魔境群馬・桐生ダンジョン特区〜底辺ランナーのハクスラ&ハーレム生活~ 作:Potoooooooo
▼桐生ダンジョン特区 メインエリア 『飯処 錆び刃』
ある日の退勤後、アヤカは局の先輩であるシノブに強引に連行され、特区のメインストリートから外れた裏路地にある食事屋に足を踏み入れていた。
店内は、暴力的な豚骨とニンニクの匂いが充満している。ランナーらしき客が何人か、テーブル席で餃子をつつきながらダンジョン探索について話しつつ、ビールで食事を流し込んでいた。
通常、特区の安全圏で執務を行う管理局のエリート層であれば、この澱んだ空気と粗野な熱気に生理的嫌悪を催し、すぐにでも逃げ出すほどの異世界だ。しかし、アヤカはそんな劣悪な環境など微塵も気にしていなかった。
隣の席では、飲んだくれ先輩職員のシノブが、すでに度数の高い安焼酎で悪酔いしていた。
「だーかーら! 本部の連中は現場の苦労なんてこれっぽっちも分かっちゃいないのよ! 書類上の数字だけで特区が回ってると思ってんの!」
シノブはドンとジョッキをカウンターに叩きつけ、赤ら顔で管を巻いている。アヤカは顔をしかめることすらなく、シノブの鬱憤晴らしの絡みを適当な相槌で受け流しつつ、完全に無表情で、提供されたレバニラ炒めを口に運んでいた。味は悪くない。
そこへ、暖簾をくぐって一人の男が入ってきた。数週間前、出張所の窓口でアヤカが対応して以来、何度か言葉を交わすようになったランナー、クロウだった。
彼は店内の澱んだ空気など全く意に介する様子もなく、まっすぐにカウンターへ向かうと、たまたま空いていたアヤカの隣の丸椅子に静かに腰を下ろした。彼はメニューを一瞥し、
「ラーメンと炒飯で」
と言った。寡黙な店主はただ頷き、調理を始めた。
クロウはコップに水を注ぎながら、ふと隣に座るスーツ姿の女に視線を向けた。それが、最近よく会う冷徹な管理局員だと気づくと、少し驚いたように目を瞬かせた。
「あ……オサフネさん、お疲れ様です。こんなとこに来るなんて、珍しいですね」
クロウが遠慮がちに、だが窓口の時よりは少しだけ砕けた様子で声をかけると、アヤカは咀嚼を止めて静かに彼を一瞥した。
「ええ、少し先輩に付き合わされて。……こんばんは、クロウさん。こちらの常連ですか?」
「そうですね。いつもお世話になってます」
クロウは、彼女の手元のレバニラ炒めを見下ろしながら答えた。そして、そのさらに隣で突っ伏してブツブツと文句を言い続けている女を見て、納得した。
「……あ、なるほど。シノブさんのお守りですか。お疲れ様です」
クロウは気の毒そうにアヤカを静かに労った。どうやら彼は、この出張所に長く勤めているシノブとは以前から顔なじみであるらしい。
しかし、そのクロウの同情的な声は、酔っ払いの耳にしっかりと届いてしまった。
「……あーん? 誰がお守りされてるってェ?」
シノブがむくりと起き上がった。焦点の合わないとろんとした目でクロウをねめつけると、彼女は面倒くさい絡み酒のターゲットを、反応の薄い後輩管理局員から見知ったランナーへとスライドさせた。
「あ、クロウくんじゃーん! あんたねぇ、最近シノブお姉さんの窓口に全然来てくれないじゃないのお」
「ちょ、シノブさん」
クロウの席へと突撃したシノブは、彼が身を引いて嫌がるのも構わず、彼の首に腕を回し、真っ赤な顔を近づけてダル絡みをし始めた。
その様子を冷ややかな目で見つめていたアヤカが言う。
「彼女はいつもこうなのですか?」
「だいたいこんな感じです」
「先輩がご迷惑をおかけします」
「あ、いや、全然いいですけどね」
先輩の粗相を淡々と謝るアヤカに、クロウは苦笑いを返した。横でがぶがふとジョッキを呷り続けるシノブを適当にあしらっていると、ちょうどクロウが注文していたラーメンの丼が運ばれてきた。
立ち上る湯気と香ばしい匂いに、クロウは嬉しそうに表情を緩める。楽しげに割り箸を手に取る彼の様子を、アヤカは横からじっと見つめていた。
「……?」
視線に耐えかねて、割り箸を割ったクロウが不思議そうに首を傾げた。居心地悪そうに、わずかに目を泳がせる。
「何か落ち込むことがありましたか?」
アヤカの淡々とした、しかし本質を正確に射抜くような問いかけに、クロウはぎくりと肩を揺らした。
「え? あぁー……まあ、ちょっと」
