※この作品はR-18です。

魔境群馬・桐生ダンジョン特区〜底辺ランナーのハクスラ&ハーレム生活~   作:Potoooooooo

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東京から配信者がやってきた

 ▼桐生ダンジョン特区 メインエリア ホテル『クリスタル・ロッジ・桐生』

 

「おまえらー! 元気か~? 今日はなんとぉ~! ――桐生ダンジョンに来てんぞ! イェイ!」

 

【挿絵表示】

 

 昼下がり、ホテルの客室に弾けるような声が響いた。

 

 クリスタル・ロッジは、豪華絢爛さを感じさせる名前に反して、一般人でも少々背伸びすれば手が届くようなホテルである。メインエリアにあり、ダンジョンにもほど近く、ランナー向けの各種サービスが充実していて、それに加えて少しのリゾート気分を味わえる、そんな空間だ。

 

 クロウは管理局の紹介で、人気配信者のマキに会いに来ていた。もともと彼は、ダンジョンで他人と行動することに慣れるため、単発の依頼を探していた。それをアヤカに相談したところ、ちょうどいい相手としてアテンドされたのが彼女だった。

 

 ネット上ではその美貌と、見る者を惹きつけて離さないドスケベボディで名を馳せている女性だ。しかし単なるタレントではない。ランナーとしての腕も確かであり、今回は腕試しと動画ネタを兼ねて群馬ロケを敢行しているらしい。本業はランナーで、配信業はそのついでというタイプだ。

 

 クロウが通された彼女の部屋には、マネージャーや撮影スタッフといった取り巻きは一人もいなかった。機材を自前で揃え、企画から編集まで全てを一人でこなすソロ配信者である。ソロに誇りを持っているのか、あるいは単に気楽なのが好きなだけなのか。いずれにせよ、このクラスの部屋に一人で泊まり、贅沢に時間を消費できるだけの財力があることは明白だった。

 

「――というわけでまたな~リスナーども~」

 

 SNS投稿用の動画を取り終えた彼女は、そのままソファに深く腰掛けた。端末を操作する指先が速く動き、視線を上げないまま、手持ち無沙汰に立っているクロウへ声をかける。

 

「お待た~。クロウくんだっけ? よし、アップ完了!」

 

 タップを終えて顔を上げた彼女の姿に、クロウはわずかに気圧された。艶やかな紫色のショートヘアに、いたずらっぽく細められた瞳。身に纏っているのは、胸元の深い谷間を惜しげもなく晒した黒いエナメル調の衣装である。

 

 クロウが賢明であれば、彼女を充てがったアヤカの意図が透けて見えるところだが、彼は必死に目線を彷徨わせていてそれどころではない。

 

「はい、よろしくお願いします……」

「あは、かったいな~? 緊張してるんだ?」

 

 マキは唇の端を吊り上げ、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 

「とりあえず座ったら?」

 

 彼女はぽんぽんと自分の隣を叩いたが、クロウはそれを避けるように向かい側の席に腰を下ろす。自分はあくまで仕事としてここに呼ばれたのだ。

 

「ふーん……」

 

 その拒絶に近い反応が、かえって彼女の嗜虐心を刺激したらしい。細められた瞳に、獲物を定めるような獰猛な色が灯る。

 

 

「おいおい~、そんなんで本当に大丈夫~? 管理局からキミが適任って紹介されたんだけどぉ」

「ええっと……隠密が得意なので邪魔にはならないと思います」

 

 なるべく淡々と、自身の強みについて答えるクロウだったが、脳裏にはクランの面接風景が不意によぎっていた。結局、いくつ落とされたんだっけ?と、ふとそんな疑問が湧いた。嫌なものがこみ上げてくるが、彼はそれを飲み下すように小さく息を吐く。

 

「なほ」

 

 短すぎる返答に、会話がぷつりと途切れる。耐え難い沈黙が場を支配し始めた。このままでは自分の余裕のなさが露呈してしまう。クロウは焦燥感に突き動かされるように、無理やり言葉を絞り出した。

 

「……マキさんは、東京から来たんでしたっけ」

 

 不器用すぎる問いかけ。場をつなごうとする必死さが透けて見え、会話のテンポは最悪に乱れている。そしてその態度のせいで、マキは完全にクロウの性格を見抜いた。(チョロそーな童貞クン♡)と。ランナーの腕はまだ見ていないからともかく、経験不足で扱いやすそう。それがマキからの印象であった。

