魔境群馬・桐生ダンジョン特区〜底辺ランナーのハクスラ&ハーレム生活~ 作:Potoooooooo
これは、アヤカがクロウのドスケベまんこ嫁に堕ちる前の話である。
▼桐生ダンジョン特区 メインエリア 管理局出張所
「あ゛~……だり……」
ダンジョン探索を終え、メインエリアに戻ってきた新人ランナー、クロウ。彼は今、魔力酔いの初期症状に悩まされながら、窓口の列に並んでいた。
窓口は一つ一つ目隠しがされて半個室のようになっているが、耳を澄ませれば、他のランナー同士の会話や、隣のブースでのやり取りなど、色々と喧騒が聞こえてくる。
「おいおい、冗談だろ。機械壊れてんじゃねえの?」
「壊れていませんよ。ご不満でしたら、隣の窓口に並び直されますか?」
「はぁ……ったく。
前方の窓口から、体格の良い男が悪態をつきながら去っていくのが見えた。大量に結晶を持ち込んだはいいが、どれも低純度で、純度を測定する機械が吐き出した無慈悲な数値にがっかりしたようだった。
クロウは重い息を吐き出しながら、列を一つ前へ進んだ。
額には薄っすらと脂汗が浮かび、身体の芯に微熱のような気怠さが居座っている。魔力酔いの初期症状だろう。さらに厄介なことに、熱を帯びているのは頭だけではない。下腹部の奥、生殖本能を司る部分が異常に亢進し、ズキズキとした疼きを放ち続けている。
「はあ……きっつ」
ズボンのポケットに放り込んだ安い
熱く疼く股間とは裏腹に、頭の中は常に寒い懐事情でいっぱいだ。
治療費、弾薬代、そしてもうすぐ住居費の支払いも迫っていた。本来なら、魔力酔いが出たら大人しくベッドで休んで代謝を待ったほうがいいのは分かっている。しかし、今日の結晶純度の査定次第では、無理して明日も潜らないといけないだろう。
やがて、クロウの順番が回ってきた。
「次の方、どうぞ」
涼やかで、凛とした女の声。
クロウがカウンターの前に立つと、そこには周囲の泥臭い熱気とは完全に切り離されたような、ひんやりとした空気を纏う美女が座っていた。
黒く艶やかな長い髪を隙なくまとめ、仕立ての良さが一目でわかるタイトなビジネススーツを着こなしている。長身で、座っていてもモデルのようなプロポーションであることが窺えた。シャツの胸元は豊満な双丘によってふくよかな弧を描いている。しかし、彼女の放つ冷徹なエリートのオーラが、その魅惑的な起伏に向けられるいやらしい視線をことごとく跳ね返している。
「……よろしくお願いします」
クロウは気だるげにバックパックを下ろして、じゃらじゃらとDM結晶を査定用のトレイに放り込んだ。機械が純度を測定している待ち時間。クロウはゆっくりと備え付けのパイプ椅子に腰を下ろし、天井を見上げて深い溜息をついた。
「お預かりします」
女……オサフネ・アヤカは、クロウの顔を一瞥もせずに手元の端末を操作し始めた。
彼女は、管理局本部から桐生特区に出向してきた若きエリートだった。出世コースに乗っている彼女にとって、日銭を稼ぐために質の低い結晶を持ち込む野良ランナーたちの相手など、本来であれば退屈極まりない下働きでしかない。しかし、持ち前の完璧主義ゆえに、彼女はその業務すらも冷徹に、そして機械的な正確さでこなしていた。
クロウにとってありがたいことに、この窓口の処理は淀みがなく待ち時間が少なかった。ささっと終わることを期待してぼんやりと待っていた彼だったが、しばらくすると、機械が吐き出した結果をモニターで見た管理局員の美女が、僅かに目を見開いて、画面の数値とクロウの姿とを交互に見た。
「あの」
「はい?」
不意に声をかけられたクロウは、ぼんやりとしていた視線を下ろした。知性を感じさせる冷徹な金色の瞳に真っ直ぐ射抜かれて、思わず少し居竦んでしまう。
