※この作品はR-18です。

滅亡世界の生存者   作:トイタトタタン

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15話 簡単な2択

 8月に入った。桜羽さんと再会してから一ヶ月以上が経ったことになる。

 夏の日差しがますます強くなり、エアコンの効いた部屋にこもりたくなる日々が続いているが、生活に必要なあらゆる作業がほぼ屋外での活動となる以上そういうわけにもいかない。

 

 そんな中、帽子でもあればましになるんじゃないかと言う発想のもと今日は桜羽さんととあるデパートに来ていた。

 あちこちに人骨や黒く乾いた血痕がある光景はもはや慣れたものである。欲しい商品に血がついていた時に、残念だったなと思うくらいだ。

 

 電気の消えた、昼間でも薄暗いデパートの中を懐中電灯を頼りに進んでいく。

 

「デパートもだんだん廃墟みたいな雰囲気になってきたね。二人で懐中電灯を持って歩いていると肝試しみたい」

「夏だし、シーズンとしては真っただ中だな。まあでも幽霊なんていないんだろう。みんな死んだっていうのに、一人も見たことないし」

「……うん、そうだね。幽霊がいたら、ボクの前に現れてないとおかしいよ」

 

 そんなことを言う桜羽さんは、もしかしたら二階堂さんのことを思い出しているのかもしれない。幽霊がいたら、俺に会いに来てくれる子供たちもいただろうか。それなりに慕ってくれている子もいたのだが。

 

 歩いているうちに帽子屋に着いた。デザインなんてどうでもいいため、日光を反射する白い帽子で、かつ通気性のよさそうなものを適当に拾って買い物かごに入れる。

 だが当然ながら桜羽さんはそうではないのだろう。いろんな帽子を持ち上げては見比べたり、うんうんと悩んでいるようだった。

 そんな彼女の様子をぼんやり眺めていると、桜羽さんは三つほど帽子を持って戻ってきた。

 

「この三つで迷ってるんだけど、どれがいいと思う?」

「う……俺にアドバイスを求められてもな……」

 

 正直なところ、女性の服のセンスなんて全く分からない。何せ男の服のセンスすらよく分からず、無難かつ適当に選んでいるのだ。

 

 桜羽さんが最初の一つ目、頭を覆う部分から全体につばが広がった柔らかそうな帽子だ。値札には『つば広ハット』と書いてある。

 

「これはどうかな?」

「え、ええっと、可愛いんじゃないか?」

 

 俺の言葉を聞いて桜羽さんが次の帽子を取り出す。桜色のスポーティーなつば付き帽子で、値札から『キャップ』という商品名が読み取れる。

 

「これはどう?」

「まあ、可愛いと思うよ?」

 

 彼女の眉が一瞬ピクリと下がる。何も言わずに手に持ったのは小さな麦わら帽子のようなものだった値札曰く、『カンカン帽』というらしい。

 

「………これは?」

「可愛い、が……」

 

 桜羽さんの機嫌が見るからに下がる。目つきが絵にかいたようなジト目になった。

 

(あの、いつも優しい桜羽さんに呆れられている……!?)

 

「いや、プロじゃないんだから、食レポみたいな感想を求められても……」

「そこまで言わなくてもいいけど、三つとも同じだと違いが分からないよ」

 

 そう言ってもう一度白いつば広ハットを手に取った。

 

「この帽子はどう思うかな」

「白くて可愛い、とかか?」

 

 次にまた、ピンク色のキャップを手に取る。

 

「これは?」

「…………ピンク色で…………」

 

 可愛い、と言ってはいけないことは分かるものの他に言うべきことが思いつかない。完全に固まった俺の様子を見て諦めたのか、桜羽さんは近くの棚に三つの帽子を並べた。どうやら方針を変えたらしい。

 

「先生。三つの中で一つだけ、ボクが着けて一番似合ってる帽子を選んで欲しいな」

「それなら三つとも……あ、いや、なんでもない」

 

 三つとも持ち帰ればいいんじゃないか、と言おうとするものの直前で引っ込める。それを言ったら叱られる気がした。

 

 白いつば広ハット。ピンク色のキャップ。麦わら帽子みたいなカンカン帽。それぞれを付けた桜羽さんの姿を想像する。

 それについて感想を言えと言われたら、やっぱりどれも可愛いとしか言えないのだが、あえて選ぶとしたら、

 

「これがいいんじゃないか?」

 

 俺が選んだのはピンク色の帽子だった。

 

「そう?」

「うん、やっぱり桜羽さんには桜色が似合うよ」

「そ、そっか。じゃあ、はいこれ」

 

