※この作品はR-18です。

魔境群馬・桐生ダンジョン特区〜底辺ランナーのハクスラ&ハーレム生活~   作:Potoooooooo

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第三層、藪の向こう

▼桐生ダンジョン 第一層

 

 

 桐生ダンジョン第一階層。快晴の空のもと、崩落したコンクリートが突き刺さる廃墟の間を、クロウは一切の足音を立てずに進んでいた。

 

 彼の顔を覆っているのは、シズクの手によってエピック等級へと昇華した新たな防具、狐のバリスティックマスクである。

 


アイテム名:【狐のバリスティックマスク】

タイプ:頭部防具

レアリティ:エピック

基本性能:頭部装甲・小

固有MOD:『視野確保+』(暗闇や煙の中でもクリアな視界を確保する。不可視状態のモンスターや、隠された宝箱を視認可能)

ランダムMOD:

『気配遮断+』(ステルス効率UP・中、ステルスアタックボーナス・中)

『空き』


 

 

 試運転として潜った第一階層だったが、その性能はクロウの予想を遥かに上回るものだった。

 

 まず元々付いていた『視野確保』の上位版である『視野確保+』。光の届かないような廃墟内の探索でその効果を発揮し、特にゴーストの多く出る廃病院では、不可視状態から奇襲を掛けてくるゴーストを逆に不意打ちして倒すといったようなことも可能となった。廃墟内を粗方探索したクロウだったが、戦利品はゴーストのドロップのみ。隠し部屋や宝箱の類の発見を期待したが、やはり一階層ではそうそう宝箱は見つからないようだ。あるいは見つかっても、すでに誰かが漁った後だったりした。

 

 次に『気配遮断+』。廃墟を出て外を移動していたクロウは、崩れた壁の向こう側で、黄色のヘルメットを被ったゴブリンのグループが、錆びたスパナを手にうろついているのを発見した。いつも通りに隠匿歩法のスキルを発動させると、ギャイギャイと声を上げながら周囲を警戒する様子もなく歩くゴブリンたちの最後尾に近づいていく。

 

 ゴブリンの背後、わずか一メートルの距離まで接近しても、モンスターは全くこちらに気づく素振りを見せない。クロウは愛用のサバイバルナイフを逆手に構え、ゴブリンの背中へと無造作に刃を突き立てた。クリティカルは発生せず、しかし強化されたステルスアタックボーナスの乗算によって凶悪に跳ね上がった初撃のダメージは、ゴブリンの装甲ごとHPを消し飛ばし、短い断末魔すら上げさせずにドロップ品に変わった。

 その調子でゴブリンのグループを一匹残らず片付けたクロウは、確かな手応えを感じていた。

 

 以前であれば、基礎火力の低いナイフや9ミリ拳銃で一撃必殺を狙うには、急所看破のスキルに頼って的確にクリティカルポイントを撃ち抜く必要があった。だが今の隠密力とステルスボーナスダメージがあれば、ゴブリン程度ならどこに当てても一撃で沈めることができる。

 

 これなら、中層に行ってもいいかもしれない。

 

 クロウはふと、そんな考えを巡らせる。

 現在、第二階層は突然の環境激変により、見渡す限りの雪景色と極低温の世界へ変貌してしまった。防寒対策で荷物は圧迫され、安い銃器は寒さで誤動作を起こす。おまけに雪に紛れる厄介なモンスターまで徘徊し始め、クロウにとってはひどく割に合わない狩場となっている。地下に至っては先日のキノコトラップで懲りた。しばらく行きたくない。

 

 ならば、ということで、第三層へ足を踏み入れるのも悪くない選択肢だ。

 

 オークやエーテル熊といった強敵がひしめく中層の森であっても、魔力通信アンテナの電波が届く圏内であれば、最悪の事態における死に戻りの機能は担保される。今の凶悪なステルス火力があれば、格上のモンスターが相手でも十分に立ち回れる算段が立つ。

 

 そうと決まれば、早速行ってみよう。クロウはサバイバルナイフの刃にこびりついたゴブリンの体液をボロ布で乱暴に拭い去り、スッと鞘に収めた。転がっている死体が完全に消滅するのを待ってから、残された低純度の結晶やジャンクアイテムといったドロップ品を手際よく拾い集め、使い込まれたバックパックへと放り込んでいく。

 

 少しの重みを感じながらバックパックを背負い直すと、クロウはポータルへと歩き出した。

 

 ここ桐生ダンジョンには、第一層から第三層へと直通するポータルが発見され、管理局の手で整備されている。あの極低温の地獄と化した第二層をわざわざ臨機応変に通り抜ける必要がないのは、今のクロウにとってありがたい。

 元よりダンジョンというものは、人間の都合に合わせて作られてはいない。便宜上、攻略順や深度に合わせて第一層、第二層、第三層と順番に名前をつけて呼んでいるが、それは複雑怪奇な多次元迷宮を理解するために人間側が無理やり当てはめた記号に過ぎなかった。

