※この作品はR-18です。

オズの国のドロシー ―傷だらけの黄色い道―   作:LFぼーむ

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ACT.8 幼き日の初恋

 旧水車小屋が見えた頃には、東の空が白み始めていた。

 川沿いに建つ石造りの小屋は、とうに役目を終えている。傾いた水車は流れに押されるたび、錆びた軸を軋ませた。

 だが、泥の上に刻まれた轍は新しい。

 

「カペル!!」

 ドロシーが駆け出す。

 オスカーも遅れず続いた。

 蹴破った扉の向こうには、空になった木箱が並んでいた。

人はいない。

床には緩衝材として詰められていた黒い藁と、獣脂のような臭いを放つ布。箱の側面には、街で見たものと同じ三日月の刻印が焼きつけられている。

 

「裏だ!」

 オスカーの声と同時に、二人は小屋を飛び出した。

 川向こうの土手を、一台の小型馬車が走っていた。

 御者台に人影はない。車輪の脇から生えた昆虫じみた脚が、馬車そのものを走らせている。

 幌の隙間から、長い水色の髪が一瞬だけ覗いた。

「カペルだ!」

 ドロシーがARMを掲げる。

 そのとき、遠くで鐘が鳴った。

 一度、二度。間を置かず、激しく打ち鳴らされる。

 火災を報せる間隔ではない。

 獄鬼の襲撃を告げる鐘だった。

土手の向こう、森に囲まれた小さな村。その上空を黒い群れが旋回している。

「村が…獄鬼に襲われてる!」

 一方、カペルの馬車は反対方向へ遠ざかっていく。

「どっちにする?」

 オスカーが言った。

 判断を委ねる声だった。

 ドロシーは馬車を睨んだ。

 馬車を追えば今度こそカペルの尻尾を掴める。OZ-ARMをこの世界にばら撒いて何を狙っているのか。カペルを捕らえれば一気に近づく。

 再び鐘が鳴る。

 今度は、風に乗って子供の泣き声が届いた。

「――村へ行く」

 ドロシーは踵を返した。

「カペルはいいのか?」

「よくないわよ。でも、あいつを追う機会は次もある。あの村の人たちには、次がないかもしれない」

 オスカーは微笑み、大きく頷いた。

「ああ」

 二人は並んで走った。

「やっぱり変わったな!ドロシー。お姉さんを追ってカルデアを旅立ったときとは全然違う」

 悪名高き魔女だった頃のドロシーだ。常に張り詰めていて、目的のためには手段を選ばない。

「…変わったのは、ギンタのお陰か?」

「どうかしら」

     *

 

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 村を襲っていたのは、蝙蝠に似た獄鬼の群れだった。

 人間ほどの大きさを持ち、翼の付け根から鉤爪の生えた腕を伸ばしている。群れは村人を食らうのではなく、屋根や荷車を壊し、逃げ惑う者を空へ攫っては弄ぶように放り落としていた。

 

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「危ない!」

 蝙蝠獄鬼が少年に飛びかかる。ドロシーは身を挺して彼を庇った。

 

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「酷い有様だねこりゃ…」

 太ももから血を流しながら、ドロシーは悪態をつく。

 

 村の中央では、母親が井戸の縁に縋りついていた。

「娘が……娘が、まだあそこに!」

 指さす先では、穀物倉の屋根に幼い少女が取り残されている。炎こそ出ていないが、獄鬼が柱をへし折ったせいで建物全体が傾き始めていた。

 

「オスカー、下をお願い!」

「ドロシーは?」

「あの子を迎えに行く!」

 返事を待たず、ドロシーは風のARMを発動させた。

 旋風が足元に巻き起こり、その身体を一気に屋根まで運ぶ。

 風はドロシーの服を傷つける。ゼピュロスブルームがない今、ドロシーが空を飛ぶにはこんな無理矢理な方法しかない。

 