突然図星を突かれて動揺したクロウは、苦笑いで視線をそらそうとする。しかし、横のシノブがそれを逃さなかった。
「お、マジィ? ちょっとおねーさんに話してごらんよぉ~」
「んぐえ」
シノブに頬をうりうりとされ、クロウは情けない声を上げた。その間も、アヤカの感情の読めない瞳が、無言のまま真っ直ぐに彼を射抜いている。その静かな圧力に耐えかねて、クロウはついに観念した。
「実は……クランの面接に落ちて」
「それだけではないようですが」
「えっと、まあ、十件目かな? くらいで。一緒に応募してた友達だけ受かっちゃって。だからクランは諦めてソロでやっていこうかなって……」
クロウは諦めたように肩を落とし、手元の箸を見つめた。
「なるほど」
アヤカは静かに頷き、クロウの気弱そうな横顔を見た。
「不合格という事実そのものより、そのご友人との間に生じた格差に、ご自身が置いていかれたような焦りを感じているのですね」
その声には同情や憐れみといった温度は一切なく、ただそこにある事実を淡々と拾い上げ、整理しているだけのようだった。
「まあ、そんなところですかね……」
クロウは、気まずそうに視線を泳がせながら、力なく呟いた。ソロで行くと決めた。しかし、自分がその場で足踏みしているような感覚が、不格好な焦りを生み出していた。
「しかし、キミはソロでも十分やっていけると思いますが」
アヤカはそう言って、表情を変えずにクロウを見た。その瞳はどこまでも冷静で、感情的な励ましを含んでいない。
「鶏の口になっても、牛の尻尾にはなるな、という古い言葉があります。どれほど大きな組織であっても、その末端にぶら下がり、他人の都合で動かされるだけの歯車になる必要はありません。それなら、小さくても自分の意志で自由に動ける存在であるほうが、生存率は高い」
言葉を切った彼女は、一度クロウの様子を見た。彼は言葉の波に流されることなく、耳を傾け、その意味を咀嚼している。
「キミの性格やこれまでの立ち回りを客観的に観察する限り、他人のペースに合わせるより、自分の裁量で動くほうがパフォーマンスを発揮しやすい。無理にどこかのクランに潜り込んで、窮屈な規律に自分をすり潰す必要はありません。これは感情論ではなく、ただの分析結果です」
その、あまりにも平坦で温度のない言葉が、かえってすんなりと馴染んでいく。
「……ありがとうございます」
「お礼を言われる筋合いはありません。私に時間がある時なら、思考を整理するための壁打ち相手くらいはしてあげます。そこで酔い潰れている方よりは役に立つでしょうから」
クロウが横を見ると、いつの間にかシノブは机に突っ伏して気持ちよさそうに寝息を立てていた。二人はどちらからともなく、顔を見合わせた。
「あちゃあ……大丈夫ですかアヤカさん」
「いえ、困ったことに先輩の家を知りません」
「じゃあ送っていきますよ。何度か送ったことあるんで……」
クロウは事もなげに申し出る。
「ありがとうございます。ですが、急がなくていいですよ。食べ終わるまで待ちましょう」
「そうだった」
「ゆっくりどうぞ。止めてしまったのは私ですから」
クロウはハッと思い出したようにラーメンと炒飯に手を付ける。少し恐縮しながら、料理を気持ち早めに口に運んだ。
この夜を境に、クロウの足は自然とアヤカの元へと向かうようになった。最初はダンジョン探索の簡単な相談から。アヤカはただ客観的なデータを提示し、メリットとデメリットを冷静に並べて見せた。
そのやり取りを繰り返すうちに、二人は連絡先を交換して、プライベートな時間を費やすようになった。クロウは自分の心の奥底にある、他人には決して言えないような焦りや迷いも、アヤカになら素直に口にできるようになっていた。アヤカもまた、彼から持ち込まれる相談を鬱陶しがる風でもなく、いつも変わらない平坦な温度で受け止め続けた。
こうして二人の間には、友情とも、ビジネスライクな契約とも違う、不思議と息がしやすい相談相手としての関係が、静かに築かれていった。
そして運命の日がやってくる。
▼桐生ダンジョン特区 メインエリア アヤカのアパート
管理局の出張所が置かれた賑やかなメインエリアから、少し外れたビル街。シティセンターほどではないが、家賃が高く、その分安全なエリア。そこに、アヤカの住むアパートはある。