 その点、桐生は温厚である。直感的に理解しやすい構造をしていると思う。だからこそ、これだけ特区として発展しているのかもしれない。

 

 クロウは管理局が提供する端末アプリのマップ情報を頼りに、廃墟となったビルの間の薄暗い通路を抜け、第三層へと繋がるポータルに辿り着いた。そこは管理局が整備した簡易拠点となっており、周囲には不穏な静寂のなか、重武装をした企業兵士たちが駐留している。

 彼らは一様に、不気味に明滅する光学センサーを備えたフルフェイスヘルメットを被り、頑強なアーマープレートが埋め込まれたタクティカルギアを隙なく身に纏っていた。手元に握られているのは、無骨なアサルトライフルや大口径のショットガン。その銃口から漂う、いつでも引き金を引けるという無機質な雰囲気が、周囲の空気をピリピリと張り詰めさせていた。

 

「IDを」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 クロウが近づくと、兵士の一人が、くぐもった声をマスクのスピーカーから漏らして行く手を塞いだ。胸のプレートには、アイギス・プライムのロゴが刻まれている。彼が差し出す携帯端末に手を置くと、微かに魔力が抜かれる感覚と共に、端末画面に緑の承認マークが踊った。

 

「良い狩りを」

 

 この簡易な手続きは滞りなく終わり、兵士は再び持ち場へと持っていく。

 彼らがこのポータルに鋭い視線を走らせているのは、業許可(ライセンス)を持たない不法者の出入りを厳重に監視するためである。こうした未認可の者たちは、魔力IDを登録していない。そのため、リスポーン・センターで蘇生措置を受けることも不可能だ。

 それら不法者たちは中層以降の過酷なエリアに野営地を築き、そこを通るランナーたちを容赦なく襲撃する。鬱蒼とした森林と険しい稜線に囲まれたフィールドも手伝って、いつしか彼らは、山賊という蔑称で呼ばれるようになっていた。

 第三層で活動するには、モンスターだけでなく、人間にも注意が必要である。山賊やそのバックにいる組織が摘発されたニュースは定期的に世間を賑わすが、彼らは中々いなくならない。

 

 無用なトラブルを回避するため、これまで一時的に切っていたステルススキルを、クロウはポータルの直前で再び起動させた。兵士たちの感知から外れ、魔力の残滓すらも消え去り、自身の存在感が周囲に溶け込んでいく。完璧な隠密状態へと移行したことを確認した彼は、そのまま揺らめく霧の向こうへと迷いなく足を踏み入れた。粘り気のある冷たい水の中へ全身を突き落とされたような、独特の圧迫感が全身を包み込む。

 直後にその不快な浮遊感は消え去り、代わりに肺を満たしたのは、むせるような青葉と湿った土の匂い。視界が一気に開ける。転移した先は、切り立った断崖の途中に切り開かれた、踊り場のような岩棚だった。キャンプの跡が散在し、休憩中のランナーの姿もちらほら確認できる。

 眼下を見下ろせば、底の見えない深淵を埋め尽くすように、鬱蒼とした原始の森が果てしなく広がっている。木々が風に擦れ合う不穏なざわめきが、森そのものが生物となって呼吸しているかのように足元から這い上がってきた。逆に視線を上に向ければ、天を突き刺すような険しい稜線がどこまでも連なって、日光を遮るように影を落としていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「すごいな」

 

 押し寄せる広大な自然を前に、クロウの口からは思わず言葉がこぼれ落ちていた。網膜の裏に焼き付くような光景が、そこには広がっている。端末の薄っぺらい画面越しに、写真や映像で何度も眺めた光景が目の前にあり、圧倒された。

 映像だけではない。匂い、音、そして肌にまとわりつく湿気や魔力の感覚。それらが波のように押し寄せ、鳥肌を立たせる。未知なるものへの根源的な恐怖が背筋を冷たく駆け抜けた。しかしそれと同時に、胸の奥がじわりと熱くなるような高揚感もあった。

 クロウは興奮を抑え込むように、深く息を吸い込む。

 

(さーて……どうしようか……)

 

 視界の隅々まで注意を払いながら、彼は静かに思考の糸を巡らせる。

 今日ここに足を踏み入れたのは、明確な獲物や目的があるからではない。この地のモンスター、産出される資源、危険なエリア。そうした事前情報は、ある程度仕入れてある。だが、百聞は一見にしかずという言葉もあるように、この環境は想像と全く異なる感覚をクロウに与えていた。

 まずは環境を分析する必要がある。クロウはバックパックから取り出したクライミングギアを身につけ、出発した。

 

▼桐生ダンジョン 第三層

 

 クロウはひとまず、何かあってもすぐに引き返せる安全な範囲に絞って、周囲を歩いてみることにした。目の前に広がる光景を眺めているだけでも、その規格外の広さが肌で伝わってくる。本格的にこの階層を探索するなら、何日も野営を繰り返す長期戦になるのは間違いなかった。