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 少女を抱き上げた直後、倉の梁が折れた。

 オスカーが両手を振る。

 銀色の刃が二本、崩れかけた壁へ突き刺さった。刃を中心に石材が凍りつき、倒壊がわずかに遅れる。

「飛べ、ドロシー!」

「言われなくても!」

 風を蹴り、少女を抱いたまま宙へ逃れる。

 だが、黒い影が上から重なった。

 一頭の獄鬼がドロシーの肩を掴み、もう一頭が腰へ腕を回す。少女を離すまいとしたため、咄嗟に迎撃できない。

 

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 それでも、ドロシーはARMに精神を集中させた。

「オスカー、受け取って!」

 少女を地上へ投げる。ドロシーの風が少女を包み、ゆっくりと落下する。

 落下地点へ走り込んだオスカーが、少女をしっかりと受け止めた。

 少女を母親へ渡すや否や、彼は頭上を見上げる。

 少女を風で包むことに集中して無防備な空中のドロシーへ、三頭の獄鬼が同時に襲いかかっていた。

 

 

「しつこいのよ!」

 身体を捻って蹴りつける。

 踵が一頭の顎を打ち抜いたものの、その脚を大型の蝙蝠獄鬼が大きく持ち上げた。

 

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「っ……!」

 スカートの下に何もつけていないドロシーは、下半身を大胆にさらけ出す。

 下には大勢の村人がいる。

 オスカーもいる。

 恥ずかしさで顔から火が出そうだ。ドロシーは精一杯暴れて抵抗する。

 

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「この…エロ獄鬼……!」

大蝙蝠はドロシーの脚を掴んだまま町中の空を旋回する。

晒された肌へ無数の視線が集まるのを感じた。恥ずかしさで頬が熱くなる

 

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やがて、大蝙蝠は勃起した性器を剥き出しのドロシーの下半身に擦り付ける。

 

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「ふ、ふざけるな!!」

 「ドロシー!」

オスカーが屋根から飛び上がった。

オスカーが投げた銀の短剣が、大蝙蝠の翼を縫い留める。低級のウェポンARMだ。

 ドロシーは大蝙蝠の頭へ掌を突き出した。

「エア・ハンマー!」

 圧縮された風が炸裂し、獄鬼を取り巻きごとまとめて吹き飛ばす。

 

半死半生の大蝙蝠はドロシーを手放し、今度はオスカーを捉え、空へ連れ去ろうとする。

「馬鹿! 何やってるのよ!」

「君に言われたくはないな!」

 獄鬼が身を振った。オスカーを掴む鉤爪が外れる。

 地上までは十数メートル。落ちれば無事では済まない。

 ドロシーは攻撃のために集めていた魔力を解き、自分の身体を彼へ向けた。

「掴まって!」

 伸ばした手と手が触れる。

 互いの指が絡み、ドロシーは全身でオスカーを引き寄せた。

 その反動で体勢を崩し、二人の身体が宙で強く重なる。

 オスカーの腕が、咄嗟に彼女の腰へ回った。

ほとんど剥き出しになった肌へ、大きな手が直接触れる。

「ひゃっ……!」

「す、すまない!」

「謝る前に離れ――駄目、今は離さないで!」

「どっちなんだ!」

「落ちるでしょうが!」

 オスカーの胸板へ押しつけられ、自分の身体の柔らかな部分が潰れている。薄い衣服越しに伝わる男の体温と硬さが、羞恥とは別の熱を生んだ。

 けれど意識を乱している場合ではない。

 ドロシーはオスカーを抱えたまま大蝙蝠の方を向いた。

「心臓を狙うわ。合わせて!」

「三つ数える。三――」

「遅い!」

「まだ一だぞ!」

 オスカーが銀刃を投げる。

 同時にドロシーが風を撃ち込んだ。

 

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 銀刃が獄鬼の肋骨の間へ潜り込み、風圧がそれを梃子のように押し上げる。

 獄鬼の赤い瞳から光が消え、巨体が地面へ墜落する。主を失った群れは統制をなくし、森の彼方へ散っていった。

 

