「な、なんで……」
なんで、ここに来たのだろう。
分かっているはずだ。さすがのエマだって分かっているはずだ。昨晩俺が何をしたのか。許してくれたからと言って、またここに来る理由はないはずだ。
「なんでって、えっと……」
俺の問いに彼女は少し考えこんで、言った。
「今日も怖い夢を見たから……ってことじゃ、ダメかな?」
その言い方。初めから騙す気がない嘘。つまり今、エマは俺と嘘を共有しようとしている。
嘘をついたという嘘と、それを信じたという嘘で、この場をそういうことにしようとしている――俺を、共犯者にしようとしている。
つまり、やはり、エマはちゃんと分かってここにいるのだ。
昨晩俺がしたことも、ここに来たらどうなるかも、彼女は分かってここにいる。
言うなれば、それは許しだ。かつてしたことではなく、これからすることへの許し。
俺は今、許されている。
(いや……だが……)
自制心と本能の間で、心が引き裂かれそうだった。彼女に手を伸ばしたくて、それでもと意味も分からないままに耐えている。
頷いてはいけない。もし部屋に入れてしまったら、きっとその時点で先が決まってしまう。断ろうと思うのにどうしても口が開かない。
そんな俺を、エマの甘い声が誘ってくる。
「ねえ、とりあえず部屋の中に入れてほしいな」
「あ、ああ……」
そこの言葉を聞いて、思わず後ろに下がってしまった。その瞬間、扉との隙間にエマがするりと入り込む。そうなってようやく、エマを招き入れてしまったことに気付いた。
彼女は室内に触ると部屋の家具をペタペタと触り、眺めているようだった。前にもこのような行動をしていたのを思い出す。マーキングのようなこれは彼女のこだわりなのかもしれない。
一通り触って満足したのか、彼女は俺のベッドに近寄り、自分自身の枕を置いた。
「じゃあ先生、一緒に寝よう?あ、その前にまたトイレ行きたかったりするかな」
まだ一緒に寝るとは言っていないのに、彼女の中ではそう決まっているらしい。だが、今更断って彼女を追いだすなんで、そんなことはできやしない。
「いや、その、トイレはいいよ。それなら一緒に寝ようか」
(今日は我慢すればいいから、今日はちゃんと、俺が我慢すればいいから)
そんな、自分自身ですら無意味だと分かっている言い訳を繰り返しながら、俺は彼女と同じ布団へともぐりこんだ。
■
電気を消して、完全な暗闇となった中。俺は布団の中でエマと抱きしめあっていた。
昨日と同じように横向きになって、エマは俺の背中に手を回して、俺はエマの背中に手を回している。
そして昨日と同じように俺のペニスが彼女の太ももに当たっている。それはまだ中くらいほどの大きさであるものの、時間とともに徐々に膨らみ始めていた。
ここまで来ても、ギリギリの理性が俺の動きを止めていた。エマが許してくれていると分かっていても、やっぱりダメなんじゃと言う気持ちがブレーキをかけ続けている。
「やっぱりボク、こうやって一緒に寝るの好きだな」
「そう、か」
「うん。毎日でもしたいくらい」
「…………」
逃げることもできず、かといって欲に身を任せることもできず、中途半端な弱火が、俺の性欲をじりじりと炙っている。それは張り詰めた糸のような、あと少しでこぼれてしまう満杯のコップのような、危ういバランスが、俺の心を追い詰める。
そんな俺に対して、エマが言った。
「ねえ、先生。『ハグ』、しないの?」
ハグなら、もうしている。すでに抱きしめあっているというのに、あえてハグと言うのならば、その意図は明白で。
「『ハグ』なら、セーフだよ?」
「………っ!」
その言葉を聞いて、俺の体は動きだしてしまっていた。
腰を前に押し出す。ペニスがより強く押し付けられて、快楽が腰に広がっていく。
腰を後ろに引く。物足りないという気持ちが、よりいっそう飢えを深くする。
腰を前に押し出す。求めていた気持ちよさで、心の中が満たされていく。
腰を後ろに引く。快楽の余韻が、体の芯を溶かしていく。
前に出して、後ろに引く。前に出して、後ろに引く。その単純な動きを何度も繰り返す。その動きに、どんどん夢中になっていく。
(こんなのダメだ……。ダメなのに……)
これはもはや、ハグでも事故でもなかった。俺は俺自身の意思で、快楽のために動いてしまっている。もうそのことは誤魔化しようがない。
けど、けれども。
これは『ハグ』だから。そしてセーフだからと、俺はエマに許されている。
