔を逸らした先にいるエギルには、華耶の苦しそうな表情がはっきりと見えてしまった。
「とにかく向かおう。傀儡師を止めれば、きっと操られてる者たちも、ここのみんなも、安心できるだろうから」
華耶が見せた表情の真意がわからない、フィーはそれを聞いてはいけないような気がしていた。
◆
それから、エギルたちは終の国と決着をつけるための準備を始めた。
若者が中心となって、エギルたちと共に終の国へ向かうことになった。
残りの者たちはいつエギルたちが戻ってきてもいいように移住の支度を始める。
誰もが最後の戦いへと気持ちを引き締める中、エギルはフィーと二人で湖の都の周辺を歩いていた。
「フィー、大丈夫か?」
「……なにが?」
いつも通りのフィーのはずなのに、どこか違った感じがした。だけどその違和感が分からず、エギルは首を横に振った。
「いや、なんでもない」
「……そう」
二人の間には沈黙が生まれる。こんなこと、出会ったとき以来だ。
「そういえば、エレノアたちは問題ないか?」
「問題ないって。毎日、エギルに報告してるよ」
「そう、だったな……心配になったんだ」
「わかってる。……ねえ、エギル」
「どうした?」
ふと、フィーは足を止める。その足下を追従していた白ウサギのエリザベスと黒猫のフェンリルの二匹は、心配そうな表情で主を見つめていた。
「終の国との戦いが終わったら、少しだけ……一日だけ、ここに泊まってもいい?」
「いいが、どうかしたのか?」
「うん、ちょっとね。前の主に、会いたいの……」
少し言葉の意味を考え、エギルは問いかける。
「ユリシス、だったか……?」
「そう。わたしの最初の主。まあ、奴隷って扱いじゃなかったけどさ」
「そうか。そのユリシスは、どこに居るんだ?」
エレノアから、フィーの元主であるユリシスという少女のことは聞いていた。だが、エギルもエレノアも名前と少女ということしか聞いていない。
「……死んだよ。わたしがこっちで暮らしてる時に」
「そう、だったのか……すまない」
「ううん、気にしない。少し、昔話していい?」
「ああ、聞かせてくれ」
いつもと違った雰囲気のフィー。それはきっと、今までエギルに見せたことがない年相応の心が通った少女のように感じられたからだ。それが嬉しくもあったが、いつもとは違う様子に不安を覚える。
フィーはいつものように落ち着いた口調で話し始めた。
「わたしはね──」
彼女の、今まで秘密にしていた過去を。