裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
「……ごめん、こんな話、して」
フィーは自分の辛い過去を、喉を詰まらせながらも話し終えると、膝を抱えた。
「いや、大丈夫だ」
湖のほとりで二人は並んで座っていた。
なんて言ったらいいのか、エギルは言葉を紡げずにいた。
フィーの過去は想像以上に辛く、重く、悲しい過去だった。そんな過去があったから、出会った頃の彼女はどこか人形のようで、何事にも無関心だったのかと思う。
「……その後、わたしは一度だけ一人でここに戻って来た。だけど、もうユリシスは亡くなったって……華耶には、会えなかった。会いたくても、会っちゃ駄目だって、そう思ったの」
「そう、だったのか……華耶や、湖の都の者たちを怨んでたりしないのか?」
争いが頻繁に起こっていた大陸だとしても、こうなった原因は華耶たち湖の都にもある。いくら友人だったとしても、ユリシスを失った原因であることに変わりはない。
だが、フィーは首を振った。
「こんなこと、この大陸ではいっぱいあったから……それに原因が湖の都だとしても、華耶は、わたしのことを家族のように接してくれた恩人だから」
「そうか……」
「ユリシスを亡くして辛いのは、華耶も同じだったと思う」
「そうだな。何て言ったらいいかわからない。だけど、そのユリシスは、フィーに幸せになってほしかったんだと思う」
「……うん」
「自分が犠牲になっても救いたいと思える、優しい子だったんだと思う。……だから、一緒に墓参りに行こう。俺が、隣にいるから」
そう伝えると、フィーは膝につけていた顔を上げる。目元にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「うん。ありがとう、エギル。今度はちゃんとお礼、伝えるから」
「ああ、そうしよう」
「──エギルさん、フィーちゃん、準備できたわよ!」
そこで華耶に呼ばれる。どうやら、出発の準備ができたようだ。
「行こうか、フィー」
「うん」
エギルは立ち上がり、フィーと共に御殿に戻った。
◆
湖の都から馬を走らせ小一時間ほどで、四つの地域を分断する大きな壁が見えた。
終の国側の壁の門に警備兵がいると、エギルは事前に聞いていたのだが、そこには誰もいなかった。
華耶曰く争いが起こると、警備兵はまず一番最初に狙われるので、自然とその役割をなくしてしまったのだという。
その話を聞いて、エギルはすぐに納得できた。争いが多ければ領土を壁で分断しようが、警備をしようが、意味はないからだ。
エギルたちは無人の門を抜け、終の国の領土へ入ることができた。それから森を抜けると、ようやく終の国の象徴となる要塞のような壁が見えてきた。
終の国は外敵から守るための高い壁で囲われ、中央部に城がそびえ立ち、放射線状に城下街が広がっていた。
「あそこか……」
エギルたちは離れたところに約五〇〇人もの湖の都の兵たちを控えさせ、三人で終の国から少し離れた森から門の様子を伺っていた。
緊張からかみんなの表情は硬く、次第に口数も減っていく。
今回の目的は戦争ではない。狙うのは傀儡師の男と太陽と月のお面を付けた二人の少女。湖の都の住民はその戦いには一切手を貸さず、すべてエギルが行うと決めていた。
今までの戦いで傀儡師が姿を現したことは一度もなく、死人や騎士に指示を出すだけで自分は動かないタイプだと分かった。エギルの経験からそういった人間は必ず安全な場所にいることは明白で、王城にいるのだと予想できる。
ただ何かを操る者との戦いでは無駄な消耗は避けたかった。
なので今回、湖の都の者たちには王国前の門で騎士や警備兵の注意を引き付けてもらい、エギルとフィーと華耶の三人は、二人が子供の頃によく遊んでいた、秘密基地の近くにある秘密の通路から終の国へと侵入することにした。
「……俺が傀儡師を倒すまで堪えてくれ」
死人や騎士の数に対し、湖の都から来た住民たちの数は比例しない。堪えるだけでも厳しい戦いになるのは理解している。それでも付いて来てくれてるのは、ここにいる者たちも何百年と続いているこの争いに終止符を打ちたいと思っているからだろう。
──エギルが時間をかけずに傀儡師を倒せば勝利。
それが今回の勝利条件だ。
「……準備はいいか?」
華耶とフィーは同時に頷く。
エギルはフィーへと手を伸ばす。
「フィー、こっちに乗ってくれ。秘密通路までの道案内を頼む」
