実際に書いてみると原作の桜羽エマに似てるのか不安になってきたので、もし解釈違いでしたらご寛恕ください
それは、あまりにも早く訪れた。
ニュースでは大魔女とやらが人類への復讐を始めたとされ、世界各国の被害状況が報告される。
軍隊が一斉に動き出し、空には幾重もの飛行機雲や爆発が瞬いて。
そんな大騒ぎの中、わずか2週間ほどの間に、全人類はほぼ滅亡した。
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誰もいない小学校の廊下を一人きりで歩いている。かつては大声で騒ぐ子供たちを、必死でなだめようとしていたこの場所。
でも、今は誰の声もしない。
とはいえ静寂と言うわけではなく、外ではガーガーとなくカラスの大音響がやかましかった。もっとも彼らに感謝はすべきなのだろう。人類滅亡後に発生した凄まじい腐臭が今はましになっているのは、きっと彼らのおかげなのだから。
皆が死んでいく中俺だけが生き残れたのは、恐らくただの偶然だ。少なくとも、選ばれし存在だとか思えるほど俺は若くなかった。
抗生物質に対して耐性菌が発生するのと同じだ。本来は全ての菌を殺す目的を持った薬に対して、多様な個体の中で、たまたま適合した一匹が生き残る。
俺もそれと同じなのだろう。ただ運がよかっただけ。それだけだ。
倉庫から食品を取り出す。学校と言うのは災害時の避難場所になりやすいというのもあり、緊急時の物資は大量に保管されていた。
それこそ、何百人もの人間を一週間ほどは養えるだけの代物だ。賞味期限も基本は5年、長いものは10年ある。俺一人で生きていくなら何の問題もなかった。
(まあ、ただ一人生きてどうしろと言う話だけどな)
人類が滅びてすぐはやるべきことがあったが、それももう終わってしまった。何もやることはない。
もう、何もなかった。
足が、自然と屋上へと向かう。かつて受け持った子供たちの中に、いじめを苦に死にたいと言っていた子がいたのを思い出した。
その子に対しては死んではいけないと励まして、いじめも何とかしようと奔走して解決できた。そんな俺が自殺など、示しがつかないのは分かっている。
でももう、どうでもいいだろう。その子も死んでしまったのだから。
屋上の扉を開けると、強い風が吹いていた。ましになったとはいえ確かにある死体の匂いが、俺の全身を包み込む。
自分の精神の危うさを認識する。さりとてこのまま生きてどうしろというのか。
ゆっくりと、フェンスへ向かって歩を進める。もう、俺一人しかいないのなら、いっそ、と。
そう、思っていたのに。
そこには一人の少女が立っていた。小柄な体躯。静謐なたたずまい。純白でありながら毛先が桃色になっている髪は、ボーイッシュに短く切られているものの、それでは隠し切れないほどの可憐さを持っていた。
「君、は……」
記憶の中から呼び起こされるものがある。俺が受け持ったたくさんの子供たちの中の一人。最後に見たのは小学6年生の時であり、それから3年以上たったから、当然成長した外見は変わっている。
それでも、その子が誰なのかは理解できた。
「桜羽さん……?」
「え……!?」
俺の問いかけに彼女はビクリと肩を震わせて、驚いたようにこちらへ振り向いてきた。
「な、なんで、生きて……!?」
「ああ、生きてるよ!君も生きてたんだな!」
驚きもするだろう。きっと彼女も、これまで誰にも会えずにいたのだ。
思わず彼女に駆けよって、その両手を握ってしまう。人だ。人の感触だ。俺は一人きりではなかったんだ!
「ああ、良かった!本当に良かった!」
「え、えっと……」
彼女の戸惑った声に、思わず冷静になる。感極まっている俺に比べて、あまりにもテンションの低い声だ。大の大人が一人ではしゃいでいるようで、恥ずかしくなってしまった。
「その、桜羽さんだよな?俺のことは覚えてるかい?」
「先生だよね……?ボクが3年生と、6年生の時に、担任だった」
「うん、そうだよ。覚えててくれたんだね」
話しながら、意識して少しだけ彼女と距離を取った。考えてみれば彼女は今は女子高生なのだ。俺のような成人男性がうかつに近づいてはいけないだろう。
しかし落ち着いてしまうと話題に困ってしまう。
『元気だったか?』――元気じゃないに決まってる。
『二階堂さんは無事?』――きっと死んでしまっただろう。
『あの日は本当に大変だったね』――忘れたい大惨事だ。
「えーっと、君は今、ちゃんと生きていけているかい?」
「そうだね……。ケガもしてないし……」
それはよかったと、本当に心からそう思った。
「あ、もしかして学校の備蓄を取りに来たのかな。場所は俺が分かるから、いくらでも持って行っていいよ。これは君たちのためのものなんだから」
「……ありがとう、先生」
かつては明るく快活だった少女。だというのに今は、目はどこか虚ろで、まるで生気を感じられない。
無理もなかった。きっと彼女も地獄を見てきたのだろう。性格が変わるほどの絶望が彼女を襲ったことは、想像に難くなかった。
「じゃあ、ボクはもう行くね」
「待って!」
立ち去ろうとした桜羽さんに対して、つい大声をあげてしまう。
「えっと、俺は今、町はずれのキャンプ場で暮らしてて、キャンピングカーで水道もあって、その……」
言葉がうまくまとまらない。
「腐臭もないし、生活もしやすいと思う!君にとっても過ごしやすいと思う、いや、そうするから、その――」
みっともないことをしている自覚はある。それでも、止められなかった。
「一人に、しないでくれ……」
俺の言葉に、桜羽さんは驚いたように目を見開いた。
何かを言おうとして、続く言葉が見当たらなかった。こんな状況で何を言うこともできなくて、唇を震わせることしかできない。
そんな俺に対して、桜羽さんがゆっくりと語りかける、
「そうだね……」
彼女の目には、俺と同じ感情が宿っていた。
「ボクも、一人は大嫌い」