 村に静けさが戻った。

 ドロシーはゆっくりと地上へ降り立つ。

 安堵した途端、身体を吹き抜けた風に肩を震わせた。

 そういえば、ほとんど着ていない。

 村人たちの視線が集まっている。

 ドロシーは胸元と下腹部を腕で隠し、頬を真っ赤にした。

「……見るなっ!」

 怒鳴られた男たちが、慌てて顔を背ける。

 オスカーは腰へ結ばれた自分の外套を解き、彼女の肩へ掛けた。そのまま前を合わせ、首元の留め具まで閉じる。

 必要以上に身体へ触れない、慎重な手つきだった。

「君には、その外套を返す才能がないらしい」

「返そうとはしてるわよ。毎回そっちから掛けてくるんでしょうが」

「では、貸し出し期限は無期限にしておこう」

 ドロシーは文句を返しかけた。

 だが、オスカーの左腕から血が流れていることに気づく。

 先ほど獄鬼へしがみついた際、鉤爪に裂かれていた。

「怪我してるじゃない」

「この程度なら――」

「座って」

「ドロシー、僕は」

「座りなさい」

「……はい」

 オスカーは素直に井戸の縁へ腰を下ろした。

     *

「魔女様、本当にありがとうございました」

 日が高くなった頃、村長がドロシーの前で深く頭を下げた。

 

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 その後ろには、村人たちが集まっている。誰もが疲れ切った顔をしていたが、朝まで漂っていた怯えは、いくらか薄れていた。

 助け出された少女も母親に手を引かれてやってきた。もう泣いてはいない。ただ、母親の陰に半分隠れたまま、じっとドロシーを見上げている。

「これ、あげる」

 少女が両手で差し出したのは、小さな花冠だった。

 編み目はところどころ緩み、摘んだ花には根が残っている。慌てて作ったものらしく、大きさも少し足りなかった。

 それでもドロシーは受け取り、自分の頭に載せた。

「似合う?」

 少女が小さく頷く。

「ありがとう。それから、魔女様じゃなくていいわ。私の名前はドロシー」

「どろしー」

「そう。忘れないでね」

 少女はもう一度、今度は少し大きな声で、その名を呼んだ。

 村長は二人に、せめて今夜だけでも村で休んでほしいと申し出た。

 カペルの馬車にはすでに大きく引き離されている。オスカーは左腕に深い傷を負い、ドロシーの魔力も連戦によって底をつきかけていた。ここで無理に追跡を再開しても、追いつくより先に倒れる可能性のほうが高い。

 二人は一晩だけ世話になることにした。

     *

 夕食には、保存肉と豆を煮込んだスープ、黒パン、それに山羊の乳から作ったチーズが出された。

 質素ではあったが、久しぶりの温かな食事だった。ドロシーは一杯目をほとんど噛まずに平らげ、二杯目まできれいに食べた。

 向かいに座るオスカーは、傷のせいか食が進まないらしい。村人と話しながら何度も匙を口元へ運んでいたが、椀の中身はなかなか減らなかった。

「食べないならもらうわよ」

 ドロシーが冗談半分に言うと、オスカーは椀を自分の側へ引き寄せた。

「怪我人の食事まで奪うものじゃない」

「いつまでも減らないから言ってるの」

「ちゃんと食べてるよ」

 そう言って、また匙を口元へ運ぶ。

 村長をはじめ、給仕をしていた村人たちは、その様子を妙に注意深く見ていた。

 けれど、ドロシーは気づかなかった。腹が満たされると、それまで張りつめていた糸が一気に緩んでしまったからだ。

 用意された部屋へ戻る頃には、すでに足元が覚束なかった。

 今日は魔力を使いすぎた。そう思い、寝台へ腰を下ろす。

 だが、疲労だけでは説明できないほど眠気は急だった。

 外套を脱ぎ、腰のARMを外したところで、腕が動かなくなった。寝台脇の卓へ置こうとしたARMが、鈍い音を立てて床へ落ちる。

 拾わなければと思った。

 そのはずなのに、指一本動かせなかった。

 身体の内側へ重い泥を流し込まれたようだった。視界が狭まり、息を吸うたびに意識が遠のいていく。

 何かがおかしい。

 そう理解したときには、もう声も出せなかった。

 ドロシーの身体は寝台へ沈み、そのまま深い闇へ引き込まれた。

     *

 扉が開いたのは、それからしばらく後だった。

 蝶番が低く軋む。

 入ってきたのは三人の男だった。灯りを絞ったランプと、太い縄を持っている。

 