アヤカは目の前の冴えない童顔の青年を、ジト、とつぶさに観察した。腰に提げている武器は使い込まれた小口径のハンドガンと、安物のサバイバルナイフ。ランナーが好んで使うような、いわゆる《テンプレ》とは程遠い。防具も、ステルス性を重視しているようだが防御力は紙同然のツギハギ品だ。
(貧弱な装備ですね)
それが、アヤカの抱いた第一印象だった。そしてもう一度、査定機が弾き出した結晶の純度グラフに目を落とす。表示されている数値は、この底辺レベルのランナーが持ち込んでくるとは到底思えないほどの高純度を示していた。窓口業務をこなしていくうちに、アヤカも現場の勘所を押さえてきている。怪しい、と彼女の直感が告げていた。
「確認ですが、これほどの純度の結晶をどうやって手に入れましたか?」
「お? 結構いい純度でした?」
「質問に答えてください」
ピシャリ。絶対零度の声だった。クロウは気圧され、「ひえ」と微かに情けない声を上げてアヤカを上目に見た。彼女の背後に冷たい氷山がそびえ立っているような錯覚すら覚える。
「ええと……エーテル鴉の巣から盗みました」
その間抜けな響きのある回答に、アヤカは僅かに眉を動かした。
「……なるほど」
アヤカはクロウの言い分を聞いたうえで、査定用トレイの中の結晶に向けてスキルを使った。金色の冷徹な瞳が、客観的な真実を暴いていく。
【アイテム】DM結晶
【純度】B++(65)
【エーテル履歴】
エーテル鴉のスキル【収集癖】により生成。
ランナー(個体名:クロウ)による強奪。
超高速結晶純度測定機(NIKKO OPTIC EtherAnalyzer5)により純度測定済み。
(……ここまでにしましょう)
アヤカはスキルの反動で軽い目眩を覚えながら、それ以上の真実を深堀りすることを止めた。十分だったからだ。
彼はモンスターと直接戦って結晶を奪い取ったのではなく、鴉が留守にしている隙を突くか、あるいは気づかれないように接近し、巣に安置されていた結晶だけをそのまま懐に入れてきたのだ。真理の瞳が告げる揺るぎない来歴情報が、彼の”盗んだ”という言葉を完全に裏付けている。
「素晴らしい戦略と手際ですね」
アヤカは淡々とした口調で、目の前の冴えない青年を褒めた。しかし、その美貌は相変わらず氷のように冷ややかで、声色にも一切の抑揚がない。底辺ランナーの小賢しい立ち回りを皮肉られているのか、それとも純粋な称賛なのか。クロウは真意を測りかねて、曖昧に頬を掻くしかなかった。
「純度B+ですので、買取金額はこちらになります」
アヤカは手元の端末を流れるように操作すると、カウンターに設置された小型モニターに査定額が弾き出された。本当はもっと純度が高いのだが、こればかりは機械の精度の問題だ。自分が勝手に査定額を上げるわけにもいかない。アヤカは多少の罪悪感を覚えつつも、表面上は淡々と事務処理を続けた。
「おぉ……」
提示された数字を見て、クロウは思わず感嘆の声を漏らした。
それは、彼が普段必死に低級モンスターを狩って稼ぐ数日分の日当を、軽く上回る金額だった。たまたま探索中にエーテル鴉の巣を見つけ、ダメ元で忍び寄ってかすめ取ってきただけだったが、これほど割に合う結果になるとは思ってもみなかった。
これで滞納しかけていたアパートの家賃も払えるし、切らしかけている銃弾の補充もできる。なにより、ズキズキと熱を持って疼く下半身を鎮めるための、少しマシな薬を買う余裕もできた。クロウは自分のスキルが見事にハマったことに、心のなかでひっそりと喝采をあげた。
「報酬は所定の口座に振り込まれます。お疲れ様でした」
「ありがとうございます。助かりました」
思わぬ臨時収入に、クロウは今日一番の深い安堵の息を吐いた。気怠げだった表情に僅かな生気が戻り、バックパックを背負い直してペコリと軽く会釈をする。そのまま足早に、出張所の喧騒の中へと消えていった。
