「え……っと、ちょっと待ってくれ。ちょっとだけ、な?」
どうにか落ち着いた声音で返事をして、立ち上がりズボンを引き上げる。汚れた手をティッシュで拭いて、それをごみ箱へと投げ捨てた。
(バレてないよな……!?隣の部屋まで声が聞こえてたとか、そういうのじゃないよな……!?)
深呼吸をして、激しい動悸をなんとか静めようとする。股間のものはまだ大きいままだったが、これをすぐ元に戻すのは不可能だ。ならいっそ堂々と振る舞って、エマの視線が下に向かないようにするしかない。
何とか精神を持ち直して、動揺を悟らせないようにドアを開ける。その向こうには、ピンク色のパジャマに身を包んだエマが立っていた。
「お待たせ。どうしたんだ?」
「その、お願いがあるんだ。ボクさっきまで寝てたんだけど、怖い夢を見て飛び起きちゃって、眠れなくなっちゃって……」
顔を赤くして、恥ずかしそうにしながら話している。怖い夢を見て眠れないなんて子供っぽいとか、そう言う風に思っているのかもしれない。
「それでね、できれば今日、一緒に寝てくれないかなって」
「い、一緒にか……」
「うん。ダメかな?」
一緒に寝る、と言う言葉にそれ以上の意味はないだろう。安心する存在として俺を頼ってくれたこと自体はすごく嬉しい。だが、今はまずかった。
射精寸前まで高まっていた快楽の熱が、いまだに体の中で燻っている。先ほどまでの妄想の中のエマの姿を、目の前の彼女に重ねてしまう。もはや俺は俺自身のことを、信じることができなかった。
「それは……えっとだな……」
「ねえ、お願い。本当に怖い夢だったんだよ。…………みんなが、死んでいく夢」
その言葉にハッとさせられる。思えばエマは俺以上にあの日のことがトラウマになっているようで、いまだにその傷は深いのだろう。もしかしたら、そのことを夢に見て眠れないというのも、今日だけではないのかもしれない。
ならば大人として、恋人として、エマのことを安心させてやることが俺のすべきことなのではないだろうか。
「分かったよ。なら一緒に寝ようか」
「ありがとう先生!それじゃあ、ベッド行こう?」
喜びで顔をほころばせて、俺の手を取りベッドへと引いていく。だがそれは俺の右手だ。先ほどまでペニスを握り、先走りで汚れていた、ティッシュで拭いただけの、俺の右手。
エマが気付かないうちに、彼女のことを汚してしまった。
「……っ!」
「先生……?」
バッと手を振り払ってしまう。過剰な反応にこちらを不思議そうに見てくるも、とっさに言い訳が思い浮かばない。
「えっと……その……トイレ!俺ちょっと寝る前にトイレ行ってくるから。エマもその間に自分の枕を持ってきてくれ。必要だろう?」
声は、上ずってないだろうか。俺の言動は明らかに不審だろう。だがエマが疑問を覚えたところで、その理由までは思い至らないはずだ。
「……そっか、分かったよ。ただ【できるだけ早く戻ってきてね】。ボクもすぐ寝たいから」
「ああ、もちろんだ。夜ももう遅いしな」
そう言い残して、急いで部屋を出て手洗い場に向かう。ともかくすぐにこの手を洗いたかった。トイレで一回抜いて発散させた方がいいかとも思ったが、あまりエマを待たせるわけにはいかない。
俺はできるだけ早く戻らないといけないのだから。
■
電気を消した部屋の中、普段は一人で眠っている小さなベッドの中で、エマと同じ布団に包まれている。できるだけ意識しないようとするものの、すぐ近くの少女の体温と香りは強烈な現実感を伴ってその存在を俺に伝えてきていた。
互いの腕は当たり前にぶつかって、重なっている。そしてもしこの腕を少し動かしてしまえば、彼女の胸にも、尻にも、妄想の通り触れてしまえるのだろう。
手を出せる位置に、彼女がいる。
(落ち着け俺!エマは俺を信じて頼ってくれてるんだ。それを裏切るわけにはいかないだろう!?)