アヤカが他人、それも異性を自室に招き入れることなど、これまで一度もなかった。しかし、通話越しに聞こえたクロウの声にただならぬ深刻さを感じ取った彼女は、人目を避けて確実に話ができる場所として、あえて自分の部屋を指定した。
約束の時間よりもずいぶんと早くアパートにたどり着いたクロウを、アヤカは静かに迎え入れた。今日の彼女は外出用のかっちりとしたスーツ姿ではなく、お洒落な部屋着だった。タイトなニット地の胸元を、豊かな胸が暴力的に押し上げている。
「すみません、急な相談なのに時間を作ってもらって……」
「構いませんよ。どうぞ中へ」
促されて一歩足を踏み入れたアヤカの部屋は、彼女の性格をそのまま形にしたかのように、無駄な装飾が一切ない。整然と整えられた、いかにも優秀なエリート局員らしいクールな自室だった。
だが、今のクロウには、初めて訪れた女性の部屋を観察するような余裕は一ミリも残されていなかった。
アヤカはドアを閉めると同時に、彼の異常な様子を正面からじっと見つめた。肩で浅い呼吸を繰り返し、額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいる。その佇まいからは、いつもの落ち着きさえも失われていた。
「かなり体調が悪そうですが、大丈夫ですか?」
「はい……すみません、実は魔力酔いが酷くて、まともに立っているのも辛い状態で」
その言葉を聞いて、アヤカはすぐにクロウをソファに座らせ、キッチンへ向かった。水をコップに入れて戻り、直接手渡すと、テーブルを挟んで向かい側に座る。
クロウは片手で頭を押さえながら、受け取った水をゆっくりと飲んだ。
「最近、ずっと身体が熱くて……頭の奥が痺れるみたいで。……これって、魔力酔いの末期症状なんじゃないかって。……もう長くないのかな」
「医者にはかかりましたか?」
「一応、それなりの所には……。コレはくれたけど、全然効かないし、休んでても良くならないし、でもダンジョンに潜らないと家賃が……」
クロウがポケットから取り出し、テーブルの上に置いたのは、クリアブルーの空き瓶だった。そして、次々と不安を口にする。相当、追い詰められているようだった。
「ふむ……」
アヤカはそれを指先でつまみ上げ、光に透かして眺めた。軽く鑑定を施して情報を読み取ってみるが、偽物というわけではない。まっとうな医療用のクリアブルーだ。
となると、クロウのこの状態はいったい何なのか。アヤカは、目の前で弱り切っている彼を冷静に観察する。
(本当に魔力酔いの末期症状でしょうか)
重篤な魔力酔いに侵された者は、通常、もっと理性を失って精神錯乱を起こすはずだ。しかし、目の前のクロウは苦しそうではあるものの、受け答えの理性ははっきりと保たれている。
原因を探るには、もっと深く彼の内側を観測するしかない。
アヤカには、真理の瞳と呼ばれる特殊なスキルがあった。他人のプライバシーを暴き立てるような力であり、何より自身の脳にかかる負担も決して小さくない。そのため、彼女はみだりにこのスキルを他者に向けることを厳しく自制していた。
だが、苦しむクロウをこのまま放置するわけにもいかない。彼が抱える異常の正体を知るためには、禁を破る価値がある。ただし、勝手に覗き見るような真似はアヤカのポリシーに反する。
「クロウくん。私のスキルを使って、キミの身体の魔力状態を詳しく視てもいいですか? 同意があれば深いところまで見ることが出来るスキルなんです」
「え……? ああ、うん。アヤカさんがいいなら……」
突然の提案にクロウは少し瞬きをしたが、すぐに信頼の混じった表情で頷いた。
その同意を受け、アヤカは静かに息を整える。
「……少しだけ、目をつむっていてください。キミの身体の魔力状態を視てみます」
アヤカの指示に従い、クロウは大人しく瞼を閉じた。完全に警戒を解き、アヤカに対して自身の内側を無防備に開け渡した状態。その無条件の信頼を受け止めながら、アヤカは深く呼吸を沈め、一度閉じた両目をゆっくりと見開いた。
その双眸の奥に、妖しい光が湛えられた。他者の真実を白日の下に晒す鑑定スキル、真理の瞳。アヤカの視界は、クロウの肉体から詳細に情報を読み取り始める。最初は浅いところから、だんだんと、深いところへ。クロウが自分の意思で無防備にさらけだす、彼の本質へと。
そして、彼女がそこに見たものは、到底信じられる性質のものではなかった。
(なに、これは……?)