 選んだ帽子を俺に渡してくる。その口調は少しだけ柔らかくなっていた。ちょっとは機嫌を直してくれただろうか。

 そのまま少し下を向いて頭を向けてくる彼女の意図を察し、桜羽さんに帽子をかぶせる。頭をなでて位置を調節すると、上目遣いでこちらを見上げてきた。

 

「どうかな、似合う?」

「似合う似合う」

「可愛い?」

「可愛いと思うよ」

「……ホントに可愛い?」

「うん、ホントに可愛い」

「えへへ、そっか!」

 

 ニコニコと明るく笑いだす。同じ感想の繰り返しはアウトのはずだが、さっきのはオーケーらしい。やっぱり誉め言葉はよく分からないが、彼女が幸せそうならそれでいいと思った。

 

 

「先生、水着売り場あるよ!」

「水着はもう持っているんだから、必要ないんじゃないか?」

「でも次は別の水着でもいいよね、せっかくなんだし」

「次か……また水遊びしたい?」

「うん。プールは一度の夏で何回入ってもいいよね」

 

 桜羽さんはそんなことを言って水着売り場へと歩いていく。またプールに入る、と言うなら次こそは冷静でいられるようにしなければならない。少なくとも、背中を流すと言われたときになんて言って断るかは今の内から考えておかないといけないだろう。

 前回水着を選んだときは、後でのお楽しみだと言って選んだ水着を見せてくることはなかった。今回もそうだろうと思って待っていると、しばらくして桜羽さんが戻ってきた。

 

「ねえ先生、どっちがいいと思う?」

「どっちって……いや、これは……」

 

 彼女が持ってきたのは白と水色の、露出の多いビキニだった。その手の写真集で使われていそうなそれは、着たとしてもほとんど防御力は期待できないだろう。

 

「これは、その、大胆過ぎないか?」

「それはそうなんだけど、でも大人っぽい感じがしないかな。少し憧れだったんだ」

 

 ビキニが大人の水着、というならそれは確かにそうなのかもしれない。少なくとも子供が着ることはないだろう。

 

「大人っぽいかもしれないが、君にはまだ早すぎるんじゃないかな」

「それって、ボクが子供っぽいってこと?」

「いや、そうは言わないが……似合わない可能性も」

「やっぱり子供っぽいって言ってるよね!?」

 

 いやしかし、15歳……ビキニ……やっぱり早すぎるんじゃ……

 

「そうだ!それじゃあ試しに着てみるね。それで似合ってるか、確かめてみてよ」

「は!?いや、確かめるって……」

「ほら、こっちこっち!」

 

 桜羽さんの声に呼ばれるままについていくと、そこにはいくつかの試着室が並んでいた。中にある鏡が懐中電灯の光を反射して、一瞬だけこちらの目を眩ませる。

 そのすきに桜羽さんは試着室の中に入って、止める間もなくカーテンを閉めてしまった。

 

(本当に着てくるつもりか……?)

 

 ここまで来たら外から文句を言うわけにもいかない。できれば途中で日和ってやめてくれないかと祈るものの、その願いは届かなかったようだ。しばらくすると再びカーテンが開かれ、白いビキニを着た桜羽さんの姿が現れる。

 思った通りの肌面積に、ついつい目をそらしてしまった。

 

「どうかな?」

「ええと、いいんじゃないか」

「先生ってば、適当に答えてる。ちゃんとこっち見て」

 

 流石に見もせずに答えるのは無理があった。言われたとおりに彼女の方を見ようと懐中電灯を向けるが――この懐中電灯を向けるという行為自体に問題があった。

 

 普通に相手のことを見ているなら、どこを見ているかはそこまで正確ではない。いや、目線は察することはできるだろうが、それでも推察の域を出ない。

 だが今は違う。相手の姿を見るために相手を照らせば、その光の向きこそが俺の視線と合致する。俺がどこを見ているか、完全に相手にばれることになる。

 

 懐中電灯を彼女に向けると、最初に光が当たったのは腰回りだった。うっすらと筋肉と脂肪が浮いた肌が、スポットライトに照らされているかのように闇の中で強調される。

 ずっと光を腰に当てているわけにもいかない。俺がガン見していることになる。光を動かして上にあげると、次は胸が照らされることとなった。

 

 前回の水着よりも露出が多く、乳房の上部分が見えてしまっている。両方の胸の間は紐のようなものが結ばれているだけで、彼女の体の中心は、上から下までほぼ肌が見えていた。

 ここも又、いつまでも見ているわけにはいかないと焦ってさらに懐中電灯を上に向けるが、

 