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「眠ってるのか」

「あれだけ入れたんだ。朝までは起きねえよ」

「男のほうは?」

「同じものを食わせた。きっと今頃寝てるさ」

 一人が寝台へ近づき、ドロシーの顔の前で手を振った。反応はない。

 肩を揺すっても、瞼さえ動かなかった。

「それで、どうする」

「村長の話じゃ、まず縛れって」

「縛って、それからだ。目を覚ませば、こいつが大人しく従うと思うか?」

 誰も答えられなかった。

 彼女を村へ留めておけば、次に獄鬼が来ても戦わせられる。そう考えて薬を盛ったものの、目覚めた後のことまで決めていた者はいなかった。

 男の一人が、寝台の脇へ膝をついた。

 眠るドロシーの顔から、首筋、胸元へと視線を落としていく。その目に浮かんだものを見て、背後の男が眉をひそめた。

「おい。何考えてる」

「別に」

 そう答えながら、男はドロシーの頬へ触れた。

 指先で肌を押し、反応がないことを確かめる。今度は首筋へ手を滑らせた。

「やめとけ。縛るだけだ」

「昼間、見ただろ」

 男の声が、わずかに掠れた。

 獄鬼との戦いで衣服を裂かれ、宙へ吊り上げられた彼女の姿を、村人たちも目にしていた。

 あのときは恐怖のほうが勝っていた。だが安全な部屋の中で、抵抗できない女を前にしている今、男たちの頭に蘇ったのは、戦いの凄惨さではなかった。

 年齢は17、18といったところだろうか。その若さにしては発育の良すぎる身体。その乳房、下半身が大空の中で、多くの町民の目に晒されていたことを、彼らは思い出す。

 

「恩人だぞ」

「分かってる」

 口ではそう言いながら、止めようとした男の視線も、ドロシーの身体から離れなくなっていた。

 最初の男がドロシーの胸に触れる。

「すげえ、これが魔女様の……」

 

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たぷんたぷんと柔らかく形を変えながら、少女の胸は男の手に揉まれていく。乱暴に掴まれても、ドロシーの身体にはわずかな反応しかない。

 

「おい、流石に…」

「少しくらい、分かりゃしねえよ」

2人目の男がボロボロのドロシーの胸の布に手をかけ、裂け目に指を入れて一気に引き裂くと、白く柔らかな乳房が躍り出た。

「ん…」

ドロシーが眠ったまま悩ましげな声を出すと、真っ白な乳房と桜色の乳首がぷるんと揺れる。ごくりと、3人の男が同時に生唾を飲む。気づけば皆、股間を固く膨らませていた。

 

3人目がドロシーのスリットに手を入れ、腿を探る。

 ドロシーは動かない。

 男の呼吸が次第に荒くなった。

 もう一人の男が、その腕を掴んだ。

 制止するためだったはずの手は、しかし、すぐには引き離さなかった。

 

「俺、もう我慢できねえ」

 横たわるドロシーを見下ろし、最初の男が自分の腰布を下ろした。

勃起した中年男性の性器が空気に触れる。

 寝台へ上がり、ドロシーの膝の間へ身体を割り込ませた。

 その重みで寝台が大きく軋んだ。

 赤黒い亀頭が、少女の秘裂に接触する。

 男の目は爛々とした欲情の炎を灯していた。

 