単なる魔力酔いの症状など、そこには欠片も存在しなかった。クロウの身体に渦巻いていたのは、濃密な純粋過ぎる魔力。
(特異適合体質……これは、いった、い……)
その根本の原因を探ろうと、より深く情報の海に潜ったアヤカを待ち構えていたのは、巨大かつ濃密な魔力の奔流だった。
人はダンジョンが生み出す瘴気を取り入れ、ゆっくりと代謝することで魔力を生み出し、自身を強化していく。それを尋常ならざる速度で行い、超純粋な魔力を大量に生み出す、この世に最も適応した男。最強のオス。
運命の相手。
「あ゛っ」
これ以上深く潜るのは危険――と、そう思った時にはもう遅かった。
クロウの深淵にある濃密な魔力が、アヤカを鷲掴みにした。抗う術もなく、アヤカ自身の魔力と混ざり合い、その圧倒的な性質をもって、不可逆的に塗り潰していく。
真理の瞳はアヤカの意志に関係なく、入り込んだ真実を無慈悲に解析し、出力し続ける。クロウがその身に宿すありとあらゆる情報が流れ込んできた。それらは無機質なログのようでありながら、目の前のオスがいかに規格外の存在なのかという事実を、メスの本能に叩き込んでくる。
今日、彼が何を食べたのか。どのようなスキルを保持しているのか。真理の瞳がもたらす情報は、それだけに留まらない。
彼が秘めている潜在能力は、まさに計り知れないものだった。ダンジョンの瘴気を吸収するたびに、特異適合体質による超高速の代謝が機能し、彼の魔力容量を絶え間なく拡張していく。その成長の軌跡は指数関数的な曲線を描いており、現時点では穏やかな兆候に過ぎずとも、将来的に爆発的な飛躍を遂げることは約束されている。
「あっ、あっ」
そして、オスとしての繁殖能力。彼の股間に眠る未使用ペニスは、その長さ、太さ、形状いずれをとってもすでに規格外というべきものであるにもかかわらず、未だ成長の余地を残している。特異適合体質の副産物として、彼の体力・精力という、生命力の根源は常人ではありえない領域に到達しかけており、それもまだ成長限界には達していなかった。
「す、ご……」
クロウが苦しむ症状の原因。それは、溢れ出るほどの生命エネルギーが放出先を探して彼の体内で暴れ狂っているという、極めて単純な理由であった。言い換えれば、彼の肉体がオスとして圧倒的な性能を有しているということでもある。その事実が真理の瞳を通じてアヤカの脳髄へとダイレクトに叩き込まれたことで、彼女のメスの本能は彼を生涯のツガイとして認識して、『絶対に逃さない……♡♡』と脳と子宮がガチ恋・即堕ちしてしまっていた。
(私、キミのこと、もっと好きになって……あ゛♡)
彼は、アヤカの中にある魔力を瘴気ごと残さず喰らい尽くした。だが、それでも飽き足らず、全ての細胞にクロウというオスの情報を深く刻み込み、彼女の精神と肉体を、甘美な魔力の海に溺れさせていく。それはまるで、『お前は俺のものだ』と、直接魂に理解らされているかのような極上の快感をもたらした。
「あ……っ、あっ、あっ、あっ……」
絶叫すらまともに声にならなかった。視界が明滅する。鼻腔からは、処理しきれない負荷によって破裂した毛細血管から、鮮紅の血がツー……と一筋流れ落ちる。アヤカの意識は混濁し、その目は白目を剥きかけていた。
「お゛ッ♡お゛ッ♡」
クロウという冴えないはずの青年の奥底に眠る、神のごとき圧倒的な魔力量。それに脳を乱暴にかき混ぜられ、アヤカの理性が完全に蒸発する。全身の力が抜け、指先が不自然に痙攣した。
「ぉ゛っ……………♡」
蕩けた甘い溜息を最後に漏らし、アヤカは完全に限界を迎えた。そして、そのまま意識を手放してしまうのだった。