もぞもぞと、隣にいる存在が動く。その気配で目を覚ますと先生はすでに起き上がっていた。
「おはよう、先生」
「ああ、おはよう。ごめん、起こしちゃったかな」
「ううん、いいよ。今って何時?」
「えっと……5時だね。普段通りの時間だ」
そう言って彼は布団の中から出ていった。ボクもそれに合わせて起き上がり、少しだけ髪を撫でつける。寝起きのボクは、ちゃんと可愛くいられてるだろうか。
「その……エマ……昨晩は」
「ねえ先生」
昨日のことを話そうとする先生の言葉を上から無理やり遮った。きっと謝ろうとしているのだろうけど、それはダメだ。昨日のことが悪いことだなんて、重く認識させてはいけない。
「昨日はありがとうね。先生のおかげでボクちゃんと眠れたよ」
「そ、そうか」
「やっぱり先生って頼りになるよね。ボク、凄く安心できたよ」
意図を持った発言だけど、先生が頼りになると思っているのは本当だ。性欲に負けちゃうことをカッコ悪くて可愛いと思ってはいるけど、それでもボクの大好きな人であることは揺るがない。
頼りになるから、大好きだから、堕ちてほしいと思っているのだから。
「さてと、ボクはまず顔を洗いに行こうかな。先生もそうするでしょ?」
「あぁ……いや……俺はまず体を洗いたいというか……」
「体を……?」
夏だから朝から汗を流したいという意味か、そう思うも先生の恥ずかしそうな反応を見て別な理由に気付く。
昨日の先生はズボンの中で出しちゃって、そのままボクと抱き合いながら寝てしまった。もしかしたら、下半身が大変なことになってるのかもしれない。
なら、水場は先に先生が使いたいだろうと思う。
「そっか。じゃあボクは先に自分の部屋でパジャマから着替えてくるね」
「ああ、分かったよ」
話をしながら、二人そろって部屋を出る。先生はそそくさとお風呂へと向かっていった。そんな背中を見送ったあと、ボクは急いで自分の部屋へと戻る。
本当に、急がないといけなかったから。
部屋に戻って扉を閉める。ぼふりと自分のベッドへと飛び込んで、枕に対して顔を埋めた。こうすれば、少しは声を抑えられると思ったから。
「ふ……ふふふっ……」
まだ。まだ早い。先生はまだ近くにいて、大きい声を出せば聞こえてしまう。
「ふふっ、はっ、あははっ……」
分かっていても耐えきれない。慌ててモノマネの魔法を使ってノイズキャンセリングをかけた。これでもう、先生にボクの声は聞こえない。
「あはっ、あはは!あはははは!!」
笑う。大声を上げる。湧き上がる衝動を放つように、耐えきれない情動を示すように、笑い声が止まらなかった。
「あのね!?あのねあのね!?」
ここにいない先生に対して、秘密を打ち明けるような言葉が漏れる。
「ボクね、ボクね!!本当はね……!!」
とびっきりの秘密。先生に対しては絶対に言えなくて、でも今すぐに言ってしまいたくなる大切な秘密。それは――
「全っ然!!セーフなんかじゃないと思うよ!!」
笑う。嗤う。昨日の先生のしたことを思い出すと、とても抑えられるものじゃなかった。
「女の子に勝手に押し付けたらそれだけで犯罪だよ?そのまま出したりしたら、アウトに決まってると思うんだ」
未成年だから手を出さないって言葉はどこに行ってしまったのだろう。あるいは、もしかしたら最後までしなければ手を出したうちには入らないのかな。うん、それはいい。今度はその方向で思考を誘導してみようかな。
「アウトだって分からないなんて、先生はおバカさんかなあ。ううん、分かってるよね?分かっててやっちゃったんだよね?」
昨日のこと。ボクのことを抱きしめて、太ももに押し付けて、気持ちよくなってしまっていたこと。
ボクの体にあたっていた、固いなにか。ボクを逃がさないとでもいうような、力強い腕。そしてビクンビクンと全身を跳ねさせて、絶頂の快楽をむさぼる先生の体。
「ボクの体が、先生に使われちゃった……♥」
気持ちよかったのかな?気持ちよかったのだろう。直接見たわけではないけれど先生の股間がどうなったのか予想はついた。
きっと、出してしまったのだろう。ボクが幻視の魔法で見た時のように。
そして多分今は、お風呂場で情けなく自分の股間を洗っている。
「えへっ……えへへ……」
立派な先生が。真面目な先生が。どんどんみっともなくなっていく。性欲に負けて、罪に穢れて、汚らしい存在になっていく。
「こんなにうまく行くなんて思わなかったな……」
確かにいくつか仕込みはしたけど、もっと時間がかかると思った。ボクが18歳になるまでまだまだ時間はあるし、いつかは引っかかるだろうと思っていたのだ。
それなのに、罠に全てかかってしまったのは、きっとすごく単純な理由だ。先生がボクのことを大好きだから、ボクの言うことを何でも聞いてくれるから、先生はボクに逆らえない。
先生は傷ついてしまっただろうか。でも大丈夫。ボクが先生のことを癒してあげる。もっともっと、先生のことを気持ちよくしてあげる。
口の中で、甘い感触が広がった気がした。それは先生の理性と言うとても甘美な飴玉だ。どんどんとろけて少なくなっているのに、それでもまだまだ残っている。
だから、長く楽しめる。
分かっているから、耐えないといけない。急いじゃだめだ。かみ砕いたり、飲み込んだり、そんなことをしてはいけない。
魔法を使えば先生のことを好きなようにできるけれど、そうすることは本意じゃない。ちゃんとボク自身の魅力と、先生の中の性欲で、先生には負けてもらいたかった。
ベットから起き上がって、部屋の隅に用意していた化粧台の方へと向かう。先生にはちゃんと身だしなみを整えたボクの姿を見せたかった。
椅子に座って、ブラシに手を手に取る。そして鏡を鏡を見ると――
そこに映ったボクの口はとても醜く歪んでいた。
人類を滅ぼした時と同じ、三日月形に弧を描く魔女の笑み。
(ああ、これはよくないな。気を付けないと)
一秒だけ目を閉じて、開ける。気分を切り替えるとそこには、先生が綺麗だと言ってくれたいつもの笑顔が存在した。
(先生の前では、可愛い生徒でいないとね?)
鏡の中のボクは、とてもとても、いい子だった。
ちょっと次話投稿が遅れそうなんて活動報告書きました。
多分一回休みで何とかなると思います