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 ドロシーの意識が、不意に闇の底から浮かび上がった。

 最初に感じたのは、胸を押さえつける手だった。

 次いで、身体の上にいる男の重さと、酒臭い息。

 まだ夢の中にいるのだと思った。

 だが、肌を這う指の感触だけが、あまりにも生々しかった。

 ドロシーは目を開いた。

 見知らぬ男の顔が、すぐ上にあった。

「――っ!」

 声にならない息を吐き、男の顎を掌で突き上げる。

 男が仰け反った。ドロシーはその身体を蹴り飛ばし、寝台から転がり落ちる。

「起きたぞ!」

「押さえろ!」

 立ち上がろうとした途端、激しい目眩が襲った。

 膝が崩れる。

 床へ落ちたARMへ手を伸ばしたが、その前に髪を掴まれた。

 背後から腕を捻られ、壁へ押しつけられる。頬が硬い板へ打ちつけられた。

「離しなさい……!」

「今さら離せるか!」

 男の声は恐怖で裏返っていた。

 自分たちが何をしたのか、ようやく理解したのだろう。だが謝るのではなく、口を塞ぐことを選んだ。

 ドロシーは肘を振り、男の脇腹へ叩き込んだ。手が緩んだ隙に振り返る。

 もう一人が正面から飛びかかってきた。

 肩を掴まれ、再び壁へ叩きつけられる。

 背中に痛みが走った。

 男がドロシーのお腹の布を掴み、破れかけていたドレスを力任せに引いた。布地が大きな音を立てて裂け、下半身が露わになる。

 

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 ドロシーは男の顔を引っ掻いた。

「この女……!」

少女と男たちはもみ合う。パフスリーブを掴まれ、肩が露出する。

 

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 男たちの顔に欲情の色が戻る。腕を押さえつけられたドロシーはろくな抵抗も出来ないまま、男たちが自分のスカートを捲り上げるのを見ているしかない。

 

 

 その瞬間、部屋の扉が外側から吹き飛んだ。

 男が振り返るより早く、その身体がドロシーから引き剥がされた。

 オスカーが男の腕を背中へ捻り上げ、そのまま床へ叩き伏せる。肩の傷が開いたのか、シャツの左袖には血が滲んでいた。

「触るな」

 低い声だった。

 普段の気安さは、どこにも残っていない。

 斧へ手を伸ばした男の喉元へ、銀色の刃が突きつけられた。切っ先が皮膚へ触れ、赤い線を作る。

「次に動いたら、手加減できない」

 男は斧から手を離した。

 残る一人は窓から逃げようとしたが、オスカーが蹴った椅子に脚を取られ、床へ倒れ込んだ。

 三人が動けなくなったことを確かめてから、オスカーは剣を下ろした。

 すぐにはドロシーへ近づかなかった。

「ドロシー。僕だ」

 短く名乗り、彼女の反応を待つ。

 

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 ドロシーは裂けた胸元を腕で覆ったまま、荒い息を繰り返していた。

「……分かってる」

「立てるか」

 頷こうとしたが、足に力が入らなかった。

 オスカーは自分の上着を脱ぎ、手を伸ばせば届く場所へ置いた。

 ドロシーはそれを取り、身体へ巻きつける。

 それを見てから、彼はようやく手を差し出した。

 ドロシーがその手を取ると、オスカーは彼女の身体へ余計に触れないよう気をつけながら、ゆっくりと立たせた。

「どうして、動けるの」

 ドロシーは壁にもたれたまま訊いた。

「あの食事、食べなかったからな」

「でも、食事のとき……」

「食べているふりだよ。村人たちが、俺等の椀ばかり見ていたからな。気づいたときには、君の椀はもう空だった」

 オスカーは床に倒れた男たちを見下ろした。

「君の部屋へ来ようとしたが、俺の扉には外から閂がかけられていた。遅くなって悪かった」

 ドロシーは答えなかった。

 答えようとすると、声が震えそうだった。

     *

 騒ぎを聞きつけ、村長と村人たちが集まってきた。

 縛り上げられた男たちと、オスカーの上着を身体へ巻きつけたドロシーを見て、誰もが何が起きたのかを察した。

「食事に薬を入れたのは、あなた?」

 ドロシーが訊いた。

 村長は床へ膝をついた。

「……はい」

「こいつらに命じたことは?」

「眠っている間に、お二人を縛れと。それだけです。その先は、決して――」

 ドロシーが睨みつけると、村長は口を閉ざした。

「…申し訳、ございません」

 村長の額が床へ触れた。

 ドロシーはその姿をしばらく見下ろしていた。

 

「…夜明け前に出ていくわ」

ドロシーが冷たく言う。そして、ドロシーとオスカーは宿屋から、村外れの納屋へ移った。

 村の女が、洗ったばかりの古い服と毛布を置いていった。謝罪の言葉はなかった。何を言っても足りないと分かっていたのだろう。

 