「直撃はまぶしいよ!?」

「すっすまんっ」

 

 光が直接顔に向かってしまった。慌てて向きを下げて、彼女の足元を照らす。

 素足ではあるがそこまで性的な部位ではないだろうとは思ったが、甘かった。懐中電灯が照らした場所、それは足を越えたその先の、試着室の床も含まれていて、

 

 そこには桜羽さんの下着類が畳んで置かれていた。

 

 脱いだ服を順番に畳んで重ねていけば、一番上は下着になるのだろう。ピンク色のブラジャーとショーツ。おそらくお揃いのものだろうそれが、二つ折り重なって照らされている。

 

 ただの布切れだというのに、普段は隠されているというだけでその存在から目が離せなくなる。ついその場で固まってしまうが。

 

「先生、足元は水着と関係ないんじゃないかな」

「あ、あぁ、そうだね」

 

 彼女の声に我に返り再び光の位置を上げていく。ふくらはぎ、膝、太ももと順に、少女の脚を照らしていく。足元は水着に関係ない、と言うならここはどうだろう。水着の無い部分なのだからここも関係ないだろうか。

 だが、すらりと伸びたその脚は、ビキニだからこそ晒されているものである。ならばここは水着の一部と言えるだろうか。俺が今鑑賞しているのは彼女の水着なのか――あるいは、彼女の素肌なのか。

 

 それ以上余計なことを考えないように、懐中電灯の位置をさらに動かす。最初に気が向いたのは桜羽さんの側面あたりだ。

 ギリギリまで肌面積を増やすためだろうか、ビキニの前後は紐で結ばれ、ただそれだけで留められていた。その紐は少女のうっすらと浮かび上がった骨盤に引っかかるように支えられていて、いまにも落ちてしまわないか心配になる。

 

 そしてその両端の布の間にある三角形の白い布が、桜羽さんの股間を隠していた。もちろん人に見せて問題ない水着だ。耐水性も高く丈夫なそれは、股の間の何かを浮かびあがらせたりはしていない。

 それでも、周囲が暗い中ただそこだけが照らされていて、ただそこだけに集中させられると、どうしてもその奥を想像してしまいそうになった。

 

「それで、どうかな?」

 

 桜羽さんに声をかけられる。懐中電灯の明かりは最初の位置、腰回りに戻っていた。それは彼女の姿を上から下まで、一通りじっくり鑑賞したことになる。

 だからこそ感想を求めてきたのだろう。つまり懐中電灯の向きが俺の視線の向きだと、桜羽さんも分かっていることになる。

 それでも何も言ってこないのは、彼女自身が水着を見せていてそのための行為に過ぎないからだろう。邪な意図などきっと分かっていない。申し訳ないと思いつつも、それでもそのことに暗い喜びを覚えてしまう自分がいた。

 

「まあ、うん、可愛いんじゃないか?」

「また可愛いだ……」

 

 そうは言うものの、他に何と言えばいいのだろう。女の子の服装なんて褒めた経験は俺には皆無なのだ。

 

「そうだ!ボクが2択で答えられるような簡単な質問をするから、それに答えて欲しいな。それなら先生でも感想を言えるよね?」

「まあ、それくらいなら……」

 

 桜羽さんの助け舟は正直なところ助かった。自分でも自分の感想がひどいことは分かっていたし、せっかくの服を褒められないというのも心苦しいとは思っていたから。

 

「まず最初は……そうだ、この格好って爽やかな感じするかな?」

 

 その質問に少し考えてみると、確かに爽やかな感じはする。というか水着はだいたい爽やかに属するのではないだろうか。そうでない水着と言うと――スクール水着とかだろうか。水着の爽やかさは布地の面積に比例するのだろうか。

 

「そうだね、爽やかだと思うよ」

「だよね。夏って感じがするよ」

 

 そう言って笑う桜羽さん。その笑顔はまさしく夏を思わせる無邪気さで、先ほどまで俺が感じでいた邪心を綺麗に吹き飛ばしてくれるようだった。

 

「じゃあ次、綺麗だと思う?」

「うーん、綺麗じゃないとは言わないけど、あまりその印象はない気が……どちらかと言えばやっぱり可愛い系で、いや綺麗じゃないとは言わないけど」

「そうじゃなくて……」

 

 せっかく細かく述べた俺の意見に対して、桜羽さんは困ったような表情を浮かべた。

 

「綺麗か、綺麗じゃないかを聞きたいんだよ。せっかく先生が答えやすいように、2択の質問にしてるんだから」

「それはまあ、その2択なら……まあ……綺麗だとは思うが」

「そっか!先生綺麗だと思うんだ」

 

