※この作品はR-18です。

滅亡世界の生存者   作:トイタトタタン

17 / 60
16話 神経衰弱

 世の中には様々なテーブルゲームがあるが、オセロほど手軽なものもないだろう。

 何せルールが覚えやすい。将棋やチェスのようにコマの動きが多様で合ったり、麻雀のように点数計算が複雑ではない。

 

 そんなわけで子供と遊ぶのにもちょうどよく、昼休みに遊べるように小学校にも置いてあった。俺もよく生徒の相手をしていて、遊んだ回数で言えばその辺の人よりもはるかに多いだろう。

 

 パチリ、と桜羽さんがコマを置く。それに挟まれた俺の黒いコマをひっくり返して白く変えていった。

 盤面の変化を見て少しだけ考える。その後で俺もコマを持ち、黒い方を表にしてマスの中に置いた。

 その俺の置き場を見て、桜羽さんが言う。

 

「……待ったって、無し?」

「無しだね。どっちにしろ、ここからじゃ状況は覆せないと思うよ」

 

 盤面のうち2辺が真っ黒に染まっているし、内側も見るからに黒の方が多い。数えるまでもなく俺の勝ちが決まっていた。

 

「うう、3連敗。ボクの色が先生に染められちゃった」

「まあ、うん、そうだな」

 

 意味深な言い方をする桜羽さんに生返事をしながら、交互に残るマスを埋めていく。結末の見え切った作業の後、やはり勝ったのは俺の方だった。

 手加減しようかとも思ったのだが、流石に高校生相手にその必要はないだろうというのもあったし、子供だましの手加減はすぐばれてしまうとも思ったからだ。

 

 とはいえ、負けてばかりでは面白くないだろう。

 

「まだ寝るには早いし、次は別のゲームにしようか」

「うん。次に街中に行くときは、オセロの本も探そうね。ボク、ちゃんと先生のお相手ができるように練習しておくから」

 

 時計を見ると21時だった。普段は22時に寝て5時に起きる、と言う生活をしているからあと1時間は余裕がある。

 

「次はUNOとかどうだい」

「もしかして、気を使ってボクが勝てるゲーム選んでくれてる?」

「いや、次は俺がリベンジできるかもしれないじゃないか」

 

 確かに桜羽さんはUNOがうまいが、あれは運要素の強いゲームだ。何度もやれば、俺が勝てる可能性はいくらでもある。

 

「だったらボクにこそリベンジさせてよ。オセロで負け続きだったんだし」

 

 そう言って桜羽さんが取り出したのはトランプだった。紙の箱から取り出されたそれは青を基調とした絵が裏面に書かれているが、今は間接照明のオレンジ色に照らされてモノクロ柄のように黒くなっている。

 

「神経衰弱しようよ。どうかな」

「いいけど……リベンジできるか?運要素も特にないゲームなのに」

 

 神経衰弱は何度かやったことあるが、桜羽さんに負けたことは一度もない。彼女が弱いのか俺が強いのかは分からないが、ギリギリの戦いですらないくらいには力の差があるのだ。

 

「今度は勝てるかもしれないよ?それじゃあカード広げるね」

 

 そう言ってテーブルの上にカードを並べていく。俺も手伝ってカード同士が重ならない位置になるよう少しだけ調節した。

 

 じゃんけんの結果先攻になった俺が適当にカードをめくっていると、その間に桜羽さんはパジャマのボタンを一つ外していた。服の胸元を掴んではパタパタと前後に動かし、服の中の空気を入れ替えている。

 

「暑いかい?エアコンの温度下げようか?」

「少しだけだから大丈夫だよ。ガソリンも無限じゃないしね」

 

 俺のめくったカードは当然ながら違う数字だった。その二つの数字を記憶し、裏返して元に戻す。

 

「どこにしよっかな」

 

 桜羽さんがそう言いながら選んだのは、テーブルの真ん中よりは少し俺の側にある一枚だった。腕を伸ばすだけでは届かないそれを裏返そうと、上半身を乗り出して前かがみになったときに、

 

 彼女の開いた胸元から、服の奥が少しだけ見えた。

 

(……っ)

 

 あくまでほんのちょっとだけ、上半分ですらない程度だ。それでも明らかに平らではなく、膨らんだ部分が俺の視界に入る。

 

 だがそれも一瞬のことだ。カードをめくった桜羽さんがそれを元に戻して椅子に座りなおす。

 

「はい、先生の番だよ?」

「あ、ああ、そうだな」

 