 オスカーは納屋の外で待ち、ドロシーが着替え終わるまで中へ入らなかった。

 服を脱ぐ間、ドロシーの指は何度も止まった。

 裂けた布に触れるたび、男たちの手の感触が蘇った。腹の底から込み上げる吐き気を堪え、服を丸めて納屋の隅へ投げる。

 着替え終えても、一人でいる気にはなれなかった。

「もう入っていいわ」

 声をかけると、オスカーが納屋へ入ってきた。ドロシーから少し離れ、壁際へ腰を下ろす。

 二人とも眠らないまま、夜が明けかけていた。

 オスカーの左袖には、乾いた血が黒くこびりついている。

「傷を見せて」

「君のほうこそ休んだらどうだ」

「腕が動かなくなっても知らないわよ」

 治療道具を引き寄せると、オスカーは大人しくシャツを脱いだ。

 傷は肩近くまで達していた。ドロシーが薬を含ませた布を当てると、筋肉がわずかに強張る。

 

【挿絵表示】

 

「痛い?」

「少し」

「じゃあ我慢して」

 包帯を巻きながら、その身体を改めて見る。

 工房にいた頃は、もっと細身だった。小さな魔法具を扱っていた腕は逞しくなり、記憶にない傷痕も増えている。

 幼い頃には、知らなかった身体だった。

 治療を終えると、今度はオスカーがドロシーの足首を見た。

「そこも傷になっている」

「自分でできるわ」

「そうか」

 あっさり包帯を渡され、ドロシーは少し迷った。

「……やっぱり、お願い」

 オスカーは彼女の顔を確かめてから、足を膝へ載せた。必要なところにしか触れない、慎重な手つきだった。

 その指を見ているうちに、昔のことを思い出した。

「私が工房へ持っていった物、まだ覚えてる?」

「髪留めと鈴。蓋の閉まらない宝石箱。それから、片方だけの耳飾り」

「覚えすぎよ」

「しょっちゅう来ていたからね」

「……あれ、半分くらいは壊れてなかったの」

「知っていたよ」

 ドロシーは顔を上げた。

「鈴の中の布も?」

「宝石箱の留め金も。耳飾りの片割れをポケットに入れていたことも」

「気づいてたなら言いなさいよ」

「言えば、来なくなると思った」

 オスカーは包帯を結び終え、ようやく笑った。

「僕も、君が来るのを楽しみにしていたんだ」

 

【挿絵表示】

 

 ドロシーは膝へ視線を落とした。

「あなたに会う口実だったのよ」

「ああ」

 

言葉は続かなかった。

はっきり言えるのは、ドロシーにとって初めての確かな恋心は、ギンタへのそれだった。

オスカーへの気持ちは、幼いドロシーなりの、年上の男性への純粋な憧れの気持ちだったのだと、思う。

姉が大罪を犯して形見の狭い想いをしていたドロシーにとって、低魔力の家系として蔑まれていたオスカーに親近感を感じていただけかもしれない。

 

 あの日工房にいた青年と、目の前の男は同じ人間だ。けれど、懐かしいだけでは済まない何かを、今の彼には感じてしまう。

 納屋の隙間から朝の光が差し込んだ。

 ドロシーが立ち上がると、残った薬のせいで足元が揺れた。オスカーが手を差し出す。

 

「じゃあ恋でも始めなさいよ」

 

 その向こうにある顔を見たとき、この世界に来る直前にガーニッシュに言われた言葉がふと胸をよぎった。

「水車小屋までって約束だったわよね」

「ああ」

「カペルを追う間も、一緒に来て」

 オスカーが少し目を見開く。

「いいのか?」

「私が頼んでるのよ」

「なら、もちろん」

 ドロシーは差し出された手を取った。

 これが昔の恋の続きなのか、ただ懐かしいだけなのかは、まだ分からない。

 

 ギンタを思う気持ちは、今も消えていない。遠い世界へ帰ったからといって、簡単に過去にできるものでもなかった。

 

 ただ、どこへ繋がっているのかも知れない土地で、自分の子供時代を知る人間が隣にいる。その心強さだけは、疑いようがなかった。

 

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