「わかった」
フィーは自分の乗っていた馬から降りると、エギルの前に乗る。
「よし、行くぞ」
エギルたちは華耶と数名の側役の者と共に馬を走らせる。フィーと華耶の案内で森の中を進んでいくと、色とりどりの花が咲いた場所へと到着した。
「エギル」
「エギルさん!」
二人が指差した方向には古い狩猟小屋があった。
「エギル、あそこから地下を通って終の国に行ける」
「これか……よく残ってたな」
「私たち三人しか知らない隠し通路なのよ。元々誰も使ってなかったから、そのまま残ってたんだと思うわ」
「なるほど。それじゃあ、向こうも始めてくれ」
エギルが側役に伝えると、彼らは頷き戻っていく。
彼らが湖の都の者たちが待つ場所へ到着したら、全員が城門へと向かう。その隙にエギルたちは王国内へ行き、王城へと向かう。
少ししてから、終の国の方角から侵入者を知らせる鐘が鳴り響いた。騎士団も動き始めたのか、次第に騒がしくなっていったようだ。
そして、三人は小屋の中に入り、布で隠された床板を外すと、階段から地下へと進んだ。
暗く湿気のこもった空気に、塵が積もった石畳の壁。階段を下りてすぐに感じたのは、汚物のような匂いだった。
「下水道か……」
エギルが松明の火を付けると、下水が流れていた。
「子供のときからあるから全く整備されてないはずよ……たぶん、もう使われてないと思うわ」
「わたしたちが使ってた頃は、ここまでひどくなかった」
「なるほど。新しい地下水路を作って、古い方は埋めたといったとこか」
匂いはきつく歩いてるだけでも息苦しかったが、それが、エギルたちにとっては良かったと思えた。足下に散乱する小石は誰も出入りされていないことを意味している。これであればだれかと出くわすこともないだろう。
「終着点があるかどうかだな……」
二人の話では。この地下水路と貧民街が繋がっているということだったが、もし使われていないのであれば、その入り口は塞がれている可能性がある。
だが、華耶は「そこは大丈夫よ」と答えた。
「この下水道へ続く道はいくつもあるから、全てを閉鎖するとは思えないわね。それに、下水道が流れてるってことが、終の国へ続く道があることを証明してるわ」
「それって、まさか……」
流れてくる下水をかき分けて出るのか、と聞こうとしたが、華耶がにっこりと微笑んだのでエギルは聞かないでいた。
それからは、あまり息をしたくないこともあり、会話なく進んでいた。
だが奥に明かりが見え、口元を抑えていたエギルたちはそこへ向かった。
「下水の中を進まなくて良かったな」
どれくらい経っただろうか。ようやく鉄製の梯子が現れ、そこから上へ進めば出られそうだった。
先にエギルが進み、その後を華耶とフィーが付いて行く。そして、重い蓋を開けると、太陽の光が降り注ぎ、三人は暗い場所に慣れた目を細めてた。
「ここは……」
「城下街の外れ、かしら」
三人が出てきたのは閑静な屋敷が多く建ち並ぶ住宅街だった。
「ここから王城までの道はわかるか?」
二人に聞くと、頷いて走っていく。
終の国の住民は皆屋内に避難しているのか、周りには人はいなかった。遠くからは大砲の音が響く。騎士や死人とは会わない。どうやら湖の都の者たちが注意を引けてるのだろう。けれど、地下水路の出口を探すのに時間がかかったため、苦戦を強いられているはずだ。
「あれか」
城下街を駆け抜けると、遠くに高い鋭角の屋根が見えた。
「あれがここの王城よ。おそらくは、そこに傀儡師がいるわ」
「エギル、エリザベスに先行させる?」
「いや、大丈夫だ。何かを操る職業の者は、決まって頂上にいる。おそらくは玉座だろうな」
傀儡師という職業で先陣を切って戦うとは考えにくい。というよりも、もしそこまで強気な奴であれば、今までの湖の都との戦闘で姿を現してるはずだ。
王城の門前には騎士がいた。攻められてる城門を守らないということは、この中に〝守らなくてはならない何者か〟がいるのだろう。
それを見て、エギルは呟く。
「死人は……やっぱりいないか」
「ええ、そうね」
「傀儡と化した人々が城下街を徘徊していれば、騎士や住民たちが不快に思うかもしれないからな……だが、何度か襲撃を受けて確認したが、死人の数は多かった」
「……私たちは、どこかに潜ませてると考えてるわ。そして、どこに隠してるかは……」
「王城……だな」
エギルは断言するように華耶とフィーに向かって言うと、二人も同じ考えだったのだろう、大きく頷いた。