「えっと、体洗うのにタオルとか使わないのかい?」
「プールで遊ぶだけのつもりだったし、持ってきてないよ」
「じゃあ今から持ってきて……」
「別に手でもいいんじゃないかな。えいっ」
ぺたりと、桜羽さんの手が俺の背に触れる。少女の肌と俺の肌が、ぬるりとこすれあった。
「ぬるぬるしてる。オイルマッサージのお店ってこんな感じなのかな?」
「さ、さあ、してもらってことがないから」
この状況で連想するのはむしろ別のものだ。水着姿の少女にお風呂で体を洗ってもらう。それはとてもいかがわしい店のようだった。
俺自身は知識として知っていても、その手の店に行ったことはない。だからこそ想像することしかできず、もしかしたら本当にこんな感じなのかもしれないと思ってしまう。
「お客さん、気持ちいいですかー?」
「……っ!」
「って、床屋さんとかだと言ったりするのかな」
「床屋なら、かゆいところ無いですか、じゃないかな」
「そういえばそうだった。かゆいところは無いですかー?」
「いや、無いよ。大丈夫」
桜羽さんの発言が意味深なものに聞こえてくる。もちろん違うし、彼女はそういう店の存在自体知らないかもしれない。
「あ、でもオイルマッサージのお店ならそういう質問するかもよ?ならまずはマッサージからかな」
彼女は俺の肩に手を置くと、力を込めて揉んできた
「肩は、特にこってないのかな」
「以前ならまだしも、デスクワークはもうほとんどしてないからね」
「そっか。こってなくても肩もみされたら気持ちいいかな」
「い、いや、気持ちよくなんてないぞ」
「じゃあ、別の場所をマッサージした方がいいのかな」
肩から筋肉をなぞるように指先をすっと下ろしてきた。ただ一点の感触が、五感の中で強調される。
「先生の背中、筋肉の形が分かりやすいね。ここはこってるかな。気持ちいい?」
「う……気持ち、よくない……」
「……ふーん?」
彼女の手が、俺の肩甲骨の裏あたりを揉む。少女の非力な力ではマッサージと呼ぶには程遠かった。ただ無意味に、ボディーソープのせいで筋肉の上を滑っている。
「じゃあ、ここは?」
背骨の感触を楽しむように手のひらが動いて、また別の場所に触れる。
「これは気持ちいい?」
男の背を女の子の手が、撫でて、滑って、なぞっていく。
「ねぇ、先生?」
吐息が、首筋をふわりと撫でる。
(こんなの、こんなの……)
こんなものは、もう愛撫と変わらなかった。必死に耐えているのに、もはや明確に――
「気持ちいい?」
気持ちいい。そのことが、否定できない。
そもそも、俺は桜羽さんに対して強がっていることがあった。俺にとって
だからこそ彼女のことを、子供だと、生徒だと、そういう対象ではないと言い聞かせていたのに。
「先生の背中って広いよね」
桜羽さんの言葉が告げている。俺は男であり、
「ボクとは、全然違う」
自分は、女の子なのだと。
「上手にできてるかな」
浴場に、少女の声が反響する。
「気持ちよくなってくれると、嬉しいな」
何度も何度も、頭の中に響いていく。
「ふふっ、先生静かになっちゃった」
口を開くことができなかった。自分が何を口走ってしまうかもわからなかった。
「リラックスしてくれてるんだね」
体を動かすことができなかった。何か、余計なことをしてしまいそうだ。
「やっぱり、ボクの手が気持ちいいんだ」
ローションのようにぬめりを帯びた手が、俺の背中に奉仕している。
心の奥底、情欲にカチリと火が灯って――
「じゃあ、泡流すね」
「ふわっ!?」
ざぱっと、背中にぬるい水がかけられる。体の熱が中途半端に引いていく。
「終わりっと。どう?気持ちよかった?」
「い、いや、別に、そんなことはないが……」
急いで立ち上がり、彼女の手から距離を取る。恥ずかしさのあまり、彼女の顔から眼をそむけてしまっていた。
「そっか」と返事する彼女がどんな表情をしているかは分からないが、落胆などの負の感情ではなさそうだ。
「じゃあ、交代しよ?次は先生にボクのこと洗って欲しいな?」
「それは……」
(それはまずい。もう、絶対にまずい)
今彼女の肌に触れたら、自分がどうしてしまうか分からなかった。堪え切れるか、と考えるともう絶対堪え切れる気がしない。
俺の返事を待たずに鏡の前に座る桜羽さん。その背を見た時にちょうどいい理由を見つける。
「桜羽さんの水着、背中の方も結構布で覆ってるから背中は洗えないよ」
「あ、そっか」
彼女の上半身を隠す布は背中で止められている。それは激しい運動をしても外れたりしないように、しっかりした構造で繋がっており、ビキニのように紐だけというものとは全然異なっていた。
「じゃあ頭はどうかな」
肌と違い、頭なら問題ないように思えた。無論髪自体は女性を感じさせる部位ではあるが、泡立てたシャンプーでごしごしやる分には関係ないだろう。
「ボクは先生のこと洗ってあげたのに、先生は洗ってくれないの?」
「う……む……分かったよ」
女性用のシャンプーを手に取り、手の中で泡立てる。お返しはしてくれないのかと言われれば、対等な関係でいるためにはやらざるを得なかった。
「ただ、女の子の髪の洗い方なんてわからないからな?なんか手入れとか、いろいろあるんだろうけど」