心臓の音がうるさくてたまらない。落ち着いて深呼吸をしても、彼女の匂いが強くなるだけだ。俺はエマの存在に、どうしようもなく追い詰められていた。
「こうやって誰かと一緒に寝ると、落ち着くね」
「そ、そうか?」
「うん。家族と一緒に寝てる時見たい」
俺は全く落ち着かない。だが彼女は家族と口にした。間違いなく死んでいるだろうその存在の役割を今俺に求めているのなら、ますます手を出すわけにはいかない。
ばらばらになりそうな理性を必死につなぎとめていると、エマは不意にこちらを向いて近づいてきた。そして俺の背中へと腕を回すと、全身で優しく抱き着いてくる。
「エマ……っ!?」
「ボクの家にね、お気に入りの抱き枕があったんだ。眠れないときにこうやって抱き着いてると安心して眠れるんだよ」
「なら、今度その抱き枕を回収しに行こうか?」
「ううん。家には帰りたくないな……どうなってるのか、見るのが怖いから」
それはそうだろうと思った。身近な場所が崩壊しているさまは、人類が滅亡しているという実感を容赦なく叩きつけてくる。そして最悪の場合、彼女のご両親の遺体もそこにあるのかもしれない。
俺もこんな世界になってから、家族や友人の家へわざわざ行くことはなかった。
そして
(くそっ……今……真面目な話をしてるのに……!)
話の内容にかかわらず、股間の疼きが強くなる。エマに抱き着かれたせいで、興奮したペニスが彼女の太ももへと押し付けられていた。
「あ、また大きくなっちゃったの?」
「ごめんな……その……」
「先生はボクにくっつかれるとすぐ反応しちゃうんだね」
エマはそういうものの、今回ばかりは違っている。彼女に抱きしめられる前、ベッドの中に入る時点で、すでに股間は膨らんでいた。つい先ほど射精寸前まで昂っていたそれは、何枚もの布越しに押し付ける程度の刺激でも、強い快楽をもたらしてくる。
「とりあえず、離れてもらって……」
「大丈夫だよ。気にしないことにしたんだからね。それよりも先生の方からもギュっとしてほしいな」
「俺の方から?」
「うん。お願いしてもいい?」
至近距離で向けられるエマの微笑み。可愛い恋人のおねだりに耐えられるはずもなくおずおずと彼女の背中に腕を回す。力を込めて抱き寄せると互いの距離が近くなって、ペニスがより強く太ももに押し付けられる。
快楽が、強くなる。
「こうやって抱きしめ返してくれるのは、抱き枕と違うところだよね」
「そうだね……」
「好きな人にギュってされると、なんだかすごく幸せだな」
「そうか……」
適当な生返事で会話をやり過ごす。すぐ目の前にエマの顔があり、彼女の言葉とともに優しい吐息がかけられた。
それはつまり俺の呼吸もかかってしまうということだろう。そのことに気付いて首の角度をできるだけ曲げて、顔の向きを真横から斜め上くらいの方向へと変えた。
「その姿勢って辛くないの?」
「で、でもな、俺の息が君にかかってしまうだろう?」
「ボクは嫌じゃないよ?」
「それでも、その、俺が恥ずかしいし……」
大の男が恥じらう滑稽な姿をに、エマは「そっか」と言ってクスクスと笑っていた。それは嘲笑めいた声色なのに、こちらのことを可愛がるかのようにどこか優しい。
「それだと互いの顔を見てお話しできないけど……あ、でも先生の耳は近くなったから……」
エマがさらに近づいてきて、俺の耳に唇を寄せて言う。
「こういう、秘密に内緒話はできちゃうね」
小さく、かすれるような囁き声。耳にエマの吐息がかかった瞬間にゾクリと背筋に快楽が走る。さらに、気持ちよくなっていく。
(これ、まずい、まずいのに……)
俺は完全にエマの体で快楽を得てしまっていた。エマの太ももからもたらされる甘い刺激に脳が支配される。高まっていく興奮の果てには、嫌な想像しかできなかった。
「ごめん、エマ……その……」
「謝らなくてもいいんだよ、先生」
離れてほしいと、彼女を傷つけるかもしれなくとも言おうとした言葉が、彼女の声に遮られる。
そして――
「これはただのハグで、ハグはセーフだから」
その言葉を聞いた途端。心がドロリと溶けた気がした。
エマを抱きしめている腕に力がこもる。より強く密着すると、ペニスもさらに太ももへと押し付けられた。自分の手に比べたら刺激としては弱いはずなのに、昂りすぎた興奮が快楽を何倍にも増幅させる。
せめて必死になって腰を動かさないように耐えていた。そんなことをしたら、その動きの意味と意図は、流石のエマでも分かるだろう。それはダメだ。明らかにアウトだろう。でも……
「セーフだから、大丈夫だよ、先生」
セーフの範囲内で、欲望のままに動いてしまう。いつの間にか互いの足は重なり合っていて、エマの足は俺の両足の間へと入りこんでいた。