 嬉しそうな反応を見て察する。つまりこれ、彼女の望むままに褒めさせられる会話だと。そもそもあんな質問されて、綺麗じゃないと答えられるはずがない。

 そうなるとすごく気が楽になった。何せ頑張って感想を考える必要はないのだ。ただ相手に合わせて、うんうんそうだねと言ってあげればいい。

 

「ねえ先生、この水着、ボクに似合ってるかな」

「うん、似合ってる似合ってる」

「そう?さっき先生はボクが子供っぽいから似合わないって言ったけど、そんなことないよね?」

 

 その返事を聞いてしまったと思った。まだ早すぎるからと諦めさせるのはこれで無理になっただろう。だがしかし、この流れではいずれにせよこの水着を持ち帰ることになっただろうし、別に構わなくもあった。

 

「それじゃあ、これが最後の二択だよ?」

 

 その言葉に安堵する。ただ見ているだけなのに、ただ感想を言うだけなのに、この状況は少し心臓に悪い。そんな油断した俺に、桜羽さんの次の言葉が投げかけられた。

 

 

「先生は、ボクのこの姿を見れたら、嬉しい?」

 

 

「えっ……と……」 

 

 

 瞬間、言葉に詰まった。これがもし他の姿、例えば先ほどの帽子などなら良かった。冗談めかしてかわいい子を見れて嬉しいとでも言って切り抜ける手もあったかもしれない。

 だが彼女の今着ているのは露出の多いビキニだ。四肢が晒され、体の形もよく分かる、男を誘惑するための水着。

 

 それに対して嬉しいと答えることは、どうしても性的な意味が混ざる気がした。

 

「その、だな、嬉しいと言っても、いろいろ理由とか」

「先生」

 

 どうにか誤解のない表現をしようとする俺の言葉を、桜羽さんが遮った。

 

「これはね、2択の質問なんだよ?嬉しいのか、嬉しくないのかを教えてほしい」

 

 とても優しい語り口なのに、なぜだか何も言い返せなくなる。俺の逃げ道が、完全に塞がれた気がした。

 まるで俺の心の動きのように、懐中電灯の光がゆらゆらと揺れる。それは少女のお腹を照らして、乳房を照らして、股間を照らして、足を照らした。

 

「簡単な質問だよ?」

 

 俺達以外がいない薄暗い廃墟の中、桜羽さんの言葉と俺の息遣いだけが聞こえる。 

 これなら、質問をされてすぐ、さらりと答えるべきだった。心当たりがあるから、彼女のことをそういう目で見ているから、今も言葉を出すことができずに胸の奥を詰まらせている。

 

「自分の心に、正直に答えて欲しいな」

 

 スポットライトが、彼女の体をさ迷い歩いた。ただ俺に見せるためだけの水着姿が、ここにあるのだと主張してくる。

 

「先生は、ボクのこの姿を見れて、嬉しい?」

 

「俺、は……」

 

 緊張のあまり舌先が震える。それでも俺は絞り出すように、あるいは我慢できず零れ落とすように、桜羽さんの問いに答えた。

 

 

「嬉しい、と、思ってる……」

 

 

 少女の瞳は照らされている範囲から離れていてよく見えない。わずかに見える彼女の口元が、クスリと笑った。

 

「そっか、先生はボクの水着姿を見て嬉しいと思ってるんだ」

 

 一体何を思ってるのだろうか。その声は俺の薄汚い性欲を断罪するような昏さと、許容するような優しい甘さを伴っていて――

 

 

「えへへ、嬉しいな!」

 

 

 桜羽さんがニコリと笑った。その瞬間に、あたりに漂っていた淫靡な空気が一瞬で霧散する。俺自身も急速に我を取り戻していった。

 

「それじゃあこっちの水着を持って帰ることにするよ。着替えるから、ちょっとだけ待っててね」

「あ、ああ、分かったよ」

「そうだ、先生」

 

 立ち去ろうと踵を返す直前、彼女に声をかけられる。そして、

 

「次のプール、楽しみだね?」

 

 そんな言葉を残して、試着室のカーテンが閉められた。 




 水着と言うのは、シチュエーションによってエロさが変わる衣類だと思います。
 海やプールでの水着。これはエロくないとは言いませんがむしろ健康的ですね。
 自宅で買った水着を見せてもらうシチュ。そうです、エロくなりましたね。
 ではいかがわしいホテルの一室だとしましょう。もっとエロくなりました。
 薄暗い廃墟の中で懐中電灯の明かりだけを頼りにした二人きりの水着鑑賞会にしてみましょう。
 多分これが一番エロいと思います。
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