アヤカは定型文を読み上げた後、去っていく彼の背中をジッと見つめていた。やがて彼が完全に群衆に紛れて見えなくなると、アヤカは小さく息を吸い、再び冷たい事務的な声で次の客を呼んだ。
「次の方」
▼桐生ダンジョン特区 錆街 安アパート クロウの部屋
錆街の片隅にある、築数十年は超えているであろう安アパート。四畳半ほどの狭い室内は、外のトタン屋根を叩く乾いた風の音をそのまま遮ることもなく通し、薄い壁の向こうからは別の部屋の住人が吐き出す濁った咳や、路地の騒がしい雑音が絶えず漏れ聞こえてくる。湿気で小さく波打った安物の畳の上には、まともな家具らしい家具もなく、買い手のつかないゴミドロップが段ボール箱の中で無造作に積み重なり、煤けた弾薬箱が整理もされずに転がっていた。
「はぁ……」
綿が抜けてぺちゃんこになった座布団に座り、クロウは深く、重苦しい溜息を吐きながら、手元の端末を見つめて項垂れていた。画面に映し出されているのは、今回も非情な不採用通知。お祈りメール。益々のご活躍を……などと慇懃に書かれている文章を読み返して、クロウはもう一度ため息をついた。
どこか気弱そうな佇まいの青年。周囲の風景にすんなりと溶け込んでしまうような、自己主張の薄い独特の空気感を纏っている。放っておけばそのまま社会の片隅でひっそりと飢え死にしてしまいそうな、頼りない危うさが、その背中からは静かに漂っていた。
「あのぅ……クロウさぁん」
「うん」
「元気だしましょうよ……ね、ね」
隣に身を縮めるようにして座っていた少女が、クロウの肩を人差し指でちょんちょんと控えめに叩きながら、上目遣いに覗き込んできた。ブカブカの魔法使い風ローブに身を包んだ彼女の名前はスミレ。
新米ランナーたちの熱気に馴染めず、講習会の隅っこでぼっち同士、お互いの陰気なオーラを嗅ぎ取ってひっそりと意気投合した少女だ。偶然にもアパートが同じだったこともあり、社交性の乏しい二人は、外の世界を避けるようにしてこの部屋で身を寄せ合ってきた。
「……はぁ」
そんな同類からの気遣いも、今のクロウの耳には素直に届かなかった。無理もない。これまで二人でいくつかのクランに応募してきたが、ことごとく不採用。そして、ようやく届いた合格通知は、隣にいるスミレのものだけだったのだ。
彼女にとっては、やっと掴み取ったチャンス。だが、内向的なスミレにしてみれば、自分だけが陽キャだらけのクランという未知の社会へ放り出される恐怖のほうが勝っているのだろう。彼女の手は不安げに震えている。自分を置いて行かないでほしい。けれど、彼が落ちたことも、自分が受かったことも申し訳ない。そんな複雑な感情が、彼女の死んだような瞳に揺れていた。
「……大丈夫。俺は俺で、自分のやり方で頑張るよ。スミレちゃんは、せっかく掴んだチャンスなんだから、迷わずそのクランで頑張ってきて」
クロウは諦めたように肩を落とすと、頼りない笑みを浮かべた。
「え……と……でも、クロウさんは……」
気まずそうに視線を揺らすスミレ。
「まあ……ソロかな。やりようはあるし」
クロウの脳裏に浮かぶのは、純度の高いDM結晶をエーテル鴉の巣から強奪した成功体験だ。それに、昔馴染みのジャンク屋の主人も、ゴミドロップをそれなりの値段で買い取ってくれる。しばらく生きて行く分には、問題ないはず。
「その、あの」
スミレは決意に満ちたクロウの横顔を見て口をパクパクとさせた。人差し指同士をもじもじと擦り合わせる。
「ん?」
「そのぅ……苦しかったらいつでも言ってくださいね……そのほら……家賃の補助が出るから余裕はできるので……」
「ありがとう。お互い頑張ろう」
なお、この後クロウはさっさとアパートを出ていくことになる。
▼桐生ダンジョン特区 メインエリア
「それじゃ失礼します」
「うむ、またの~」
のんびりとした見送りの声を背中で受けながら、クロウは一滴堂の扉を押し開けた。暖かみのある店内から一転、路地のひんやりとした空気が肌を撫でる。