彼女の素足がツタのように俺の足へと絡みつく。優しく俺のことを縛る素足と俺の足が触れ合い、肌の感触でさらに興奮させられる。
「好きだよ、先生。大好き」
エマの囁き声が、脳の中に染み渡っていく。耳元で響く小さな声は、世間にばれないように、いけない秘密を話しているようだった。暗い小さな部屋の中、布団の中で隠れるように、エマにペニスを押し付ける。
外から見たら何もしてないように見えるかもしれない。動きなんてほとんどないから。でも実際は俺はエマに性欲を向けて、少女の体で気持ちよくなってしまっている。
体が固まったように動けないまま、快楽だけが高まっていく。ぐつぐつと腰の奥から登ってくる。ゆっくりとではあるが確実に上りつめていって。
ペニスの感覚が、ある一線を越えた。
慣れ親しんだ感覚。射精前の予兆。こうなったら止めることのできない段階にいたって、今更になって焦りが浮かぶ。
このままでは出してしまうのに、それでもエマを手放すことができない。むしろ力はさらに強くなって、ぐいぐいと腰を押し出していく。
「ごめん……っ!エマ……ごめん……っ!」
みっともなく謝罪をしておいて、なお力は緩まなかった。性欲に支配されるままに体が動き、エマのことを抱き寄せた瞬間に一際大きくペニスが跳ねて
ドプリと、ペニスの先から精液が漏れた。
何度も震えて、何度も射精する。ペニスとともに、体全体が痙攣して震える。体中に快楽が走って頭が真っ白になっていく。
刺激としては弱いはずなのに、自分でするのとはけた違いの快楽だった。少女の体に抱き着いて、その温もりと香りを感じながらの射精が、それが気持ちいいということが、まるで麻薬を覚えてしまったかのように脳裏の中に刻まれていく。
繰り返し訪れる悦楽。その間ずっとエマのことを抱きしめて。快感を、幸福を、その余韻を、ずっと楽しんでしまっていた。
そして、そんな時間は終わりを迎える。
興奮が冷めて、射精が終わって、快楽の波が徐々に引いていった。それとともに理性が戻ってきて、頭が冷静さを取り戻した。
(俺は……俺はなんてことを……!)
一時の快楽の代償に後悔と絶望が押し寄せる。ここまでして、もはやエマが気付いていないはずがなかった。なにも、思わないはずがなかった。
「ごめん!とりあえず離れ……離れるから……!!」
「大丈夫だよ、先生」
距離を話そうとするものの、エマの腕は俺の背に回されたままだった。まるで子供をあやすように、俺の背をやさしく撫でている。
「大丈夫だから、落ち着いて先生。ボクは大丈夫だから」
言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返して、背中をなで続けてくれていた。しばらくしてどうにか落ち着きを取り戻し、考える余裕が出てくる。
少なくともこの様子から言ってエマが嫌がっているということはなさそうだった。そのことに気付いて安堵するものの、心の中の罪悪感は消えない。
「落ち着いた?お話しできる?」
「あ、ああ……」
「怖がらなくていいんだよ。先生のこと嫌いになったりしてないから」
それは、きっとそうなんだろう。でもこの状況で未だに抱き合ったままでいるというのがまだ落ち着かなかった。エマの太ももの位置は変わらないまま、俺の股間の位置にある。この期に及んで、そこから甘い感覚を感じ続けてしまっていた。
「先生はいつも我慢してくれてるんだもんね?今日も本当はボクに変なことはしたくなかった。そうだよね?」
「それは、そうだが……」
「だったらね、これは事故だよ」
事故、だろうか。今回のことは明らかに俺の意思があった。不可抗力だとはとても言えない。
「これは事故で、事故だから、セーフだよ」
「あ……」
その言葉は、以前にも彼女に言われたものだ。エマのことを押し倒してしまって、その胸に顔を埋めてしまったとき。あの時確か、言われたことは
「セーフだから……大丈夫……」
「うん。セーフだから大丈夫だよ。これはセーフ」
「これはセーフ……」
「うん。セーフだよ、先生」
その提案が、とても魅力的だった。エマはきっと事故だったということにして、今回のことを許してくれると言っているのだ。
それなら俺は嫌われない。エマの言うとおり、セーフだったことにすればいい。
「先生は何も悪くない。先生は、何も悪いことなんてしてないよ。」
だから俺はエマに追い立てられるまま、その甘い逃げ道へと歩みを進めていった。
皆様いつも応援ありがとうございます。おかげさまで28話かけてどうにか射精シーンまで行きました。
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