 促されてカードをめくろうとしたときに気付いた。先ほど桜羽さんが選んだカードの数字を、そういえば見ていない。

 

「あの、さっきのカードの数字って何だった?」

「見てなかったの?」

「ごめんな。少しぼーっとしてて」

「ふーん……」

 

 いぶかしげな顔をしてはいるもののバレてはいないようだ。現にパジャマのボタンを元に戻そうとはしていない。

 

「でもだめだよ。先生がちゃんと見てなかったのが悪いんだから」

「そうだよな。よし、集中しよう」

「うん。集中しないと、ね」

 

 次に俺が選んだカードは5と2だった。裏向きに返すと桜羽さんが嬉しそうに笑う。

 

「実はさっきボクがめくったものの中に2があったんだ。先生がぼーっとしてくれたおかげで助かっちゃった」

 

 そう言って2枚のカードをひっくり返し、自分の手元に回収した。続いてさらにカードをめくるために、再び前かがみになる。そしてまた、彼女の胸元が重力に従って開く。

 今度は先ほどより大きく隙間が空いた。寝る前だからだろう。ブラジャーはつけていなかった。カードをめくるためのわずかな動きに連動して、ふるりとほんの微かに揺れている。

 

 そんな一瞬の光景の後、彼女が再び席に戻る。俺の手番になって手近なカードを適当に一枚めくるが、

 

「それさっきボクが選んだカードだよ?」

「あ、そ、そうだったな。まったとか……」

「まったは無しだよ。オセロでも許してくれなかったし。先生がちゃんと見てなかったのが悪いんだから」

 

 まずい流れだった。彼女のめくったカードを見ていないのもそうだが、自分のめくったカードの数字すら、頭の中であやふやになっている。

 ちゃんと思い出そうとしても頭に浮かぶのは彼女の胸元だ。その記憶に吹き飛ばされて、数字の位置などどこにも残っていない。

 

(しゃんとするんだ!俺は大人だから、ガキの胸になんて絶対負けたりはしない!大人の強さを分からせるんだ!!)

 

 そんな決意もむなしく、散々な展開になった。

 

 彼女がカードをとろうとするたび、どうしても視線がそちらに向く。ノーブラのふくらみの微かな揺れだけで、俺の記憶が消されるようだった。

 もはや俺は完全に期待してしまっていた。前かがみになる必要がない彼女自身の近くのカードを取る時ですら、少しは見えるんじゃないかと視線が向いてしまう。

 せめてもの抵抗としてちらりとカードの数字は見るが、そんなものは全く印象に残らなかった。

 

「8か……確か、これが8だったよね!」

 

 桜羽さんが選んだのは俺の一番近くにあるカードだった。つまり一番大きく身を乗り出す必要がある。彼女は椅子から完全に立ち上がって、テーブルに片手をついた。

 服が大きく開く。少女の胸が重力に引かれて、普段よりさらに大きく見えた。それがどんどんと俺の方に近づいてきて、そのたびに見える面積が広がっていく。

 

(あとちょっと、あとちょっとで……)

 

 みっともない言葉が頭に浮かぶ。あと少しで先端が見えそうだった。桜羽さんがカードをめくる。その動きで胸が揺れて、ほんの少しだけ服の位置がずれる。また肌色の範囲が増えて、そして――

 

 色の違う部分が、見えた気がして。

 

 その瞬間に、桜羽さんが身を起こした。その手には8と書かれた2枚のカードがあり、それを自分の手元の山に重ねた。

 

(見えた、のか?いや気のせいか?ただの影か、いや、あれは……)

 

 頭の中にモヤモヤが溜まり、どうにもすっきりしない。一番いい瞬間にお預けにされたような不満が、心の中でくすぶっている。

 

 いや、不満に思うのはおかしいだろう。そもそも俺が卑怯な真似をしているというのに。そう自分を叱咤して、どうにか気を取り直してテーブルを見ると、いつの間にかカードは残り4枚になっていた。

 

 未だに彼女の手番であり、恐らく4枚くらいなら全ての数字を覚えているだろう。

 そして、俺の手元にあるカードは0枚。

 

「な、なあ、桜羽さん。情けで、ここはわざと間違ってくれたりしないか?」

「うーん。それはダメかな。確かに少しかわいそうだとは思うけど――」

 

 俺の懇願に対し、彼女からかうような笑みを浮かべて、

 

「先生がちゃんと、見てたのが悪いんだから」

 

 最後に、そんな言い間違いをした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。