クロウは一滴堂の主人と交渉して、無事にドロップ品の継続的な買取の約束を取り付けられたことで、胸の奥に詰まっていた重荷がすっと軽くなるのを感じた。路地の片隅に寄り、大きく息を吐き出しながら、軽く伸びをする。
「っ……はぁ」
ささやかな安堵感が、心地よい疲労感とともに身体に染み渡る。クロウは日陰の路地から表の通りへと移動し、日向になっているベンチに座り、何気なく携帯端末を取り出した。
画面をスクロールさせ、ランナー用の情報共有サイトや、取引サイトに目を通す。今のクロウの資産は、身一つと、細い交友関係のみ。自分から情報を取りに行かなければ、現在のトレンドは分からない。
「二層地下で大事故……へぇー……」
ネットでは、桐生ダンジョン第二層で脅威度レベルAのモンスターが出現して大暴れし、大量のランナーが蘇生施設送りになったという話題で持ち切りだった。未だ一層で四苦八苦しているクロウには対岸の火事のようであったが、念のために軽く目を通した。地下通路いっぱいのでかさのトカゲが、赤い目を光らせて迫ってくる配信の切り抜きがバズっているようだ。
「こわぁ……」
思わず声を漏らした。自分は気をつけよう。クロウは、そう心に留めた。
その後、フリマサイトにアクセスしてぼったくり価格の装備品たちを眺める。手が届くものではないが、見ているだけでも面白い。需要の多いMODはすぐに売れていくし、一方で不人気のMODはいつまでも市場に残ったまま。それらのトレンドも、頭に入れておく。
ふと、画面の上部にメッセージアプリの通知がポップアップした。
『From:ユイ
桐生に戻りました。今から会えますか?』
ユイ。 同じ師匠のもとで育った少女。クロウにとっては年の近い親戚みたいな感じだ。彼女はとても優秀で、クロウよりもライセンス取得は早かったし、今では女性オンリーの実力派ランナーチームで活動している。確か尾瀬のダンジョンに行っていたはずだが、どうやら無事に帰ってきたらしい。
クロウは了解の返信を送り、彼女が指定してきた待ち合わせ場所へと足を向けた。
指定された場所は、メインエリアの中心からは少し外れた、小洒落たレンガ調の喫茶店だった。ガラス張りの明るい店内から、香ばしい珈琲の匂いが漂い、テラス席ではお洒落なギャルたちがキャッキャと黄色い声を上げ、身なりのよいエリートらしき人たちが談笑している。
お世辞にも羽振りが良いとは言えない身なりのクロウからすれば、なんとも敷居が高い場所だ。
クロウは軽く衣服のホコリを払いつつ、所在なさげに入口付近で立ち尽くした。周囲の目を気にするように、携帯端末を取り出して、いかにも待ち合わせをしてますよという雰囲気を出しながらメッセージアプリを開く。そもそも周囲にクロウのことを気にする人間など一人もいなかったが。
『From:ユイ
もう少しで着きます』
『着いたよ』、とメッセージを送ったら即座に返信があった。チャット打つの早いな、とかどうでもいいことを思いながら、クロウは彼女が到着するのを待つ。店の前の木をぼーっと見上げて待っていると、横から鈴を転がすような優しい声が鼓膜をくすぐった。
「おにいさん」
「っ! ……びっくりした」
「ふふ、お待たせしました」
黒のセーラー服に身を包んだユイが、柔らかに微笑んでいた。桃色の綺麗な長い髪が、そよ風に吹かれてさらさらと流れる。本人曰く、その服装はスタイルと実益を兼ね備えているそうだが、いつまで経っても見慣れない彼女の格好に、クロウは目を右往左往させる。
「あ、うん。五分くらいかな……」
「まずは『お帰り』じゃないんですか?」
「あ、ごめん。おかえり、ユイ」
「はい、ただいま帰りました。おにいさん」
形式的なやり取りを経て、手慣れた様子で店内に入っていく彼女をおずおずと追う。少し奥まった静かな席に向かい合わせで腰を下ろすと、彼女は呪文を唱えた。