 

 彼女の瞳には、嗜虐的な好奇心がじんわりと広がっている。

 

「そーだよ。アタシ群馬初めてだからさぁ、特区の案内してもらったり、ダンジョン一緒に行ってくれる人探してたってワケ」

「なるほど……でも大丈夫ですか?」

「なにがー?」

「魔力嵐の予報が出てますけど……」

「あはは、大丈夫大丈夫! 大したことないって! 大げさだなぁ~、シティガール舐めんなー?♡」

「アッハイ、そうですよね、すんません……」

 

 クロウは視線を落とした。彼の懸念は、単なる天気の話ではない。公式な情報によると、向こう一週間、特区周辺の魔力濃度が急激に上昇する魔力嵐が頻発する予測となっていた。この土地の人間ならまだしも、県外から来たばかりの者が不用意に外出したり、ダンジョンに挑むのは魔力酔いのリスクを増大させるため、それを心配していたのだ。

 

 慣らし期間を設けるべきだと忠告したかったが、彼女が醸し出す都会の勝ち組的な余裕に、強く言い出せない。成るように成れと、半分投げやりな気持ちになりながら視線を上げると、前かがみになった彼女の胸の谷間が視界に入ってきて、慌ててさらに視線を上げた。そうしたら、今度は蠱惑的に細められた瞳と目が合ってしまう。ついでに、チロリと唇を舐めたところも見てしまった。

 

「あーあ、お腹空いちゃった。なんか美味しい店とか知ってる?」

 

 だが、彼女は色気を振りまいたかと思えば、急に日常的な要求をしてきた。そのあまりに自然な切り替えに、クロウは呆気に取られた。手のひらで転がされている。

 

「……ええと」

「アハ、別に動画映えする店を紹介しろってわけじゃなくてさ~。クロっちの行き付けの店とかそーいうのでいーのよ」

「く、クロっち?」

「そ、クロっち。いや?」

「だ、大丈夫です……」

「んふふ。そんじゃ飯食いにイクゾー!」

 

 彼女は立ち上がり、携帯端末を持った手を掲げた。クロウは彼女の勢いにただただ、押されるしかなかった。

 

 

▼桐生ダンジョン 第一層

 

 あえて『錆び刃』のような路地裏の店を教えるのは気が引けたため、クロウは無難な『桐生ラーメン・ドカ島』へと彼女を案内した。だが、案に相違してマキは大盛りの家系ラーメンをぺろりと平らげ、「最高!」と満足げに笑っていた。

 

 腹ごしらえを済ませた二人は、その足でダンジョンへ向かった。まずは互いのスキルを確認するのが目的だった。まずはクロウがいくつか戦闘をこなして、スキルを披露し、次はマキの番だった。

 

「レッツゴー! ビーくん!」

『ビープ!』

 

 第一層での戦闘で、クロウは彼女のスタイルが予想を遥かに上回っていることを知った。

 

 ホバーボードに乗ったマキが前方を指さすと、傍らに浮いていた球体ドローン『ビープくん5号』が鋭い加速で飛び出す。ディスプレイに映るニコニコ顔文字とは裏腹に、搭載された重厚なSMGが火を噴いた。上空から降り注ぐ弾丸の雨が、逃げ惑うゴブリンの集団を一瞬にして蜂の巣に変える。

 

 ふよふよと浮いていたはずの機体は、戦闘に入った途端に立体的な機動を開始し、死角から正確に弾を叩き込んだ。彼女はホバーボードに乗って縦横無尽に動き回りながら、さらには撮影用のドローンまで同時に操作している。その光景は確かに配信者なのだが、クロウの思い浮かべる配信者とはやはり一線を画している。その姿は、『戦うエンジニア』と呼ぶのがふさわしいとクロウは思った。

 

「凄い……」

 

 クロウはマスクを上にズラして顔を露わにし、ドロップの回収を手伝いながら、感嘆の声を漏らした。

 

「ふふん。ま! アタシにかかれば? こんなもんよってゆーか?」

 

 マキはホバーボードから降りて横に立てると、自慢げに腰に手をあて、胸を張った。たぷん♡と重たげに乳房が揺れる。 

 