「一日くらい別に大丈夫だよ。それじゃあお願い!」
とはいえ乱暴にするわけにもいかない。髪を引っ張られたら痛いだろうが、力加減もよく分からないのだ。できるだけ丁寧に洗おうと桜羽さんの髪をよく観察する。
そして、鏡越しに彼女の前髪付近を見ようと思ったときに気付いてしまう。
鏡の中に、水着姿の少女の全身が映し出されていた。
水着の上部からほんの少しだけはみ出してる胸のふくらみ。やや開かれた足のその間の形まで、全てが見えている。水着など、材質が違うだけで隠す面積で言えば下着とあまり変わらない。
(だから、まずいって、これ、ダメなのに……)
別のことに意識を向けようと、鏡越しに桜羽さんの顔を見る。シャンプーの途中だからだろう。彼女は目を閉じて俺のされるがままになっていた。
つまり、いくら彼女の体を舐めまわすように見ようと、彼女に気付かれることはない。
(あ……)
そう思った瞬間、今まで我慢していたタガが外れた気がした。桜羽さんのことを性的に見ないようにしていたのは彼女を傷つけないためだった。けれども今ならばバレない。彼女に対するデメリットは何もない。
もちろんそんなことは言い訳だ。バレなければ誰も傷つかないなど、盗撮犯の言いそうな戯言に過ぎない。分かっているのに、抑えが効かなくなっている。
桜羽さんの胸はそれなりにあった。決して大きくはないが、大きいというのはグラビアとかの一部の特異な例と比較しての話だ。ごくごく普通の、女子高生の胸だった。
少女の腕も脚も細かった。男の俺とは比べ物にならない華奢で、捕まえてしまえば決して抵抗できなさそうなことが見て取れた。
彼女に撫でられて炙られた体の火が、再び点火する。ドロドロと、グツグツと、体の奥底で溜まっていく情動がある。
「先生の洗い方って、すごく丁寧だね」
「え……あ……」
桜羽さんに話しかけられる。俺はとっさのことに、うめき声のような回答を返してしまう。彼女の体を見るのに夢中過ぎて、髪の洗い方が形ばかりの適当なものになってしまっていた。
「ごめんな、女の子の髪の洗い方とか、よく分からなくて」
「ううん、いいよ。優しくしてくれて嬉しい。もっと時間をかけてくれてもいいよ?」
「時間をかけて……?」
「そう。もっとゆっくり、ね?」
つまりもっと適当な動きで、この時を伸ばしてもいいのだと思った。絶対にそんな意味の言葉じゃないのに、もうそうとしか聞こえなかった。
もはや否定することなどできない。俺は彼女を性的な眼で見ている。組み伏せて蹂躙すれば無上の快楽を得られる青い果実。それを汚してはならないという思いすら、その価値を高める要素でしかない。
彼女がほんの少し身をよじるだけで、胸を覆う布が形を変える。その隠された中には少女の膨らみがあって、その先端には乳首があるのだろう。
股間を隠す布の中はどうなっているのだろうか。モザイクを超えたその先は想像はできるが、想像でしかない。ただただ妄想の中の存在でしかなく、だからこそ自分の理想形を思い描いてしまう。
彼女の肌の上に髪からこぼれたシャンプーが流れ込み、ドロドロと白い液体で汚していく。水と肌の隙間にすら入り込んで、その内側まで穢していく。
自分の中の雄がざわめいている。今すぐ押し倒してしまいそうになる中、それでも耐えていられる理由は、単純な思いだった。
(それでも、乱暴なことはしたくない。傷つけたくない。泣かせたくないんだ、この子を……!)
そんな心すら、最近の彼女の行動で突き崩されそうになっている。もしかしたら誘っているんじゃないか、望んでいるんじゃないか、泣かないんじゃないかと言う考えが、最後の牙城にひびを入れる、そして
「せ、せんせー。目にシャンプーが、その……」
「あ、ご、ごめん!」
気付くと彼女の目にシャンプーがかかっていた。目は閉じているものの、いつまでもこのままでと言うわけにもいかないだろう。慌てて手桶を手に取って頭から水を流した。
(俺、今ちゃんと手を動かせてたか……!?誤魔化せてたか……!?)
直前の自分の行動が思い出せない。少女の体に夢中になりすぎて手が止まっていた気がするが、桜羽さんが疑問に思っていないならきっとちゃんと動いていたのだろう。
彼女の頭に何度か水をかけると、シャンプーの泡は綺麗に流れ落ちていた。
「こんなものかな」
「うん、洗ってくれてありがとう」
そういう桜羽さんお体を液体が流れ落ちる。うなじを滑る水滴が、やたらと艶めかしく見える。
「次はリンスを――」
「じゃ!俺は先に上がるから!俺のお風呂は桜羽さんの後でいいよ!じゃあね!」
言い捨てて早歩きでその場を離れる。彼女のために、俺のために、もう一瞬もこの場にいるわけにはいかなかった。
浴場の引き戸を開けて、閉める。そのカラカラという音の合間に、少女の声が聞こえた気がした。
「あーあ。逃げちゃった。残念だな」
皆様、いつも感想・評価・誤字報告ありがとうございます。
趣味で創作する上で大変励みになっております。
自分で作品を書いてみて実感したけど感想ってホントモチベーション的に大事だね。
俺ももっと他の人の作品に感想書くようにしよ。
-追記-
恥ずかしながら、感想欄でご指摘の誤字があったので直しました。
3回は読み返してるのに誤字脱字がなくならない。