エマは静かだった。あたりまえだろう。どれだけ腰を動かそうと彼女に入れているわけではなく、性器に押し付けているわけでもない。気持ちよくないのは当然として、きっと痛みすらないだろう。
だからエマは声も上げず、俺のされるがままになっている。暗い部屋に響くのは壁の外の雨音と、醜い男の荒い息遣いだけだった。
心のどこか冷静な部分が、何をやっているんだと溜息をもらす。それでも動きは止められずに、エマを置き去りにしたまま俺一人が昂っている。
射精直前だった昨日とは違い、今日は普通の状態から始まっていた。だからまだ快楽は弱くて、物足りなくて、もっともっとと求めてしまう。
腰を前に動かすたびにエマの体が少しだけ後ろに下がる。そのせいで圧力が弱くなっているのだろう。そう気づいた俺は彼女の背に回していた手を少しずつ下半身へと動かしていった。
そうすれば彼女を押さえつけられる。もっと気持ちよくなれる。考えを動きに直結させて、手を伸ばした結果として、
俺は、彼女のお尻を掴んでしまった。
(あ……これは……これはアウトなんじゃ……)
これはハグと言えるだろうか。少なくとも事故では済まないだろう。もしかしたらエマの許してくれる一線を越えてしまったかもしれない。そんな恐れが、少しの間俺の動きを止める。
そんな俺に対して、エマが
「マッサージ、してくれるの?」
いつもの、とても可憐な声で
「いいよ。マッサージはセーフだもんね」
また、俺のことを許してくれた。
「エマッ……!」
彼女のお尻を掴んで、揉む。小さくてハリのある、少女の性的な部位に夢中になる。
腰も再び動き出して、何度も何度も、快楽をむさぼっていく。
セーフと、そう言われるだけでダメだった。まるで調教された犬のように、自動でその言葉に反応してしまう。
いや、犬と言うならばむしろ発情した犬と言った方がいいだろうか。その本能の赴くままに、カクカクと身勝手に腰を振り続ける。
そんな俺をエマは躾けることなく優しく撫でてくれていた。時折ポンポンと俺の背中をたたく動きが、もっとしていいよと、そう言っているように感じられる。
大好きな女の子が男の醜さと情けなさを受け入れてくれている。その事実がたまらなく嬉しくて、もっと受け入れてほしくて、腰の動きが強くなる。エマに押し付けたまま動きを止めたり、ぐりぐりと左右に動かしたりと、望むままに動いてしまう。
(気持ちいい……。気持ち、いい……)
頭の中がぼやけていく。理性が消えて、思考がなくなって、ただただエマの感触と、ペニスからの刺激だけになっていく。
ずっとこの時間が続いてほしくて、けれど男の生理現象として当たり前に終わりが訪れる。
徐々に絶頂が近づいてくる感覚。終わらせたくないという思いと、本当にそこまでやっていいのかという不安に動きが遅くなる。絶頂直前の一番気持ちいい瞬間が、だらだらと引き延ばされる。
けれど急に動き方を変えただけで、エマには見透かされてしまっていて
「『事故』、起こしちゃう?」
その瞬間。一際強く彼女を抱きしめていた。エマのお尻を強く掴んで、その体をこちら側へと引き寄せる。
まるで奥まで届かせるかのように、ぐりぐりと、ペニスを押し付けて、悦楽にまみれた射精の準備をしていた。
だって、これは事故だから。今日はエマが怖い夢を見たから一緒に寝ただけで、慰めるためにハグをしたら事故を起こしてしまっただけだから。そんなエマも認めてくれる言い訳が、頭の中に浮かんでしまって
「出……る……」
俺のうめき声に対して、彼女は「うん」と言ってくれた。その言葉に安心して、絶頂感に身を委ねる。
ビクンと体が震えて、ペニスの先から精液が噴き出す。何度も繰り返す快感に身を委ねながら、エマの体を抱きしめる。
少女の体の感触を感じながらの射精は、2度目でも変わらずに気持ちよかった。布団の中、エマの体温に包まれながらの射精は、俺のすべてがエマに受け入れられて、抱きしめられているように感じて、満たされる幸せで心がいっぱいになる。
時間とともに、少しずつ快楽が引いて、ただの余韻になっていく。冷静になっていく頭の中、けれど昨日のような不安はなかった。
だって、エマがなんて言ってくれるか知っているから。
「先生、事故起こしちゃったんだ」
射精後の疲労感で体の力が抜けていく。そんな俺のことを、エマは優しく抱きしめてくれていた。
「それじゃあ仕方ないね。事故はセーフだから」
期待通りの甘い言葉。その言葉に安心して、安らぎと共に眠りへ落ちていった。