「ちょっと思ったんだけどさあ」

「なんですか?」

「配信出ない? その仮面があれば顔バレもしないしさー」

「えっと……」

「てかさぁ、キミなかなかえっぐいスキルしてるよね。隠密どうやって鍛えたのん」

「えっと」

「ぶっちゃけアタシら組んだらサイキョーじゃない? たまたま知り合って仲良くなりました~って登場してさぁ、ちょっくら攻略しながら配信もして稼ごーよ。ギャラも出すしさぁ」

 

 マシンガンのように畳み掛けられる提案に、クロウは言葉を挟むタイミングを完全に失っていた。

 

「その……」

「あ、もしかしてユニコーンのこと心配してる? 大丈夫大丈夫。アタシ東京に彼ピいてさあ、もう配信で言ってんの。もうとっくに角折れてるリスナーしかのこってねーのよ☆」

 

 いたずらっぽくウインクを飛ばす彼女の余裕に、クロウは深い溜息をついた。クロウは完全に彼女のペースに巻き込まれていた。

 

「……お眼鏡に適ったみたいで良かったです。一週間よろしくお願いします。配信の出演も大丈夫です」

「相変わらずかったーい。でもありがと!」

 

 マキが近寄ってきたので、回収の手を止めてクロウは顔を上げた。なぜか彼女の顔がすぐそこにある。

 

「?」

「チュッ♡」

「??? ……!!??」

 

 頬にキスをされ、クロウの顔は瞬時に茹で上がった。それを隠すように狐のお面を下げる。あまりにも距離が近い。シティーガール恐るべし――。

 

「アハ♡ この程度でかわいすぎんか~? ――おーっす! リスナーどもー! 見てるか~? ダンジョンに来たぞ~ッ! あ、この子? さっき会った!☆」

 

 そしてシームレスに配信が開始された。カメラドローンがクロウの顔を至近距離で捉え、彼女と一緒に画角に収める。

 

「あ、名前? そういやハンドルどうする? まあいいや! クーくんで!」

「えぇ……?」

 

 クロっちじゃなかったのかよ、というツッコミはさすがに飲み込んだ。ビープくんのディスプレイにはコメント画面が表示されており、すでに数千人の視聴者がリアルタイムで反応している。コメントの流れる速度に圧倒され、クロウは諦めて小さく手を振った。

 

「どうも……」

「『マスク外せ』だって~。きゃはっ」

「嫌です……」

「ってことで顔出しNGなんでヨロシク! ちょろ~っと、ひと狩りしてみたけど一層は全然ヨユーだね~。そこんとこクーちゃんはどう思う?」

 

 さっきはクーくんだったのに、今度はクーちゃんだ。突っ込む気力は、すでに奪われている。

 

「……そうですね。マキさんの腕なら物足りないかも」

「ってぇわけでぇ。現地群馬民のお墨付きも得たし! 第二層にレッツゴー!」

「――えっ? ちょ、待ってください!」

 

 ――その格好で!? あの極寒の二層に!?

 

 クロウが制止する間もなく、マキは軽やかな身のこなしでホバーボードに乗ると、第二層へのポータルへと加速していく。クロウは慌てて彼女を追うが、配信に夢中で喋り倒している彼女には全く声が届かない。

 

「待ってぇ! マキさん!」

 

 クロウは寒さで凍える彼女を救出することになる未来を予感しながら、奔放な背中を追いかけた。

 

 先に第二層へのポータルを通り抜けた彼女から少し遅れて、クロウも追いつく。

 

「ちょっ、待って! さっむぅ! なんでこんな寒いわけぇ!?」

 

 案の定、彼女は寒さでカチンコチンになって震えていた。自分の体を抱きしめ、内股になっていて、なんとも情けない格好だ。パニックになりながらも配信者魂を忘れない彼女はドローンに向かって叫び続ける。

 

「ホバボ使えん! エーテルバッテリーいかれちゃ~う! ビープくんも寒そう!」

『ビビビビビープ!』

 

 しかし配信越しに彼女を見るリスナーたちは大盛り上がり。凄い勢いでコメントが流れていく。

 

「あの、一度戻ったほうが……」

「ちょっとだけなら進めるし! 見てなって! してぃーがーる舐めんなー!」

 

 コメントで煽られたのか、彼女はムキになって数歩、雪に覆われた地面を踏み出した。しかし、あまりの寒さに歯がガチガチと鳴り、指先の感覚すらおぼつかない。

 

