裏切られたSランク冒険者の俺は、愛する奴隷の彼女らと共に奴隷だけのハーレムギルドを作る 作:柊咲
傀儡師は襲撃が起きた時、すぐに身を守るため常に自分の側に潜ませているはずだ。大勢の死人を潜ませるのであれば、王城なら都合がいいだろう。
そして予想通り、騎士が持ち場を離れて城門へと向かうと、代わりに王城から数名の死人が姿を現し、門の周りを徘徊している。普段なら終の国の人の目に触れるこの時間には死人は姿を現さないはず。今ここにいるということは厳戒態勢を敷いているのだろう。
「やっぱり王城の中に死人がいたか……」
「そうね。ということは、傀儡師もこの中にいると考えた方がよさそうね」
「ああ、よし、行くぞ」
エギルは走りだし、その後を華耶とフィーが続く。ここからは作戦なんてものはない、力づくで押し入るのみだった。
「薙ぎ払え──無限剣舞!」
城門の前に立ち塞がる騎士たち目掛けて剣を召喚すると、騎士たちの陣形は崩れ、城門へと続く道が開かれた。
「今のうちに入るぞ」
エギルたち三人は城内へと侵入し、すぐさま華耶が悪神九尾を召喚する。
「おいでおいで悪魔の魂、貸して貸して悪魔の力、この地を守りし紅の巫女が願い奉る。捧げるは巫女の鮮血、喰らうは狐の化身、刹那たる願いをここに──封印解放──悪神九尾!」
城門前で立ち塞がる悪神九尾のお陰で、外との通路を遮断することに成功した。けれど、城内からは騎士たちが現れる。
「華耶はここで待っていてくれ。上に行けば守ってやれないかもしれない」
エギルとフィーは襲い掛かってくる騎士や死人を近接戦でねじ伏せながら前へ進むが、悪神九尾を召喚してしまったら華耶自身の守りは手薄になる。そうなった彼女を守りながら戦うのは厳しくなるだろう。だが、華耶は首を横に振り、自らの指先を少しだけ切って、
「大丈夫、自分の身は自分で守れるわ」
血の付いた手を振り払う。その血は、針に姿を変え、騎士へと突き刺さる。
「自らの血を武器にできる。それが九尾と契約した私に与えられる力よ。だから大丈夫。私も二人の力になれるから」
「わかった。それじゃあ、行こう」
「ええ。九尾は門の前に構えさせるわ。そうすれば、外から追っては来なくなるわ」
そう言った華耶は悪神九尾に視線を向ける。
「九尾、ここはお願いね……私の血、好きなだけ飲んでいいから」
『ワオオオオッ!』
悪神九尾は飛んでくる矢を防ぎ、騎士たちを尻尾で薙ぎ払う。
九尾の助けによって、少ない人数の騎士たちを相手にするだけで最上階に辿り着くことができた。
長く続く朱色の絨毯が敷かれた廊下が姿を現す。
しかし、そこは静寂に満ちていた。
「……罠か?」
その先にあるのは玉座への扉。あまりにも静かで、異様な雰囲気に呑まれてしまいそうだった。
「あそこで待つ、ということか」
玉座への扉はまるでこちらを誘っているように開いている。
罠だとわかっていても、躊躇う必要はない。外では湖の都の者たちが奮闘してくれている。しかしそれも時間の問題だ。
湖の都の民たちは、エギルが傀儡師を倒し、何百年も続いた因縁に決着を付ける瞬間を待っている。
「ようこそ、俺様の王国へ!」
王の間に飛び込むと、玉座に座った金髪の男は両手を広げ、エギルたちを冷たい笑顔で歓迎した。
男の隣には太陽と月のお面を付けた二人の少女がいて、頭上に王冠を据えた小太りの男は力なく床に寝そべっている。異様な光景だが、エギルはすぐに理解できた。
「お前が傀儡師か……?」
エギルは金髪の男に声をかける。すると、男は足を組み替え、頬杖を付いてニヤリと笑った。
「ああ、そうだ。俺が傀儡師、ガイ・フォザスタだ。貴様は?」
「俺は」
「──エギル・ヴォルツ。お主と我と同じ、Sランク冒険者じゃ」
エギルが名乗る前に、見知った声が響く。
振り返ると薄紫色の髪を胸元まで伸ばし、黒のドレスに赤い糸の刺繍をあしらった少女がいた。彼女はエギルに向けて笑みを浮かべた。
「レヴィア……お前も来てたんだな」
「うむ、少し用事があってのう」
ゴレイアス砦侵攻戦の裏切り者、そして、闇ギルド《終焉のパンドラ》のメンバー。
彼女がいるということは、
「お前も、レヴィアと同じギルドの人間か」
ガイに言葉を投げかけると、彼はレヴィアを見てため息をつく。
「はぁ……なんだよ、レヴィアの知り合いかよ。んじゃ、交渉といこうじゃねぇか?」
「交渉?」
「ああ、そうだ。そのまま、その悪神九尾の女をこっちに引き渡してくれんなら、お前らを見逃す。報酬だってたんまりくれてやるよ。どうだ?」
「……本気で言ってるのか?」
「ん? ああ、本気本気、大真面目だぁ。んで、どうなんだよぉ?」
レヴィアを一瞥するが表情は笑みのまま。どうやら本気のようだ。
「そうか。悪いが交渉決裂だ」
「はぁ? なんでだよぉ? テメェだって知ってるんだろう? Sランク冒険者同士で争うのは、それはもう、この地がなくなるほど危険だってよぉ。俺たちは、ここが気に入ってんだよ。だから、あんまり争いたくねぇわけ。わかる?」
「ああ、ここが壊れるかもしれないな」
「だったら──」
「だが、華耶をお前に渡す選択肢はない。ここでお前を殺して、全てを終わらせるからな」
エギルは生成した剣をガイへと飛ばす。
さっきまでの笑顔はかき消える。
「……受け止めろ、下僕」
仮面の少女二人が突如ガイの盾となり、刀を弾いた。
エギルは追撃しようとしたが、
「エギルさん!」
王座の間にぞろぞろと死人の群れが現れる。
その全員がガイの前に群がるように立ち塞がる。
「交渉決裂なら仕方ねぇ。それに、テメェの死体が手に入れば俺様の下僕軍団は更に強くなるしなぁ! 行け、俺様の下僕共!」
その瞬間、太陽と月のお面の少女二人はトンっ、トンっ、トンっ、と高く跳ぶと一気にエギルとの距離を詰め、異質な武器を振り下ろす。
その時、レヴィアの声がした。
「エギル。その二人は殺すな。後悔するぞ」