 

 ただ、この豊かな自然環境は、探索者に大きな恩恵も与えてくれる。ここには食料資源が豊富に存在していた。高値で取引されるようなダンジョン産の食材を、ランナーの特権としてその場で贅沢に消費するのも、あるいは持ち帰って換金するのも自由だ。そんな選択肢があること自体が探索の醍醐味でもある。ようやく”最”底辺のランナーからは脱しつつあるという、ささやかな実感が、クロウの胸を満たした。

 

 しかし、実りが多いということは、それだけ危険も潜んでいるということだ。三層以降は稼ぎもいいが、それに比例してリスクも格段に大きくなる。チームを組んではどうか、というアヤカの提言も、たしかにその通りだった。ただし、クロウの交友範囲は狭い。知り合いのランナーがいないこともないが、組むことを想像するのは難しかった。それ以上に彼自身の気性がソロでの活動に馴染みすぎていた。

 

 ならば、どうやってチームを組めばいいのか。友情や信頼といった曖昧な結びつきを期待するから、一歩が踏み出せない。必要なのは、ビジネスとして割り切れる一時的な契約関係、あるいは互いの目的が一致しているだけのドライな協力関係だろう。お互いの領域には干渉せず、それぞれの役割とスキルだけを補完し合えるような相手。たとえば企業の斡旋を通した短期の依頼や、特定のエリアを突破するためだけの臨時パーティーなら、自分のスタイルを大きく崩さずに済むかもしれない。

 

 ――などとクロウは真面目に考えているかもしれないが、アヤカはこう考えている。

 「そのイケメンチンポで優秀なメスを堕として、ハーレム・パーティーつくればいいじゃないですか?」と。

 これにはシズクも「そうじゃそうじゃ」と賛同すること間違いなし。

 

 

「はぁー……ナタも必要だなこれ」

 

 当の本人は、サバイバルナイフで行く手を塞ぐ細い竹を切り払いながら、小さく愚痴をこぼしていた。クロウは、他のランナーたちが好んで通るルートをいつの間にか外れ、鬱蒼と茂る藪の真っ只中へと足を踏み入れていた。

 

 頭上を覆う竹葉が陽光を遮り、周囲はひんやりとした薄暗さに包まれている。斜面は思いのほか急で、一歩踏み出すたびに足元の湿った土がずるりと滑った。行く手を阻むのは、彼の背丈ほどもある密集した笹だ。

 

 根気強く手を振るって視界を切り開きながら坂を下っていく。しばらく格闘を続けていると、笹が擦れ合うカサカサという騒がしい音の隙間から、かすかに涼やかな水の音が混じり始めた。

 

 視界が開けたのは、それから間もなくのことだった。密集していた藪が途切れ、クロウの足は緩やかな傾斜の底へと辿り着く。そこは、木々の間を清らかな小川がさらさらと流れる、静かで小さな谷間だった。

 

「ふぅ……」

 

 ナイフを鞘に収め、一息付く。張り詰めていた身体の緊張をほぐすように、すぐ近くの苔むした平らな岩に腰を下ろした。小川を見下ろせば、頭上から降り注ぐ木漏れ日が、水面にきらめている。耳に心地よいせせらぎと、穏やかな光が心を浄化するかのようだ。つい、ここが危険なダンジョンの中だということを忘れてしまいそうになる。

 

「いいな、ここ。なんか変だけど」

 

 周囲には魔力の淀みがなく、モンスターの気配もまったく感じられなかった。休憩を終え、少し歩き回って探索を進めるうちに、クロウは奇妙な感覚を抱く。まるで聖域だ。

 

「お?」

 

 視界の隅、鬱蒼と生い茂る草木に覆われた一角に目が留まった。歩み寄って絡みつく蔦や葉をそっとかき分けてみると、そこにはひっそりと佇む石造りの小さな祠があった。どこか古びたお稲荷さんを思わせるその風情に、クロウはそっと息を吐く。

 

 祠の内部を覗き込むと、奥に薄暗い光を放つDM結晶が収められているのが見えた。しかし、長い年月放置されていたせいか、結晶の表面は薄汚れにまみれて本来の輝きを失っている。クロウは慎重に手を伸ばしてそれを取り出すと、手持ちの乾いた布を使い、積もった汚れを優しく拭き取った。汚れが落ちるにつれて、結晶は本来の澄んだ光を取り戻していく。それを元の位置へと丁寧に戻し、さらに祠の周りに溜まった枯葉や細かな砂埃を手で払って、綺麗に掃除を施した。

 塵が払われ、静かに輝きを取り戻した祠を見つめながら、クロウは小さく頷く。ここはきっと、セーフエリアに違いない。第三層を探索する際はここを拠点にしようと、静かに心に決めた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

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