「……やっぱムリー!! 撤退撤退てったいー!」

 

 あっという間に白旗を上げ、脱兎のごとく踵を返した瞬間だった。彼女はツルっと滑って――

 

「あっ」

「あっ」

 

 ずぼっ!と、マキは思いっきり雪の中に頭からダイブした。ドローンがその滑稽な光景を完璧なアングルで捉え、リスナーの爆笑を誘っている。

 

 雪の中からむっちりとした脚だけが生えている。しかも無様なガニ股。

 

「クーくん、おたすけぇ~~~~~」

 

 クロウは少し呆然としていたが、雪の中から聞こえてくる声に我に返り、彼女を雪の中から引っ張り出すために走り出した。

 

 

 

 ▼桐生ダンジョン特区 メインエリア ホテル『クリスタル・ロッジ・桐生』

 

「う~……しゃびぃ~」

「事前に調べたりしなかったんですか……」

 

 ホテルのふかふかのベッドの上で、布団にくるまって震えるマキに、クロウはホットココアを差し出した。

 

「おひょわ~生き返るぅ~ありがてぇ~……だってさぁ、事前情報入れてるとつまんなくなーい?」

 

 彼女はココアを受け取ると、フーフーと息を吹きかけた。その様子を見ながら、クロウはソファに腰掛ける。

 

「それは……そうなのかもしれないですけど」

 

 彼女にとってダンジョンとは『エンタメ』だが、クロウにとっては『サバイバル』だ。そうした価値観の相違に気付かされて、クロウは小さく溜息を付いた。

 

「それにリスナー共もアタシの失敗見て大喜びだったし? ダンジョンアタックとしては失敗だったけど配信的には大成功だからヨシ!」

「……みたいですね」

 

 クロウは自身の携帯端末を弄った。彼女の配信は、配信サイト内の『同時接続者数』という指標において上位を記録したらしい。詳細な数字を見てみると、もの凄い桁数だった。日本国内だけでなく、海外からも多数アクセスがあるというのが、配信者ドリームの凄まじさを物語る。

 

(すごいなぁ……)

 

 彼女と自分の違いが浮き彫りになったようだった。失敗を恐れるあまり、リスク回避をしすぎる嫌いのあるクロウからすると、失敗さえも笑いに変えて前へ進む彼女はあまりにも眩しく見えた。だが、クロウは嫌な考えを振り払うように、画面をスクロールさせて、彼女の配信チャンネルの情報を眺めた。

 

「いつもこんなに盛り上がるんですか?」

「さすがに今日のはめっちゃ跳ねた方よぉ~。アタシは個人でやってるし、普段やってる配信とかそんなに人こねーしぃ。ダンジョン配信はめちゃ人気だけどね」

「普段のは……『ビープくん改造記録』? 面白そう。今度見てみますね」

「お、マジ? あんがとね! アタシ、ダンジョン配信以外はテック系の配信してんだぁ」

 

 チャンネル登録ボタンを押して、携帯端末をしまい込む。

 

「てかそうだ、クーくん。助けてくれてマジサンキューね!」

 

 ココアを飲み干したマキが顔を上げ、屈託のない笑顔を向けた。その表情には、先ほどまで雪に潜っていた情けない姿の面影はない。

 

「いいですよ。あったまりました?」

「うーん、微妙! 芯まで冷えちゃったなぁ~。なんかあったかいもの食べに行かね? お礼にアタシが奢るから行くべや!」

 

 マキは勢いよく布団を跳ね除けると、まだ少し震える手でクロウの腕をぐいと引っ張った。

 

「なんなんですかその口調……」

 

 強引な誘いに抗う術もなく、クロウの力ないツッコミは空気に溶けていった。

 

 

 ▼桐生ダンジョン特区 メインエリア 『義貞』

 

 

 マキに連れられて入ったのは、管理局出張所の近くにある、ランナーたちに人気の居酒屋『義貞(よしさだ)』だった。二人は個室の座敷席へ案内される。魔力嵐の注意報が出ている関係もあるのか、今日は人が少ないようだ。

 

「ここ気になってたんだよね。もつ煮がガチうまいらしーじゃん」

「そうですね。あんま来たこと無いけど……」

「そーなん? なんで?」

「……一人だと入りにくいんで」

「あーね?」

 