「えっと~、私はアイスのトリプルエスプレッソラテに、低脂肪乳に変更、キャラメルシロップとホイップクリーム追加で。あ、それとバニラアイス乗せでお願いします」
(ギャルだ……)
流れるようなその注文を聞きながら、クロウは彼女を陽キャギャル認定する。
ユイは満足そうに微笑むと、今度はクロウへ視線を向けた。
「おにいさんは何にします?」
「……えっと。アイスコーヒーで」
複雑なメニュー表を直視する気にもなれず、クロウは一番端に書かれていた最も安価で無難な名前を指差した。店員が下がっていくのを見届けながら、ようやく小さく息を吐き出す。
「……なんかすごいね」
「もぉ~、桐生が恋しくて。がんばった自分へのご褒美です♡」
「そっか」
よほど尾瀬は大変だったのだろう。住んでいると忘れそうになるが、桐生は地方都市としては大きい方である。当然、東京と比べれば霞むが。
やがて、テーブルに二人の飲み物が運ばれてきた。ユイはパフェと見紛うようなデコレーションが施されたフロートを愛おしそうに眺め、さっそくスプーンを手に取りながら、嬉しそうに目を細めて語り始めた。
「聞いてください、おにいさん。今回の遠征、本当に素晴らしかったんです。うちのチームのリーダーが、それはもう凛々しくてかっこよくて……」
「前に言ってたイケメン王子様?」
「です! 一緒に温泉入ったんですけど、おっぱいでかくて柔らかかったなぁ……」
「そ、そうなんだ……」
生々しい百合トークに若干気圧されるクロウ。今に始まったことではないが、慣れないものだ。
「それから~、新しく入った後輩の女の子も、ウザカワで凄く可愛いんですよ。生意気なところがそそるっていうか……」
ユイは楽しそうに、そしてどこか熱っぽく、チームの女性メンバーたちの魅力を並べ立てていく。
彼女が可愛い女の子に目がない百合嗜好であることを、クロウはよく知っていた。だからこそ、女性限定のクランは彼女にとって文字通りの天国なのだろう。クロウは(相変わらずだなぁ)と思いながら、ただ穏やかに聞き役に徹していた。
ユイがひとしきりお気に入りのメンバーについて語り尽くし、口直しに運ばれてきた紅茶に口をつけたところで、彼女はクロウに話を振ってくる。
「おにいさんからは、何かありますか?」
「俺? いや、特にはないかな。ぼちぼち頑張ってるよ」
こうして定期的に行われる、たわいもない近況報告会。大抵はユイが身振り手振りを交えながらガンガン喋り倒し、クロウはそれを相槌を打ちながら聞いているだけだ。しかしこういう場があることで、お互いにすれ違うことなく、確かな繋がりを感じていられる。
身寄りのない者同士、血の繋がりはなくとも、彼女はクロウにとって唯一無二の家族だった。
ユイは手を止め、上目遣いで、探るようにクロウの顔を覗き込んでくる。
「その様子だと、相変わらず彼女さんもいないみたいですね、おにいさん」
「急に刺してくるね。いないけどさ」
クロウはごまかすようにグラスに口をつけた。
「寂しくないんですか?」
「うーん……どうかな。一人で居るのは好きだし、それにあんまそういうこと考えてる余裕がないしね。今住んでるところも来月から家賃上げるとか言われてるし」
クロウは世知辛い現実を思い出して、そっとため息を吐いた。
「まだどこのクランにも入ってないですもんね?」
「うん。そもそも入れてくれないし。だからもう、諦めてほそぼそとソロで食ってくことにした」
氷が融けて薄くなったコーヒーを飲み干す。クロウのその頼りなげな輪郭を見つめていたユイは、身を乗り出し、悪戯っぽく微笑んだ。
「そうですか。じゃあ、借金で首が回らなくなる前にちゃんと私に言ってくださいね。――私が一生、養ってあげますから♡」
「気をつけるよ……」
ユイは何がそんなに楽しいのか、嬉しそうに目を細めてニコニコと笑っていた。