 クロウが義貞を訪れたのは数えるほどしかない。昔、師匠に連れられて来たのが最後だっただろうか。店内の注文システムも当時とは変わっていた。店員を呼ぶ方式ではなく、席に備え付けられたタブレットで注文するらしい。

 

「そんじゃ、とりあえずもつ煮とぉ……お酒飲む?」

「やめときます」

「そ? アタシは生キメちゃおーっと」

 

 注文リストに生ビールが追加されるのを横目に、クロウは適当にソフトドリンクを選ぶ。

 

 ドリンクはすぐに運ばれてきた。もつ煮を待つ間、話題は自然とダンジョン探索のことへ移る。

 

「てかさ、二層スキップするにしてもあんなとこ通るのキツくない?」

「一層から三層に直接行けますよ」

「お、そーなんだ。じゃあ明日以降はさっさと三層行っちゃおうぜー」

「そうですね」

 

 ビールジョッキを傾け、喉を鳴らすマキ。豪快な飲みっぷりだ。

 

「ぷはぁ~うめ~。あ、そだそだ」

 

 マキは携帯端末を取り出すと、画面をクロウへ向けた。

 

 映し出されていたのは『オアシス』。管理局が保全する魔力アンテナと、それを警備するアイギス・プライムの駐屯所を中心に発展したダンジョン内拠点だ。

 

 宿泊用のコテージ群をはじめ、武具店、飲食店、物資を扱う商店、娯楽施設まで軒を連ねている。中層以降に長期滞在するランナーたちの一大消費地であり、探索者向けビジネスの最前線でもあった。国内外の企業がこぞって出資しているのは、それだけダンジョンビジネスが儲かるという証である。

 

「これ! ここのコテージ泊まってみない?」

「……確かそこ、めちゃくちゃ高いんじゃ」

 

 オアシスの宿泊施設は、中層以降を主戦場とするランナーや企業関係者の利用を前提としている。低層で細々と稼いできたクロウの感覚では、一泊するだけで数回分の探索収入が吹き飛ぶような価格帯だった。

 

「二人分くらい大丈夫だって。それに話のネタになるし? 言うてアタシらなら、滞在費くらい余裕でペイできるっしょ?」

 

 マキは配信のネタにしたいという下心を覗かせつつも、ランナーとして現実的な見通しも口にする。単なる贅沢ではなく、目標として設定するなら話は別だ。

 

「……なるほど。そういうことなら」

 

 明確な目的ができたことで、クロウは小さく頷いた。

 

「オッケー! それで決定! 予約しちゃお」

 

 クロウの承諾を得て、嬉々として画面をタップするマキ。彼女を見て、クロウはふと思う。

 

「……マキさんって」

「んー?」

「なんというか、ちゃんと考えてるんですね」

 

 マキはきょとんとした顔をした。お通しの漬物をポリポリと齧る。

 

「なにそれ? どったのいきなりぃ」

「ただ思いつきで動いてるわけじゃなくて。ちゃんと収支とか、自分がどう見られるかとか、そういうのを考えてるというか」

 

 自分の強みを理解して、それをどう活かすか知っている。失敗すらも配信のネタに変え、ランナーとしての実力も示しながら、自分という商品を成立させている。

 

「それって、すごいな、って……」

「んふふ。まあね?」

 

 マキは悪戯っぽく笑う。

 

「アタシ、自分のこと結構好きだからさぁ。せっかくなら、自分の長所はちゃんと使わなきゃ損じゃんね?」

 

 彼女はそう言うと、わざとらしく上体を深く乗り出してきた。テーブルに押し付けられたデカ乳がむにゅりと形を変え、薄い生地を押し上げて深い谷間を露わにする。その白い肌にある小さなホクロすらも、よく見えてしまう。彼女はクロウがたじろぐのを分かっていて、そうしているのだ。

 

「せっかく持ってる武器なんだから、使わないともったいなくね? みたいな?」

 

 いたずらっぽく舌先で唇を湿らせ、視線でクロウを絡めとる。

 

「んで、ほい」

 

 クロウが気恥ずかしさに視線を泳がせた瞬間、彼女はふっと身を引き、何事もなかったかのように予約完了の画面を掲げてみせた。

 

 シティーガール恐るべし――。

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